戦う女の子は美しい　ミュージカル「セーラームーン」が起こすミラクルなロマンス

小さいころに『セーラームーン』に出会っていなかったら、どんな風に育っていたんだろう。『セラミュー』を見て何度も思った。私はこれで育ってきたってことを。

それくらい、血と肉になっていることを思い知らされる。戦う女の子は、かっこいいのだ。

1992年に連載が始まった武内直子さんによる漫画『美少女戦士セーラームーン』。この名前を聞いて何も思い浮かばない人はきっといないはず──と思える“国民的”と言っていい作品ですが、簡単におさらいしておきます。

中学2年生の月野うさぎが不思議な力で愛と正義のセーラー服美少女戦士・セーラームーンに変身し、仲間たちとともに地球の平和を守る戦いに身を投じていくお話。

セーラームーンはもちろん、マーキュリー、マーズ、ジュピター、ヴィーナス。星の守護を受けた戦士たちは、それぞれ個性的でかわいい。

私含む当時の女児の中心にあったTVアニメはまさに『美少女戦士セーラームーン』で、誰が一番好きかを熱く語って、セーラームーンごっこに明け暮れていた。どんなにコスチュームが、グッズがほしかったことか……。

漫画やアニメの開始から20年以上経つ今も、新作グッズやメディア展開が続々となされている凄いコンテンツです。

ミュージカルはアニメ放映中の1993年にスタートし、2005年に休演。そして2013年夏、男性役も含め、すべて女性でキャスティングした新『セラミュー』が8年ぶりに再開したのでした。 毎年新しい演目を重ね、2015年の第3章ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」-Un Nouveau Voyage-では、ファンの人気も高い外部太陽系戦士ウラヌス、ネプチューン、サターンの3人が初登場。そして、メインキャスト5人の卒業公演でもありました。

text by 松田サツキ

ミュージカルが記憶を掘りおこす

あらすじは、ごくごくシンプルで、1行でまとめると「地球の危機を愛の戦士が力を合わせて救う」です。以上。1行ですらなかった。

ミュージカルの『美少女戦士セーラームーン』は、原作やアニメの内容を忘れていてもまったく問題なく楽しめると思います。そして見終わった時には、テレビにかじりついていたあの頃の記憶が掘り返される。

「ウラヌス様かっこいい！」「マーキュリーになりたい！」「月にかわっておしおきよ！って叫びたい！」

……逆に言うと、『セーラームーン』の世界に入門するための親切さが、そこまであるわけではありません。その分、何かしらの個人的な体験や思い出と重ね合わさることでいろんな感情があふれだす2時間半になる、そういう舞台。

はっきり言って「歌もダンスもハイクオリティです、それだけで見るべき！」というタイプの演目ではないし、セットやギミックもシンプルだし、ある意味見る人を選ぶ。

それはつまり、この世界の参加者であることに一緒にドキドキできるかってことだ。セーラー戦士がそこにいる確からしさに、リアリティを感じられるかどうかってことだ。 幼稚園の時、セーラーマーキュリーが好きすぎて、どうしても真似したくて少しでも近づきたくて、母にわがままを言って朝ごはんに1人だけクロワッサンを食べたり、意味なくお風呂に本を持ち込んで読んだりしていた。

今でも髪をポニーテールに結わえた日は、「今日はジュピターだ」って一瞬思っちゃうのは自分だけじゃないって信じてる。

そういう、『セーラームーン』を好きでいたあの頃と、それからの人生をまるっと肯定してもらえた気がした。

繰り返して言うけど、『セーラームーン』が教えてくれたのは「戦う女の子は美しい」ってことだ。運命に負けないこと、困難から目を逸らさないこと、今の頑張りはちゃんと未来につながること。明日も背筋を伸ばして生きていく元気が出る。

ミュージカルの「ここにある、ここにいる」説得力には、『セーラームーン』に夢中になっていたことがある人は、絶対何か思うところがある。

ホンモノの「月野うさぎ」がここにいる

2013年の新キャスト版から毎年見てきたけど、今回が一番よかった。ダンスも歌も演技も、明らかにうまくなっていてびっくりする！！　全然違う！！　女の子たちすごい！！！

とにかく、セーラームーン／月野うさぎ役・大久保聡美さんの説得力が凄まじい。「月野うさぎ」である確からしさ！　としか言えない！　

2013年、最初にステージで見た時にあまりのハマりっぷりに驚いたのを何度でも鮮明に思い出す。

当時のプロデューサーがTwitterで「オーディションで大久保聡美さん17歳を見つけた時、やった、と思った」「聡美さんの月野うさぎは全くうさぎ」と言っていたけど、1度見ればその意味がわかる。

