いま、彼のことを「日本で最もクラウドファンディングを活用している写真家」と呼んでも過言ではないだろう。福島裕二さん、47歳。
2017年7月にはクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」にて、セクシー女優・戸田真琴さんとの写真集制作プロジェクトを立ち上げ、目標金額の216%である541万円の支援を達成。それらを含む3つのプロジェクト全てで、目標値を大幅に超える結果を残した。
そして、次なるプロジェクトとして、グラビアモデルの浜田翔子さんとの「デビュー15周年記念! 写真集制作プロジェクト」が発足。その募集ページの文章を読んで、驚いた。“グラビア界のレジェンド”とも評され、業界の最前線でファンの心をつかんできた浜田翔子さんが「ずっと自信がなかった私を変えさせてくれる撮影だった」と綴っていたからだ。 さらに「福島さんの作品はストレート現像の、ほぼ修正なし」なのだという。レタッチを用いずにモデルを撮り続ける彼の現場は、何がちがうのか。クラウドファンディングと写真を取り巻く現在地を、どう見ているのか。それを体験した浜田翔子さんへお話を伺う前に、まずは福島さんの歩みから聞いてみることにした。
僕も戸田真琴さんとの写真展で、彼の作品に釘付けになったひとりだ。その写真が宿す感動の理由を、純粋に、知りたかった。
取材・文・編集:長谷川賢人 写真:稲垣謙一(インタビュー)、福島裕二(モデル)
──以前に写真展を拝見して心惹かれたのもありますが、ここまで言われる写真家は何が違うんだ?!と。まずは福島さんのことを聞かせてください。あれ以来、福島さんのTwitterやInstagramもフォローして、日々写真を見ては、ときめいているんです。
福島 でも、僕の写真って「いいね」が全然つかないんですよ。SNSで見ても、何だかわからないみたい(笑)。それで最近、モデルの女の子に「僕の写真はバズらないんだよね」みたいに言ったら、怒られたんです。
──え? 怒られちゃうんですか。
福島 「本気でバズるつもりじゃないのに、そんなことを言うのはやめたほうがいいし、私は福島さんにバズってほしくない」って。
──そういう怒られ方!
福島 「何で?」と返したら、「バズる=流行るだと思うけど、福島さんの写真は『根底を写すもの』じゃないですか。私だって、そんな挨拶するみたいに『いいね』できませんから」と。
──瞬間的に「きれい!」と感じてハートをタップ……みたいな良さじゃないと。
福島 まぁ、たしかに僕はそれでもいいんです。先日撮影したモデルからは「毎晩、福島さんが撮った写真を全部見返して眠っています」とメッセージをもらったんですが、その言葉でも伝わるものがありますよね。僕はそう思えるほどの彼女を撮れたことで作品は完結しているわけだし、SNSでの評価を求めてもいないから、言われてみるとバズる必要はないなぁ、と。
──ただ、デジタルな鑑賞環境が整って、Instagramといった写真特化のSNSもあるなかで、その評価を求めないことに僕は恐れも感じます。
福島 SNSと写真について、まず僕が思っていることから話しましょうか。SNSが表れて以降に感じるのは、そこに流れているのが「画像」であって写真ではないのだろうということです。
──写真ではない?
