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好きな人と趣味が合わない時はどうする?【AV女優 戸田真琴の映画コラム】

戸田真琴さん(撮影:飯田エリカ)

今回紹介する映画:『ディーン、君がいた瞬間』

気温も下がり、夏のことがもう思い出のように遠くなりました。

一人旅の猛暑日に、金沢の21世紀美術館にお気に入りのアンディ・ウォーホルの花のプリントの帽子を被って行ったこと、いつかうんと好きな人ができたら話したいな、なんて思っている今日ですが、芸術の秋といえど今年の秋は美術館に行く暇がなさそうです。

またもっと昔の初夏、学校の遠足で箱根 彫刻の森美術館のピカソ館の前で、親友と大げんかをしたことも思い出しました。彼女は私に、「ピカソはせっかく上手い絵が描けるのにどうしてあんなふうに形を崩して描いてしまうのか」と言いましたが、私は「試みること」自体が芸術家の使命だと思っていたので、それが発端でわかりあえず長引く喧嘩になったのです。

戸田真琴さん このコラムを続けていくうちに私にも、「映画の話は難しいのでわかりません」など、芸術的なものは自分の領域ではない、と暗に線引きされてしまうような言葉をいくつもいただくようになりました。

わたしは映画のこと以外にもいろいろなお仕事をしているので、苦手だと感じたら自分が見やすい活動だけを選びとって楽しんでいただければいいなと思うのですが、もしもそこに「君と僕は違う世界に住んでいる」という気持ちが少しでも含まれていたら寂しいな、と思ってしまうので、今月はこんなお悩みについて一緒に考えてもらえたら嬉しいです。

昔からポピュラーなものにしか興味がなく、まこりんのように人が知らないものまで知っている人を見ると羨ましくなります。真似して見てみても、自分には難しいものが多いのです。それと同時にまこりんが遠くに行ってしまっているように感じるし、自分が薄っぺらな人間だと思えてきて嫌になります。どうすれば楽になれるでしょうか?

これは、例えば思春期だったらきっとその真逆のお悩みも蔓延していることで、言い換えれば、マイノリティーとマジョリティーの間のジレンマというものです。

人と違うからかっこいい?

戸田真琴さん 周りの人と違うものを好きでいることの孤独感に悩む人もいれば、その一方でポピュラーなものだけを好きでいることで後ろめたさを感じる人もいるのです。

カメラや映画鑑賞、芸術鑑賞などアートに分類される趣味を持つ人たちに近年ひときわ居場所ができているという喜ばしい事実からくるものでもありますが、「コアでかっこいい趣味を持っている自分が好き」という動機で趣味を持つ人たちは、趣味を持たない人たちを暗に見下したりすることもありますよね。

写真や言葉をキャッチーに伝えるほどに褒められるSNSの世界や、同じ趣味で盛り上がるグループの楽しそうな様子なんかを見て暮らしていると、つい忘れがちになりますが、趣味はあくまで自分自身のためにあるものです。

映画を見るなら、それはいつ何時でも「あなた対映画」の邂逅であり、そこには「いけてる映画を見ているから褒められる」「流行りの映画を見たから周りについていける」「人と違うものを見ているから自分は孤高でかっこいい」などといった気持ちはただ余計なものなのだと思います。

これは憶測で申し訳ないのですが、「これを見ている人が優越感を感じるように」などと考えて作られる映画などこの世にほとんどないと思いますしね。

「わからない」で否定するのはもったいない

戸田真琴さん あなたが何かと対峙するとき、それが映画でも絵画でも写真でも本でも漫画でも、「あなた対それ」の間に生まれるものだけに、本当は新しい価値があるのだと思います。

そこには、それが王道を行く作品であるか、マイナーな評価を得る作品であるかはどうでもいいのです。本当の友人になるために、社会的地位やルックスや資産がいつも関係ないように、たとえ「誰でも知っている作品」であることをばかにする人がいたって、そんなのは人の好きなものを馬鹿にする人のほうがまったくクールでないというだけのことです。

作品を鑑賞することがお仕事でない限り、あなたのその行為にはあなたの孤独な精神(ひとりぼっちというよりは個々それぞれという意味)と触れ合うことがなによりの目的としてあるはずです。楽しんだり、共感したり、悲しんだり、傷つけてもらったり。

あなたにとってのベストな友人のような作品に出会うということを、周りなど伺わないでピュアに求め続けて欲しいです。

だけれど、自分の管轄でない、意味のわからない芸術作品を、意味がわからないからとすぐに否定したり目をそらしてしまうのは、いささか勿体無いことです。

また、その作品の向こうに人間がいるのなら、それがたとえどんなに天才だと言われていた人だとしても、「自分とは住む世界が違う」と切り分けてしまうことは、きっとどこかで悲しみを生むのだと思います。

「悲しみ」が生まれるのは、想像することをサボるから

(撮影:飯田エリカ) 天才を描いた映画で気に入っているのが『ディーン、君がいた瞬間』

稀代の大スターで、24歳という若さで亡くなったジェームズ・ディーンと、死の直前まで交流があったカメラマンの物語を、実話をもとに描いています。

まだ売れる前のディーンとパーティで出会った若手写真家のデニスは、ディーンに興味をもち密着取材を試みます。はじめは、ディーンのとっつきにくい性格からかぎこちないままの二人でしたが、次第に心を通わせていきます。

