ミクのお兄さん「KAITO」中の人と、第一世代ボカロPが出会った 「な音」インタビュー

ミクのお兄さん「KAITO」中の人と、第一世代ボカロPが出会った 「な音」インタビュー
ミクのお兄さん「KAITO」中の人と、第一世代ボカロPが出会った 「な音」インタビュー

な音(風雅なおと×baker)

ボーカロイドの中の人と、ボカロPによるこれまでありそうでなかったユニットが誕生しました。

それが、初音ミクのルーツでもあるボーカロイド・KAITOの声を担当した風雅なおとさんと、2007年が初投稿の第一世代ボーカロイド・プロデューサーであるbakerさんによる2人組ユニット「な音」。

2017年は、初音ミク誕生から10周年。その間、ハチ(米津玄師)さん、wowaka(ヒトリエ)さん、じん(カゲロウプロジェクト)さんなど、ボカロを出自に持つクリエイターが生音サウンドに活動領域を広げていくなか、風雅さんとbakerさんは、新機軸であるアコースティック・ユニットを結成。

『電磁戦隊メガレンジャー』や『仮面ライダーアギト』などのOPやEDでも知られる風雅なおとさんと、「celluloid」や「カナリア」でボカロPとして名を馳せ現在では篠崎愛さんや沼倉愛美さんらの編曲などをつとめるbakerさん。

ボカロ・シーンのレジェンドでもある2人に、これまでの“曲がりくねった道”を歩み続けてきたヒストリーとこれからについてうかがいました。ネットから生まれた日本ならではのユース・カルチャーは、同じところには止まらずに螺旋上に進化し続けていることが見えてきました

取材・文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) 編集:新見直 撮影:時永大吾

ボカロの「中の人」なのにボカロを使ったことがない歌手と、第一世代のボカロP

──今年は初音ミクが10周年、ニコニコ動画も10周年ということですが、そもそも風雅さんが、初音ミクの元祖的存在であるボーカロイド・KAITOへ歌声を提供するきっかけって何だったんですか?

風雅 僕がスタジオ仕事をたくさんやっていた時期、YAMAHAのボコーダー(エフェクターの一種)のサンプリング音声をやっていたことがありました。ボーカロイドの話が来たときもその流れだったのかなと。わりと時間をかけて、長期間にわたって少しずつ録音していって、何年かかけて完成させた記憶があります。

──その後、たくさんのボーカロイド・プロデューサーの方の活躍によって、ボカロ文化が世界的にユースカルチャーとして発展していきましたが、どんな風にご覧になられていましたか?

風雅 実はまったくよくわかっていなかったんです。KAITOも、開発者であるYAMAHAの剣持秀紀さんが家までわざわざ届けてくれたときも「あ、そんなパッケージなんだ」くらいな状況で。中の人なのに、一度も使ったことがありません(笑)。当時はニコニコ動画もまったく知らなくて。

「KAITO V3」/画像はAmazonより

──意外ですね。一方でbakerさんは、ボーカロイドに関してはどんなきっかけで使いはじめたのでしょうか?

baker きっかけは、友だちから「初音ミク」を教えてもらって、試してみたらこれは未来がある技術だなと感じたんですね。

もともと打ち込みで音楽をつくっていたので、いかに本物っぽく聴かせるかというポイントで楽しんでました。キャラクター性とかよりも音声合成技術の素晴らしさに惹かれてました。

──「楽器」という感覚に近いのでしょうか?

baker なんとなく同じ感覚で考えてたのが、バイオリンやギターでしたね。弦楽器って打ち込みだと難しいんです。ただ、歌声となると、むしろ普通の楽器よりも情報量がとにかく多い。この先、ボーカロイドによってすごいことが起きていくんだろうなって思いながら、いろんなことを試していたことを覚えています。

──そうして生まれたbakerさんの代表曲といえば、PVも自作された2007年10月投稿の「celluloid」でしょうか。
baker もともとインストばっかりつくっていたんですよ。だから、まともに歌詞も含めて作曲したのは、友だちとバンド組んだ高校生の時以来でした。自分の中では初挑戦に近かったので、文章的にはめちゃくちゃだけど、自分がどんな気持ちで書いたのか、それはよく表れていますね。ぎこちなくやってたのが受けたのかなって。

その後のボカロ文化の広がりは、予想できていた

baker 「celluloid」といえば、風雅さんのボーカル教室で「celluloid」を題材として使ってくれたことがありましたよね。曲の解釈を考えてみようっていう内容で、生徒さんが「celluloid」の歌詞についてそれぞれいろんな考察をされていましたよね。

風雅 世代によって解釈が違って。若い子からはまったく違うアプローチが出てきたりして、面白かったですね。

baker それを後から聞いて、楽曲が一人歩きしているのって面白いなって思ったんです。

──そういえば、ボカロ文化が広がって、ボーカル教室に通う方がものすごく増えたって聞きました。

風雅 らしいですね。ミク廃……初音ミクさんを熱狂的に好きな方々中心にボカロ繋がりで親しくなった仲間達とカラオケに行って8時間くらいひたすらボカロだけ歌うカラオケのオフ会にたまに参加するんですよ。ミクさんの歌は、男性でもオリジナルのキーで歌いたがります。オリジナルのキーで歌いたいから(ボーカル教室で)習いたいっていう人もいますよ。

