いつも、コラム「悩みをひらく、映画と、言葉と」をお読みいただきありがとうございます。
今回は番外編として、私が初挑戦したピンク映画で出会った、榊英雄(さかきひでお)監督の最新作『アリーキャット』がめちゃくちゃ面白かったというお話をしようと思います。
きっと面白いことを求めてKAI-YOUにたどり着いたみなさんに、気に入っていただける映画です。
窪塚洋介×降谷建志が一人の女のために戦う
アリーキャットは榊英雄さんが監督、主演に窪塚洋介さんとDragon Ashの降谷建志さんを迎えた新作映画です。野良猫を通じて知り合った二人の男が一人の女を守るために戦うバディもの…。と聞くだけでも眠っている少年心が騒ぎ出す方も多いのではないでしょうか。
公式サイトのストーリーページでは、こう語られています。
二人は、やがて秀晃を「マル」、郁巳を「リリィ」とお互いに呼び合うようになります。ストーカー被害に悩むシングルマザーの冴子(市川由衣)の護衛という仕事を引き金に、彼女を取り巻く闇社会のいざこざへと巻き込まれていく二人。元・ボクシングの東洋チャンピオンで、いまは頭の後遺症に悩みながらも警備員の仕事をしている朝 秀晃(窪塚洋介)。ささやかな楽しみは、彼が「マル」と呼ぶ野良猫の世話をすることだった。
ところが、そのマルが行方不明に。保護されているかもと、保健所を訪れた秀晃は、入口にひとりの男が猫を抱いて出てくるところに出くわす。その猫こそ、マルだった。
「マル! よかったな! 命拾いしたな、お前!」
ところが、その男、梅津郁巳(降谷建志)は無視して歩き出す。
「ちょっと、待って。そいつ、俺の猫なんだよ。ずっと探してて。な、マル!」「リリィだよ」
「え?」
「リリィ。俺がさっきつけた名前。いま、もらってきたところ。猫って魂を9つ持ってるんだって。こいつの魂はもうリリィなんだよ」
ふたりの男はそんなふうに出逢った。
ピンチに見舞われたときに「リリィ!リリィ!」と呼ぶマルの声と、瞬間現れてぽこぽこと間抜けなパンチを繰り出すリリィ。それでも守るべきものの手を引いて夜を駆け抜けた。
そんな瞬間が重なるほどに、ふたりは他人から相棒へと変わっていくのです。
はみ出し者たちのヒロイズム
ふたりは闘争や取引の世界に生きているわけではなく、野良猫のように何処にでもいるはみ出し者たち。マルは心に鍵をかけたまま、どこか諦念の中を生きているような人。
一方リリィは猫のように素直で、怒りっぽいのに人懐っこい。
ふたりは正反対のようで、そこがむしろ同じのようで、愛情というよりも愛着をひとつひとつ消し去れないまま進んでいく中で、「ひとり」が「ふたり」になってしまった。そんな必然でない愛おしさがある関係です。
劇中、ふたりは冴子を住んでいる街から遠く離れた東京へ送り届けますが、彼女はついに闇社会に飲み込まれてしまいます。冴子のボディガードを諦めて帰る車の中で、リリィがマルにこう言います。
「やっぱボクサーとして死んだ方がかっこよかったよ」
命知らずな選択も、愛着と愛と矜持のためなら選ぶまでもなく「アリ」なのです。
効率的じゃない生き方の美しさ、その清らかさは「愚鈍」となって彼らを平和から引き摺り下ろしますが、叫びながら引き返した高速道路は彼らのために全ての光を宿していたようにさえ思えました。
周到に用意されたこの世界のシステムも君の一晩のドラマチックのため、血まみれのアイラブユーのために存在していたことにしてしまおう。そんなふうに言えるくらいに。
デジタルのフルカラーで撮られたはずの画面は、どこか登場人物たちと一定の距離感を保つように、他人ごとみたいに映されていきます。それはいつか憧れたジャームッシュやヴェンダースのモノクロフィルムみたいに淡々と。
二人の駆け抜ける世界の見えないザラつきが心の視神経を辿って、いつか思い返したら白黒だったと間違えるかもしれないな、なんてひとりで笑いながら、私はこの一番新しいロードムービーの世界に浸っていました。
野良猫だってそうなのだ。他人さまなのだ。
キミがひとくち僕の窓辺でご飯を食べたあの日から、名前を呼んだらたまたま返事をしたあの日から、絆より前に「放っておけない」。
文句を言いながら手を引いて、いつかそれが当たり前になっていく。
愛着は誰にでも生まれるものじゃない。だから愛着なんて、と誤魔化したって、きっと「特別」の言い方の一種なのだと思います。
放っておけないもの同士
言い合いをする二人の上空を飛行機が横切ったファーストカットへ、一回りして帰って来たようなラストカットの時間の中で、初めて言葉で「マルはリリィをとても気に入って居たんだ」と思いました。その瞬間の愛おしさが、「Somebody」が「body」になったことを教えてくれました。
物語の結末がハッピーかどうかはわからないけれど、リリィがマルに『かっこよく生きてよ』という気持ちでねだって歩道橋を蹴っ飛ばしたとき、マルは幸福な人かもしれない、と思いました。
かっこよく生きてよ。なんて誰かが言い放つ人生は、もう必ずそうしなければいけないと運命で決まっているかもしれないくらい、勿体無いくらいの美しさを持っているものだと思うからです。
初共演の二人の間に流れる空気感が、この映画が丁寧さと情熱の相反する揺らめきに任せて撮られたものだと教えてくれるようです。 監督である榊英雄さんは、ご自身も俳優をされていて、役者さんひとりひとりと対話を重ねながら柔軟に現場の空気をサバイブするように制作をされます。
私もピンク映画『ほくろの女は夜濡れる』(R-15版「コクウ」)で主演をさせていただいた時、アリーキャットを撮影した「榊組」の作る現場の中を生きていましたが、その時の厳しさと暖かさは役柄を超えて自分自身の人生の奥までを照らし合わせることをそっと手伝ってくれました。
アリーキャットでも、登場人物ひとりひとりに重なる役者さん自身の魂の鼓動に耳を澄ませればさらにどんどん面白い、味わい深い作品だと感じます。
映画の中では、出会った人々同士が「放っておけないもの同士」になっていく。その現場では、俳優陣と製作陣がみんなでひとつの空気を作っていく。
そんなふうに語られた、愛着の物語です。
心の一番奥にありすぎて、たまに忘れてしまうくらいのピュアでダサくて危うい美しさを、ロードムービーとして焼き残してくれたことに感謝をするほどに。かっこよく生きたいなあ、とぼやいたあなたに是非是非見て欲しい映画です。
今回初めてタッグを組んだ、窪塚さん×降谷さんの間に生まれた香ばしい空気感を味わうだけでも深く価値があります。
男の友情にときめきたい女の子たちも是非!
どちらも魂のこもった作品として、あなたの心にきっと少しでも触れることが出来ると思っていますので、ぜひ映画館に足を運んでみてください。
それでは、また次回のコラムでお会いしましょう。戸田真琴でした。
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編集:長谷川賢人この記事どう思う?
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戸田真琴
AV女優
AV女優として処女のまま2016年にデビュー。愛称はまこりん。趣味は映画鑑賞と散歩。ブログ『まこりん日和』も更新中。「ミスiD2018」エントリー中。
Twitter : @toda_makoto
Instagram : @toda_makoto
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