連載 | #12 ポップなまとめ記事をつくってみた

若きラッパーたちのMCバトル名試合まとめ 晋平太、KEN THE 390、MC正社員が徹底解説

若きラッパーたちのMCバトル名試合まとめ 晋平太、KEN THE 390、MC正社員が徹底解説
若きラッパーたちのMCバトル名試合まとめ 晋平太、KEN THE 390、MC正社員が徹底解説

「超ライブ×戦極 U-22 MC BATTLE presented by Dreamusic」大阪大会/adam vs じょう

「マイク一本が世界を変える」 (「戦極MCBATTLE 15章本戦」MC正社員)

マイク片手に即興で言葉を吐き出すフリースタイルラップバトル

ラッパーとしての生き様をかけたMCバトルは、無名のラッパーが一夜にしてスターに上り詰めることもできるヒップホップの文化として、いまや老若男女、多くの世代に楽しまれている。

そんなスターの座を虎視眈々と狙っているのは、昨今急増している10代、20代の若い世代のラッパーたちだ。凄まじいスピードで成長していく彼らは、情熱と情熱がぶつかり合う青春感溢れる戦いなど、みな、それぞれが自分の実力を全国のに知らしめるべく、アツいドラマを生み出してきた。

11月30日(水)、東京と大阪という二大都市で、そんな若き22歳以下のラッパーたちが凌ぎを削り合ったMCバトルの大会「超ライブ×戦極 U-22 MC BATTLE presented by Dreamusic」のDVDが発売される。

今回は、そんな同大会の運営に関わったKEN THE 390MC正社員晋平太の3人に、「U-22東京大阪2大会の中から名勝負と感じたバトルを選んでもらい、それぞれのバトルやMCの解説、そして昨今のMCバトル事情について語りつくしてもらった。

当日は改めて映像を見てもらいながら選んでもらった/左からKEN THE 390、MC正社員、晋平太

KEN THE 390:レーベル「DREAM BOY」の主催をはじめ、イベント「超・ライブへの道」の定期開催など、ラッパーだけでなく、レーベルやイベント運営もこなす。「U-22」では運営のほか、全試合の審査員として参加している。

MC正社員:「戦極MCBATTLE」の主催者。年間、400近くのバトルを見ており、バトルについて語らせたら右に出る者はいない。

晋平太:「B-BOY PARK MC BATTLE」優勝、日本最大規模のMCバトルの大会「ULTIMATE MC BATTLE」2連覇など、MCバトル界の実力者。「U-22」の主催であるレコード会社「ドリーミュージック」に所属し、「U-22」ではKEN THE 390、呂布カルマと共に戦っている。

※バトルごとに動画が見れるので、ぜひ動画をご覧になりながら解説を読んでみてください

取材・文/吉田雄弥

「U-22」東京大会のベストセレクション

アイドルとファンによるまさかの罵り合い 9for vs MIRI

MC正社員 9forって、もともとMIRIちゃんの大ファンなんですよ。バトル前、楽屋で「俺ブサイクとか言われたらマジでショックです。やりたくないなぁ……」って言ってて。MIRIちゃんはMIRIちゃんで、CHARLESに「大丈夫! 私の事好きなんだろ? とか言えば勝てるよ」っアドバイスされてて(笑)。

MIRIちゃんは1回戦は緊張してたみたいなんですけど、2回戦の9forの直前に話しかけたら、割とリラックスしてる感じで。それで先攻が9forになっちゃって。

MIRI

晋平太 だってアイドルとお客さんの対決ってことでしょ。9for、たいしてディスれてなかったよね。

MC正社員 そう。だから後攻でMIRIちゃんに「目と鼻が離れてる」って、9forが言われたくない顔のことをモロに言われて(笑)。

晋平太 MIRIは1発目からすごいよね。後半、「SKY-HIみたいな顔になって出直せ」って(笑)。そんな必要ないけどね? みたいな(笑)。

MC正社員 でも2本目で9forは折れなかった。ラッパーっぽく「マイコプラズマ」「アイドルラッパー」みたいなディスで返すんだけど、MIRIちゃんがそれ以上に本当にいろんなことできるようになってるんですよ。

普通にパワフルなかっこいいエネルギッシュなラップもできるし、斜め上からの攻めもできるし、最後のバースもちょっとすかした感じで終わってたり、すごく器用なことができるようになってるんですよね。

9for/MCバトル『バイト魂』より

KEN THE 390 いよいよ普通のバトルラッパーとして見られる時がきたよね。今までは「アイドルのMIRIがラップしてる」ってバイアスかかってたじゃん、やっぱ。もう多分、普通の一ラッパーとして評価される時がきてるから、ここからが大変そうだよね。

晋平太 すでに一ラッパーとしての完成度は超高いですよね。しかもあれだけライブをこなしてるだけあって、女性ラッパーのなかでは一番安定して声が出てる。ポテンシャルを感じますね。

情熱と人の話を聞かない強さ Lick-G vs Rude-α

晋平太 どっちもいいですよねぇ、これ。Rude-αがめっちゃ気合入ってて、アツい。ずっと筋の通ったアツいことを言い続けてるのがかっこいいし、「人間一年生」ってすごくいい言葉じゃないですか。

まぁでもちょっと、動画で見るとLick-Gに真正面から向かってもやり辛そうなのが伝わってくるね。

Rude-α

KEN THE 390 そう、Lick-Gは全然相手の話に乗らないからね。呂布カルマとやった時も同じような感じだったんですよ。カルマが言ったことに対して、「お前は韻踏めてねぇ」「俺は踏める」って話をひたすら続けて、延長の末、最終的にはLick-Gが勝つってことがあって。

