生きていく力は、自分で考える力

──イラストレーションの市場が縮小傾向にある、という話をもう少し深掘りしたいです。特にこの3年間はソシャゲのサービス終了が相次いでいる印象です。redjuiceさんはこの状況についてどのように見ているのでしょうか。

redjuice まあ今に限らず、ソシャゲバブルはとっくに崩壊していますよね。個人の体験としても、ソシャゲに関連した仕事の依頼はどんどん減っています。

ただ、その一方でイラストレーターになりたい人は増えている。「なりたい職業ランキング」でもイラストレーターは、YouTuberに並ぶほどの人気のようで(外部リンク)。

ソシャゲブームやSNSの普及によってクリエイター志望の人口が増えた一方、一過性の波が過ぎてしまったことで、露頭に迷う人も増えるんじゃないかと危惧しています。

NaBaBa 実際の仕事や業界の台所事情と、外から見える華々しさはギャップがありますよね。特にSNSでは良い部分が注目されがちです。

でもいわゆるフォロワー数なんかは、実際の収入や成果と全くイコールではない

もちろんお金のためだけにやっているわけでもないだろうけど、ある種のブームや見栄で成立していたものは、景気が悪くなると真っ先に立ち行かなくなる。今のような状況は、もう長くは続かないと思っています。

redjuice X上ではイラストレーターはフォロワー数を稼ぎやすくて、ある種のスターのように視えてしまう。でも意外に、それは仕事と直接的な因果関係はなかったりします。

少し話は変わりますが、若いイラストレーター志望の方に言いたいのは──絵だけを学ぶのも悪いことではないんだけど「学校の勉強をちゃんとしなさい」ということです。数学や物理学、自然科学を通じて、情報を正しく判断する能力を身につけてほしい。

「神絵師」と呼ばれる人たちが標準分布のどのあたりにいて、自分はどの位置にいるのか、などを定量的に自己分析できる力が必要だと思います。そこに足りていないなら、しっかりと努力をしていかないといけない。

──その努力は、何を指しますか?

redjuice 楽しく絵を描き続けるっていう素養は必要だけど、それだけじゃ続かないんです。僕が今もイラストレーターをやれているのは、ちゃんと勉強や自己分析をしてきたからだと思います

分かりやすい例で言うと、ちゃんと学校で授業を受けて、レポートや論文を書いて──というような、入力と出力、フィードバック、手抜きのプロセスをしっかりと踏まえてきたことが活きています。そういった地味な訓練が社会に出て仕事をする際の問題解決能力に繋がっている。

それらを疎かにすると、結果ばかり求めてしまうようになる。結果ではなく、何をしなければいけないか、自分で考える力が必要なんです。努力による学習量も大事なことだけど、それって誰でもやっていることなので。

NaBaBa 学習や絵の練習を継続的にするっていうのは大前提ですよね。その上でさらに何が大切かというと、試行回数。人生のチャンスという名のくじを何度も何度も引き続けることですよ。

自分の実力だけではどうにもならない外的要因で振り回されることも正直あります。悪いこともあれば良いことだってそう。

だから数回のくじ引きで外れても、めげずにトライし続ける。10回か20回に一度は良いことがあるかもしれないですから。そして当たりくじは大事にして次に繋げていくんです。

NaBaBa「Beatrice(GIRLS FROM HELL)」/今回の座談会のために描き下ろして下さった。

──「くじを引く」というのは、イラストを何度も公開していくという意味ですか?

NaBaBa それもありますが、より多義的ですね。とにかく色んなところに釣り糸を垂らす。SNSでの作品公開もそうだし、これまでにやったことがないジャンルに挑戦したり、人と会ったり。そして、僕は今まさにやったことのないジャンルに挑戦しています。

先程「お客さんが求めている価値」はイラストの先にあるという話をしましたよね。

この対談の最初に一次創作と二次創作の違いが議論になった様に、イラストはこの10年で文化としても商売としても花開いたように見えて、実は母体となるコンテンツの集客力に依存している構造は変わっていない。

それを乗り越えるには、つまり「お客さんが求めている価値」そのものになるには、最早イラストという枠組みに固執してはいけないとすら思っていて。だから僕は、脱イラストのための下積みをずっと続けているんです。

奇しくも、今回redjuiceさんが「REDBOX」という会社を起ち上げられる訳でしょう? 僕も形は違えど趣旨は同じです。いずれ僕の挑戦も形にして皆さんにお見せできるように必死でがんばっています。

redjuice 僕が草の根を齧りながら活動できたのって本に対する投資を惜しまなかったからだと思ってます。絵や3DCG関係で使った書籍代は500万円を超えています。そういう意味で、お金は大事です。

よく「どんな本がおすすめですか?」と若い子に聞かれるんですが、「まずは自分で調べてください!」って答えています(笑)。その上で一応おすすめの書籍を紹介したりはするんですけどね。自分はとりあえず、気になった本はレビューだけ読んで、片っ端からポチります。調べる過程も勉強になる。

本や機材を気兼ねなく買えるだけのお金を稼いで、自己投資に使えるようになってほしいです。

NaBaBa 僕からも、最後に伝えたいのは、会社に勤めながらでもいいから、お金をしっかりと稼ぎましょう、ということです。お金があれば時間を買えるし、リスクを取った行動もできる。今の僕もこれまでの稼ぎがあるから、チャレンジする時間を買えているんです。
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プロフィール

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イラストレーター/デザイナー

高知県土佐清水市出身のイラストレーター/デザイナー。2011年放送のTVアニメ『ギルティクラウン』のキャラクター原案に抜擢されたことで脚光を浴びると同時に、いわゆる絵師というものから、コンセプト策定・デザイン・キャラクター原案といった分野まで活動範囲を広げる。「ギルティクラウン」中に登場した架空のアーティスト『EGOIST』のビジュアルを担当。以後、2015年公開映画『Project Itoh』全作品(『虐殺器官』『ハーモニー』『屍者の帝国』)のキャラクター原案、小説/TVアニメ「BEATLESS」のキャラクター・コンセプトデザイン等、様々な分野で活躍している。そのイラストが持つ独特の雰囲気と既存の枠にとらわれない表現が、国内外を問わず高い評価を得ている。

NaBaBa

NaBaBa

イラストレーター

イラストレーター。多摩美術大学油画専攻卒。京都芸術大学イラストレーションコース教員。大手ゲーム開発会社に入社後、フリーのイラストレーターに。2012年にKaikai Kiki Galleryで開催されたグループ展「A Nightmare Is A Dream Come True: Anime Expressionist Painting AKA:悪夢のドリカム」に参加。ネオンカラーを取り入れたキャラクターイラストと、西洋美術の手法を横断した作風で様々なクライアントワークを手がける。代表作に『ゼノブレイド2』(モノリスソフト)コンセプトアートなど。

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