福島 そうです。テレビの映像も、ネコのイラストも含めて、全部が画像なんです。ドラマを想起するような「写真」ではないから、文字通りに流れていってしまう。
でも、僕が送るものは「写真」にしたいし、僕はそんな「写真」を見てもらいたい。たとえ、そう考えるのが僕ひとりであろうと、それを啓蒙していかないと写真は画像になり続けてしまうから。 福島 写真は「心の震え」を生みます。僕の写真展に来てくれた人は、それを知る機会に触れてくれているんだと思っています。僕としても「写真とは何か」を知る入り口になると信じていますしね。
先日開催した浜田翔子ちゃんの写真展には、5日間で1000人以上が訪れてくれたけれど、少なくとも半分の人は感じてくれたんじゃないでしょうか。写真を知らない人でも、アマチュアカメラマンでも、僕のアンチでも、何でもいいんです。その「心の震え」を感じてくれさえすれば。
福島 若い頃の僕はちゃらんぽらんで、あるときは「水道って最後に止まるんだ」と知るくらいにお金が一銭もなくなったり(笑)。コンビニの店員さんと仲良くなり、廃棄のお弁当をもらったりしてたんだけど、いよいよ「やばい」と思って。
僕にはカメラマンの兄貴がいたから、ひとまず居候させてもらうことにしたんです。「おまえ、何が出来る?」と言われ、「人に声をかけられる」って答えたら、撮影モデルのスカウトをやることになりまました。スカウトするにも業界のことを覚えなきゃいけないということで、兄貴と仲の良かった上野勇さんに付くことになった。それが僕の師匠です。
だから、「写真が好き」というより「カメラマンってカッコいい!」から、僕のキャリアは始まっているんです。始めたときは、カメラの使い方すら知りませんでしたから。アマチュア時代がなく、いきなりプロカメラマンのアシスタントに付いて、独立するまで4年半かけて写真を覚えていきました。アシスタント時代を含めれば、もう27年ぐらいプロの現場で写真に携わってきたことになります。
──作品の前提に、現場で培った技術力があるのですね。
福島 当時つけていた「アシスタントノート」を、僕のスタッフに見せると「吐きそう」って言いますよ(笑)。フィルムの時代だから、シーンごとに色温度や露出量、撮影時間などを全てメモしてあるんです。それを撮影している師匠のペースに合わせて書き留めていました。
いまは撮影時の設定が記録されるし、その場で写真も確認できるから、ずいぶん楽になったと思いますね。そんなふうにアシスタントを経て、プロカメラマンであることのプライドを胸に、20年近く現場に立ってきました。ただ、プロでもいろんなスタンスの人がいます。
僕はモデルと深く向き合って撮影してきたのですが、現場でもよく言われたんですよ。「そんなに毎回、100点を目指してどうすんだよ?」みたいに。
──良い言い方ではないですが「仕事だから割り切れよ」と。
福島 そうですね。たとえば、撮影時間が60分あって、10分で終わっちゃえるような撮影だとしたら、真っ当に60分をかける必要はないともいえるわけです。やっぱり業界によっては、時間をかけずに終えるほど喜ばれることもありますから。
ただ、僕はそうできなかった。実際になくなった仕事もありますし、うまくいかないことも、いっぱいあった。でも、ある時に自分の写真を振り返ってみて思ったんです。写真を撮ることが記録なのだとしたら、記憶に残らない写真は記録にもならないのかもしれない、と。それで、5年ぐらい前から作品も撮るようになりました。
福島 僕がシャッターを切るのは感動したときです。だから、僕はレタッチをほぼしません。レタッチするほどに記憶との差異が生まれていくようで、作業をするほど気持ち悪くなってしまう。「あれ、こんなことに感動してシャッター切ったかな?」って。
相手の表情や光の入り具合が重なった「シャッターを切った瞬間の感動」が、レタッチで後からウソになっていくようで……それが嫌なんです。とはいえ、ノーレタッチにこだわっているのではなくて、記憶にあるものが崩れてしまうことに違和感を覚えるわけです。
僕もAdobe Lightroomを通してRAW現像はしますけれど、サイズを変えたり、コントラストをカットしたりする微調整だけですね。1枚30秒くらいで終わります。
──早い……!
福島 あとは単純に、レタッチが面倒なのもありますよ(笑)。
──ただ、世の中の写真は、どこかレタッチや加工偏重になっているふうも感じます。
福島 それは全然いいんじゃないですか?
