96年より活動をスタートし日本のヒップホップの黎明期から現在まで第一線を走ってきたラッパー・般若さん。
その歯に衣着せぬスタイルにユーモア溢れるリリック、フリースタイルラップの実力からもヒップホップヘッズから長年にわたり絶大な支持を受ける。
現在、MCバトルの人気番組「フリースタイルダンジョン」にラスボスとして出演するほか、『ビジランテ』『チェリーボーイズ』といった映画への出演、アニメ『DEVILMAN crybaby』では声優にも挑戦するなど、ヒップホップの枠をこえてお茶の間まで知られる存在に。
そんな般若さんが4月1日に10作目となるアルバム『話半分』をリリースした。
今回、インタビューにて般若さんがアルバムにかけた思い、その収録曲より明らかとなった来年の武道館ライブについてもお話をうかがった。
取材:山下智也、新見直 文・編集:山下智也 写真:I.ITO
般若 俺が毎年「再始動」って言ってるのは面白いんじゃないかなって。本当にそんくらいのノリです。
だって、「期待の新人10枚目」って言ってるんだから、それに疑問持たないでアルバム手に取ってるやついたらアホでしょ。 ──まずツッコめよ、ということでしょうか?
般若 あえて流すのもありだしツッコむのもあり。受け取り方はみんな勝手にすればいいけど、真に受けないでほしいなって。
説明がないと分からない人って、怖いほど多いらしいじゃないですか。 俺もゾッとするような時がありますよ。
──『話半分』というタイトルは、どういう風に思い浮かんだのですか?
般若 制作していく過程で、ふと「話半分」という言葉が思い浮かんだんですよ。で、「話半分」のもう半分ってなんだろうってずっと考えてたら、それは自分の行動なんじゃないのって。それで自分の中でハマった。
このアルバムは、テキトーな意味に捉えられてもいい、話半分で聞いてもらって構わないぜっていう気持ちもある。10枚目にして『話半分』って言われてもな、って思うでしょうけど。
それで、残り半分をどう受け取るかはリスナーの自由です。昔から、なるべく言い切らずに、どう感じるかはみんな次第っていう余地を残すようにしてきた。 その方が面白いんじゃないかな。
──リリースタイミングをあえて4月1日にしたのは?
般若 それは『話半分』だから。絶対、4月1日にしようって話してました。
だって、エイプリルフールに『話半分』っていうアルバム出すやつなんて世界中みても俺以外に一人もいないですよ。
──般若さんは常に、シリアスと冗談をどちらも取り入れている印象です。10枚目にして『話半分』というタイトルも般若さんを象徴しているように思いました。
般若 俺の場合は、100人がかっこいいと言うものをかっこいいと思わないんですよね。
ひねくれてる、ズレてるって言われたらそれまでだけど、面白いものがかっこいいと思っちゃう人間だから。
見てくれはブサイクでも中身の部分はあいつの方が面白いぞって思うと、そいつがかっこよく見えるんです。
だから、「そんなカッコいい曲、俺つくってねーし」って改めて思うんですよ。…まあ、痛烈なことも言いますけどね。
──確かに、ユニークな曲も多いですよね。お笑いもお好きだそうですが、その影響もありますか?
般若 ドリフターズとか好きで、小さい頃に「8時だョ!全員集合」を楽しみに見てたんですよ。
今でもお笑いを見るのは、嫌味なしに笑えたり平和な気持ちになれるから。それが俺の中でかっこいいんです。
──その感覚は、『フリースタイルダンジョン』でのラスボスのコントにも出ていますか?