あとはやっぱり、「歌ってみた」でボカロの名曲を生の人が歌ってるのを聴いて、自分でも生で歌いたいって人が増えたんですよね。

──bakerさんは、2007年からはじまったボカロブーム・ニコニコ動画を取り巻く状況をどうご覧になっていましたか?

baker J-POPだけではない、ボカロ曲の新しい現象の広がりを、僕は2008年頃には正直予想はしてたんですね。

風雅 お〜。

baker ただそれを言っても、当時はわりと「そんなワケないだろ」とか「すぐ終わるよ」とか散々言われて。それに、自分は、流れをわかっていてもそれに乗れるタイプの人間ではないという自覚もあって、常に一歩引いて見ていた感じなんですよ。

風雅 bakerさんは、作曲家としては器用かもしれないけど、人としては器用じゃないですよね。世渡り上手くないもんね。

baker ははは……すいませんでした

風雅 あ、いやいやいや! それがダメとかじゃなくて!

baker 当時から、やり続けることに意味があるんじゃないかって思ったんですよね。正直、ボカロももういいかなとか思ったりするんですけど、結局離れられなかったりするので。何だかんだ、作曲仕事とかでもボカロないと困りますし、僕は。

──同時代にボカロPとして活躍された方々の動向は意識されますか?

baker ボカロP出身で人気ある人とか聴いてもヘコむだけなんで……。聴かなければいけない状況にならないと聴かないですね。ただやっぱり米津さんくらいになると自然と耳に入ってきますし、意識しないかって言うとめちゃくちゃしますけど。

キャラクターからボカロにハマった中の人

──2人が出会ったきっかけは何だったんですか?

baker 2008年に風雅さんが、KAITOも使われていたボカロ曲『卑怯戦隊うろたんだー』を、KAITOの中の人がカバーするとというCDを出したときに、僕がPVを撮らせていただきました。

風雅 そこから紆余曲折を経て今に至ります。正直、『卑怯戦隊うろたんだー』をやってからもボーカロイドには興味が持てなくて。でも、僕は二次元のアニオタではあったので、2012年くらいに、まずボカロのキャラクター文化にハマったんです。自分でもイラストをつくってみたこともあります。

そのうち、「先入観を捨てたらボカロにもいい曲はいっぱいある」といろんな人から聞いて、そこからボカロ曲のファンにもなった感じです。

──中の人が、キャラクター文化から入るというのも変わってますよね。

風雅 それから、bakerさんの曲「celluloid」のファンになったんです。それで、僕のほうからbakerさんの歌を歌いたいってアプローチしたのが「な音」のきっかけかもしれません。

──ユニット名の読み方は「な音=naoto」なんですか?

baker はい、読み方は「naoto」です。もともと、ユニットを組む前に風雅さんのシングルが2009年頃にLOiDというレーベルから出たことがありました。そのとき僕はカップリング曲を書いたんですけど、意識もせず歌詞に「透明な音」って入れたら、ファンの人たちが(僕たちのことを)「透明なおと」って言い出したんです。

風雅 そうだったね。

baker ユニット名をつけるときにそれを思い出して。そこで、CDのタイトルを必ず「○○な音」って読んでもらえるような仕組みを考えてみたんです。インディーズで出した「透明」という盤があるんですけど、それも続けて読むと「“透明”な音」になるんですね。

──今回アルバムのタイトルが『ノスタルジック』なので、「“ノスタルジック”な音」になるということですね。それこそ、風雅なおとさんの名前も「“風雅”な音」が由来だそうですもんね。

baker そうですね。アルバムの内容を表すようなタイトルにしたかったんです。

歴史と縁が結びつけた2人

──「な音」が「アコースティック・ユニット」というのに驚かされたんですけど、この方向性はなぜ?

baker アコースティックにこだわっているワケではないんです。ユニットを組む前、台湾でふたりでライブをやる機会があったんですが、その時もギター1本かピアノ弾き語りだったんですね。フットワークを軽く、バンド編成を考えずにはじまったのでアコースティックになっています。

──去年、「な音」は下北のスープカレーが絶品の『マジックスパイス』で初ライブをされてましたよね?

風雅 『虚空戦士マジスパイダー』という曲を歌わせていただいたご縁ですね。もともとマジスパも知らなかったのですが。

──マジスパは、一十三十一さんというシンガー・ソングライターのお父さんがされているお店なので、音楽的な匂いを感じていたんです。しかも、bakerさんはカレーがお好きだとか?

baker 好きですね。下北沢にマジスパができてすぐ、音楽とかではなくカレーが好きで通ってました。そこで風雅さんの「マジスパイダー」のPVも、僕と小林オニキスで合作しました。

──いろんな歴史が繋がっていく感じですね。

風雅 その後「千年の独奏歌」っていう曲でもbakerさんがPVをつくってくれたんです。ご縁ですね。

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