甘ったるくて間延びした声、ふにゃふにゃした仕草の「うさこ」っぷりと、『セーラームーン』としての気高くて凛とした立ち姿、強い光のある目のギャップにしびれる。

大久保さんの月野うさぎの愛らしさを、『セーラームーン』が発するエネルギーを見られるだけで価値があるし、泣いちゃう。だって私たちが信じた美少女戦士が今ここに存在しているんだもん。 5戦士は並んだ時のバランスがとってもそれらしくてそれだけでぐっとくる。

水野亜美ちゃん（小山百代さん）の「もう～！」とうさぎを諌める表情にときめくし、マーキュリーになった時はラブリーさ120％でかわいい。火野レイちゃん（七木奏音さん）はスラッとしたスタイルと涼やかな目元が本当にレイちゃん！　揺れるロングヘアにドキドキする。

木野まことさん（高橋ユウさん）は長身が舞台に映える、ボーイッシュな振る舞いとふにゃっとした笑顔のキュートな女の子っぽさがどっちもあって大好き。愛野美奈子ちゃん（坂田しおりさん）はいつも星が飛んでるようなキラキラアイドルっぷりできゅんきゅんする。ヴィーナスかわいいよ！

今回登場したウラヌスとネプチューン。人気のあるキャラだから期待も高かっただろうけれど、そのハードルをぐんと超えて素晴らしかった。待ったかいがあった……。 セーラーウラヌス／天王はるか役・汐月しゅうさん、セーラーネプチューン／海王みちる役・藤岡沙也香さん。ともに宝塚歌劇団の出身なんですが、いやほんと、美しいです……。5戦士と違う次元に立っている感じがよく出てる。強そう。

汐月さんは何も説明する必要がないくらい、言葉を尽くして何かを表すのが野暮なくらい、めちゃくちゃかっこよくて息が止まる。流し目が超色っぽい。今回の劇中では、うさぎたちが体験入学で赴く無限学園の大人気アイドル（ステージにも立ってる）という設定なのですが、そりゃアイドルにもなるわ！　追っかけたいよ！　

藤岡さんは華やかでかわいらしいのにどこかミステリアスできゅんきゅんくる。バレエダンスがきれい。宝塚娘役イズムの品のよさ、大好きです。自分より背の高いはるかに寄り添って見つめる上目遣いがかわいいね。はるみち～～！ セーラーサターン／土萠ほたるちゃん（高橋果鈴さん）は、アイドル・Prizmmy☆の子なんですね。とろんとした笑顔から、サターンに覚醒してから一気に目が冷たくなるのにぞくぞくする。セーラープルート／冥王せつな役（石井美絵子さん）は歌がかっこいい。そして衣装が超かわいい。茶色のリボンがエレガントで素敵。時空の杖「ガーネット・ロッド」の鍵型フォルムが好きすぎる。 そして、タキシード仮面様の大和悠河さん。もう「職業：タキシード仮面」でいいんじゃないか……ってくらいの完璧さ。マントの裾のひるがえし方だけで鳥肌が立つ。宝塚すごい。薔薇にキスをして投げるとかさ……。かっこいいのに美しくてきれいで、この人がステージにいるだけで空気が明らかに華やぐ。

『セーラームーン』が起こすミラクルなロマンス！

2幕はなんだかずっとボロボロ泣いていた。お話がよかったとか演技に感動したとか理由ある涙じゃなくて、ただただ『セーラームーン』という概念がここに存在していることに泣く。

セーラームーンの口から「みんながいれば、私はどこまでだって強くなれる！」というシンプルすぎるセリフがまっすぐ飛んで来ることに胸を突かれる。

客席の私たちだけじゃなくて、舞台の上の彼女たちにとっても役者として歩み出すずっと前から、人生の中に『セーラームーン』がある。たくさん憧れて、本気で応援して、勇気づけられて、そういう甘い思い出のすべてをステージの上も下も同じように共有していることに泣ける。

そして客席に海外から来た人が多かったのも感動した。

コスプレしたり、グッズを持ったり、国旗をペイントしたり、思い思いの愛の示し方でキラキラした目で舞台を見つめている。きっと美少女戦士に会うために日本に来た人たちもいるんだろう。

ああそうか、「私たち」ってもっと広いんだ。

私が想像してる外側があったんだ。同じように愛して、真似して、ときめいてる人たちがいっぱいいるんだ。「同じ地球（くに）に生まれたの　ミラクルロマンス」って歌詞が20年経った今、改めて何度でも胸に迫る。そうだそうだ、なんてミラクルなロマンス！ かっこいい女の子はいつだって最高だ。

自分が糧にしてきたものをこうやって何度でも繰り返し大事にできるんだから、歳を取るって案外悪くない。

あの頃と同じようにまた勇気づけられているのが不思議だし、奇跡的だって思う。私たちのヒロインが時間も次元も超えて、今ここにこうやって存在する。それはきっと過去と現在と未来をつなぐ、新しいミラクルロマンスなんだね。
美少女戦士セーラームーン20周年プロジェクト公式サイト