オタクからもダンス界からも追放されたダンサーの逆襲 RABインタビュー

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「ヒップホップの現場に持ち込んでほしくない」

ドラゴンさん

──大好きなことを融合させて楽しそうな10年にも見えますけど、見えない苦労や辛い出来事もあったんでしょうか?

あつき 2008年に、「ニコニコ大会議2008冬」に出たんですけど、まあドンズべりして。最前列の人たちの死んだ魚みたいな目ね!

けいたん あれトラウマになるよね!(笑)

あつき 「あ、オタク文化とブレイクダンスってやっぱ相容れないんだな」という限界を感じましたね。そこからRABは全然活動しなくなったんですよ。

マロン そのとき、たまたまダンス界でも怒られてたんですよね。

ドラゴン RABで関西のバトルに出場したとき、内容はよかったんですけど審査員から「おちゃらけてない?」と言われて、勝っていたバトルで負けと判定されたんですよ。ブレイクダンスとして評価できないと。

あつき そりゃあそうでしょ。だって、バトルで女の子の絵が描かれたビッグタオル掲げながら踊るんですよ。審査員はどう評価していいかわかんないって。

けいたん あのときはっきり言われたのは、「ヒップホップの現場にこういうのを持ち込んでほしくない」と。

マロン ダンス界でも認められずオタク界でも認められず……俺たちはどこに…(笑)。

けいたん だから、「休止」って誰が言うわけでもないけど、2010年くらいまでは活動が減っていました。

あつき 秋葉原に行って買い物をする、ただの友達に戻った。

マロン でもそれぞれではダンスに集中して、日本代表になったヤツ(あつき、けいたん、ドラゴン)もいました。それが結果的に「スター☆ドラフト会議」に出たときに「日本代表3人を有するRAB」という説得力にもなったし。

けいたん 確かに、ダンサーとしてのパワーアップ期間ではあったね。

あつき ドラフト会議に出るときは半ばヤケクソ気味に「伝説残さない?」っていう感覚だったんだよね。

ムラトミ ドラフト会議の時まで、RABは叩かれることの方が多かったんです。でも、放送が終わったあと、mixiで知らない人からメッセージとかマイミク申請がすごい来てた(笑)。

あつき 僕たち、やっぱり早すぎたのかな(笑)。今はいろんなところが振り向いてくれているから、胸を張って「パイオニアだ」って言えるんですけど。

ダンス界からの“削除申請”と葛藤

マロンさん

──今のお話を聞いていて、ダンスもオタク文化も、クラシックへの敬愛が強く新しいものを受け入れがたいという傾向は少しあると思いました。

あつき まさに。ストリートダンスって、オリジネーターやパイオニアの人たちのことをすごく大事にする文化なんですよね。

けいたん しかも、ちょうどダンス界が「歴史を大事にしよう」っていう流れが強まっている時だったんです。

あつき それまでのヒップホップのブレイクダンスの世界って、おもちゃ箱をひっくり返したレベルでぐちゃぐちゃだったんですよ。それを2008年か2009年にようやくちゃんとしたものにしようと、上の人たちが動き始めたんです。「ヒップホップとはこういうものだ」と整備していた最中に僕らが出てきたもんだから、“削除申請”されましたよね(笑)。

ドラゴン しかも、俺の場合、本来はその「ヒップホップの定義」を推し進めていくグループに所属してたんで、なおさら言われました。

けいたん ドラゴンはZulu Nationっていう、Rock Steady CrewとかRun D.M.C.とか、ヒップホップをつくった人たちの系譜に当たるダンスクルー「MIGHTY ZULU KINGZ」に所属してて。アメリカのヒップホップ文化を継承するグループの、当時日本人で3、4人しかいなかったうちの1人だから「何やってんの」って……そりゃ言われるよ!(笑)

ドラゴン 「ヒップホップの伝統的なことがやりたいのにお前がいるとブレてると思われる」と言われて。でもRABは楽しいし、昔からオタクであるのは事実だから。今ではMIGHTY ZULU KINGZのメンバーにも理解してもらっていますが、当時は自分の中で葛藤はありましたね。

