連載 | #3 『レディ・プレイヤー1』特集

40代オタクが見た映画『レディ・プレイヤー1』 まるでDAICON FILMみたいだ!?

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40代オタクが見た映画『レディ・プレイヤー1』 まるでDAICON FILMみたいだ!?
40代オタクが見た映画『レディ・プレイヤー1』 まるでDAICON FILMみたいだ!?

POPなポイントを3行で

  • まるでDAICON FILM
  • オタクたちの「青春映画」
  • 過去を肯定して未来に立ち向かえ
現在、大ヒット公開中の映画『レディ・プレイヤー1』。KAI-YOU.netでも積極的に取り上げている本作だが、“どストライク世代”の40代オタクは、本作をどのように見たのか?

文:雑賀洋平 編集:須賀原みち

『レディ・プレイヤー1』が彷彿とさせる“伝説的”映像

「この作品の大半は、80年代のスタイルや文化、政治、音楽、映画やテレビを祝福しているんだ」スティーブン・スピルバーグ(『レディ・プレイヤー1』パンフレットより)

本作の舞台となるVRワールド「オアシス」は、創設者ジェームズ・ハリデーが好きだった映画やアニメ、ゲームなどの世界観やキャラクターで構成されているという設定だ。

そして、本作の原作・脚本を手がけたアーネスト・クラインは、1972年生まれ(ハリデーも同じ歳という設定)で、wikipediaによればカルトSF映画『バカルー・バンザイの8次元ギャラクシー』の続編シナリオを勝手に書いて(!)ネットにUPしたことで有名になり、余命短い友達に公開前の『スター・ウォーズ』の新作を観せるために青年たちが珍道中を繰り広げる映画『ファンボーイズ』のシナリオを手がけている。 ほかにも、アタリが売れ残りのゲームを大量にニューメキシコ州に埋めたという都市伝説を解明するドキュメンタリー『アタリ・ゲームオーバー』に出演しているという、筋金入りの40代オタク。

だから、本作には80年代を中心としたサブカルチャー、ポップカルチャー、日本でいうところのオタクカルチャーのキャラクターやアイテム、音楽が多数登場する。
映画『レディ・プレイヤー1』日本限定スペシャル映像【HD】
たとえば冒頭3分間のレースシーンは、こんな感じだ。ニューヨークを模した街で、道路狭しと疾走する『バック・トゥ・ザ・フューチャー』デロリアンに、『AKIRA』の金田バイク、『マッドマックス』のインターセプターたち。それらを踏み潰し、投げ捨てる『ジュラシック・パーク』のT-REXと『キングコング』の大猿!

わずか3分間に膨大な作品のキャラクターたちが詰め込められた映像を見て、40代のオタクである筆者は思った。「まるでDAICONⅣ オープニングアニメーション【註】みたいだ!!」と。

【註】「DAICONⅣ オープニングアニメーション」とは、1983年に大阪で開催された日本SF大会「DAICON4」の開会式において発表された自主制作アニメ。バニーガール姿の少女がエレクトリック・ライト・オーケストラの「トワイライト」をBGMにモビルスーツやウルトラ怪獣、ダース・ヴェイダーやエイリアンほか古今東西のキャラクター、メカを相手に大格闘を広げるという衝撃的な内容となっている。20〜30代にはテレビドラマ『電車男』のオープニングの元ネタといえばわかりやすいだろうか。このDAICONⅣ オープニングアニメーションを制作したDAICON FILMには庵野秀明や貞本義行、山賀博之ら所属しており、後に『王立宇宙軍 オネアミスの翼』や『新世紀エヴァンゲリオン』を生み出すGAINAXの母体となったのは言うまでもない。

40代オタクにとっての“80年代”

我々日本の40代のオタクにとって、どんなに「軽薄短小」と揶揄されても80年代は特別な時代だ。それはいわゆる思春期と呼ばれる時期であると同時に、アニメや漫画やテレビゲームを筆頭とするオタク文化が世に台頭していった十年紀(ディケイド)だからだ。 子供向けのテレビシリーズがメインだったアニメは、1979年の『機動戦士ガンダム』から始まる第二次アニメブームによって、テレビや映画、OVAなど媒体もジャンルも多種多様に変容した。

