「Tokyo Otaku Mode」CEO亀井智英インタビュー 海外志向の超大型オタクサービス

「Tokyo Otaku Mode」CEO亀井智英インタビュー 海外志向の超大型オタクサービス
「Tokyo Otaku Mode」CEO亀井智英インタビュー 海外志向の超大型オタクサービス
Facebookページで1000万いいね!を数え、VC(ベンチャーキャピタル)各社から出資を集めたことで、にわかに日本でも話題になってきている「Tokyo Otaku Mode」。Facebookで日本のオタクコンテンツを紹介し人を集め、その後Webの方ではユーザー参加型のオタクコンテンツを運営中だ。海外に照準を絞ったオタクコンテンツサービスという異例さが注目を集めている。世界中のトラフィックランキングを参照すると、「Tokyo Otaku Mode」は実に14ヵ国ものランキングに数えられている(2013年3月11日Alexa調べ)ことからも、その特殊性は一目瞭然だ。なぜ「Tokyo Otaku Mode」がここまでの海外ユーザーの人気を獲得できたのか、なぜ国内でのユーザー獲得は最初から視野に入れなかったのか、「Tokyo Otaku Mode」の考える日本のオタク文化とは、CEOの亀井智英さんにお話をうかがった。(取材・構成 新見直/米村智水)

会社員として働きながらFacebookページをリリ―ス!

亀井 「Tokyo Otaku Mode」は、もともと全員に本業がある中ではじめたプロジェクトで、世を忍ぶ仮の姿みたいなものでした(笑)。

僕は昨年の3月までサイバー・コミュニケーションズという主にインターネット広告を扱う広告代理店に勤務していたのですが、出向が多く、いろいろな企業で仕事をしていました。出向した企業の中には電通がありまして、電通がFacebookの日本でのプロモーションをお手伝いしているんですが、僕はFacebookを広める側の立場として、日本の企業に売り込みを行っていました。ただ、Facebook自体がまだ国内で浸透していなかったこともあり、企業側の反応もまちまちで、あまり手応えを感じられなかった。その時期は全世界ではすでに5億人が利用していましたが、国内ユーザー数は、まだ300万人程度でした。そもそも日本ではどんなSNSでも、人口的に2500万人くらいのユーザー数が限界だと思うんですよ。だから日本でユーザーを増やすよりも、海外のFacebookユーザー5億人にアプローチした方がいいんじゃないかと考えていた。また、取り扱うジャンルに関して、海外には日本のアニメやマンガが好きな人が多いというのはよく言われますが、最近だと違法動画で鑑賞している人を含めた〝視聴者〟という意味でのマーケットは相当大きいと推測できました。そこで、電通の仕事とは別で、趣味の延長として仲間と実験的に始めたのがTokyo Otaku Modeです。プロモーション費用をかける必要もなくて、mixiの中にコミュニティをつくるような手軽な感覚でつくりました。2010年末にメンバーに声をかけて、着工したのが2011年1月、ページ公開は2011年の3月24日です。

Tokyo Otaku Modeを始める前は、食や不動産という分野にも〝クールジャパン〟が存在すると知りませんでした。寿司や、橋や新幹線などの建造技術、あるいはきゃりーぱみゅぱみゅみたいなファッションアイコン。その広い〝クールジャパン〟の中の1つに、アニメとかマンガが含まれていて、メディアではオタク系のクールジャパンの失敗しかフォーカスされない。だけど、それもソーシャルメディアを使えば上手くいくと思い、ダメ元でいいからとりあえずやってみようということで始まりました。

──Facebookページでユーザー(ファン)が集まるまでにはトントン拍子で進んだんですか?

亀井 いやいや、全然でした。1ヶ月で集まったのが600人、2ヶ月目も1500人ほど。半年で10万人いかなかったらやめようと決めて、とりあえず考えられるだけの様々な施策を10通りくらい同時にやっていました。すると、何かの拍子に流入が伸びて「いいね!」が増えはじめたのだけど、最初はどの施策が当たったか全然わからなかった(笑)。だから1つずつやめていくうちに見えてきた施策のひとつが、「映画公開日を自分で勝手に喜ぶ会」でした。

『NARUTO』や『ONE PIECE』は海外で人気だと言っても、劇場公開はもちろん日本が最速です。日本での公開にあわせて、こちらで作品ごとの交流イベントをFacebookイベントページにつくって、100万人規模の作品の巨大なファンページに書き込んでいたら、ある時シェアされて、一気に1万人ぐらい流入があった。あまりに関係なさすぎると他人ごとですが、海外の人にも〝自分ごと〟に感じてもらうために、TOHOシネマズに観に行った際に写真を撮ったり、パンフレットを買って来てプレゼントしたり、海外の人を巻き込むことに腐心しました。

その後丸1年ほど、仕事をしながら投稿を続けました。メンバーもみんなサラリーマンだったので、平日の夜や週末にミーティングを重ね作業をしていました。元々僕はウェブサービスやコンテンツ、モノをつくったことがなかったので、どうやってつくっていいかわからなかった。その反面、出向経験は多かったので、人脈だけはあった。そこで、声をかけて人を集めました。だから、メンバーはみんな30歳を超えています。ふつうはスタートアップの会社だと、大学生だとか社会人1・2年でサクッと辞めてっていう若い人が多いと思うんですけど、僕らは10年ぐらいサラリーマンをやっているシニア世代です(笑)。