ストリートが失った、ダンスで一番大事なこと

──皆さんは2015年からアニソンダンスバトルの全国大会「アキバ×ストリート」をプロデュースしていますよね。叩かれた時期も葛藤した時期も経て、オタクとストリートダンスを融合させた文化を自分たちでつくっていこうという意識の表れだったのでしょうか。
アニソンダンスバトル全国大会「AKIBA×STREET」 vol.01 Trailer
けいたん 「やったら面白そう」っていうスタートじゃなかった? 言い出したのはあつきでしょ。

あつき 昔、僕らの後輩たちが「AB-BOY PARK」っていうアキバカルチャーとダンスを融合したイベントを開催したんですよ。それを受け継ぐ形で僕個人でイベントをやっていたところ、すごく盛り上がり始めて。せっかくならRABプロデュースでアニソンダンスバトルの全国大会をやろう、ということになったんです。

──自分たちの居場所を広げるために?

ドラゴン それもありますし、下を育てるっていう目的もありましたね。下の世代にとって目指すところができたらいいなと。

あつき 僕らにはとにかく居場所がなかったので、下の子たちには(そういう思いをしてほしくない)、という思いもあるんです。

──では、アニソンダンスの人口はRAB結成時と比べて増えていますか?

あつき めっちゃ増えてますね。今、アニソンを使ってストリートダンスを踊る人たちのことをA-POPダンサーって言うんですけど、彼らは熱量がすごい。

ドラゴン 元々、ストリートダンスも、音楽が好き・踊ることが好きというのが前提だったんですけど、バトルが盛んになってくるうちに、勝ち負けを優先してしまったり評価を気にした上で踊ることが多くなってしまって。だから、音がかかったときの喜びが薄くなってるのがストリートのシーンの現状だなと思っていて。

反対に、アニソンダンスは、音がかかっただけでみんなのたうち回るくらい盛り上がったり、音に対しての意識が高い。さらに、ジャンルを越えたダンスのパフォーマンスや表現が生まれているので、元々ダンスで一番大事だったことが集約されてるのが今のアニソンダンスかなと、見ていてすごく感じますね。

──アニソンダンスはエンタテインメント性が高いのが特徴のひとつですよね。例えばアニメのストーリーも加味したような、ファンならではの解釈を入れています。

けいたん 外国人から見てもわかりやすいアニソンダンスはわかりやすいと思う。ダンスを見てアニメに興味を持つこともあるだろうし。

あつき アニソンダンスには興味を持つポイントが多いんですよね。曲でも作品でも踊りでも、どこかが引っかかれば見てくれる。ストリートダンスも素晴らしいものだけど、広く浸透しづらいと思うのは、勝ち負けの評価軸が専門的で、技術的なことを知らないと盛り上がりづらいからなんです。

──ストリートダンスは決まった型をいかに組み合わせるか、言わば「カードバトル」みたいな側面が強いですもんね。

あつき そうなんですよね。その点、アニソンダンスは自由だし、曲だけでワー!ってテンションが上がるし、ダンスを知らない人も声を出して応援できる。広まりやすさという意味で、ストリートダンスに足りないものがアニソンダンスにはあるのかなと感じてます。

マロン 普通のダンスイベントだと、オーディエンスはほとんど競技関係者ということも多いんですが、実際、アニソンダンスイベントには、ダンスをしていないお客さんがたくさん来るんですよ。そういった意味では一般の人も楽しめる可能性があるのかなと。

RABのテーマ「ジャンルになる」「生き様を見せる」

ムラトミ

──昨年、「ニコニコ動画」のプレミアム会員が初めて減少しましたが(外部リンク)、RABを広めた「踊ってみた」も縮小傾向にあると思います。それについてはどう感じますか?

