4年に一度のサッカーの祭典、ワールドカップ。
今年6月開幕のロシア大会には日本代表も参戦。コロンビア、セネガル、ポーランドとの対戦が決まっている中、つい先日ハリル辞任のニュースは世間を驚かせた。
そんな中、YouTubeでひっそりと、対戦国のセネガルをラップで紹介する1本の動画が公開された。そのラップを公開したのは日本人。その名も、セネガル在住の日本人ラッパー「セネガル山田」。彼は現地で、テレビやライブにも出演しているという。
その情報をつかんだ筆者は、単独インタビューを敢行するため、セネガルへ飛んだ。KAI-YOU.net初のアフリカ取材であり、本邦初公開のインタビューである。
セネ山 2014年9月からセネガルに住んでいる、セネガル山田と申します。日本人向けの宿「シェ山田」の運営、日本初のセネガルのガイドブック『アフリカ旅行ガイドブック セネガル』の制作・販売、不動産仲介、テレビ局の取材撮影サポートなどを行っている30歳です。
──ラップする宿主、ファンキーすぎる…そもそもなぜセネガルに住み始めたのですか?
セネ山 きっかけは2013年1月頃、アフリカ好きの友人から言われた「セネガル行こうぜ」という言葉でした。最初は即断ったのですが(笑)、ちょうど日常に物足りなさを感じていて。「死ぬほど本気を出して生きたい」「難しい事がしたい」という事で、アフリカ、フランス語、イスラームという自分にとって馴染みの無い環境のあるセネガルに飛び込んでみました。気付けば友人はセネガルを去り、現在は私一人で住んでいます(笑)。 ──ドMなんですかね…?ちょっと理解が追い付かないのですが、今回の動画を作ったきっかけを教えてください。
セネ山 私がセネガルに渡った2014年9月頃は、西アフリカでエボラ出血熱が流行っていて、セネガルにも感染者が一人いる状況でした。日本でも毎日のように報道されてましたね。両親以外の周囲から猛反対を受ける中、私もやめようかと考えましたが、元セネガル在住者やJICA関係者からの情報を元に、大丈夫だと思って行く事にしました。
そうして現地に着いたら、ビックリするほど普通の日常が待っていたんです。当時日本では「エボラがあるからケニアに行くのはやめよう」なんておかしな声すら聞こえてきたほどです(注:西アフリカからケニアまでの距離は、東京からシドニー位離れています)。
それが現地に行ったら状況が全く違う。セネガルは観光業が盛んな国なのですが、セネガルはエボラの影響で大打撃を受けました。アメリカでも二次感染があったエボラを、セネガルは一人だけで止めた国にもかかわらずです。
そんな中、セネガルの観光業の復興を目指してガイドブックの制作をはじめました。あの『地球の歩き方』シリーズをはじめ、日本には1冊もセネガルのガイドブックが無かったからです。日本人は年間1600万人が海外旅行をする国なので、インパクトは小さくないと考えました。
──ガイドブックの制作では、クラウドファンディングの「Ready for」で100万円以上を集めていましたよね(外部リンク)。
セネ山 そうですね。それで今年の2月下旬、ついにガイドブックの完成が見えてきて、ガイドブックだけでなく、もっと多くの人にセネガルを知ってもらう手段はないかと考えていました。
そんな時、偶然宿に泊まりに来た大学生が元ラッパーで。加えてプロのミュージシャンが宿泊していたのですが、その二人から「山田さんラップやりましょうよ」と言われて(笑)。
試しに1-2時間ほどリリックを書いてみたら「めっちゃいいですよ!」と乗せられおだてられ、その数日後にはレコーディングしていたという(笑)。
たまたま宿の隣の売店の兄ちゃんがラッパーだったのも大きいですね。そこからビデオ完成までは時間がかかりましたが、撮影と編集ができる知り合いのセネガル人達と一緒に、1か月くらい朝から晩まで撮影と編集をして、どうにか完成させました。
それで、今月はじめ、ついにそのガイドブックの発売を開始したのに合わせて、動画も公開したという感じです。
──え!? では、これまでにラップの経験はないんですか?
