ウッコモンの演技の方向性を決定づけたシーン
緒方恵美 ルイとウッコモンのやりとりを含めて、もちろんどれも印象的なシーンではあるんですが、ちょっと違う系統のものだと、ウッコモンがハッピーバースデーを歌うシーンですね。
あんなにゆっくり歌うハッピーバースデーは今まで聞いたことがなくて、ものすごく印象に残ってます(笑)。
釘宮理恵 あそこはすごく大変でした。
緒方恵美 釘宮さんは最初からゆっくり歌ってたんですけど、もっとゆっくりって言われて、もうどこで呼吸をすればいいのかわからないくらい長くなっていいって。最終的には私も隣で拳を握りしめながら見守っていました。
収録でもハッピーバースデーを歌うことはたまにありますけど、あんなに長くて大変そうなのは聞いたことがなかったので、もう印象的以外の何物でもなかったですね。
釘宮理恵 私も色々なシーンが印象に残っていますが、最初、ベランダでルイと会話するシーンは特別に思えます。
あえて演技プランは持たずに現場に入ったので、あの会話を通じて、ルイを幸せにしたい、尽くしたい、助けてあげたい、友達になりたいというウッコモンの気持ちが見えてきて、その後の方向性を決める大切なシーンになりました。
全体を通してもかなり印象的なシーンになっていると思います。
緒方恵美と釘宮理恵、共演で感じた互いの役者魂
──お互いに、声優として長きにわたり活躍を続けられていますが、今回のようなパートナー役としてのしっかりとした共演は、意外と珍しかったのではないかと思います。緒方恵美 共演が全くないわけじゃないんですけど、ニアミスだったり、一緒にいるにしても一瞬だったりしたんです。
釘宮理恵 ここまでご一緒させていただいた現場はないですよね。
緒方恵美 私がだいぶニッチな声優ですから……。ほとんどアニメしかやってないし、アニメの中でも、みんなが出ているような萌え系とか日常系とかにほぼ出ていないし。
釘宮理恵 確かに日常系のアニメに緒方さんがいらしたら驚いてしまうかもしれないですが、そう考えると共演してきた現場が少なかったのかなと思います。 ──そういう意味では、かなり歴史的な共演の機会だかこそ、相手に対して改めて気づいたこと、感じたこともあったのではないでしょうか?
緒方恵美 釘宮さんのことはもちろんよく知っていたんですが、今回改めて彼女はすごいピュアな表現を積んできた人だなって感じました。
声優もやっぱりみんな年をとるので、若い頃にピュアな役ができても、実生活でいろんな経験値を積んでいくとかつてのピュアさを残すのが難しくなってきがち。
声質をそれっぽくすることはできます。でも、声質ではなくて中に宿っている魂がちゃんとピュアなまま年齢を重ねていくのは本当に難しい。だって普通に生活していたら、周りからは普通の大人として見られるわけですから、いろんなことを社会人としてきちんとしなくちゃいけない場面もありますよね。
そうやって気を配っていると、だんだんピュアさも削れていくわけですよ。そういう中で、ピュアさをキープしながらしっかり経験値も付加できる人っていうのはすごく少数なんです。 ──緒方さんから見て、釘宮さんは稀有な存在の声優であると。
緒方恵美 誤解しないでほしいのは、ピュアさがなくなっていくのが悪いことではないんです。だからこそ違う芝居ができるようになったりするわけですから。
でも我々声優の場合、昔演じた役を20年後に再度やることもあれば、歳を重ねても子供を演じることもある。実写だったら子役さんに演じてもらえば子どものピュアさを表現できますけど、我々はそういうわけにはいかない。
だからピュアさをキープする必要が“なくはない”業界なんですよね。そしてそのピュアさをキープできている人が少ない中で、釘宮さんはその数少ない稀有な人なんだってことを改めて痛感しました。
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