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自分らしく生きるには? 嫌いな家族や職場との向き合い方【AV女優 戸田真琴の映画コラム】

戸田真琴さん

みなさんこんにちは。戸田真琴です。

4月になり、新生活を始めた方も多いのではないでしょうか?

私もAV女優としての初めての撮影をしてから、ちょうど1年が経ちました。いつも通りの生活が続いていく人、新しい日々に不安や期待を抱えている人、様々な毎日があることと思いますが、この春がなるべく麗しいものとしてみなさんにそそがれますように。

自分らしく生きられないのは、家族のせい?

戸田真琴さて、何年前のことか忘れてしまいましたが、こんな桜の散る春の日に、家から飛び出して近所の河原でひとりぶすくれていた時がありました。

野球場ともテニスコートとも距離を置いた、広い河川敷の中でもひときわ何も無い芝生の上に、わたしが三人は乗れそうなくらいの大きな岩が転がっていました。そこへ登っては、お母さんとの喧嘩の内容を反芻し、やっぱり「わかりあえない」と心の中でぼやきながら真剣な涙が溢れたものです。

一人暮らしを始める前は、こんな光景は日常茶飯事でした。わたしの家族は決して普段から荒れているものでも険悪なものでもありませんでしたが、私はお父さんとお母さんにとって、「自分たちの予想よりもややこしくものを考え、理解し難い」変わった子供だったようなのです。

一緒の家で生きてきたはずなのに、本当に色々なところで「正しさ」が異なる両親とは、喧嘩と諦めを繰り返す日々でした。そんな生活の細かいところはまたの機会にお話するとして、今回は過去の私も一緒になって頭をかしげている、こんなお悩みについて考えてみたいと思います。

親の干渉がうざい。あれしろこれしろと言ってきて自分らしく生きることができません。一人暮らしでもはじめればいいんでしょうか?なかなかお金の問題で難しいのですが、今の状況から抜け出すには何から始めるべきですか。

「家族が全てだった時代」とうまくお別れできないこともある

同じような問題に頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。また、この季節から一人暮らしを始めて、ご両親と毎日会うことのない生活になり、逆に寂しさを感じている方もたくさんいらっしゃるのではないかと思います。

小さなころ、家族というのは世界のほとんど全部でした。学校に行くようになって、世界の半分くらいになりました。

それから私たちは、外に友人を作ったり、本や漫画やテレビや映画……様々なものの中から自分の好きなものや新しい価値観や哲学を知っていきました。

それはコラムの第1回で書いた、「あなたがあなただということ」を知る行為であり、それと同時に、「お父さんとお母さんが教えてくれたことが全てだった時代」と、少しずつゆっくりとお別れしていく行為でもあるのだと思います。

その「お別れ」が、誰も傷つかずに自然に成される場合もあれば、お互いを解り合えずに傷つけ合うことになる場合もあります。

とくに、ご実家を離れるタイミングが無かったり、幼い頃のまだ何も知らずまっさらだったころのあなたへ接していたのと同じように深い干渉をしてくるご両親と暮らしていたりすると、窮屈になったり、今回のお悩みを送って下さった方と同じように「うざい」「自分らしく生きられない」と感じて苦しくなってしまうこともある思います。

「ひとり暮らしを始める」「金銭的に自立する」などの具体的な解決策よりも、今回はあくまで「自立したいのに自立出来ない」「自分が自分らしくあることを邪魔されているような気になる」といった心のほうのお話をしていきましょう。

自分の身体の中に、おとうさんにもおかあさんにも教わっていない好奇心や正義、愛など、「自分としての自分」が目覚めた時、人はそれを「個性」と呼びます。

「個性」は、それまで縛られてきたルールに反発をしたり、新しくて危険なことを求めたりもするため、「安心安全」に育てたいと願うご両親には、少々危険なものに映る場合もあります。

だけれど、あくまで私の意見ですが、多少の危険が伴ったとしても、あなたはあなたのその生まれた「個性」の、なるべく赴くままに生きていて欲しいと願います。

あなたが作り出したものこそが、今までご両親から貰ったもの、先生やお友達から貰ったもの、それらすべてのものを集め、あるいは濾過して残された、あなたの宝物だからです。

心に自分だけの基地を作る

戸田真琴窮屈で複雑な家庭環境に嫌気がさして、都合のいい妄想を繰り返して過ごしていた少年が主人公の映画があります。

1993年に公開されたアメリカの映画『顔のない天使』です。

12歳の少年チャックは、複雑な環境の中で家族から孤立していました。家から出たい一心で全寮制の士官学校を受験しますが、合格出来ずに途方に暮れてしまいます。そんなとき、地域の人々からは「怪物」と呼ばれ忌み嫌われている男性・マクラウドと出会います。マクラウドは、ある事故で顔の半分に大きな火傷を負い、街から離れた屋敷で人と関わらないようにして暮らしていました。

彼が元教師だったと知ったチャックは、士官学校の再試験のために勉強を教えて欲しいと頼みます。始めはチャックとも深く関わらないように冷たく接していたマクラウドでしたが、次第に二人の間にはかけがえのない絆が生まれていきます。

チャックが次第に自分らしく振る舞えるようになっていく様子を見て、わたしは「自分の力では変えることができない不都合な環境に、抵抗するための本当の勇気とは何だろう?」と考えました。

