『カゲプロ』作者じん ロングインタビュー 「大人を喜ばせてもしょうがない」

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小説に専念したことで、音楽のつくり方も見えてきた

──音楽にみなぎったメッセージを込めることを、今までは避けていたとおっしゃっていました。今回そこに踏み出したのは、どういう気持ちの変化があったんですか?

じん 今までは曲をつくる時も、ストーリーで自分の哲学を表現しようとしてきたんですよね。音楽と小説、両方の脳味噌を使っていた。その感覚はいまだに大事なもので。

それで、ある時期から小説を真剣に書こうと思って、いろんな作品に触れたり、いろんなことを試したり、いろんな人と話したりしながら、ストーリーを通して自分の哲学を伝えるということを学んでいった。

そうしたら、今度は逆に音楽のつくり方が見えてきたんです。ストーリーがなくても、伝えられるようになってきたというか。昔は10の言葉で説明してたものを2つの言葉で説明できるようになってきた気がするんです。

今まで避けていたのは、強いメッセージを入れるとストーリーが壊れちゃうって思ったからなんですよ。だけど、音楽でも、ストーリーがなくても哲学を伝えられるようになったから、今回の曲でそこを越えられた。だから小説書いてたことに感謝ですね。

──小説って、最初は編集者に「書いてみたら?」と提案されて書き始めたものですよね。

じん そうです。

──真剣に書こうという自分の中でのギアが入ったタイミングはそれよりも後だと思うんですが、どのあたりがターニングポイントになったんでしょう?

じん アニメが終わったくらいの頃ですね。アニメの放送があって、自分の中で、伝えたいことを伝える技術が不足していることをすごく反省しました。それで、自分の哲学を一番表現できる小説にもう一度専念しようと決めて、そのあと『カゲロウデイズ』の6巻を出したんです。そこで書けたキツい内容が、ファンの人にはちゃんとエグく響いてくれた気がするんです。こないだの7巻もすごくいい形で出せて、評判もよかったし「ああ、ようやく言いたいことが全部言えるようになったのかな」って感じられた。それで小説は見つけた気がしたんです。

ここ数年は、実はあまり音楽もつくろうと思っていなくて。だから時間もかかってしまったんですが、迷っている中で焼き増しみたいなものをつくるのは意味がないと思っていたので。

──小説に専念していた。

じん 小説の中で、もどかしい子供の感覚、「言えない」っていうことだったり、大人は誰も助けてくれないということだったり、子供の中にある人間としての最初の大事な哲学を、ストーリーの中にパッケージングできるようになってきたように思うんです。だから、音楽でやりたいことがストーリーではなく直情的なものになったんだと思います。

もちろん、ストーリーや情景のある音楽をやりたいというのは一生変わらないだろうし、決してストーリー音楽を捨てるわけじゃないんです。でも、それは起承転結のあるストーリーじゃなく、もっと強烈なシーンの連続みたいなものになっていってほしい。小説というものがあったおかげで、目の粗い表現と目の細かい表現という風に自分の中でわかれていったんです

2014年の反動が、自分に決意を固めさせた

──じんさんとしては、アニメが放映されていた時期(2014年)をどういう風に捉えているんでしょうか?

じん やっぱりカゲロウプロジェクトって、最初は自分が主導で始めたことです。誰にお金を出してもらってるわけでもなく、自分勝手にやってたことだったけど、それにいろんな人がリアクションしてくれた。レーベルや出版社の人も声をかけてくれた。で、ある時期に「そういう人たちの言うことを聞いた方がいいんだろうな」って思ったんです。大人は経験豊富だし、素人あがりのぺーぺーの僕なんかより正しいことを言うだろうって。でも、その通りにやっていたら、決して間違ってたわけじゃないんですけど、結果的には自分が望んだ形にならなかった

言われるがままいろんなことをやったんですけど、常に「これでいいのか?」とか「本当にこれか?」みたいな疑問があったんです。「みんながいいって言うならいいかも」と、判断基準を他人に委ねる瞬間を増やしてしまった。自分としてもふがいなかったです。結局、作品の責任を取るのは僕だし、だったら自分が決めてつくろう、と。

──そこで考え方が切り替わった。

じん そこからは、小説を書く、漫画の原作を書く、音楽をつくるっていうこの3つに関して、本当に自分にとって格好いい、泣ける、熱い、心を揺さぶるものをちゃんとつくろうと思ったんです。ある意味では最初に戻ったとも言えるんですけど、逆に、自分が大人になったから、周りの大人に判断を委ねる必要がなくなったのかもしれないです。もちろん今もいろんな人に協力してもらわないとどうしようもないんですけど、ただ自分の言うこと、やることには責任を持ちたいんです。自分が信じているものを伝えたい。

──「もっとできたのに」という思いがあって、そこからある種の自分の美学を取り戻すことになった。

じん 実際問題、ものをつくるにはお金がかかるんですよね。紙を刷るにもレコーディングするにも。だからお金を出す人の意見を聞かなくちゃいけないと思ったんですけど、それは逆に一番失礼な話だった。だから自分でレーベルをつくったり、GOUACHEとは違う自分のバンドをつくったりもしました。

──「大人を喜ばせてもしょうがない」と言っていましたが、自分でレーベルを立ち上げてバンドもやるという意味は、いわばお金を出してもらうために大人を喜ばせなくてもいいような道を模索している、ということでもあるんでしょうか?