漫画は、週刊少年漫画誌からヒット作が多発することで幅広い読者層を開拓すると同時に、大友克洋などニューウェーブ陣の台頭は後に『AKIRA』を筆頭とする世界を席巻するクールジャパンのコンテンツを生み出す礎となった。

『パックマン』や『ストリートファイター』など、ゲームは日進月歩の勢いで進歩するテクノロジーによって、まったく新たな娯楽の一ジャンルとして成熟していった。(より正確を期すならば、70年代末に撒かれた萌芽が80年代に開花したと言ったほうがいいかもしれないが)。

そして忘れてはいけないのがSFXを多用したハリウッド映画の数々だ。『スター・ウォーズ』に端を発したSFブームは、SFXの技術を向上させて、これまでは想像もできなかったような映像を次々と生み出していった。

そんな技術革新に注目していた監督のひとりがスティーブン・スピルバーグだ。『スター・ウォーズ』と同年の1977年に『未知との遭遇』を発表したスピルバーグの80年代のフィルモグラフィを見ると監督作で『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』『E.T.』『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』『カラー・パープル』『太陽の帝国』『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』『オールウェイズ』。

プロデュース作品にいたっては主なものだけでも『グレムリン』『ヤング・シャーロック ピラミッドの謎』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『グーニーズ』『ロジャー・ラビット』ほか映画史に残る作品が目白押しであり、その影響は計り知れない。

つまり、40代オタクにとって、この映画『レディ・プレイヤー 1』は、自身の人格形成とオタク文化の形成が並行して進んでいた頃の宝物を詰め込んだ「青春映画」なのだ。そんなもはや失われた時代のオタクたちの「青春映画」を、スピルバーグが撮る。オタクにとって、こんな贅沢な作品があるだろうか。若い人には、ただの懐古趣味と笑われるかもしれない。

だが少なくとも自分は、画面の端々に映るキャラクターたちを目で追いかけながら、上映中はそんな80年代の気分を思い返しながら、多幸感に満ちていた。

スピルバーグが教えてくれたこと

ところが鑑賞後、当レビューを書くために本作について調べていると、この映画をただの懐古趣味の青春映画で終わらせてはいけない仕掛けが施されていることに気がついた。
映画『レディ・プレイヤー1』日本限定クリップ映像(ガンダム編)【HD】
それは森崎ウィン演じるダイトウのアバター・トシロウに貼り付けられた三船敏郎の顔だ。これは原作にはない映画オリジナルの設定で、スピルバーグの個人的なこだわりで施されたという。

“三船敏郎とスピルバーグ”といえば、頭に浮かぶのが1979年に制作されたコメディ映画『1941』だ。三船敏郎は、アキロー・ミタムラ中佐役として出演している。

同作はスピルバーグのキャリア的には大ヒットした前作『未知との遭遇』とは対照的に、興行的にも評価的にも低調に終わった作品だ。この作品の失敗を踏まえて、次にスピルバーグが監督したのがあの『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』であり、輝かしい80年代の作品群が続く。

そんな『1941』を思わせるアバターを、なぜ80年代を祝福する作品に起用したのか。

もちろんスピルバーグが三船敏郎を敬愛しているというのもあるだろう。だが、もしかしたら1979年の作品を登場させることで、自身の輝かしい80年代のキャリアに対して、再挑戦に臨もうとしているのではないだろうか。あの頃の自分をリブートしてやると。 この「DAICONⅣ オープニングアニメーション」のような引用とパロディ、そしてファン(アマチュア)心に満ちた原作小説『ゲームウォーズ』(邦題)映画化の企画が来た時、スピルバーグも一度は躊躇したという。必要な版権許諾の数と、小説内で登場する作品に自身が関係したものがあまりに多かったからだという。だが、それをスピルバーグはやりとげた。プロフェッショナルの技法と理念、アマチュアリズムの情熱を持って。

40代の我々にはもはや若い頃の体力はない。衰えて失ったものも多い。

だがこの映画は、80年代以降のキャラクターたちを通して、過去を肯定して未来に立ち向かうことの大切さを教えてくれる。ありがとう、スピルバーグ。ありがとう、80年代。もう少し頑張ってみるよ。

(c)2018WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED

『レディ・プレイヤー1』の話をしよう。

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巨匠スピルバーグがメガホンとった『レディ・プレイヤー1』とはなんだったのか?

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