フィルムの時代から加工技術はあったし、僕が大切にしているのは自分の精神衛生だけですから。ただ、僕が「なぜレタッチしないんですか?」と聞かれた時には、「加工して良くなるイメージが見えているのだったら、撮る段階で調整すればいいのではないでしょうか?」と答えます。
僕はアンチ加工というわけではありません。そもそもファッションやファインアートであれば加工を前提に撮影が行われているし、素材としてのモデルもそこにいる。でも、僕はそういう撮り方をしていないだけです。
僕が撮りたいのは、モデルをしてくれた彼女が30年後に写真を見たとき、「これは福島裕二が撮った写真で、当時のそのままの私だ」って感じられるようなものです。僕はそれでいいと思っているから、今の彼女の最大限を一生懸命に撮る。
僕は写真展で大きなサイズの展示をよくします。もちろん、モデルには理解をしてもらった上ですが、実物よりも大きく見えることに恥ずかしさを覚えるだろうし、本人にしたら絶対不可侵な部分もある。ただ、それをお互いが許容できる関係で表現するなら、僕は「写真」にとっても彼女にとっても有益なのだろうと思っています。
たとえば、おばあちゃんの笑顔が素敵で、心がぎゅーってなる写真があったら、そのシワを取って20年前に戻すようなレタッチをしますか?(笑)
──しないです。そのままがいいわけですからね。
福島 そういう思いで人と向き合ってシャッターを切らなかったら、彼女は20歳のときの写真だけがあればいいじゃないですか。それに、派手さやキレイさにばかり目がいくと、やっぱり記憶には残っていかないと思っているんです。
浜田 珍しすぎます(笑)。これまでカメラマンさんと、こんなに現場を含めてお話をしたことはないですね。
グラビアは撮影時間も短いから、着替えて撮っての繰り返し。でも、福島さんの現場はゆっくりしていて、1日で2シーンも撮ったら終わり、みたいな。グラビアでなくて、作品撮りというのも大きいと思いますけれど……。
「私、撮影なのに、呼吸をちゃんとしてるな」って。
──呼吸、ですか。
浜田 グラビアの撮影中は、ずっと呼吸できないんですよ。顔がこわばっちゃったり、おなかを引っ込めたりするのもあって(笑)。
でも、福島さんがしゃべってるの聞いて、めっちゃ笑っている顔が撮られたり……現場が自然すぎました。
福島 加えて、翔子ちゃんの言葉を借りるけれど、人物撮影の被写体はキャラクターを求められることがある。それが子どもでも、自分の奥さんを撮るのでも、カメラマンがキャラクターを設定してしまうんですね。
その状況で「すごくいい笑顔だね」と言われても、本人にとっては「いい笑顔」じゃなかったりする。料理に置き換えるなら、翔子ちゃんは「塩を利かせすぎたかな?」と感じていたのに、「抜群の塩加減だね」って褒められ続けるようなものです。
──それが続くと「自分が本当にいいと思える塩加減」がわからなくなりそうです。
福島 もっと言えば「ナチュラルで、抜群の塩加減」って褒められたあとに、彼女たちは醤油を足されるところを見るんですよ。レタッチというね。
そんなとき、彼女の気持ちはどうなるんだろうって思うんです。たとえ相手が「嬉しい」と言ってくれて、それが嘘でも真でも、やっぱり僕には耐えられない。
──それなら現場で伝えた言葉と感動を、そのまま作品に載せて出すことを選ぶ、と。
福島 そうですね。だからこそ、彼女たちが許してくれたら写真展でも大きく見せます。僕の展示はB0サイズもありますから(笑)。 浜田 そう! 福島さんとの写真展で、すごく笑ってる一枚が大きく展示されたんです。私はめっちゃ笑顔だと丸顔になってしまうのがコンプレックスで……だけど、10年来のファンの方も「この写真が一番いい、こんな顔は今まで見たことがない」って。それを聞いて、泣いちゃいました。
──それは「選んでいなかった」というより「撮れていなかった」のでしょうか。
