「ノベルピア」Web小説で夢見る世界

異世界転生、悪役令嬢、パーティー追放など、様々なトレンドを生み出し、今やネットカルチャーを語るうえで欠かすことができないものとなっている「Web小説」。

そして、「Web小説」が盛り上がりを見せているのは、何も日本だけではない。Web小説は、小説単体はもちろん、ドラマやWebToonなどの原作として世界で楽しまれている。

そんな折、2021年2月に韓国でローンチされたWeb小説サービス・ノベルピアは、2022年4月には登録者数100万人を突破し、2022年8月にはノベルピアジャパンをオープンさせた。

本稿では、Web小説の世界的な盛り上がりとともに、新進気鋭のサービスであるノベルピアを紹介していく。

取材・文:飯田一史 編集:小林優介

目次

1PV=1円、業界最高水準のインセンティブ

ノベルピアは国内のWeb小説サービスと同様に、誰でも自由に小説を投稿・閲覧できる。

現在はWebサイトで投稿・閲覧のすべての機能が利用できるほか、Androidアプリがリリースされており、iOSアプリも鋭意開発中だ。

日本版ローンチに際して、キャラクターイラストの提供キャンペーンも行われている

特徴としては、作家に対して投稿作品のPV連動で運営サイドから支払いが発生することがある。日本でもPV連動で投稿者に金銭を還元しているサービスはあるが、ノベルピアは1PV1円、ノベルピアのみでの公開の場合は1PV2円と業界最高水準の金額設定になっている

上記の単価は「3000万円キャンペーン期間中の金額」とされている。しかし、同じキャンペーンを実施している韓国版ではローンチから今に至るまで延々とキャンペーンが延長されており、運営サイドへの取材によると、日本でも少なくとも当面下げるつもりはないそうだ。

韓国では上位圏の作家は月200万円以上稼いでおり、2021年11月にはノベルピア側が作家に対して支払った精算金額が20億円を達成。日本でも早速1か月で16万円受け取った作家がおり、精算金額は毎月増加傾向にある。

書籍化やコミカライズも積極的に展開予定

日本版は8月にローンチされたばかりということもあってまだ具体的なことは発表されていないが、運営サイドは他社のサービスと同様に書籍化は積極的に手がけていく方針を明かしており、外部の出版社とも提携していく構想だ。

また、同じく韓国発のサービス「TOPTOON」と組んで、人気が出た作品は積極的にWebToon化を進めていく予定。実際に韓国ではすでにWebToon化された作品もあり、日本国内でもTOPTOONやそれ以外の会社と組んでコミカライズやWebToon化を行っていくという。

WebToon化が予定されているNariaTaさんの作品『勇者パーティーやめます。』/画像は作品ページから

ノベルピアに投稿した作品が二次展開された場合の二次的著作物に関わるすべての権利は作家に帰属する。運営サイドによれば、契約を通して作家の著作物に対する権利を最大限保障する方向で進める所存とのことだ。

実際に連載を行う作家たちの声

単価に関して、実際にノベルピアで『≪ユグドラシル・オンライン≫ ~『死に戻り』で逝くデスゲーム攻略記~』(外部リンク)を連載する作家・馬路まんじさんは「1PV=0.5円以下がほとんどの中、ノベルピアさんは1円以上。これはすごい!今後変化はあるかもしれないですが、今が参戦のタイミングだと思います!」とコメント。

その他、ノベルピア独自の魅力について「条件を満たせば、プロ絵師様の表紙が頂けることです!さらにトップ画面にも載りやすく、表紙から読んでくれる方も多いかも!?また執筆面においても、基本的な機能に加えて自動保存機能があるのでいざという時安心!とっても快適に書けます!」と語っている。

また、同じくノベルピアで『チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~』(外部リンク)を連載する柏木サトシさんにも使用感を聞いてみた。

他のWeb小説サービスとの違いとして収益に触れ、「条件はあるものの1PVで1円の収益が得られるのは、これから小説家になりたいと願う方にとって大きな手助けになると思いますし、執筆を続けるモチベーションになると思います」と、やはり作家としてノベルピアの単価は魅力的なようだ。

また、「特に日本と海外では小説の好みも大きく変わってきますので、流行りでないジャンルの作品を書く作家さんにとっては大きなチャンスになると思います」と、海外展開における可能性の高さにも言及した。

加えて、サービス内のエディター機能に関しても、便利なルビ機能もあり、「文字入力で困ることはない」と及第点の評価。

一方で、「現在は話を大きく区切るための章の設定ができないのと、話数の入れ替えといった他のWeb小説投稿サイトにありがちな機能がないので、今後のアップデートでそれらの機能が追加されることを望んでいます」と、機能の向上に期待を寄せた。

韓国のWeb小説シーンは日本とどう違うのか

現在、日本のノベルピアでは異世界ファンタジージャンルがもっとも人気で、特に勇者パーティー脱退ものが高いPV数を記録しているという。一方、女性向けではロマンス、とくにロマンスファンタジーが定番だ。