般若 番組の説明を受けたときに、一切しゃべらなくて通訳をつけたキャラでやりたいって言ったんです。
その演出については、口を出さないでもらいたいということも最初に伝えました。
だって、俺まで真面目にコメントしてたら嫌じゃないですか? ガチガチすぎて、くそつまんねーぞってなると思うんですよね(笑)。それも、どう捉えるかは視聴者の勝手ですが。
あの番組に関わってきている人たちは、少なからずみんなが思っている倍以上の苦労をしてきたんですよ。
みんなが苦労して、食えない冬の時代も見てきた中で、こうやって日本のヒップホップシーンが大きくなっていったのは誰がなんと言おうと、俺は良いことだと思うんですよ。
社会的にラップというものが「ヨーヨーチェケラッチョ」じゃないというのが共有出来てきて、韻についての説明をしなくてもみんな分かってきた。
たかがテレビされどテレビ。間口を広げるツールにはなっていて、その結果2、3年でここまできたというのは大きいんじゃないですかね。 ──苦労した時代という話が出ましたが、般若さんも、アルバムに収録されている「素敵なTomorrow」や「何者でもない」では、過去の経験や苦労、生い立ちをストレートに歌っているのが意外でした。当時の思いが今の原動力にもなっているのでしょうか?
般若 それはもちろんありますね。曲で歌った通り、俺はいじめられてた時期もあったし、決して裕福な家庭ではなかった。
日本の貧困層の闇は深いと思ってて、似たような境遇だったり、もっと悲惨な思いをしてる人はごまんといます。
「これを10枚目でさらけ出す必要があったのか?」って言われたら、メッセージとして伝える必要があると思ったから書いたと答えます。
「頑張れ」「いじめはカッコ悪いからやめろ」っていう話がしたいわけじゃない。
そういう状況に自分がなったらそれに対処することや、気持ちを養っていかなきゃいけないと思うんですよ。
辛い人が、これを聴いて気持ちが切り替えられたり楽になってくれたら「ありがとう、良かったよ」って思います。
般若 そんなの全然ないです。もしも俺がヒップホップを牽引してるとか言ったらクソつまんない。
そんなに勘違いしたくないし、「俺を聴け」だなんて言いたくないですよ 。だったら別に、BADHOPやKOHHだとか、今人気のラッパーたちから入って、どこかで俺を通るぐらいでいいと思うんですよ。
──しかし、般若さんもおっしゃったようにようやく今ヒップホップ自体が社会的に認知されてきていますが、まだヒット曲は出ていません。いろんなラッパーが口を揃えて「オリコン上位をとって、ヒップホップを音楽産業としても盛り上げたい」と言いますが、般若さんにはそういう意識はないですか?
般若 売れたいか売れたくないかで言ったら、それはやっぱり売れたいですよね。だけど、狙って売れるものでもないと思うんでね。
今、かろうじて僕も、皆さんにご飯を食べさせてもらえてる状況。だから、表現も曲げずにやっているところです。 般若 ただ俺が今年で40歳。このままヒップホップの池にしかいなかったら、たぶん2年で俺は潰れると思うんですよね。
──それはヒップホップの市場規模を考えて、という意味ですか?
般若 もっと色んな意味で。だって、俺が(ヒップホップに)必要かって言われたらそんなに必要ないじゃないですか。
変な話、俺自身は、ヒップホップ自体を必要とは思ってないですもん。「どーせあいつもヒップホップでしょ」とかナメられたくないし、ヒップホップに留まってると思われたくない。
むしろヒップホップのフィールドに一瞬だけ乗っからせてもらったぐらいの感じだから、無責任かもしれないけど、俺は好きだけどヒップホップを担ってもいねーし、という気持ちではやってます。
──一方で、最近はオタクカルチャーとストリートカルチャーの境界が崩れてきているようにも思います。
般若 全ての境界は崩れてきてる。むしろなくなってきてるんじゃないですか。
ヒップホップもなんでもありになっちゃってる。それでも、まだ交わってないところも沢山あると思うんですけどね。
──般若さん的には、境界がなくなってきているのは歓迎すべき状況ですか?
