連載 | #2 校閲ボーイが観た『地味にスゴイ!校閲ガール』レビュー

校閲ボーイから観た『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』1話 タイトル改変に秘められた意図

校閲ボーイから観た『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』1話 タイトル改変に秘められた意図
校閲ボーイから観た『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』1話 タイトル改変に秘められた意図

画像出典:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)

2016年10月5日(水)、日本テレビ系にてスタートした連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』。

話題作への出演が続く女優・石原さとみが、ドラマの題材としてはなじみの薄い「校閲者」を演じることでも話題の本作。5日に放送された第1話では「校閲者の仕事」の紹介もそこそこに、主人公・河野悦子がその破天荒ぶりを発揮した。

本記事では実際に新米校閲者として働く筆者が、実際の業務内容の紹介や現場の実情、業界に対する愚痴を交えつつ、ドラマの見どころをレビューする。 文:結城紫雄

「景凡社」は超・大手出版社!?

ファッション大好き河野悦子(石原さとみ)は、愛読書である女性誌『Lassy』を刊行する「景凡社」に念願叶って入社する。しかし配属されたのは編集部ではなく、超地味な「校閲部」。悦子は校閲部で実績を残し、憧れのLassy編集部へ異動するため、慣れない「校閲」の仕事に邁進する──。

以上が、5日に放送された第1話のあらすじです。悦子が無事景凡社へ採用されたところから物語がサラッと始まりましたが、少し立ち止まって見てみましょう。

劇中では校閲の基礎知識も解説。「語句の統一」は実際の業務でも行なっている(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)

景凡社は『Lassy』をはじめ複数の雑誌を発行しており、年間100万部を売り上げる大御所作家・本郷大作(鹿賀丈史)の作品も出していることから、大手の「総合出版社」(マンガや雑誌、小説、学術書など書籍全般を幅広く扱う出版社)であることはほぼ間違いありません。

加えて自社で「校閲部」を持っており(多くの出版社は、外部の校閲事務所に校閲を委託しています)、受付には担当のスタッフ(足立梨花)がスタンバイしています。しかも森尾(本田翼)の名刺に記された本社所在地は、実在する東京の一等地である「千代田区富士見町」。以上のことから、いわゆる“御三家(集英社・小学館・講談社)”クラスの超・大手出版社であると推測されます。

いくら7年面接を受け続けていたとはいえ、この難関を未経験者が中途採用でくぐり抜けるのは至難の業(というかほぼ不可能)。入社パートだけで1クール使っても足りないと思うのですが、一発逆転採用の決め手となったのは悦子の「観察眼」でした。

河野悦子はなぜ校閲者になったのか

悦子は景凡社の入社試験面接で、校閲部部長・茸原(岸谷五朗)のタイピンに違和感を覚えます。それもそのはず、それはタイピンではなく「ピアス」だったから。ファッションフリークである彼女はその違和感を看過できず、自ら服飾店に足を運び、それがピアスであることを確かめるのです。

小説内の家屋を模型で再現し、表現の齟齬がないか確認する校閲部・米岡(和田正人)(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)

「校閲とは、文字ひとつから疑ってかからなければならない仕事です。ひとたび疑問に思ったとしたら、たとえ第三者が正しいと言ったとしても、自分の目で確認しなければならない。彼女はそれを地で行く人だったんですよ」『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』1話 茸原の台詞より

後に茸原は、悦子を校閲部社員として採用した経緯をこう明かします。彼の判断は正しく、校閲中に疑問点(小説内に出てくる建物名が実際のものと異なるなど)が見つかれば「小説の舞台となった土地まで足を運んで」、自らの足で内容に齟齬がないか検証する悦子。

この現場検証はドラマならではの脚色と思われますが、「なにげない描写も逃さず事実確認をする」という心構えは、新米校閲者である筆者も見習いたい点です。ちなみに筆者は同じような状況では「Google ストリートビュー」を使用しています。便利な時代になったものですね。

地味にスゴイ!に込められた意味

ひょんなことからエロミス作家・本郷大作の校閲を担当することになった悦子は、小説内の女子高生の台詞(チョベリグ)を「言葉遣いが古い」と一刀両断。エンピツ出し(誤りとはいえないが、判断を仰ぎたい事項の提示)をしてゲラを返してしまいます。