セネ山 全くありません。人生初リリック、人生初音源、人生初MVです(笑)。セネガルに来てから、テレビ番組『フリースタイルダンジョン』でラップにハマって、今年に入ってからエミネムの『8マイル』を見た位なので…笑
なのにこの動画をつくったら急にセネガルのテレビ番組に出演することになったり…日本語ラップと日本人 セネガルのTVに登場
セネ山 人生初ライブをセネガルでやることになりました(笑)。
──それは驚きです。
セネ山 自分でもまさかこんな展開になるとは(笑)。
セネ山 一つは、セネガルのことです。こんなに平和で、観光地もあってご飯もおいしくて、旅行者にオススメだよっていう。
もう一つは、偏見をなくそう、ってことです。「アフリカは危険」「イスラムは危険」そう思ってる人に、その意見こそ危険な偏見だよと(伝えたい)。この偏見って、日本だけじゃなく世界中にあると思うんです。だから、世界中の人にこれを伝えたいなと思って、英・仏字幕を付けて、YouTubeで24か国語に翻訳しました。
このラップで世界を変えたいって、本気で思ってます。
──セネガル山田さんはこれがラップ処女作とのことですが、ラップやヒップホップのことはどう捉えていますか?
セネ山 私はにわかですので、自分なりに少しですがヒップホップとラップの歴史について調べました。その上で思うのは──こんなことを言ったらラッパー、ラップ好きが多いKAI-YOU読者に怒られそうですが──「ラップは表現の一手段だ」と思っています。ダンスとか、音楽とか、もっと言うと言語みたいな。
例えば、英語ペラペラだけどバカな人がいたとします。なんとなく英語が話せる人ってカッコいいですが、バカではそれまでです。もしその人が、ビルゲイツに会ったとして、何か有意義な会話ができるか? 多分できません。
ラップも同じです。技術が有ると、カッコいいです。高速ラップ、固く韻が踏める、流れるようなフロウ。英語とは異なり、ラップはそれ自体がエンターテイメントになり得ますので、言語よりはそれだけでも価値があります。
ですが、私は、中身の方が大事だと思っています。ラップは表現手法だと思っているからです。そしてラップは、ヒップホップから生まれたもの。私もルーツに立ち返って、自分ならではの知識を活かし、平和を目指すために発信していきたいと思っています。今回のMVを通じて、人種間(宗教間)の相互理解を深め、世界平和に繋げたいと思っています。 ──いま、世界平和を本気で目指すラッパーはあまりいないと思います。
セネ山 (食い気味で)私は、自分のことをラッパーだとは思っていません。私にはラップのスキルは何もありません。私は肩書はいらないと思っています。
今まで、日本では「その道一筋」の職人気質な人が好かれる傾向にありましたが、今後は、二足三足の草鞋(を履くこと)は当たり前の時代になってくると思います。
そうした人を「にわか」「本腰を入れてない」「片手間」と批判する人がいると思いますが、文化の発展に大衆化、一般化は欠かせません。それに、誰もが最初はにわかです。日本でもラップ、そしてヒップホップが根付いていくには、もっとにわかでも始めやすく、にわかでもどんどん発言しやすくすること、そして玄人達はそれを優しく正しい方に導いていく流れをつくる必要があると思います。
──ありがとうございます。最後に、今後やりたいことはありますか?
セネ山 実は、すでに2本目の動画の制作に動き出しています。それは「W杯日本セネガル戦のテーマソング」です。日本語と現地語(ウォロフ語)で歌います。W杯前に公開し日本セネガル戦をより楽しめるようにすることで、両国の交流を促進し、日本とセネガルの心理的距離を近づけたいと思っています。 ──楽しみにしています、ありがとうございました。
以上、いかがだっただろうか。そしてここで一つお知らせがある。
冒頭、筆者はセネガルに飛んだと記したが、あれは大嘘。筆者は元々セネガルにいる。
「KAI-YOU.net初のアフリカ取材」というのは本当だが、実は、筆者=セネガル山田だ。本稿では、KAI-YOU.netのユーザー投稿機能を使わせてもらった。もちろん、内容はすべて事実だ。
誰も俺なんかのためにわざわざセネガルに取材になんか来るわけない。そう、俺なんかのためにね。
誰もしてくれないので、寂しくて自分でインタビュー風記事を自作自演した、30の夜。(完)
今年6月開幕のロシア大会には日本代表も参戦。コロンビア、セネガル、ポーランドとの対戦が決まっている中、つい先日ハリル辞任のニュースは世間を驚かせた。
そんな中、YouTubeでひっそりと、対戦国のセネガルをラップで紹介する1本の動画が公開された。そのラップを公開したのは日本人。その名も、セネガル在住の日本人ラッパー「セネガル山田」。彼は現地で、テレビやライブにも出演しているという。
その情報をつかんだ筆者は、単独インタビューを敢行するため、セネガルへ飛んだ。KAI-YOU.net初のアフリカ取材であり、本邦初公開のインタビューである。
日本初のセネガルガイドブックを出した日本人
──まず、どういった活動をされているのか、自己紹介してくださいますか?セネ山 2014年9月からセネガルに住んでいる、セネガル山田と申します。日本人向けの宿「シェ山田」の運営、日本初のセネガルのガイドブック『アフリカ旅行ガイドブック セネガル』の制作・販売、不動産仲介、テレビ局の取材撮影サポートなどを行っている30歳です。
──ラップする宿主、ファンキーすぎる…そもそもなぜセネガルに住み始めたのですか?