般若 そうですね。アウェーで静かな状況の中で、1人2人つかまえて帰ったら、その1人2人は裏切らないと思うんですよね。
逆にヒップホップ畑でやり続けてると、みんなが暖かく迎えてくれたりキャーキャー言われたりするんですけど、2年後ぐらいにはそのファンたちいなくなってますから。
──アウェーでのライブの方が滾る、と。アウェーな場ではじめて般若さんを見るお客さんに、自分の良さを伝えるために工夫していることはありますか?
般若 自然体で悔いのないように臨むのが1番いい。アウェーの方が緊張もするけど、すごく興奮もしますね。
──般若さんでも緊張されるんですね。「何者でもない」にも「どんなLIVEの前でも感じる重圧」というリリックがありました。
般若 今まで言ったことないけど、事実です。俺はめちゃめちゃ緊張しますよ。
ただ、「練習やトレーニングは嘘をつかない」じゃないですけど、人間って自分の脳や身体はそんなに騙せないと思うんですよ。
「あの時これをやってきた、ここまで頑張った、だからこそ大丈夫だ」みたいな裏付けがあった上でライブに出れる。逆に言うと「練習で手を抜いてしまった、サボってしまった」みたいなビハインドを負っていると、一歩を踏み出す勇気が半減される感覚がありますから。
般若 一旦これで終わったかなーと思ったんですが、やっぱり納得いかなくて実際5ヶ月ぐらいかかってますね。
実は、入れなかった曲もあります。
──般若さんはいつもフィジカルCDのみ販売されていますが、それはなぜなんでしょうか?
般若 出せるうちはCDで出したいです。
もちろん配信とかあるじゃないすか。だけど、心ない人がYouTubeにアップロードしたり、こそ泥みたいなやつもいるし。言うても0からつくってるのは俺たちなんですけどね。
今は、パッケージにこだわって丁寧にやっていきたい。 ──海外では、チャンス・ザ・ラッパーのような配信のみでメイクマネーする人もいます。
般若 それはそれで、こっちはこっちでやっているのでそれぞれ成り立てばいいんじゃないですかね。
──なるほど。ちなみに、般若さんは今の世界的なヒップホップの潮流を、どういう風にご覧になっているんですか?
般若 曲も短めで昔のレゲエみたいにフックを連呼していく。そういう風になったのかあ…って思って見てます。
名前は言わないけど、俺もジムにいる時や走る時はそういう曲もよく聴いたりして、やっぱりノリはいいよなーと思います。
──それは短くてフックが多い、いわゆる“トラップ”的な曲は身体的な高揚感とリンクするからですか?
般若 ラップが音としての役割だけ果たしてるから、聴きやすいんですよ。 分かりやすく言えばmigosとかがまさしくそう。Migos - Bad and Boujee ft Lil Uzi Vert [Official Video]
あげたらキリないけど、かっこいいラッパーは沢山います。ただ、かっこいいって思う人の真似やっても自分には真似できない。趣味で聞いてる音楽と自分のやる音楽は少し違いますね。
般若 それね。インタビュー受けてて思ったんですけど、やっぱり包み隠さず言うと「愛」だと思うんですよ。
1曲目のサビから言ってますけど、根底にあるのは全部「愛」だと思ってるので、それがなかったら作れないし、作る意味ないと思っています。 ──例えば10曲目の「家訓」では息子さんに向けた愛を歌っていますよね。
般若 あの曲に関しては俺もいつ死ぬか分からないし、息子もまだ3歳ですけど、物心ついて、どこかで俺のメッセージを分かってくれればなって。成長と共にバースで分けてるんです。
──息子さんが成長していった先のところまで歌われているのが印象的でした。
般若 そうですね。自分の年のとこまでしか言えないので、現状だけでは言いたくないって気持ちがあったんですよね。
──家族を持ってからラッパーとして以前と変わった心境はありますか?
般若 元からそんなに夜に遊びに行くような人間じゃないんですが、生活のリズムもおのずと変わって、みんなが思っている以上に早起きしてる。
保育園の先生や、ほかの父兄の人と喋ったりもしますよ。やっぱり変わったんじゃないですかね。
──ちなみに、もしお子さんがラッパーになりたいって言ったらどうですか?
