史上初「エアコミケ」を準備会代表が振り返る 同人文化への決意と覚悟

史上初「エアコミケ」を準備会代表が振り返る 同人文化への決意と覚悟
史上初「エアコミケ」を準備会代表が振り返る 同人文化への決意と覚悟

コミックマーケット準備会 共同代表・市川孝一さんインタビュー

POPなポイントを3行で

  • コミケット準備会 共同代表・市川孝一インタビュー
  • 新型コロナで開催中止、歴史上初「エアコミケ」開催
  • 同人文化を守るための準備会の覚悟
世界最大級の同人誌即売会として45年の歴史を有する「コミックマーケット」。

東京オリンピック・パラリンピックの影響でゴールデンウィーク開催となった2020年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止の観点から中止が決まった。

一方で、コミックマーケット準備会をはじめとする即売会の運営団体や専門書店など関係各社は「がんばろう同人」と題したプロジェクトを発足。作品を生み出すサークル、印刷会社、読者らの機会損失によって同人文化が衰退してしまわないよう、防ごうとしている。

東京ビッグサイトでの開催が中止となった「コミックマーケット98」(C98)も、SNSを中心にインターネット上で展開される「エアコミケ」として実施。設営日を含む5月1日から5日までの期間中、「#エアコミケ」のハッシュタグを使ったツイートやRTの数は43万件以上にのぼった。

リアルでもネットでも「(創作物を発表する)場をつくることが僕らの使命」と話すコミックマーケット準備会の共同代表・市川孝一さん。半世紀近いコミケの歴史の中で、史上初の試みとなった「エアコミケ」を振り返る。

Twitterではコミケらしい画面づくりを意識

コミックマーケット準備会の共同代表・市川孝一さん

──C98の中止を受けて開催された「エアコミケ」。4日間の期間を終えた今、率直に振り返っていただけますか?

市川 まず「エアコミケ」自体は、通常のコミケ期間中、会場に来れない方々が楽しむ「ハッシュタグ」として、これまでにも使われてきた言葉です。今回はC98が開催できない、僕ら準備会スタッフも会場に行けない。そんな状況下で何かできないかと考えたときに、ネットから自然発生的に生まれた「エアコミケ」の存在を思い出し、勇気づけられました。

準備会としては、開催期間中に「何もできない」というケースが一番避けたかった。理由は中止を発表して以降何度かお伝えしているように、発表の場がなくなることで第一にサークルさんが新刊をつくらなくなる、すると印刷会社の仕事が減って経営にも影響する、読者のもとにも本が届かない

それこそ同人文化の危機であり、だからこそ他の即売会や関係各社とも連携して「がんばろう同人」プロジェクトを発足して、その一環としてエアコミケの開催を決めました。

結果的に、本来の形ではないとはいえ、サークルさんが同人誌をつくってくれて、印刷会社が印刷する、完成したものが店舗に並ぶ、購入される──そういった一連の流れ、創作の機会をある程度生み出すことができました。

──実際に反響はどの程度把握されているのでしょうか?

市川 設営日である5月1日から最終日5日までのコミックマーケット準備会の公式Twitterのインプレッションが3300万件

#エアコミケ」のハッシュタグを使った関連ツイートやRTの数は43万6000件です。普段のコミケの参加者が1日あたり約20万人であるという意味では、ネットのみでこれだけの人がのぞきに来てくれたのはありがたいです。 市川 Twitterを見ていると「今回のエアコミケではじめてコミケに参加した」という人もちらほらいらっしゃって、そういった人が次回以降、リアルなコミケを体験してくれたら嬉しいです。

同じように、最近は参加していないサークルが参加してくれて、懐かしい顔にも再会できました。「場をつくること」という僕らの使命を改めて実感すると同時に、ネットだけとはいえ、短い準備期間ながらやりがいを感じながら過ごすことができました。

コミケとして、同人誌即売会として足を止めず進められた。「#エアコミケ」のハッシュタグで盛り上げてくれたサークル・企業・一般参加者・準備会スタッフと、すべての参加者に感謝しています。

──外から見ていて、期間中はTwitterの更新頻度も高かった印象です。特に意識した点はありますか?

市川 ツイート投稿時の画面づくりです。ネット開催とはいえ、会場で開催しているような空間や雰囲気をつくりたかった。

だからこそ、過去の開催時の写真をはじめ、いつもより多くの写真をアップしました。準備会スタッフから投稿された写真の中には、僕も見たことがないものもあって面白かったです。 市川 開幕や閉幕、一斉点検のアナウンスなど、いつもの会場とは違いクリアな音で聞けたのが新鮮だったという声もあったので、やってよかったと思います(笑)。

全体的に1日の流れが感じられるようなツイートを意識したつもりです。ただ、さすがに4日目となると、飽きる人もいるでしょうから、コミケの歴史を画像とともにツイートしていきました。

SNS開催だからこその発見とデメリット

──いい意味で、予想していた以上に多くのツイートが続きましたが、貴重な機会でもありました。

市川 45年分もの歴史があるので、やはり振り返るとなるとそれなりのボリュームです。でも、いろいろな人が反応してくれたのは嬉しいですし、それ以上にコミケに興味のある人が「何を知りたいのか?」が顕在化されたように思います。

僕ら準備会が通常だと思っていても、参加者の人にとっては知らないこと・わからないことがある。それらが今回は、Twitter上でリプライとして寄せられて、言葉のキャッチボールのようなものができた。非常に新鮮でした。 ──準備会とは別に、エアコミケとしてTwitterアカウントを設けて、他のアカウントとの積極的なコミュニケーションを展開していました。

市川 準備会の公式Twitterは通常、基本的に他のアカウントと絡むことはありません。ツイートする情報は絞っていますし、問い合わせがあってもすべてには対応できないので、一方的な情報発信を徹底しています。

今回はエアコミケという新しい試みだったので、アカウントとしてもこれまでとは異なる形にチャレンジしてみようと。実験的に別アカウントをつくり、他のユーザーやアカウントと積極的に絡みにいきました。公式アカウントに応用するのは難しいですが、僕らとしても発見が多かったですね。 市川 当然エアコミケなので、リアル会場で発生するようなトラブルはほぼないからこそできた取り組みです。双方向のやり取りはこれまでほぼなかったので、いい機会になりました。

これは余談ですが、本来2020年はコミケットスペシャル(編注:年2回の冬コミ・夏コミとは別で、近年は5年に一度開催。通常のコミケとは異なる実験性・テーマ性を持つ)の年でした。でも東京オリンピック・パラリンピックの影響で開催できなかったところで、今回のエアコミケ。結果的にコミケットスペシャルのような試みになりました。

──お話をうかがっていると、ネット・SNS中心だからこその利点を活かすことできていたように感じます。一方で、「ここはリアルには敵わない」と感じた点はありますか?

市川 落とし物がない、救急車が来ない、そもそもトラブルが発生しない──これらは確かにエアコミケのメリットですが、一方で「いつもの慌ただしさを感じることができない」というデメリットでもありました。

僕個人としてはもう1つ、リアルなコミケの魅力として大切なのは「重さ」だと思っています。まずカタログが重い。そしてリアルなら、終了後は相当数の同人誌の重さを感じながら帰る。とても重いときが、いい即売会だと思うんです。

通信販売などでも購入できますが、すぐには届かないのですし、そういう意味では今回は圧倒的に軽いので、手元に本がない寂しさはありましたね。

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