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なぜ美しい絵が描けるのか? ClariSを描くイラストレーター高野音彦インタビュー

なぜ美しい絵が描けるのか? ClariSを描くイラストレーター高野音彦インタビュー

さまざまなアニメを、音楽で彩ってきたClariS

俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のOPテーマ曲「irony」で堂々のメジャーデビューをして以来、「コネクト」(魔法少女まどか☆マギカ)、「ナイショの話」(偽物語)、「CLICK」(ニセコイ)、「アネモネ」(Classroom☆Crisis)など、多くの人の耳に残る楽曲を残してきた。


そんな彼女たちは、顔が見えない。


これまで数々のイラストレーターたちが彼女たちを描き、さまざまなClariSが生まれてきた。現在ClariSは、2014年に新メンバーのカレンさんを迎え、クララさんとカレンさんの2人で活動している。

それだけに、当時、カレンさんを迎えての新生ClariSのアーティストイラストには大きな期待が寄せられており、その期待に見事に応えきったのが、イラストレーターの高野音彦さんだった。

作品をリリースする度に彼女たちを描くイラストレーターは変わっていくのがこれまでの流れだった中、高野さんは2014年11月に新生ClariSを描いてから、ClariSのビジュアルやイメージ面を支え続け、3月2日(水)リリースのコンセプトミニアルバム『SPRING TRACKS -春のうた-』では、同作に収録される新曲「ひらひら ひらら」をイメージした新アーティストイラストも担当。

さらに「ひらひら ひらら」のMVでは、高野さんが新アーティストイラストのアナザーバージョンとなるイラストを描き上げるまでの25時間42分にもわたる生々しいすべての制作過程を撮影し、その様子をMVとして収録。


顔、肌、髪、衣裳、背景、そのすべてが美しい━


新生ClariSを描き続ける高野音彦さんとは一体何者なのか。そのあまりに美しいイラストに秘められたメソッドとは?

また、「ひらひら ひらら」のMVを手がけた監督の大野悟さんにも、そもそもなぜイラストを描く過程をMVに落とし込んだのか。その思いを聞いてきた。

企画・取材/吉田雄弥 取材・文/織田上総介

ClariS 『ひらひら ひらら』Music Video


もういやだ、とりあえず逃げたい

Aquaria「ぼくらがここにいるのはただの偶然。ここがどこだかわかるかい?」/高野音彦

Aquaria「ぼくらがここにいるのはただの偶然。ここがどこだかわかるかい?」/高野音彦

━━ClariSのイラストで初めてアーティストを描いた高野さんですが、いつ頃からイラストを描き始めたのでしょうか?

高野 たしか、最初は中学生ぐらいの時になんとなく落書きレベルで描き始めたのがきっかけかもしれません。中学時代は放送部だったんですけど、放送室に友達同士で集まって、絵の見せ合いとかしてましたね。

あんまり記憶がないんですけど、高校に行ってからは、多分そんなに絵は描いてなかったと思います。

比較的厳しい家庭だったので、娯楽がない状況で受験勉強をさせられまくっていたのですが、だんだん何もかもがめんどくさくなってしまい、ドロップアウトした結果、なぜか絵を描いていきたいという結論に至りました。

実際はものすごく絵を描きたいというより、現状から逃亡したいだけだったような気もします

━━高校卒業後、そのままイラストレーターになられたんでしょうか?

高野 当時はカラーで絵を描いたこともないレベルで、突然イラストレーターの仕事をできるわけもなく、「絵を描く仕事の中で一番なりやすいのは何かしら」と色々調べた結果、アニメーターならなんとかなるかなと。

当時、アニメーター養成の1年制の学校があったので「そこに1年間だけ通わせてくれ」と親に頼みこみ、なんやかんやありながらも「1年間だけ学費を出してやるから、後は好きなようにしろ」と言うことで、1年間学校に行きアニメ制作スタジオに就職して動画マンになりました。