般若 好きにすればいいんじゃないですかね。とりあえず頑張れよお前って言うしかないじゃないですか。
止める権利も勧める権利もないですけど、けっこうお前苦労するぞっていうところは言っときたいですね。
──今作で1番納得のいっている曲をあげるとすればどの曲ですか?
般若 「乱世」です。俺が今までつくった楽曲の中で、説明抜きで1番納得いった曲です。般若 / 乱世 [Dir.by 金 允洙/Pro.by bookey] (P)(C)2018 昭和レコード
10枚目にしてこういう曲がつくれたのは、すごい嬉しいですね。
自分がやりたい音楽に1番近づけた。世の中的に流行っているものだとかそういうのは取っ払った上で、自分が好きな音楽にすごい近づけたと思ってます。
──「ぶどうかんのうた」で明らかとなりましたが、来年の1月11日に念願の武道館ライブです。強い意気込みを曲からも感じます。
般若 そうですね、武道館のことはやっぱり大きいですね。
ここに来るまで時間がかかったけど、武道館ライブについては、俺は完全なチャレンジャーなので、それを越して次のところに向かっていかないといけないといけない。
それをやって終わりじゃないですが、とりあえず目の前の目標として。 ──これまでも予想外のことをやってきた般若さんですが、武道館ライブでも何か仕掛けは考えてますか?
般若 それを今言っちゃったら面白くないでしょ! もし武道館でもACEが立ってるとか、俺がバスローブで出てきたら、撃ち殺してもらいたいですね(笑)。
まあでも、それに向かって一生懸命がんばってやると思います。
──いろんなお話をいただき、ありがとうございました。
般若さんは、7月15(日)より『話半分』リリースツアーを実施。札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、鹿児島など全国各地を回る。
なお、2019年1月11日(金)に日本武道館で開催する「おはよう武道館ワンマンライブ」の二次先行予約も受付中だ。
その歯に衣着せぬスタイルにユーモア溢れるリリック、フリースタイルラップの実力からもヒップホップヘッズから長年にわたり絶大な支持を受ける。
現在、MCバトルの人気番組「フリースタイルダンジョン」にラスボスとして出演するほか、『ビジランテ』『チェリーボーイズ』といった映画への出演、アニメ『DEVILMAN crybaby』では声優にも挑戦するなど、ヒップホップの枠をこえてお茶の間まで知られる存在に。
そんな般若さんが4月1日に10作目となるアルバム『話半分』をリリースした。
今回、インタビューにて般若さんがアルバムにかけた思い、その収録曲より明らかとなった来年の武道館ライブについてもお話をうかがった。
取材:山下智也、新見直 文・編集:山下智也 写真:I.ITO
エイプリルフールにリリースした『話半分』
──『話半分』は新人デビュー10枚目の気持ちでやっている、とのことですが、それはどういう意図からですか?般若 俺が毎年「再始動」って言ってるのは面白いんじゃないかなって。本当にそんくらいのノリです。
だって、「期待の新人10枚目」って言ってるんだから、それに疑問持たないでアルバム手に取ってるやついたらアホでしょ。 ──まずツッコめよ、ということでしょうか?
般若 あえて流すのもありだしツッコむのもあり。受け取り方はみんな勝手にすればいいけど、真に受けないでほしいなって。
説明がないと分からない人って、怖いほど多いらしいじゃないですか。 俺もゾッとするような時がありますよ。
──『話半分』というタイトルは、どういう風に思い浮かんだのですか?