セネ山 きっかけは2013年1月頃、アフリカ好きの友人から言われた「セネガル行こうぜ」という言葉でした。最初は即断ったのですが(笑)、ちょうど日常に物足りなさを感じていて。「死ぬほど本気を出して生きたい」「難しい事がしたい」という事で、アフリカ、フランス語、イスラームという自分にとって馴染みの無い環境のあるセネガルに飛び込んでみました。気付けば友人はセネガルを去り、現在は私一人で住んでいます(笑)。 ──ドMなんですかね…?ちょっと理解が追い付かないのですが、今回の動画を作ったきっかけを教えてください。
セネ山 私がセネガルに渡った2014年9月頃は、西アフリカでエボラ出血熱が流行っていて、セネガルにも感染者が一人いる状況でした。日本でも毎日のように報道されてましたね。両親以外の周囲から猛反対を受ける中、私もやめようかと考えましたが、元セネガル在住者やJICA関係者からの情報を元に、大丈夫だと思って行く事にしました。
そうして現地に着いたら、ビックリするほど普通の日常が待っていたんです。当時日本では「エボラがあるからケニアに行くのはやめよう」なんておかしな声すら聞こえてきたほどです(注:西アフリカからケニアまでの距離は、東京からシドニー位離れています)。
それが現地に行ったら状況が全く違う。セネガルは観光業が盛んな国なのですが、セネガルはエボラの影響で大打撃を受けました。アメリカでも二次感染があったエボラを、セネガルは一人だけで止めた国にもかかわらずです。
そんな中、セネガルの観光業の復興を目指してガイドブックの制作をはじめました。あの『地球の歩き方』シリーズをはじめ、日本には1冊もセネガルのガイドブックが無かったからです。日本人は年間1600万人が海外旅行をする国なので、インパクトは小さくないと考えました。
──ガイドブックの制作では、クラウドファンディングの「Ready for」で100万円以上を集めていましたよね(外部リンク)。
セネ山 そうですね。それで今年の2月下旬、ついにガイドブックの完成が見えてきて、ガイドブックだけでなく、もっと多くの人にセネガルを知ってもらう手段はないかと考えていました。
そんな時、偶然宿に泊まりに来た大学生が元ラッパーで。加えてプロのミュージシャンが宿泊していたのですが、その二人から「山田さんラップやりましょうよ」と言われて(笑)。
試しに1-2時間ほどリリックを書いてみたら「めっちゃいいですよ!」と乗せられおだてられ、その数日後にはレコーディングしていたという(笑)。
たまたま宿の隣の売店の兄ちゃんがラッパーだったのも大きいですね。そこからビデオ完成までは時間がかかりましたが、撮影と編集ができる知り合いのセネガル人達と一緒に、1か月くらい朝から晩まで撮影と編集をして、どうにか完成させました。
それで、今月はじめ、ついにそのガイドブックの発売を開始したのに合わせて、動画も公開したという感じです。
──え!? では、これまでにラップの経験はないんですか?