スタジオでは、朝から晩までひたすら動画作業をやってたんですけど、やっぱりアニメーターはしんどいのと伝説的なレベルで遅刻しまくって怒られていたので、1年くらいでやめました(笑)。それから、若干3DCGの仕事をしたりいろいろあって、なんとかフリーでイラストレーターとして絵を描かせていただけるようになりました。

ガラスの森「ガラスの森に迷い込んだら 眼をつむってあるくことだよ」/高野音彦

ガラスの森「ガラスの森に迷い込んだら 眼をつむってあるくことだよ」/高野音彦

━━今回のClariSさんのイラストでも感じたのですが、高野さんが描く女性は、どこか儚い、切ない表情をしているような印象を受けました。

高野 ……。特にこれといった理由は自分ではわからないのですが、僕は何かしらの感動をベースに絵を描きたいと思っています。そもそも絵というものは、描いている人だけでは成立しないもので、見る人がいて初めて成立するものだと思うんです。

そう考えると、絵は描く人と見る人の関係をつくるモノであり、情報やメッセージを伝えるためのモノで、そうしたなかで何を伝えれば良いのか考えた時に出てくるのが「自分の感動」だと。

感動したものを人に伝えるためのツールが絵だとすると、自分が感動したこと……。

たとえば、美術展の鑑賞や音楽を聴いたことで「自分が良いな」と思えば、「どうして僕は良いと思ったのだろう」と、ある程度自分の感情を分析し、その感情を自分の絵にどうやったら反映させられるかな、といった感じで描いています。

Shamrock「かたひじはらず、きらくにいこう」アイルランドの印象/高野音彦

Shamrock「かたひじはらず、きらくにいこう」アイルランドの印象/高野音彦

顔の見えないClariSを描く難しさ

2014年11月に発表された新メンバーカレンさんを迎えての新生ClariS初のアーティストイラスト/高野音彦さんが描いており、これまでのClariS像を塗り替えることとなった

2014年11月に発表された新メンバーカレンさんを迎えての新生ClariS初のアーティストイラスト/高野音彦さんが描いており、これまでのClariS像を塗り替えることとなった

━━高野さんは、2014年11月に発表された新メンバーのカレンさんを加えての、いわば新生ClariSのアーティストイラストを初めて手がけられましたが、どういった気持ちで描かれたのでしょうか?

高野 最初は、衣装だけが決まっている状態だったんですよ。

情報がこれだけの中で、「どうしようかな?」という手探りで描いていたと思うんですけど、ぼんやりしてればしてるほど自由に描けるので……自由に描かせていただきました(笑)。

大野悟(以下、大野) そもそも実在しない全くの第三者を描くのであればまだ描きやすいと思うんですが、ClariSの場合、これまでの活動で築いてきたイメージがありながらも、実在するけど顔が見えないという状態で、何をどのように似せるか、自分のイメージをどうやってClariSに投影するのか難しくないですか?

━━ぼんやりしているけど、ClariSという人気アーティストがいる。そんななかで、どうやって高野さんの作風にClariSを落とし込んでいくのか気になりますね。

高野 正直行き当たりばったりです。作風、自分らしさみたいなものは、出そうと思って出すものではなくて、しいていえば、たとえば世の中には憧れるような素晴らしい絵や作品がいくらでもあって、そういう絵に近づけようと頑張るんだけど、近づけない。

その近づけきれない部分が自分らしさなんじゃないかなと。僕、1枚描きあげると、毎回絵の描き方を忘れてしまうんですよ。だから、いつもやってみて、「この感じで描けばいけるかな?」と思えば、その方向性で進むという感じで。

描いているうちに何か違うなと思えば、線を外してぐわっと塗りつぶしてみたり、塗っていくうちに何かが見えてきたらその方向に行ってみたり……そんな感じでやっているので、「最初からこう描こう」という計画がほぼないですね。

━━ClariSのアーティストイラストはお仕事として描かれたと思うんですが、仕事で描くイラストでも何かこだわりなどはあるんでしょうか?