般若 制作していく過程で、ふと「話半分」という言葉が思い浮かんだんですよ。で、「話半分」のもう半分ってなんだろうってずっと考えてたら、それは自分の行動なんじゃないのって。それで自分の中でハマった。
このアルバムは、テキトーな意味に捉えられてもいい、話半分で聞いてもらって構わないぜっていう気持ちもある。10枚目にして『話半分』って言われてもな、って思うでしょうけど。
それで、残り半分をどう受け取るかはリスナーの自由です。昔から、なるべく言い切らずに、どう感じるかはみんな次第っていう余地を残すようにしてきた。 その方が面白いんじゃないかな。
──リリースタイミングをあえて4月1日にしたのは?
般若 それは『話半分』だから。絶対、4月1日にしようって話してました。
だって、エイプリルフールに『話半分』っていうアルバム出すやつなんて世界中みても俺以外に一人もいないですよ。
──般若さんは常に、シリアスと冗談をどちらも取り入れている印象です。10枚目にして『話半分』というタイトルも般若さんを象徴しているように思いました。
般若 俺の場合は、100人がかっこいいと言うものをかっこいいと思わないんですよね。
ひねくれてる、ズレてるって言われたらそれまでだけど、面白いものがかっこいいと思っちゃう人間だから。
見てくれはブサイクでも中身の部分はあいつの方が面白いぞって思うと、そいつがかっこよく見えるんです。
だから、「そんなカッコいい曲、俺つくってねーし」って改めて思うんですよ。…まあ、痛烈なことも言いますけどね。
──確かに、ユニークな曲も多いですよね。お笑いもお好きだそうですが、その影響もありますか?
般若 ドリフターズとか好きで、小さい頃に「8時だョ!全員集合」を楽しみに見てたんですよ。
今でもお笑いを見るのは、嫌味なしに笑えたり平和な気持ちになれるから。それが俺の中でかっこいいんです。
──その感覚は、『フリースタイルダンジョン』でのラスボスのコントにも出ていますか?
般若 番組の説明を受けたときに、一切しゃべらなくて通訳をつけたキャラでやりたいって言ったんです。
その演出については、口を出さないでもらいたいということも最初に伝えました。
だって、俺まで真面目にコメントしてたら嫌じゃないですか? ガチガチすぎて、くそつまんねーぞってなると思うんですよね(笑)。それも、どう捉えるかは視聴者の勝手ですが。
あの番組に関わってきている人たちは、少なからずみんなが思っている倍以上の苦労をしてきたんですよ。
みんなが苦労して、食えない冬の時代も見てきた中で、こうやって日本のヒップホップシーンが大きくなっていったのは誰がなんと言おうと、俺は良いことだと思うんですよ。
社会的にラップというものが「ヨーヨーチェケラッチョ」じゃないというのが共有出来てきて、韻についての説明をしなくてもみんな分かってきた。
たかがテレビされどテレビ。間口を広げるツールにはなっていて、その結果2、3年でここまできたというのは大きいんじゃないですかね。 ──苦労した時代という話が出ましたが、般若さんも、アルバムに収録されている「素敵なTomorrow」や「何者でもない」では、過去の経験や苦労、生い立ちをストレートに歌っているのが意外でした。当時の思いが今の原動力にもなっているのでしょうか?
般若 それはもちろんありますね。曲で歌った通り、俺はいじめられてた時期もあったし、決して裕福な家庭ではなかった。
日本の貧困層の闇は深いと思ってて、似たような境遇だったり、もっと悲惨な思いをしてる人はごまんといます。
「これを10枚目でさらけ出す必要があったのか?」って言われたら、メッセージとして伝える必要があると思ったから書いたと答えます。
「頑張れ」「いじめはカッコ悪いからやめろ」っていう話がしたいわけじゃない。
そういう状況に自分がなったらそれに対処することや、気持ちを養っていかなきゃいけないと思うんですよ。
辛い人が、これを聴いて気持ちが切り替えられたり楽になってくれたら「ありがとう、良かったよ」って思います。
表現を曲げずにラップをする理由
──般若さんはよく、「ヒップホップのシーンを担っている意識はない」とおっしゃっています。般若 そんなの全然ないです。もしも俺がヒップホップを牽引してるとか言ったらクソつまんない。
そんなに勘違いしたくないし、「俺を聴け」だなんて言いたくないですよ 。だったら別に、BADHOPやKOHHだとか、今人気のラッパーたちから入って、どこかで俺を通るぐらいでいいと思うんですよ。
──しかし、般若さんもおっしゃったようにようやく今ヒップホップ自体が社会的に認知されてきていますが、まだヒット曲は出ていません。いろんなラッパーが口を揃えて「オリコン上位をとって、ヒップホップを音楽産業としても盛り上げたい」と言いますが、般若さんにはそういう意識はないですか?
