Run(ラン)またはRev.Run(レブ・ラン)の名で知られる、泣く子も黙るヒップホップのリビングレジェンド、Run-DMCのフロントマンである。
そこで、以前から気になっていた疑問をぶつけることにした。大ベテランのラッパーは、現在のネットやヒップホップをめぐるコンテンツとその恩恵についてどう考えているのだろうか。集中的に聞いた。
取材:しげる 撮影:市村岬 編集:ふじきりょうすけ
Run-DMCがヒップホップに与えた影響
インタビューを届ける前に、まずはRun-DMCがどのようなグループかを少し振り返ってみたい。その存在がいかに偉大かは、口うるさいマニアたちでも意見の一致するところだろう。彼らは80年代初頭、ヒップホップがブロンクスのストリートから、より広い範囲にリーチしようとしていた時期のフロントランナーだ。
そしてヒップホップの存在を、攻撃的で社会性を有する、パーティーの余興以上のものにした張本人たちである。
80年代当時のRun-DMC/画像は公式サイトより
Run-DMCという名前になったのは1982年のことだが、この3人での活動はその数年前、オレンジ・クラッシュ名義だったころまで遡ることができる。
彼らの最初のシングルは1983年に発売された『It's Like That』。だが、そのB面に入っていた「Sucker M.C.'s」はより重要だ。
ストリートやクラブでのMCバトル自体はRun-DMCがこの曲を書くずっと前から行われていたが、実際の楽曲として何かを集中的に罵倒するレコードが発売されたのはこれが初めてのことだった。
つまり限定された場所での瞬間芸ではなく、パーマネントな音源で何かをdisるという行為を最初にやったのがRun-DMCだったのだ。
「ラッパー」のイメージをつくり上げたRun-DMC
加えて、トラックにおける楽曲の演奏を取り払い、無機的なドラムマシンや硬質なロック・ギターを前面に押し出した。そんな彼らのおそらく最もポピュラーな楽曲が、エアロスミスのナンバーをカバーした「Walk This Way」である。彼らの全身黒で固めたジャージやレザージャケットに、STETSONやKANGOLのハット、adidasのフラットシューズにゴールドのロープチェーンというクールな出で立ちは、ヒップホップにまつわるファッションを永遠に変えてしまった。
ちなみにインタビュー当日のRev.Runの服装も上下黒のadidasのジャージに白のフラットシューズ。靴紐はもちろん結ばず、靴の中に突っ込んでいた。さすが!
レジェンドが語るヒップホップとインターネット
そんなRun-DMCだが、2002年にDJのジャムマスター・ジェイが射殺され、活動を停止。その後のRev.Runは、MTVのリアリティーショー「Run's House」(言うまでもないが1988年に発表されたRun-DMCの同名の曲にちなんだタイトル)で家族とともにテレビに出演。
また実の息子であるディギー・シモンズも2009年にラッパーとしてデビューしている(このインタビュー中にもRev.Runは「息子のやることは音楽だろうがなんだろうが全部好きだよ」と語っていた)。
一方のRev.Run自身は、クラシックなヒット曲を世界各国やラスベガスの定期イベントなどでプレイしている。
2001年に発売されたアルバム『クラウン・ロイヤル』の発表後、Run-DMCは活動休止状態に入ったが、その前後にRunは牧師としての資格を取得していた。
そもそもRevは「Reverend」の略で、聖職者の前につける尊称だ。この名義でのソロ作品を発表するなど、神と運命について近年の彼は考えを巡らせている。
それが最も端的に表れているのがRev.RunのTwitterのアカウントである。そこではキリスト教的な啓蒙の言葉が数多くツイートされているのだ。
そこで本人にTwitterの利用について聞いてみた。ことのほか、彼はネットを重要視していることがわかる。God always comes through for you. Just like the time before last and the time before that and on and on !! #Trust
— Rev Run (@RevRunWisdom) 2017年4月20日
Rev.Run 今は400万人くらいフォロワーがいるね。みんなに神や健康について情報を広めて意識を高めてもらい、自分たちの人生を大切にしてもらいたいんだ。
例えば、Netflixで配信されている「ヒップホップ・エボリューション」や「ゲットダウン」。
さらに劇場で公開されたMC・ナズの『タイム・イズ・イルマティック』、ノトーリアス・B.I.G.の『ノトーリアス・ B.I.G.』といった伝記映画なども重要だろう。
ヒップホップを題材にした映像コンテンツに関して、Rev.Runは次のように述べた。
Rev.Run ナズの映画は見ていないけど、ノトーリアスの映画は見た。あとトライブ・コールド・クエストの『ビーツ、ライムズ・アンド・ライフ』も見たよ。どれも興味深かった。あと『ヒップホップエボリューション』もちょっと見たかな。
MTVでリアリティーショーをやっているからというのもあるけど、今一番関心があるのはテレビなんだ。(それらの映像コンテンツは)全て一定の役割を果たしていると思うけど、特にNetflixの影響は大きいよ。
Rev.Run 影響はとても大きいね。アメリカのインターネットでは一日中ヒップホップに関する楽曲や、新しい情報が流れっぱなしになっている。音楽をプロモーションするのにも不可欠だ。
他のジャンルにも言えることではあるけど、ヒップホップに関する人たちが一番インターネットを使っているんじゃないかな。
ネットは、自分たちの楽曲をどうやって人々に知らせるかという方法を根本的に変化させた。人々は自分の運命を自分で決められるようになったんだ。
黎明期のヒップホップにブロンクスの路上で起こっていたことが、現在はWeb上で起こっていると言えそうだ。
40年以上、フロンティアを切り開き続けるRev.Run
近年のWebサービスでRev.Runが最も注目しているのが、2015年にローンチされた音楽ストリーミングサービス「TIDAL」。大御所ラッパー兼実業家として注目を浴び続けるJay-Zが買収したことでも話題になったサービスだ。アーティストによって運営される音楽ストリーミングサービスということで「音楽もそうだけど、最近のJay-Zのビジネスからは目が離せない」と語る。
ちなみに最近のヒップホップでは「ドレイク、ケンドリック・ラマー、グッチ・メイン、フューチャー、カニエ・ウエストが好きだね」とのこと。若手、中堅から大御所まで、バランスよく聴き込んでいることがうかがえる。
あらゆる楽曲(ニルヴァーナとエミネムが流れた時は大笑いしてしまったけど)に対して、サイドMCとして客を煽りまくるRev.Runの姿はとにかくパワフルそのもの。でもやっぱり、個人的にはRunのラップする「It's Tricky」が生で聞けたのが一番感動した。
Rev.Run コービー・ブライアントが自然にバスケットに触れてそれをプレイしたいと思ったように、自分も初めてヒップホップに触れた時にインスピレーションを受けた。
本当に最初に影響を受けたヒップホップはフランキー・クロッカー、グランドマスター・フラッシュ、カーティス・ブロウ、コールド・クラッシュ・ブラザーズといった人々の曲だよ。これは神からのギフトだ。
芸歴40年近い大ベテランが相思相愛だと語るフィールドは、我々にとってもフロンティアなのだ。