──遅咲きのベンチャーといいますか、社会経験をしっかり積んでからの起業だったんですね。

亀井 「久しぶりにシニアのやつ見た」って投資家の人によく言われます(笑)。10年間もサラリーマンをやってしまうと、勝負に出にくかったり、躊躇しちゃったり。リスクを取れないじゃないですか。でも逆に歳をとってるからできることっていうのもある。例えば人脈だったり、ビジネスマナーだったり。若いからできる/できないことと、歳だからできる/できないことはトレードオフだと思う。

現在のFacebookページのユーザー構成は、アジアが35%、北米が25%、南米が25%、ヨーロッパ・アフリカが15%

渋谷の路上でプレゼン、3ヶ月のアメリカ修行!

──2011年3月に会社を辞められたとのことですが、やや中堅になってきた年齢でリスクを冒してでもやろうと思ったきっかけや瞬間はありましたか?

亀井 もともと起業したいという気持ちもありましたが、とりあえずサークルのノリではじめて、楽しいから別にいいやって感じだった。でも周りの人に相談したら、「出資したい」という人や「会社にしないの?」という人も出てきて、どうしようかなと。前の会社のプロジェクトが面白かったから辞める必要がなかったのもあるけど、ビビってなかなか踏ん切りがつかなかったんです(笑)。
決定的だったのが、去年の2月にサンフランシスコでリチャード・チェンというエンジェル投資家に会いに行ったら、Tokyo Otaku Modeに興味があると言われ、インキュベーション施設を勧められた。それが500 Startupsだった。

僕は500 Startupsがスタートアップファンドとしてどれだけ有名なのか、全く知らないまま、ひとまず担当者に会いにいって「Tokyo Otaku Mode」の説明をしてから帰国しました。たまたま、そのすぐ後に500 Startups代表のデイブ・マクルーアが日本に来るということで、渋谷のサッカーバーで会うことになりました。

その日は日本の代表戦で、店内はとても待ち合わせなんて不可能なほどの人の多さで、相手を見つけることさえできなくて、諦めて外に出たら笑顔で中を見てる外国人がいて、それがデイヴだった。「ビールでも買ってここで話そう」ということで、路上でプレゼンしました(笑)。3分ぐらい話したら「いいね。次のプログラムから参加しろよ、すぐにアメリカに来いよ」と言われて。でも会社員だし、7月ぐらいにと言ったら、「おせえよ。4月から来い!」みたいな話になって。それが2月の後半の出来事で、退職して急いでシリコンバレーに渡ることになりました。

──500 Startupsでは何をされたんですか?

亀井 500 Startupsのメンバー構成の4割ぐらいがアメリカ人で、他はフィリピン・中国・韓国・インド・イタリアなど、世界中から来ているわけです。最初に言われたのが、社会人になって3ヶ月もの間みんなで一緒にいることなんてないから、ファミリーみたいな気持ちでやりなさい、と言われました。人を紹介してもらったし、場合によってはお金を借りたり(笑)、友だち同士の貸し借りという感覚ともちょっと違う、本当に家族のような感じ。

で、プログラムとしては、朝起きてから寝るまで、自分たちのプロダクトをひたすら磨く。そこには、AppleやFacebook、Twitter社の人間から、デザイン会社の経営者まで、メンターが150人ほど、一ヶ月に1人5・6回来ていて、彼らに自分のサービスの相談をしたり、UIを見せて意見をもらう。特徴的なのが、アメリカで成功した凄い人たちがよくセミナーに来る点です。例えば日本ならサイバーエージェントの藤田(晋)さんや楽天の三木谷(浩史)さんでも、あまり表立って成功話はしない。やっても、講演会ですよね。そうではなく、軽い世間話──体調管理や恋愛相談とかもしながら、ビール片手にソファーで寝転がっているヤツもいるようなラフな環境で、同じ目線で話すことができる。当然、日本にはそれをしない理由があるはずなんですが、アメリカには自分がやってきたことを他の人に還元して、また新しい文化を生み出すという、他者に寄付する文化がある。

──情報はシェアするものだ、という考えなんですね。

亀井 自分たちの近くにその地域のことをよく知っている人、すぐに相談できる人がいるというのは大事だと思います。いま、東京を拠点にしているのは、僕らの情報源でもあるコンテンツホルダーやビジネス向けのクライアントは日本の企業が多いので、東京にいることがメリットとなり、いろいろと動きやすいからです。ただ一方で、Tokyo Otaku Modeは海外ユーザーのサービスだから、やはりユーザーと同じ場所にいるべきだという考え方もあります。その際、日本の企業から資金調達をしても、いざ国外で困った時に国内のネットワークが意味をなさない場合がある。極端に言えば、中国で事業展開するためには、日本よりも中国のVC(ベンチャーキャピタル)の方がいいわけです。戦略的に自分たちが伸ばしていきたいエリアのVCと組むことは、ちゃんと考えないといけないなと思ってます。

逆輸入モデルとソーシャルメディア先行という特殊性

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