高野 たとえ仕事だとしても、なんらかの感情を伝えたいというのはやっぱりあると思います。「楽しい」「うれしい」「悲しい」言葉で表現すると一言ですけれども、悲しいけどちょっとうれしいみたいな微妙な感情ってあるじゃないですか? シンプルな感情じゃなくて、微妙な感情を伝えられる絵を描けたらいいな、とは思っています。

高野音彦さんが初めて描いたClariS/2012年に発売された『コレクション/ClariS』に収録されている

高野音彦さんが初めて描いたClariS/2012年に発売された『コレクション/ClariS』に収録されている

ClariS 12thシングル『アネモネ』アーティストイラスト/高野音彦

ClariS 12thシングル『アネモネ』アーティストイラスト(2015)/高野音彦

専門学校の先生時代に気づいた「カッコつけるのはやめよう」

ClariS-1

上段は「ひらひら ひらら」イメージイラスト(アナザーバージョン)の初期段階。下段の完成版からは想像もできない

━━「ひらひら ひらら」のMVの収録では、高野さんが描きながら試行錯誤しているところをすべて見られてたんですよね。

高野 すごく具合が悪いですよ(笑)。

大野 インタビューしてて感じると思うんですけど、高野さんっていろいろ曖昧なんですよ。その曖昧さが今回のMVにも出ているんですけど、すべてひっくるめて、イラスト描いてない人から見ても、単純にすごくおもしろい(笑)。

高野さんの描き方には、イメージの中にある”かたち”を、はじめから平面的に線でとらえるのではなく、まずは空間の中で量でとらえていく印象を持ちました。あくまで量感からシルエットが出てくる、粘土をこねるような感じですね。

最初はぐちゃぐちゃの塊なんですけど、削ったり色を重ねながら、頭の中を探るようにイメージに近づけていく。描き方が油絵とか筆とかナチュラルなメディアっぽいし、大胆さはあるんですが、パッと描く派手さはない。

そこが最近のデジタル系の絵師さんとはまったく違う印象を受けていて、魅力になっているのかなぁと。

━━描き方に方程式がないんですね。

高野 でも僕、専門学校の先生をやっていたんですよ。

━━え、そうなんですか!? その時はどうやって描き方を教えていたんですか?

高野 1対1でのレクチャーであれば、それなりに「描き方」を教えられるのかもしれないんですけど、1クラス50〜60人規模になると、一人ひとりに割ける時間はそんなに取れないんですよね。

そうするとどうしても、提出された絵に対するダメ出しがメインになってしまうんですよ。「ここのパースがおかしい」「ここのデッサンが狂ってる」とか。

でも僕自身は、そんなこと本当はどうでもいいと思っていて……。デッサンがおかしくてあんまり上手ではないけれども、「何か表情はすごく良い」というような絵を入学したばかりの学生さんが描いてたりするんです。

それが減点法的なダメ出しをされていくと、絵は確かにだんだん整っていくんですけど、同時に最初にあった魅力が薄れていく気がするんです。

大野 先生としては論理的に説明しないといけないんですよね。1年間で絵を描けるようにしてくれと。

高野 あんまり感覚的なことを言ってると「先生は何も教えてくれない」となってしまいますし、学生さんからすると「ちゃんと教えてほしい」「もっとテクニックを教えてくれ」みたいな……。本当は「そんなものはない! 少なくとも私は知らない!」って思っていました……。

そういった経験も踏まえて、自分で描く時は「上手に描こうと思うのはやめよう」という感覚を、すごく大事にしています。

ダメ出しを気にしすぎると、「デッサンがおかしい」とか言われないような絵を描きたい、とかカッコつけたくなってしまうんですよ。そうやって、「正しい人体……」「正しいパース……」と思いながら描いていくと、どんどん絵が硬くなっていってしまう。

自分のできることをちゃんと受け入れて、うまく描こうと思うのはやめようと。難しいんですけどね……。

ClariS 『ひらひら ひらら』Music Video


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この記事へのコメント(1)

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CKS

CKS

2016.03.01

メイキング映像大体単調になりがちだけど、ちゃんと拍子に合わせてカットされてて、MVとしてのメイキング映像の一つの答えな気がする

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