日本で人気の「異世界転生・転移」は、韓国では「次元移動」と呼称されて人気が高く、また、一度死んで人生をやり直すタイプの作品は「回帰もの」と呼ばれてやはり非常にポピュラーなジャンルとなっている。ほかにも、日本ではあまり見られないが韓国で人気なものとしては武侠ファンタジーがある。 ノベルピアのほか、MUNPIAやカカオページ、NAVER SERIES、JOARAなどのWeb小説サービスに投稿・連載されている韓国の人気Web小説の一部は、国内でも読むことができる。たとえば、カカオピッコマの漫画アプリ「ピッコマ」上では、WebToon版が世界的な人気を誇る『俺だけレベルアップな件』『捨てられた皇妃』の原作が翻訳配信されている。

ただし、日本では『俺レベ』も最近になってようやく原作小説の紙の単行本が刊行されたくらい。日本ではその昔、イ・ヨンドによる伝説的なファンタジー作品『ドラゴンラージャ』(※)が岩崎書店から刊行されたり、ドラマ『トキメキ☆成均館スキャンダル』の原作小説であるチョン・ウングォルの『成均館儒生たちの日々』などが出版されたりしているが、Web小説は「韓国文学」と比べても一般的な知名度はまだない。

※『ドラゴンラージャ』:正確には、同作はWeb小説ではなく、パソコン通信の掲示板で連載されていた作品

しかしWebToonやドラマとしては、日本にも約20年前からWeb小説原作の作品はいくつも入ってきている。古いところではドラマ『猟奇的な彼女』、最近ではNetflixでドラマ化された『社内お見合い』(ピッコマで配信されているWebtoon版のタイトルは『お見合相手はうちのボス』)など、数え始めたらキリがない。

ちなみに課金システムが整備されている韓国のWeb小説市場は、韓国コンテンツ振興院によると2021年には6000億ウォン(約600億円)とされ、年々成長している。

対照的に同年、日本の文庫ラノベ市場は123億円、Web発小説のラノベ単行本市場は101億円(出版科学研究所推計)で、文庫ラノベは2013年以降縮小を続け、Web発単行本市場は2018年以降横ばいである。

韓国内でのWeb小説の市場規模/画像はノベルピア提供

ドラマ、アニメ、漫画…エンタメ企業が原作として奪い合うWeb小説

韓国のWeb小説は元気があり、かつ、WebToon化、ドラマ化されるIPの源泉として非常に高い価値が見出されている。いや、韓国に限らず(日本はさておき)世界的にWeb小説はそうなっている。

NAVERは北米最大のWeb小説サービス・Wattpadを620億円で、韓国のWeb小説サービス・MUNPIAを400億円で買収した。なぜか。人気のあるWeb小説を原作にWebToon化し、ドラマや映画、グッズ、ゲームなどを多面的に展開して世界各国に配信・販売。IPの価値を最大化するというIP戦争が起こっているからだ。

小説から漫画、映像、ゲーム等まで一気通貫で展開するために買収合戦を繰り広げているのは韓国企業のNAVERやカカオ、CJENMなどだけでなく、中国企業のTencentやbilibiliなどもそうだ。

結果、どんなことが今起きているのか

たとえば、タイで人気のBLWeb小説『KinnPorsche THe Series』を中国企業・バイドゥ傘下のコンテンツ配信サービスであるiQiyiが実写ドラマ化してグローバルヒットに。タイのBLWeb小説は日本人作家によるコミカライズも盛んに行われている。

さらに、先ほど名前を挙げた韓国発のラブロマンス『社内お見合い』はインドでリメイク企画が進行していたりする。
「KinnPorsche The Series」公式トレーラー
ジャカルタポストの記事(外部リンク)によると、テンセント傘下の中国文学/閲文集団のWeb小説サービスWebnovelは1日10時間しか電気が使えないナイジェリアやガーナの人々までがお金を稼ぐために投稿したりしている(とインドネシア人の作家が語っていた)。

日本で書かれたWeb小説が日本より先に中国でアニメになる、といったことも既に起きている。Web小説は人気になれば国をまたいで読まれ、また、IP展開される原石として国際的に注目が高まっているのである。

ノベルピアから自分の作品が世界へ?

日本の小説書籍市場は残念ながら停滞しているが、世界のWeb小説市場に目を向ければまったくそんなことはない。そして日本発のWeb小説が国内で人気を博すだけでなく、海外にまで打って出られる可能性、外国の事業者によってコミカライズや映像化の対象になる可能性は、かつてないほど高まっている。

韓国のノベルピアの作品も北米や日本をはじめとする国・地域で翻訳配信されている(日本のノベルピアでも韓国Web小説が読める)。ノベルピアジャパンも人気作の海外進出を積極的に進めていく予定だという。

現在の「ベータバージョン」のあいだ、読者は韓国の人気作品の翻訳版などを完全無料で閲覧できるほか、絵文字やスタンプなどが無料提供されるなど、お得に利用できる状態にある。今なら読み手もここから作品が大きく育っていく、始まりの瞬間に立ち会い、最初期から推すことができる。

Web小説の作家も読者も、一度ノベルピアを覗いてみてはいかがだろうか。

「ノベルピア」公式サイト

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