じん 究極的にはそうですけど、大人を喜ばせるものになってもしょうがないなって思うのは、ただ単純に僕の好みの話なんですけどね。子供が喜ぶものの方が自分は正しさを持ってる気がする。だって、大人が褒めるロックってカッコ悪く思ってしまうんです。 究極、子供が熱狂するものがロックじゃないかって思うんですよ。だから、今回の「RED」も子供に向けたつくり方なんです。

振り返るのではなく、“渦中にいる”感覚でい続けるためのBPM

「RED」ジャケット

──今回の「RED」という曲は、まず端的に、テンポが非常に早いですよね。

じん そうですね。BPM200以下はバラードだと思ってるので。

──あはは(笑)。

じん そんなことないんですけどね(笑)。僕自身はテンポが低い曲もめちゃめちゃ好きなんですよ。昔からシュガー・ベイブとか荒井由実も大好きだし。

でも、この曲は最初のデモ段階ではBPM215だったんですけど、メンバーに「冗談だろ?」ってリアクションをいただいたりしながら、結果的にBPM209になりました。これは曲自体をフラッシュバック的な作品にしたかったっていうのがあって。BPMが早くなればなるほど、酩酊感が感じられると思うんです。幼少期のめまぐるしさ、見たものすべてが初めてだった夏休みの感覚に近い、というか。

──なるほど。このテンポにちゃんと意味があるということなんですね。同じように少年時代の夏休みを書いた曲でも、その描き方がノスタルジックだったらテンポが遅くなる。

じん 井上陽水さんの「少年時代」みたいな感じですよね。

──そうそう。そうじゃなくて“渦中にいる”っていうことを表現するには、あの「少年時代」のテンポ感だと足りないわけですね。

じん まさにそうです。学校が終わってカバンを置いてすぐに家をでないと時間がない。毎日があっという間に時間が過ぎてしまう、アトラクションみたいな感覚なんですね。この曲って、自分の子供の頃の話をしてるようなもので。北海道の田舎の風景を思い浮かべながら書いているんです。だから僕にとってはノスタルジックでもある。そういう意味では、大人にも伝わるものになってほしいなという気持ちも実はあるんですけどね。

──ただ、僕としては、この少年時代の感覚を「渦中のもの」として表現できるのが、じんさんの作家性だし才能だと思うんです。これから夏が始まる14歳の視点を自分の中に持ち続けている。

じん そうですね。でも、この曲に関して言えば、もう8歳くらいの感覚です。中二というより小二感で書きました(笑)。

──なるほど。確かに小学生くらいの感覚かも。

じん この曲のレコーディングのときに、タイトルとか曲構成を書いてある紙に「8歳」ってデカデカと書いてもらったんですよ(笑)。

──あはは(笑)。

じん メイリアさんにも「これ8歳の曲なので」って言ったら「8歳!? わかりました!」って言われて(笑)。だからきっとあの人なりの8歳の歌になってるんじゃないかなと思います。

夕焼けとか田舎の山を思い浮かべて書いた曲だとしても、もしそこに自分がいたとしたら、井上陽水の「少年時代」とか久石譲の「Summer」的な懐かしいという感覚じゃない。もっとドキドキするもの、騒々しいもので埋め尽くされてると思うんです。だって、初めて見るものや感じるものって、めちゃくちゃな鋭さで、ものすごい情報量で自分の中に入ってくるじゃないですか。それがこのBPM209の世界で、サビ終わりにギターのグッシー(グシミヤギ)さんが弾いてくれたファズギターもそういう感覚なんですよね。

──この曲、MVもとても興味深いものでした。A4Aの東市(篤憲)さんによるMVと一緒に曲を聴くと、音楽だけで聴くのとは聴こえ方が違った。

じん ああ、それは僕も思いました。でも、申し訳ないんですが、あれはもともと僕が主導じゃなくて、マッシュアップムービーとして、おまかせでつくってもらった作品なんです。だから、ぶっちゃけた話、そこには自分の哲学もないと思ってます。

──確かにそうですよね。この「RED」っていう曲は、じんさんの今の表現だけど、映像に使われている素材は過去の表現である。

じん そうそう。だから僕のイメージやモチベーションとは距離感があった。でも、ニコニコ動画で観てみると、「ここまで歩いてきて、この遍歴があったからこの曲がこうなったんだ」みたいな、これまでを振り返る感覚はありました。

──あのビジュアルのテンポ感、歌詞のカットアップもすごく気持ちよかったです。とてもパーカッション的な動画というか。

じん それ、すごくわかります。あの曲のスピード感に文字がついてくる、みたいな。

──凄腕のプレイヤーが打楽器を演奏しているような感覚を、文字が視覚化している。

じん あの音に合わせて飛び込んでくる色も含めて、無理やり口に詰め込まれているぐらいのスピードで文字が飛び込んでくる。それに慣れてきたら、おもしろい感覚が生まれるんですよね。わかりにくい喩えですけど、『モンスターハンター』で難しいモンスターと戦ってるときみたいな。「避けれる! 次の動きがわかる!」みたいな(笑)。

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