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ネットが引き合わせたトンデモない才能──sasakure.UK×植草航 対談インタビュー
5月29日(水)にリリースされた『トンデモ未来空奏図』で、初めてのコラボレーションを果たした人気ボカロP・sasakure.UKさんと、若手実力派アニメーション作家・植草航さん。共にインターネットで精力的に作品を発表し、日々大量の作品が生まれては消費されていくインターネットの中でも、独特の存在感を放ち続けているクリエイターだ。
そんな2人がなぜ出会ったのか、なぜ共に作品をつくったのか、今、インターネットに思うこととは? (取材・構成 新見直/高橋里美)

「アンチグラビティーズ」という未来観

2 ──いよいよ3rdアルバム『トンデモ未来空奏図』が完成となりましたが、制作にはどれくらいかかりましたか?

sasakure.UK(以下ササクレ) まず、ちょうど1年くらい前から、プロットが沸々と湧いてきまして、それをまとめようと思ったのが、半年くらい前。そこから制作にとりかかりました。完成した今は、大きな一仕事をやり遂げたな、という気持ちでいっぱいです。

植草 僕も早速聴かせていただきました。ササクレさんのアルバムは、今までのものも全部聴かせていただいています。1stアルバム『ボーカロイドは終末鳥の夢をみるか?』でボーカロイド独特の表現をして、2ndアルバム『幻実アイソーポス』でその枠を広げるという挑戦をされていて、今回でまたボーカロイドの方に戻ってきましたよね。その前提を踏まえて聞くと、インスト曲とか、「ピリオ」とか、今まで通りのボーカロイドの良さを追求した曲など色とりどりで、今までコンセプトやストーリー性で見えていたササクレさんの輪郭にテーマがピタっと当てはまって、ササクレさんの作家性がよりハッキリ見えた感覚がありました。

──今作では「それぞれの時代を生きる人々が思い描く、それぞれの未来観」がコンセプトになっていますが、ご自身の未来観に1番近い楽曲はどれだと思いますか?

ササクレ 制作を始めた頃は、「未来アタラシズム」が近かったと思います。だいたい一年くらい前、「新しいiPad」みたいな「新しい〇〇」というフレーズが流行っていたんですね。この「新しい」という言葉がとても良いなと思って、その時の人々が描いていただろう「新しい」未来観を曲に落としこもうと思ったんです。でも、今はより未来のことを考えています。もし、こういうことができたら、自分はこう考えるんじゃないか。そう思った時に、今の自分の心境には「アンチグラビティーズ」のイメージが一番近いですね。少し現代よりも未来のお話なのですが、制作している間に、自分だけちょっと未来に行ってしまっていた、みたいな感覚です。

植草 僕も、アルバムの中でもリアリティーを特に感じるという意味で、「アンチグラビティーズ」が自分の未来観には近く感じました。もし、未来の自分が今の自分を見た時に、たぶんこう思うんだろうな、という感覚が「アンチグラビティーズ」の中にあって、共感できる部分がすごく多いんです。

ササクレ 植草さんに「アンチグラビティーズ」をお願いしたのも、アルバム全体の未来観とストーリーの構築とを考えて、一番自分にしっくりきたのが「アンチグラビティーズ」だったからなんですよね。上手くコラボして、しっかりしたひとつの話に昇華していきたいなという気持ちがあって、この曲を選びました。

植草 とても共感できる曲だったので、僕としても楽しく描かせてもらえました。

3 ──植草さんにお願いしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

ササクレ 植草さんの「向ヶ丘千里はただ見つめていたのだった」を観た時に、すごい作品を作られる方だなと感銘を受けて、実は、2ndアルバムを出した時に「何か一緒にできたらいいですね」ってお話を植草さんにしていたんです。その時はタイミングが合わず、実現はできなかったんですが、今回、改めてお願いしたら二つ返事で引き受けて下さって、「アンチグラビティーズ」のマンガ化が実現しました。