Rude-αとのバトル見て、人の話に安易に乗らないで自分のスタイルを貫くやつは強えーんだなって改めて思った。

MC正社員 しかも完全に即興ですよね、Lick-G。即興でこれだけ完成度の高いバースをつくれるのが本当にすごい。お客さんも気づいてない細かい韻も多いし。あとで映像で見るとほかのMCより頭一つ二つ抜けてますよね……。

Lick-G

KEN THE 390 Lick-GはRude-αの言った韻を拾って返してるんですけど、普通は相手のお尻の韻を拾うのがよくある中で、Lick-Gは2つか3つくらい拾って重ねてラップすることがすげぇなって思いますね。1個じゃない。

それにリアクション的に動きが大きくて、「思いついたぜ!」「踏んでやるぜ」感が良くでていて、それで自分でもテンション上がっちゃってる感じがわかるし、その即興感はお客さんにも伝わるでしょ。この試合はそれがバチっとハマったいい例ですよね。

晋平太 Lick-Gは言葉のセンスがありますよ。これ、Rude-αの方が年上なんだけど、年下のLick-Gにやられてると思うと相当悔しいだろうな。

金持ち慶應BOY vs 正統派B-BOYのぶつかり合い T-Tongue vs Amateras

KEN THE 390 普通にラップのうまさで見ると、T-Tongueがめっちゃかっこいいんだけど、こうやってみるとAmaterasおもしろいよね。ちゃんと期待された以上のパンチラインを吐けてるのがすごい。相手との会話の中で出てきてる即興の言葉だし、それで得意の金持ちネタ

晋平太 これ、T-Tongueのラップに(どうやったら巻き返せていたのか)正解はないんだよなぁ。難しい。

T-Tongue

KEN THE 390 韻も踏んでるし、相手が言ったことに対してもかなりちゃんと返してるしね。でもここまでくると、みんなAmaterasが言ってることを聴きたくなると思うんだよね、続きを。

晋平太 なんかT-Tongueは言葉と自分に距離があるかもしれない。韻は踏んでるんだけど、言ってることと本人に距離を感じちゃって、それは誰でも言えるうまさだと思うんです。T-Tongueは素晴らしいし、いろんなことができるし、技術的に言ってもめちゃくちゃかっこいいけど。

でもAmaterasは違うじゃないですか、言葉と自分に距離がない。

Amateras

KEN THE 390 そうねぇ。これだけ韻踏み倒してるのに「ヒトカゲ」と「白金」の方が湧いちゃうもんね。めちゃくちゃ簡単な韻なわけじゃん。「さっきヒダさんが時間を巻く」と「その間に俺は金をばらまく」とか、「まく」しか踏んでいないし(笑)。

MC正社員 俺はT-Tongueが今一番バトルが強いやつだと思ってて。Amaterasと戦うまでは自分から話を振って、完全に相手を罠にハメてて本当はかなりの策士なんですよ。

KEN THE 390 わかる、俺も優勝候補だと思ってたもん。

MC正社員 そうそうそう。でも完全にAmaterasにペースを狂わされてた。で、最終的に最後、「一網打尽」でテンパって踏めなくなっちゃうんですよね……。あれがテンパったのかお客さんに言わそうしたのかはわかんないですけど。

KEN THE 390 あれ、踏めなくなったの!? 「一文無しが超簡単だから言わなかっただけなのかなって思った。あとは息が切れて小節末まで言い切れないのはよくあるし。「財布の中身は」まで言ってたから、もうそこに続くライムは絶対「一文無し」なんですよ。

MC正社員

MC正社員 見てる方としては言えなかったって印象なんですよ。でもそれに対してAmaterasが超簡単な……

KEN THE 390 「一網打尽、大丈夫、いつもお金持ち」ってね。もう「ち」しかあってねぇから(笑)。だけど会場はそれでドーン!って盛り上がる、ははは(笑)。

MC正社員 そこがAmaterasの勝因だったのかも。

晋平太 Amaterasの勝因に今のMCバトルを勝ち抜くヒントが隠れてると思わないですか?

晋平太

晋平太 たとえばT-Tongueの「ポケモンGO」と「米騒動」はばっちり踏んでるんだけど、ストーリーを感じない。T-Tongueの「一網打尽」に対して、「一網打尽、大丈夫、Amaterasいつもお金持ち」の方が言葉とAmaterasに距離がないし、ストーリーを感じるからすっときちゃう。

予想のつかない韻を踏むことは素晴らしいことなんだけど、一方でみんなが目指してることだと思う。より複雑化してるMCバトルの中では、多少、バリエーションが乏しかったり、ライムが幼稚でもAmaterasみたいなスタイルに注目がいってしまうのかも。MIRIとかも同じ感じがしますね。

俺もT-Tongue好きなんですよ。T-Tongueはいわゆる不良でヒップホップの直系みたいなタイプじゃないですか? なんだけど、オリジナリティがまだ弱い。T-Tongueが自分にしか言えないことを言えるようになったら無敵なんじゃないかな。

KEN THE 390 まぁでも、Amaterasは前回の「戦極」でも同じような服着てたからやっぱ本当に金持ちかどうかわかんなくなってきてるよね

MC正社員 お金持ってるから「戦極」のバトルの時、セグウェイ乗ってましたよ。

「戦極MCBATTLE 第15章」でのAmateras/セグウェイ? に乗りながら戦っていた

KEN THE 390 あれセグウェイじゃないよ。アジアで売ってる安いやつなんで、そんなに高くないはずだよ!

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