あくまで悦子の破天荒ぶりを示す演出だが、実際に「ありえない」と書くと大問題になると思われる(画像出典:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>) 

「大御所作家になんてことを!」と慌てる担当編集(青木崇高)でしたが、本郷は悦子のセンスと度胸に感心。悦子に「おにうま」「やばうま」「地味にうまい」(いずれも劇中では、死語とされる「チョーおいしい」の現代的表現として紹介されている)といった「若者言葉」を教わります。

そして紆余曲折を経て刷り上がった単行本では、「チョベリグ!」が「地味にうまい!」と修正されていたのでした。

画像出典:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)

放送開始前から、SNS上などで否定的な意見が多かった「地味にスゴイ!」というメインタイトル(原作のタイトルは『校閲ガール』のみ)。前回の記事でも少し触れましたが、「本来の『地味である』とはまったく異なる意味として使われている」ということが、第1話では時間をかけ丁寧に明示されています。

加えて、それを「前時代の大作家」である本郷から、「若手新米校閲者」である悦子に向けて言わせることで、「時代とともに日本語は変化する」ということをも印象づけたといえるでしょう。

一見キャッチーさを優先させたように見えるタイトル改変。その裏には意外と深い意味があったということが、第1話にして明かされるのです。

画像出典:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)

単純なお仕事ドラマに終始せず、河野悦子の「破天荒」をトリガーにして、日本語の「今」にまでフォーカスを当てていく本作。次回では悦子がどんな事態を引き起こすのか注目です。

本記事では『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』オンエア開始以降、全話にわたってレビュー記事をお届け予定です。本作は毎週水曜22時より、日本テレビ系列にて放送中。

今週の校正ギア!

筆箱「スタッキングできるランチボックス・黒・S」(良品計画 / 販売終了) 筆箱代わりに使用している、無印良品のお弁当箱。同ブランドのおかず用シリコンカップを併用することにより、なくしやすい小物の整理も楽ちん。

「なぜお弁当箱を筆箱に?」と思われるかもしれませんが、水洗い可能でフタを一時的にトレイとして使える上、誤って落としても大きな音がしない、ヒンジに相当するパーツがないため壊れにくいなど、意外にも校閲者向きの筆箱です(現在は販売終了)。
※原作タイトルを追記しました
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放送情報

地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子

放送開始
2016年10月5日(水)22時〜
放送
日本テレビ系列
原作
宮木あや子「校閲ガール」シリーズ(KADOKAWA・角川文庫刊)
脚本
中谷まゆみ/川﨑いづみ
音楽
大間々昂
チーフプロデューサー
西憲彦
プロデューサー
小田玲奈/森雅弘/岡田和則(光和インターナショナル)
演出
佐藤東弥/小室直子 ほか
制作協力
光和インターナショナル
製作著作
日本テレビ

【キャスト】
河野悦子:石原さとみ 折原幸人:菅田将暉 森尾登代子:本田翼 米岡光男:和田正人 藤岩りおん:江口のりこ 尾田大将:田口浩正 今井セシル:足立梨花 波多野 望:伊勢佳世 佐藤百合:曽田茉莉江 青木祥平:松川尚瑠輝 正宗信喜:杉野遥亮 東山:ミスターちん 西田:長江英和 北川:店長松本 坂下梢:麻生かほ里 目黒真一郎:高橋修 本郷大作:鹿賀丈史(特別出演) 亀井さやか:芳本美代子 貝塚八郎:青木崇高 茸原渚音:岸谷五朗

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校閲ボーイが観た『地味にスゴイ!校閲ガール』レビュー

2016年10月5日、日本テレビ系にてスタートした連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』。 話題作への出演が続く女優・石原さとみが、ドラマの題材としてはなじみの薄い「校閲者」を演じることでも話題の本作を、現役の校閲ボーイが校閲者視点から全話レビュー! 『校閲者は小説という「現場」を調査し、証言や状況(≒キャラクターの言動や行動)に整合性がとれているかどうか、徹底的に証拠を洗い出して(≒事実確認を行なって)精査する「鑑識官」みたいなもの』だと語る筆者が、タイトル改変に秘められた意図から作品のテーマまで、校閲者ならではの視点から読み解く。

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