ディーンを演じるデイン・デハーンの、繊細で卑屈な態度が、死ぬずっと前からディーンは生きながら死んでいるような男だったのだろうか、と想像させます。

毎日明るく生きている人でも鬱屈な人の暮らしを想像することができるし、平凡に暮らしている人でも煌びやかな世界に生きる人の人生を想像することができることを、画面の中で生々しく生きるディーンに惹かれることで知りました。

悲しいのは、別々の世界に生きていることでも、同じようにものを感じることができないことでもなく、ただ想像することをサボってしまうことなのです。

戸田真琴さん この作品は大スターを題材にしていますが、一定してニュートラルで、大げさな表現もあまりない、素朴とも言える映画です。

一人のカメラマンが真実のディーンを写そうと、彼に向き合い続けることで、スターでも象徴でもない生身の人間としてのなんとも言えない不器用さが浮き彫りになっていきます。

そのままの自分では理解できないものに、想像力と好奇心を持って向き合っていくことはとても素晴らしいことですが、あまりに「わからない」にぶつかり続けると辛くなってしまうこともあると思うので、まずは自分よりも少しだけわけのわからない人や物を知ろうとしましょう。

似通ったり離れているようで実は初めから終わりまでずっと単線の、それぞれの人生のレールの、まずは隣、次はもうちょっと遠く、その次はあの山の向こう、とだんだん視野を広げていくことで、あなたの想像力はより魔法じみたものに近づいていくのだと思います。

そういうとき、細かい歴史背景や作者の人物像を知るよりも、もっと単純に「なんかいいな」という直感がいちばん頼りになったりします。それこそ、デニスが無名時代のディーンに惹かれたように。

芸術はもともと感じるものであって、知性はあったほうがいいけれど知識はさして重要じゃありません。感情の方でまずどうしても好きになった時、新しく楽しんで調べていけばいいのです。

画面の向こうの痛みはエンタメじゃない

戸田真琴さん 「他人を別世界の人間だと思う」という現象には、ネットやメディアの向こうの人間に匿名で暴言を吐いたりする人々も陥っているのだと思います。

相手を感じて想像するということを怠り続けると、少ない情報からでは親しみを持つことができなくなり、まるで叩いても痛がらないもしくは痛がっている様が、テレビドラマやアニメのようなエンタメとして見えてしまうこともあるのでしょう。

心の奥底に疎む気持ちや羨む気持ち、劣等感などがあるとさらに「自分は相手よりも優れている/優れていないのだから攻撃してもいいはずだ」と自己を正当化してしまいます。そういう人に限って、自分と同レベルだと判断した人には普通にいい人だったりします。

FH000017 先日『グリーンマイル』を見て、久々に触れた世界一綺麗な心の有り様にぽろぽろと涙をこぼしました。

主人公の務める刑務所に死刑囚としてやってきた黒人の大男ジョンには、世界中の痛みを感じ、自分の身体を呈して他人から痛みを吸い取ることができる不思議な力があったというところから始まる映画です。

主人公たちは初め戸惑いますが、徐々にジョンの痛みを周りのみんなが寄り添って感じようとし始めます。無意識のうちに、彼らの心まで日に日に美しくなっていくのです。

世界には悲しみや痛みが1秒と止むこともなく生まれていて、そういうものに鈍くなればなるほど生きることは容易になりますが、不思議な魔法がなくても私たちには想像力があって、それを鍛えるほどに悲しみに触れてしまう可能性もどんどん高くなっていきます。

それは一見恐ろしいことですが、この世界の最後の希望でもあります。

戸田真琴さん 他人の痛みを想像し、人生を想像し、誰のことも神様にもピエロにもしないままで、「隣に並んで同じ景色を見るかもしれなかった人」と捉えたなら、あなたには今よりもっと豊かな世界と、たくさんのみずみずしい喜びと悲しみが降り注ぐ人生になるはずです。

あなたにとって難しいものを見ている人も、その「難しいもの」を作った人も、あなたの隣にいるかもしれなかった人です。

私とあなたの趣味や趣向が逸れていても、どちらかに合わせる必要もなく、私が見ない側面の世界をどうか見ていて欲しいのです。あなたが難しかったり興味を持てずに見ないでいるぶんの世界を、私はこれからも見ますから。

そうして対話する中で、一緒に好きなものや嫌いだったものの経験を見せ合いっこしましょうね。

誰も同じじゃない人生で、私たちもちゃんと違っていますようにと。

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今回紹介した映画:『ディーン、君がいた瞬間』(アントン・コルベイン監督,2015年,カナダ・ドイツ・オーストラリア)

編集:長谷川賢人 写真:飯田エリカ

これまでの連載コラム

戸田真琴 // とだまこと

AV女優

AV女優として処女のまま2016年にデビュー。愛称はまこりん。趣味は映画鑑賞と散歩。ブログ『まこりん日和』も更新中。「ミスiD2018」エントリー中。

Twitter : @toda_makoto
Instagram : @toda_makoto

戸田真琴

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戸田真琴のコラム『悩みをひらく、映画と、言葉と』
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この記事へのコメント(2)

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匿名のユーザー

匿名のユーザー

すごく、分かり易くて、染みます。
このこーなーは、私の毎月のお楽しみになってます。
ありがとう。

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