二人が勉強会をするその姿は、二度と無い青春のようで、子供同士の秘密基地のようにも見えます。

「自分で選んだものたちで、心に自分だけの基地を作る」ということが、どんな環境にいても自分らしさを見失わないための最重要事項に思えたのです。

家庭環境に限らず、学校でも、会社でも、バイト先でも、「ここでは自分らしくいられない、けど簡単に抜け出せる場所じゃない」というふうに悩んでいる方は多いと思います。

もちろん、そこから飛び出してもっと自分らしくいられる場所を探すということが、ほとんど理想の解決策なのかもしれませんが、それぞれ安定した生活や将来のことを思うと、それも簡単ではないのが現実なのかもしれません。今いる場所で耐え抜く、というのもある種の勇気です。あなたにとっての最良の選択は、いつもあなたに託されています。

それでも心が窮屈で壊れてしまいそうなとき、どうか逃げ出して欲しいのです。

自分の心に自分だけの正しさと、優雅さと、気持ちよさをもった「秘密基地」をつくっておいて、苦しいときはいつでもそこに逃げてしまって欲しいのです。

それは、『顔のない天使』のふたりのように、友情の形をしていてもいい。日記を書くとか、絵を書くとか、小さな頃の私みたいに河川敷まで歩いていって泣くことでもいい。好きな漫画を読み返すことでもいい。

これをすれば自分は自分らしさを再認識できる」ということを、ひとつでも心に持っておくことが大切だと思います。

窮屈な環境に置かれた時、その状況だけがすべてではなくて、今の場所は自分の人生でたくさん訪れていく場所のうちのひとつでしかない、という認識を持つのが心の健康において一番大切だという気がします。

人生の旅は長いのです。

親に怒られない「冒険」なんてない

戸田真琴そして今回相談してくれた方の、過干渉に悩んでいるという今も、長い人生でのほんの一部で、永遠にそれが続いたりずっとあなたに押し付けられるものではないということをわかって、広い目で今を見て欲しいです。

今はお辛くとも、少なくとも「自分らしく生きることができない」と感じているということは、自分らしさもしくはその芽のようなものが相談者さんにはあるということです。それだけで、とても立派でわくわくするべき事実だと私は思います。

「自分らしさ」を持っていれば持っているほど、周りと反発が起こったり他人を許せなくなったりと、苦悩が目に見えて多くなるのも事実です。悩まずに密度を増す哲学などはありませんし、笑われることなく輝く個性もありません。お母さんに怒られない冒険だってきっとありません。

だけれどそうしてあなたはあなたという存在をより濃密にしていくのです。孤独であったり、自分以外のなにかを煩わしく思いながらもあなたがあなたでありたいと願うこと自体を、誇りに思ってほしいと願います。

さて、ここまで「どんな環境であっても自分の心を一番に守るということ」を書いてきましたが、家族の愛情関係の切なさを描いた映画をちょうど最近見たので、今回はもう一本、そちらも紹介したいと思います。

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戸田真琴のコラム『悩みをひらく、映画と、言葉と』
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この記事へのコメント(2)

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ztetsu1009

ノブ

2017.04.16

何度も読み返しています。

何が正しいかわからない世の中、広くて、冷たい風の吹きすさぶ世界の中で、自分の子供を安全な場所に置いておきたいと思う親の気持ちを否定することなく、その上で、その気持ちに溺れず、眼差しを上げて、小さく閉じ籠ることなく自分の足で歩き出すことを優しく促してくれている。
本当の愛は、相手を枯らすものではなく、成長させるものだと思いますが、まこりんのこの柔らかい愛情(文章)は、胸の奥に染み渡り、私をすごく元気にしています。
映画もすごく見たくなりますね。
いい文章だなぁ。

nshmz21

ドクターab

2017.04.15

真琴さま

毎回楽しく拝読させていただいています。
とてもいい文章ですね。心の中にすっと入ってきて広がってゆきます。
まこりんの文章の上手さには感嘆させられることがしばしばあります。

今回は家族の関係、、、それぞれの家族が違う悩みを抱えているので、本当に難しい問題だと思います。本質的なことをいろいろ考えさせられました。子供を持つ親として、今まで気づいていなかったことに気づかされた部分もあります。本当に感謝です。相手の悩みとまこりんの人生と映画とが上手く混ざり合っていて、連載の中で一番心に響く文章だと感じました。映画を題材にいろいろな問題に切り込むまこりんの鋭さは、まこりんの生きてきた人生が詰まっていて、その感受性の素晴らしさに驚きます。この才能を今後もっと生かしていっていただければと思います。応援しています!

まこりんは私にとって「神様からのプレゼント」のような気がしています。人の生き方という意味で私に多くのことを教えてくれます。まこりんの3倍も長く生きて来ながら気づいていなかった人間の本質的な部分をまこりんが教えてくれたりします。神様が、お前こんなことも知らないのか!と教えてくれているようです。本当にありがとうございます。

『たかが世界の終り』を見に行こうと思いましたが、関西では上映されていないようですね。WOWOW放映かDVDになった時に見るようにします。
次回のコラムも楽しみにしています。

PS 大阪のイベントでお会いできるのを楽しみにしています。

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