植草 ササクレさんの作品は元々聴いていたので、それまでは作品を通してお互いを知っていた状態でしたね。僕はボーカロイドという文化に対して疎かったんですが、大学にいた頃、ササクレさんの終末シリーズを聴いた時に「あ、なるほど、こういうことか」と腑に落ちた感じがあったんですよ。その時から、良いなと思っていたらご本人からお話が来て、ビックリでした(笑)。

ササクレ 僕はてっきり自分のことなんて知らないと思っていたのに、既に知ってもらっていて、しかも、植草さんも自分と同じようなことを思っていたという……。インターネットで生まれるつながりってすごいな、と改めて実感しましたね。

植草 実際にお会いできたのは、「アンチグラビティーズ」が完成してからでしたよね。

ササクレ そうですね。メールでやり取りしていたので、制作中はずっと、「植草さんってどんな方なのだろう」って、文通してる片思いの少女のような気持ちでした(笑)。普段は、コンセプトをお話して、ラフを見せてもらって、それに対して「ここはこうして下さい」と返す……そういう細かなやり取りをするんですが、植草さんが描いたイメージが自分のイメージにすごく合うものだったので、あまりそういったやりとりをすることなく、スムーズに進みました。

植草 僕は、「いや、これは違うよ」って言われたらどうしようって、いつもビビりながらやってたんですけど(笑)。

ササクレ 僕は色々な人とコラボする時に、自分のコンテや世界観の説明、コマ割りを細かく指定する方なんですけれども、植草さんの場合、それをほとんどしませんでした。きっと植草さんが独自のイメージや世界観で、作品を昇華させる事ができる方だからなのだと思います。

ササクレ・フィクション featuring 植草航

──植草さんは普段アニメーション制作が中心だと思いますが、マンガという表現に戸惑ったことはありませんでしたか?

植草 以前、フランスの出版社の刊行物に8ページほどのマンガを掲載してもらったことはあったのですが、それ以降はアニメーションがメインだったので、かなり新鮮な気持ちでやらせていただきました。マンガは、読んでいる人の頭の中で再生してくれるから、読者にイメージを託せるというのがいいと思ったんです。ただ、そこをどうやって解釈しようかというのは悩みました。描いたそこにはちゃんと世界があって欲しいから、静止画で完結するというよりも、読んだ人の中で絵が動いて欲しいと思ったり、「アンチグラビティーズ」を聴いた時に、日常に殺されていく感じというか、漠然としたフラストレーションだけがあって何に対して頑張っていいかわからずに、自分が求めていた方向とは違う方向に頑張ってしまう、学生の頃に感じていたような日常感というか。そういった、曲を聴いて感じた日常感が、作品の中に入れられたらと意識しました。


植草 そんなことを考えながら曲を聴いていて、まず浮かんだのがこの絵でした。

ササクレ この曲のコンセプトが「アンチグラビティ=反重力」という意味なので、それを上手く表している1枚ですよね。水中にあるものが空中にあったり、すごく好きな絵です。自分の曲がマンガになるというのも初めての試みでしたし、あまりに素敵な作品に仕上げていただいて、ただ一言で嬉しいと表現するだけでは伝わりきらない嬉しさがありました。

──歌詞がマンガのフキダシに組み込まれているのは珍しいと思ったのですが、それは植草さんのアイデアですか?

植草 そうですね。でも、逆にいち部分を抽出しちゃっていることになるので、ササクレさんの意図に沿うのか不安になって、質問したことがありました(笑)。

ササクレ ありましたね(笑)。全く問題ありませんでしたが。

──ササクレさんの楽曲にストーリー性があったからこそ、マンガに歌詞が入っても違和感なくできているように感じます。曲を聴きながら読みたくなります。

理不尽さを内包したポップさ

──お二人とも、ササクレさんは音楽、植草さんはアニメーションをつくり始めたきっかけは何だったのでしょうか?