般若 売れたいか売れたくないかで言ったら、それはやっぱり売れたいですよね。だけど、狙って売れるものでもないと思うんでね。
今、かろうじて僕も、皆さんにご飯を食べさせてもらえてる状況。だから、表現も曲げずにやっているところです。 般若 ただ俺が今年で40歳。このままヒップホップの池にしかいなかったら、たぶん2年で俺は潰れると思うんですよね。
──それはヒップホップの市場規模を考えて、という意味ですか?
般若 もっと色んな意味で。だって、俺が(ヒップホップに)必要かって言われたらそんなに必要ないじゃないですか。
変な話、俺自身は、ヒップホップ自体を必要とは思ってないですもん。「どーせあいつもヒップホップでしょ」とかナメられたくないし、ヒップホップに留まってると思われたくない。
むしろヒップホップのフィールドに一瞬だけ乗っからせてもらったぐらいの感じだから、無責任かもしれないけど、俺は好きだけどヒップホップを担ってもいねーし、という気持ちではやってます。
──一方で、最近はオタクカルチャーとストリートカルチャーの境界が崩れてきているようにも思います。
般若 全ての境界は崩れてきてる。むしろなくなってきてるんじゃないですか。
ヒップホップもなんでもありになっちゃってる。それでも、まだ交わってないところも沢山あると思うんですけどね。
──般若さん的には、境界がなくなってきているのは歓迎すべき状況ですか?
般若 そうですね。アウェーで静かな状況の中で、1人2人つかまえて帰ったら、その1人2人は裏切らないと思うんですよね。
逆にヒップホップ畑でやり続けてると、みんなが暖かく迎えてくれたりキャーキャー言われたりするんですけど、2年後ぐらいにはそのファンたちいなくなってますから。
──アウェーでのライブの方が滾る、と。アウェーな場ではじめて般若さんを見るお客さんに、自分の良さを伝えるために工夫していることはありますか?
般若 自然体で悔いのないように臨むのが1番いい。アウェーの方が緊張もするけど、すごく興奮もしますね。
──般若さんでも緊張されるんですね。「何者でもない」にも「どんなLIVEの前でも感じる重圧」というリリックがありました。
般若 今まで言ったことないけど、事実です。俺はめちゃめちゃ緊張しますよ。
ただ、「練習やトレーニングは嘘をつかない」じゃないですけど、人間って自分の脳や身体はそんなに騙せないと思うんですよ。
「あの時これをやってきた、ここまで頑張った、だからこそ大丈夫だ」みたいな裏付けがあった上でライブに出れる。逆に言うと「練習で手を抜いてしまった、サボってしまった」みたいなビハインドを負っていると、一歩を踏み出す勇気が半減される感覚がありますから。
自分のやる音楽へのこだわり
──本作、制作期間としてはどれぐらいかかったんですか?般若 一旦これで終わったかなーと思ったんですが、やっぱり納得いかなくて実際5ヶ月ぐらいかかってますね。
実は、入れなかった曲もあります。
──般若さんはいつもフィジカルCDのみ販売されていますが、それはなぜなんでしょうか?