セネ山 全くありません。人生初リリック、人生初音源、人生初MVです(笑)。セネガルに来てから、テレビ番組『フリースタイルダンジョン』でラップにハマって、今年に入ってからエミネムの『8マイル』を見た位なので…笑
なのにこの動画をつくったら急にセネガルのテレビ番組に出演することになったり…
セネ山 自分でもまさかこんな展開になるとは(笑)。
「アフリカは危険」こそが危険な偏見
──この動画で一番伝えたかったことは?セネ山 一つは、セネガルのことです。こんなに平和で、観光地もあってご飯もおいしくて、旅行者にオススメだよっていう。
もう一つは、偏見をなくそう、ってことです。「アフリカは危険」「イスラムは危険」そう思ってる人に、その意見こそ危険な偏見だよと(伝えたい)。この偏見って、日本だけじゃなく世界中にあると思うんです。だから、世界中の人にこれを伝えたいなと思って、英・仏字幕を付けて、YouTubeで24か国語に翻訳しました。
このラップで世界を変えたいって、本気で思ってます。
──セネガル山田さんはこれがラップ処女作とのことですが、ラップやヒップホップのことはどう捉えていますか?
セネ山 私はにわかですので、自分なりに少しですがヒップホップとラップの歴史について調べました。その上で思うのは──こんなことを言ったらラッパー、ラップ好きが多いKAI-YOU読者に怒られそうですが──「ラップは表現の一手段だ」と思っています。ダンスとか、音楽とか、もっと言うと言語みたいな。
例えば、英語ペラペラだけどバカな人がいたとします。なんとなく英語が話せる人ってカッコいいですが、バカではそれまでです。もしその人が、ビルゲイツに会ったとして、何か有意義な会話ができるか? 多分できません。
ラップも同じです。技術が有ると、カッコいいです。高速ラップ、固く韻が踏める、流れるようなフロウ。英語とは異なり、ラップはそれ自体がエンターテイメントになり得ますので、言語よりはそれだけでも価値があります。
ですが、私は、中身の方が大事だと思っています。ラップは表現手法だと思っているからです。そしてラップは、ヒップホップから生まれたもの。私もルーツに立ち返って、自分ならではの知識を活かし、平和を目指すために発信していきたいと思っています。今回のMVを通じて、人種間(宗教間)の相互理解を深め、世界平和に繋げたいと思っています。 ──いま、世界平和を本気で目指すラッパーはあまりいないと思います。
セネ山 (食い気味で)私は、自分のことをラッパーだとは思っていません。私にはラップのスキルは何もありません。私は肩書はいらないと思っています。
今まで、日本では「その道一筋」の職人気質な人が好かれる傾向にありましたが、今後は、二足三足の草鞋(を履くこと)は当たり前の時代になってくると思います。
そうした人を「にわか」「本腰を入れてない」「片手間」と批判する人がいると思いますが、文化の発展に大衆化、一般化は欠かせません。それに、誰もが最初はにわかです。日本でもラップ、そしてヒップホップが根付いていくには、もっとにわかでも始めやすく、にわかでもどんどん発言しやすくすること、そして玄人達はそれを優しく正しい方に導いていく流れをつくる必要があると思います。
──ありがとうございます。最後に、今後やりたいことはありますか?
セネ山 実は、すでに2本目の動画の制作に動き出しています。それは「W杯日本セネガル戦のテーマソング」です。日本語と現地語(ウォロフ語)で歌います。W杯前に公開し日本セネガル戦をより楽しめるようにすることで、両国の交流を促進し、日本とセネガルの心理的距離を近づけたいと思っています。 ──楽しみにしています、ありがとうございました。
以上、いかがだっただろうか。そしてここで一つお知らせがある。
冒頭、筆者はセネガルに飛んだと記したが、あれは大嘘。筆者は元々セネガルにいる。
「KAI-YOU.net初のアフリカ取材」というのは本当だが、実は、筆者=セネガル山田だ。本稿では、KAI-YOU.netのユーザー投稿機能を使わせてもらった。もちろん、内容はすべて事実だ。
誰も俺なんかのためにわざわざセネガルに取材になんか来るわけない。そう、俺なんかのためにね。
誰もしてくれないので、寂しくて自分でインタビュー風記事を自作自演した、30の夜。(完)
私たちの知らない世界のカルチャー
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セネガル山田
「アフリカは危険」「イスラムは危険」ラップで世界からこうした偏見をなくしたいと思ってます。千葉県出身の30歳。セネガルの日本人宿「シェ山田」オーナー。日本初のセネガルのガイドブック『アフリカ旅行ガイドブック セネガル』著者。八千代高校、法政大学卒。W杯日本セネガル戦テーマソング動画を制作中。
ロシアW杯 日本対セネガル戦のテーマソング動画を制作したい!
https://readyfor.jp/projects/worldcup2018
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