ササクレ 僕が学生の時に、携帯の着メロを制作できるアプリがあったんです。僕はとにかくゲームが好きだったので、ゲームミュージックの耳コピーだったり、3和音で別の雰囲気にアレンジした曲をつくり始めました。それが最初のきっかけになると思います。独学ではありましたが、当時男声合唱をやっていて、和音やコーラスワークについては自然と身についていたので、それが制作に活きていたと思います。

植草 僕もゲームの影響が大きいですね。「ポケモン」や「デジモン」が大好きだったんです。ああいうモンスターを描いて、じゃあそれを動かしたらどんな個性がつくんだろう。動かしてみると、今度は空間だけではなく時間軸が発生して、これで遊べないかな……という感じでイメージが膨らんでいきました。さらに、自分は音楽が好きだから、音楽の構成をアニメーションに当てはめてみよう。この曲のこのフレーズの感じを、映像でどうにか表現できないか。そういう思いがどんどんつながっていって、アニメーションをつくるきっかけになったと思います。

ササクレ 形式の違う作品からインスピレーションを受けるというのは、僕も似ている気がします。僕も、音楽を聴いて自分の音楽制作へのヒントを得るというよりは、文学やマンガ、ゲーム、映画といった、音楽以外の作品からイメージを得て曲をつくることが多いですね。

──お二人とも自分の未来観に近い作品が「アンチグラビティーズ」だったり、ゲームから影響を受けていたり、似ているところがあると感じました。

ササクレ そうかもしれませんね。植草さんは、アニメーション1コマ1コマの動きの中でも、すごく細かいところまで見ているんですよね。研究しながら、丁寧に描かれている。自分の音作りも、フレーズや単語ひとつずつに意味を込めていて、無駄なものを入れないように心がけているんですが、お互いそういう姿勢がある気がします。

植草 そう言っていただけると嬉しいですね。ササクレさんの作品は、パッと見はポップなんだけど、その中でも緻密にストーリーを組み立てられていて、存在している事の寂しさや理不尽さを内包しているところが似ているかなと思います。例えば「アンチグラビティーズ」であれば、一見繊細で綺麗な感じなんだけど、寂しさが伝わってきて、僕の場合は不器用だから結果そうなってしまっている面もあるのですが、そういうものに憧れて目指したいと思っているので、その良さを感じています。

ササクレ そう思ってもらえるのは、本当にありがたいです。

B2 ──お二人は、インターネットでお互いの作品を見たことがきっかけで出会われたとのことでした。言い換えれば、インターネットがなければ、お二人がこうしてお話することもなかったと思いますが、ご自分にとってインターネットはどのようなものですか?

植草 そもそもインターネットがなければ、僕は絵を描くのがもっと遅かったと思います。

ササクレ と言うと?

植草 単純に、クラスメイトに絵を描く友達がいなかったんですよね。子どもの頃ってまだまだ下手くそだし、描くこと自体の恥ずかしさもありました。でも、やっぱり描きたいっていう衝動があるから描くんですけど、学校でクラスの意地悪なやつに見つかってちょっかい出されちゃったりして。

ササクレ ああ、よくわかります(笑)。

植草 だから、僕はいつもコソコソしながら描いていたんです。でもインターネットで「お絵かき掲示板」というものを知って。そこに投稿してみたら、自分の絵を見てくれて、コメントしてくれる人がいて、「こういうことをやってもいいんだ」っていう気持ちになったんです。それがなかったとしても描いていたと思いますが、自分の絵が周りに許してもらえているんだっていう希望がそこから見い出せたのが大きかったです。

ササクレ 今でもネットで作品を見たりしますか?

植草 見ますね。

ササクレ そうなんですね。実は僕は、昔と比べて、ネットで作品を見る頻度が少なくなって来ている気がします。なぜかというと、動画を通して一つのジャンルの流れだったり、そういったものの大きな流れがわかるようになった。そして、かつて受けてだった自分が今は作品を提供する立場になった。これらの理由が大きく関わってくるのではないかと思います。同じ系統の作品が、沢山用意されていると、どれから手をつけても良い反面、どれから手をつければ良いのかわからなかったりするというのも、あるかもしれませんね(笑)。