般若 出せるうちはCDで出したいです。
もちろん配信とかあるじゃないすか。だけど、心ない人がYouTubeにアップロードしたり、こそ泥みたいなやつもいるし。言うても0からつくってるのは俺たちなんですけどね。
今は、パッケージにこだわって丁寧にやっていきたい。 ──海外では、チャンス・ザ・ラッパーのような配信のみでメイクマネーする人もいます。
般若 それはそれで、こっちはこっちでやっているのでそれぞれ成り立てばいいんじゃないですかね。
──なるほど。ちなみに、般若さんは今の世界的なヒップホップの潮流を、どういう風にご覧になっているんですか?
般若 曲も短めで昔のレゲエみたいにフックを連呼していく。そういう風になったのかあ…って思って見てます。
名前は言わないけど、俺もジムにいる時や走る時はそういう曲もよく聴いたりして、やっぱりノリはいいよなーと思います。
──それは短くてフックが多い、いわゆる“トラップ”的な曲は身体的な高揚感とリンクするからですか?
般若 ラップが音としての役割だけ果たしてるから、聴きやすいんですよ。 分かりやすく言えばmigosとかがまさしくそう。
アルバムに込めた「愛」とは?
──自分のやる音楽、というワードが出てきましたが『話半分』でのテーマはあったんですか?般若 それね。インタビュー受けてて思ったんですけど、やっぱり包み隠さず言うと「愛」だと思うんですよ。
1曲目のサビから言ってますけど、根底にあるのは全部「愛」だと思ってるので、それがなかったら作れないし、作る意味ないと思っています。 ──例えば10曲目の「家訓」では息子さんに向けた愛を歌っていますよね。
般若 あの曲に関しては俺もいつ死ぬか分からないし、息子もまだ3歳ですけど、物心ついて、どこかで俺のメッセージを分かってくれればなって。成長と共にバースで分けてるんです。
──息子さんが成長していった先のところまで歌われているのが印象的でした。
般若 そうですね。自分の年のとこまでしか言えないので、現状だけでは言いたくないって気持ちがあったんですよね。
──家族を持ってからラッパーとして以前と変わった心境はありますか?
般若 元からそんなに夜に遊びに行くような人間じゃないんですが、生活のリズムもおのずと変わって、みんなが思っている以上に早起きしてる。
保育園の先生や、ほかの父兄の人と喋ったりもしますよ。やっぱり変わったんじゃないですかね。
──ちなみに、もしお子さんがラッパーになりたいって言ったらどうですか?
般若 好きにすればいいんじゃないですかね。とりあえず頑張れよお前って言うしかないじゃないですか。
止める権利も勧める権利もないですけど、けっこうお前苦労するぞっていうところは言っときたいですね。
──今作で1番納得のいっている曲をあげるとすればどの曲ですか?
般若 「乱世」です。俺が今までつくった楽曲の中で、説明抜きで1番納得いった曲です。
自分がやりたい音楽に1番近づけた。世の中的に流行っているものだとかそういうのは取っ払った上で、自分が好きな音楽にすごい近づけたと思ってます。
──「ぶどうかんのうた」で明らかとなりましたが、来年の1月11日に念願の武道館ライブです。強い意気込みを曲からも感じます。
般若 そうですね、武道館のことはやっぱり大きいですね。
ここに来るまで時間がかかったけど、武道館ライブについては、俺は完全なチャレンジャーなので、それを越して次のところに向かっていかないといけないといけない。
それをやって終わりじゃないですが、とりあえず目の前の目標として。 ──これまでも予想外のことをやってきた般若さんですが、武道館ライブでも何か仕掛けは考えてますか?
般若 それを今言っちゃったら面白くないでしょ! もし武道館でもACEが立ってるとか、俺がバスローブで出てきたら、撃ち殺してもらいたいですね(笑)。
まあでも、それに向かって一生懸命がんばってやると思います。
──いろんなお話をいただき、ありがとうございました。
般若さんは、7月15(日)より『話半分』リリースツアーを実施。札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、鹿児島など全国各地を回る。
なお、2019年1月11日(金)に日本武道館で開催する「おはよう武道館ワンマンライブ」の二次先行予約も受付中だ。
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