実在しないおじさんの肖像画 架空国家の資料を展示する太田剛気 個展

実在しないおじさんの肖像画 架空国家の資料を展示する太田剛気 個展
実在しないおじさんの肖像画 架空国家の資料を展示する太田剛気 個展

太田剛気「四峰隆満内閣展」

現在、東京藝術大学 絵画科 油画専攻の2年生である太田剛気さんの初個展「四峰隆満内閣展」が、東京・五反田にあるゲンロン カオス*ラウンジ五反田アトリエにて開かれる。

同展では太田さんがつくった架空の国家「皇州」の歴史における内閣「四峰隆満内閣」に関するテキストや絵画による“資料”が展示される。

会期は3月31日(金)から4月9日(日)までとなっている。

架空国家の“資料”を展示 太田剛気の初個展

現役の藝大生である太田剛気さんは、もともと、中学生時代に趣味として架空の歴史づくりをはじめていた。

そんな架空の歴史を題材に、作品として世に発表することとなった今回の個展「四峰隆満内閣展」。

太田さんによると、今回、展示される作品を“資料”と位置付けたのは、作品がそれぞれ単独の完成品としてあるのではなく、「皇州の歴史」という膨大な情報量を持った創作物の一構成要素に過ぎないためだという。 ただ淡々と歴史的な事実が述べられる歴史の教科書のように、ある種の平坦さを表現することが試みられており、積み上げられる「架空の歴史」という1つの壮大きな作品において、今回の展示は、まだスタート地点に過ぎない。

美術集団・カオス*ラウンジのメンバーである黒瀬陽平さんのコメントも届いている。

太田の作品を見たのは、2017年1月の藝大の学内進級展だった。つい最近のことである。
この進級展はめずらしく前評判が良く、期待して見に行ったのだが、残念ながら興味を引くような作品はほとんど見当たらず、絵画棟内を足早に巡っていたところ、太田の作品の前で足が止まった。

アニメ絵風のフラットな塗りで描かれた中年男性の、小さな肖像画が数点並んでいた。それ自体では、特別にインパクトのある作品というわけではなかった。しかし何かひっかかる。近づいてみると、片隅にファイルが置いてある。開くと、「歴代連合党総裁一覧」「歴代内閣閣僚一覧」と題された名簿が膨大にファイリングされていた。

それは、作者によって想像された架空の国の歴史(しかもその国の歴代総裁と閣僚のリスト!)であり、数点の肖像画は、その歴史のなかで重要とされている政治家たち(もちろん架空の)であった。展示を見終わった後、知り合いのツテを頼ってなんとか太田とコンタクトを取り、ここでの個展を決めた。

太田はこれまで、作品という以前に、ほとんど趣味のようなものとして、架空の国家の政治史を、文字によって書き続けてきた。そして時折、その歴史上の架空の重要人物を「キャラクター」として描いてきた。
太田が妄想する国家の歴史は、近現代の日本史をモデルにしている。特に、国民国家の成立以後の政治史は、大きな戦争を経験することなく、二大政党が延々と政権交代しているだけの「政党史」であり、まさに戦後の日本を歪に引き伸ばしたような、不気味な疑似ユートピアである。

外部を消し去った「偽史」の妄想に耽ること自体が「脱政治的」である、と指摘することはたやすい。そして、太田が親しみ、その表現文法を用いているキャラクター文化こそ、戦後日本という疑似ユートピアで育まれたのである。
その意味で、太田の作品は良くも悪くも、政治や社会から切り離された戦後日本の想像力を体現するものだと言えるかもしれない。

しかし一方で、太田によって描かれた架空の政治家たちの肖像は、美少女や美少年を描くことによって磨かれてきたキャラクター表現の蓄積を、ほとんど破棄しているかのように、徹底して抑制的なタッチで描かれている。キャラクター表現としては致命的な「貧しさ」は、太田自身によって選び取られたものであり、それは結果的に、キャラクター表現の臨界点を炙り出しているようにも見える。

今回の初個展によって、太田の書き続けてきた「偽史」と「キャラクター」の限界、そして可能性がはじめて開陳されることになるだろう。期待の新人のデビューを、ぜひご覧いただきたい。 黒瀬陽平さんコメント

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イベント情報

太田剛気 個展「四峰隆満内閣展」

会期
2017年3月31日(金)〜 4月9日(日)※月曜休廊
開廊時間
15:00〜20:00
会場
ゲンロン カオス*ラウンジ五反田アトリエ
住所
〒141-0022 東京都品川区東五反田3-17-4 糟谷ビル2F
※こちらの会場は「ゲンロンカフェ」ではございませんのでお気をつけください。

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