植草 僕がアニメーションをつくり始めた当時は、YouTubeに自主制作アニメが上がったりしているだけで注目される時代なんですけど、今はもう溢れるようにありますよね。そういう意味では、この時代に生まれなくてよかったなって思います(笑)。でも、これまで作品が上げられてきた文脈があるから今それが珍しくなくなっているのであって、一概には言えないですけども。今は、自分が好きなものが見えてきたから、今度は自分から歩み寄る番かなと思っています。今までは与えられてきたんですけど、今度はこれをどうやって自分に活かそうって考える番かなと。

ササクレ 今度は自分も還元する番ということですよね。無視できないような時代の変化があって、その時々の世代に対してメッセージを送るような作品づくりをしているんだな、と聞いていて思いました。

ボカロはボカロ、人は人

C2 ササクレ 僕はボーカロイドの"在り方"というものを大切にしているんですが、ボーカロイドを聞かない世代の人達にも、そういうところに気づいてもらえたらいいなと思っています。だんだん色んな人に知れ渡ってくると、「ボーカロイドは何の為にあるのか?」という議論も出てきて、存在が揺らいでしまうと思うんです。人によっては、ボーカロイドはあくまで仮歌で、人間が歌ったものが作品なんだ、という意見もあると思うんですよね。だから僕は2ndアルバムの『幻実アイソーポス』で、「ヒトと機械の共存」、ボカロはボカロで、人は人で良いというコンセプトで作品を制作していきました。

植草 自分もそういうスタンスに対してササクレさんにシンパシーを感じて、いいなと思っていたので、今の話を聞いて納得しました。

──ボーカロイドを歌手と取るか、楽器の1つであり、音と取るかで意見が分かれていると思うのですが、どちらの考えに近いですか?

ササクレ 色々な議論や、意見がある質問なのですが、僕はその認識自体が必要ないと思うんですよ。ボーカロイドはボーカロイドでいい。そう思います。

植草 1stアルバムに収録されている「ぼくらの16bit戦争」を聴いた時に、その両面が聞こえて来たと僕は思っています。音としてのボカロの必然性と、テーマとしてのボカロの必然性、両方が見えてきて、どっちも必要だと思いました。

ササクレ そういう意見をいただけると嬉しいですね。歌手であれば、何年生まれで、こういう幼少時代を過ごして、とか、その人が生きている背景が作品に介入してくる事、影響を与えることはしばしばあります。それはそれでとても魅力的なのですが、そういうものの存在を考えなくてよい、ヒトによって構想される余地がある・ニュートラルであるボーカロイドの存在って、やはり特別です。歌手でもないけど、声を持っているから楽器・音だったり、キャラクターだったりもする。つまり、人が作った〝ヒトのようでヒトにはならない存在〟なんですよね。そこがSF的だし、魅力的だと思うんです。もう、〝ボーカロイド〟としか言い様がない。だから、歌手か/楽器かみたいな議論はいらないと思います。音として、作品として良い物が出来れば僕は支持するし、そういう世界にしていけたらいいなと思います。


sasakureUK sasakure.UK // ササクレ・ユーケイ
http://sasakuration.com/fdfp/
幼少時代、8ビットや16ビットゲーム機の奏でる音楽に、学生時代は男性合唱、文学作品に多大な影響を受け、その後、独学で音楽制作を始める。寓話のように物語の中に織り込められたメッセージ性を持つ歌詞と、緻密に構成されたポップでありながら深く温かみのあるサウンド、それらを融合させることで唯一無二の音楽性を確立。音楽のみならず映像やデザインも手掛けるマルチな才能が様々なクリエイターから高く評価されている。


uekusa 植草航 // UEKUSA WATARU
http://bansoukou.org/
1987年千葉県生まれ。東京工芸大学アニメーション学科卒業。2008年、NHK「星新一ショートショート劇場」♯14「薬と夢」映像制作、フジテレビ系列「SMAP×SMAP」ブリッジアニメーション制作、フランスの大手マンガ出版社デルクール社発行バンドデシネ「シヤージュクロニクル外伝」に短編マンガ掲載。09年、「向ヶ丘千里はただ見つめていたのだった」が、第一回下北沢映画祭グランプリ受賞、ASK映像祭2009コンペティション西村智弘賞受賞。


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