あつき 確かに、「踊ってみた」は今勢いが落ちています。どんなジャンルにも衰退するときは絶対来ます。それでも、好きなことを本気でやり続けてる人たちに、いつか風向きはくると思うんです。叩かれた時期もあったけど、好きなことを全力でやっているから、まさに今ルーレットが僕らのほうに向いてるっていうだけ。

マロン ほかの方たちは「踊ってみた」というジャンルにとらわれているのかもしれませんね。僕らはある意味で、「RABというジャンル」をつくろうとした感がある。クオリティの高い「踊ってみた」とは真逆のことをやってるように見えますが、RABでしか見れないものがあるから評価していただいてるのだろうと。

──昨年末の「逃げ恥 恋ダンス踊ってみた」もRABならではの仕上がりですよね。ただ振りコピしただけではない。 けいたん かわいい女の子に完コピは任せちゃって、RABとして上げるなら見てくれる人を楽しませたり驚かせたりしたかったんです。だから、「これを踊ってください」って完コピの仕事依頼も来ますけど、全部断ってますね。

──恋ダンスブームだけでなく、学校体育でダンスが必修になったり、2018年のユースオリンピック種目にブレイクダンスが決定したりと、社会とダンスがつながっていく空気の中で、ダンスシーンは今後どうなると想像できますか?

あつき 自分の願望も入りますが、これからのダンスシーンはアンダーグラウンドとメジャーで枝分かれしていってもいいのかなと思います。アンダーグラウンドは、ストリートダンスの根源になっているから絶対なくしちゃいけない。ただ、それだけだと裾野が広がらないから、オリンピックのようにルールが定まっているメジャー競技としてのダンスがあってもいい。

けいたん そうだね。いつかその両方を繋げられるなにかが生まれると思うんだけど、なんか頭が硬いよね。

ドラゴン まあ、ダンス人口だけなら、これから絶対増えていきますから。

マロン 日本のキッズはすごいからね。ユースのレベルは世界で一番なんじゃないかってくらい。

ドラゴン だからこそ、上の世代は自分のエリアを固めすぎず、海外のように、もっと世代間でディスカッションする場所があればいいですよね。日本って自分のグループや仲の良い人たちだけで固まりがちだから……。

ムラトミ 僕はその人の生き様とか、「何か見えてくるもの」がダンスだと考えています。一人ひとりの個性や人柄がわかりやすいのも、アニソンダンスが流行っている理由だと思う。RABは「ダンスがわからない人に伝わる」ことを意識していますが、ひとりのダンサーとしても、さらに見せるのが大切だと信じてるんですよ。

中野サンプラザ無料ワンマンで“1期”が終わる

──そういったお考えや活動が、CAMPFIREの「一晩で350万円達成」につながっているように感じました。

けいたん 18時間で目標額(350万円)を達成して、初日で500万円超えましたからね。マジで知恵熱出ました。

──なぜワンマンライブを中野サンプラザで、無料で実現させたかったんでしょうか?

あつき 僕たちの夢は、RABの生き様がそのままアニメ化されることなんです。そのためには絶対的な知名度が必要なんです。日本武道館を埋められるほどのダンサーやアーティストになれば、誰かに興味持ってもらえて夢が叶うんじゃないかと思っていて。その足がかりとして今回の公演を決めました。

ただ、今まで500人くらいのワンマンの実績しかないし、動画で見てくれてる人も現場での僕たちの姿は知らないと思うんで、無料でいいから生のRABを一度見てくれ! と。コミケや書店で言うところのお試し本の発想ですね。

──それでクラウドファンディングで実現させよう、ということにしたんですね。

あつき 生で僕たちのパフォーマンスを見てもらえたら、好きにさせる自信もある

けいたん 今年は、どれだけ多くの人に生で見てもらうか。RABはその時期です。

あつき 今回のCAMPFIREの支援は、僕らへの期待値だと思います。これが成功した10周年の先には、RABは新しい見せ方をしていく必要があるかもしれない。この公演で、アニメでいうRABの1期が終わります。だからこそ、中野サンプラザで今まで培ったすべてのものをぶつけたいですね。
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アニソンダンスパフォーマー

レペゼン秋葉原のアニソンダンスパフォーマー「リアルアキバボーイズ」! 2006年結成以来、アニソンでダンスを踊り続けるやいなや、日本テレビ「スタードラフト会議」に度重なる出演をきっかけにブレイクしメジャーデューを果たす。 その後ニコニコ動画・YouTubeなどの動画投稿サイトに投稿した踊ってみた動画は軒並み数十万再生以上を連発。そんなアニメをこよなく愛する彼らの夢は「アニメになること」。アニメが好きで“アニメみたいな”人生を送りたい、自らがアニメになるために踊るオタクが目指す場所はただひとつ『日本武道館』。この夢を叶えるべく、日々挑戦し続けます。

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