浜田 たぶん、そうです。グラビアも15年やっていると、ポージングや表情にクセが付いてしまっている自分もいました。
福島 そのクセはみなさんが見てきていますし、僕はそれを撮りたいわけでもないですからね。15年分の翔子ちゃんに、今の翔子ちゃんを足したい想いで撮っていました。
特に作品撮りでは、相手の人生を本気で変えようと思っています。きれいな表情はもちろん、ルーズな顔も、見たことないような一面も、心の闇を感じる瞬間も撮る。「笑顔が嫌いだ」と彼女が言ったなら、僕の写真で好きになってもらいたい。
そうすると、新しい未来も生まれていくし、自分の幅も広がっていくはずだから。 福島 僕は撮影現場でも、モデルに共感したいんです。ヘアメイクも、チームのメンバーも、みんな一緒になって「いいね」って声にするし。この写真を撮っているときも「裕二さん、今の翔子ちゃん素敵です」って、後ろからよく聞こえてきますから。
浜田 そしたら福島さんが「そうだろ?」って(笑)。みんなで共感し合えるから、すごく楽しい。
福島 翔子ちゃんが寝転んで、僕が下を向いて撮っていたりすると、眼鏡の縁に涙が溜まっちゃってピントが全然合わないこともあったね。
浜田 福島さんがぼたぼた涙を流していて。そんな撮影は初めてだったので、自分も涙が出てきちゃうし。
福島 だからこそ残るのは、本人もレタッチなしで仕上がりを確かめられて、チームのみんなで共感した「記憶に残っている写真」なんですよね。
そういう写真の積み重ねだから、言うなれば撮ったままで作品になっています。撮影が終わったら、Adobe Bridge(写真管理ソフト)で良いカットを選抜して、AirDropで彼女たちのiPhoneに写真を送っちゃうんです。
そうしたら、いつでも手元で「かわいい」と言われた自分が見られますからね。
福島 一緒に作品撮りをするようになってから、「翔子ちゃんのグラビアデビュー15周年記念に何かやらない?」と話があがったんです。そのときに翔子ちゃんが、ぼそっと「福島さん、私のシワをきれいに撮ってください」って。もう、燃えるしかない!
──そこで、クラウドファンディングを選んだ理由は?
福島 クラウドファンディングでつくった写真集は「売れなかったけれど、ごめん!」と話せるんですよ。かつて写真家にはパトロンがいて、その写真たちが形になってきた歴史があります。それと同じように、クラウドファンディングは彼女がやりたいものを、支援者や制作者が協力して実現させられる。
でも、商業写真集では「肌の露出が足りないから売れないんじゃないか?」なんて推測されます。それは元を正せば、肌が見えないと売れない畑をつくってきたから起きている、ともいえることなんです。そこへ僕らの写真集を持っていっても売れるわけがありませんよね。だって、畑が違うんですから。
商業写真との向き合い方は考えるべき時期にあるし、クラウドファンディングには写真家たちもすごく注目していますね。
──畑の違いを思うと、浜田翔子さんが涙するような写真や、それを欲しいと願う人は存在しているのに、その人たちのための写真集がないともいえますね。
福島 さらに、クラウドファンディングならファンも一緒になってつくれますし、写真集の奥付に名前を載せられたりもする。その瞬間に「僕たちの作品撮り」になりますよね。
──クラウドファンディングを成功してきた福島さんが思う、最大のメリットは何だと考えますか。
福島 クラウドファンディングの中でも、僕がCAMPFIREさんを選ぶ理由は最大の広告宣伝効果です。
この前、うちの奥さんから急に「あなた写真展やるの?」って言われて。どうやら、奥様方がする部活のメーリングリストに広告として表示されたみたいです。そのほかにも、あらゆるところで目にしたり、CAMPFIREのトップページから知ってくれる人がいたり。
ただ、それは僕が有名になるから嬉しいという話ではありません。彼女たちがやりたいことを僕も一緒にやりたいから、費用対効果が高まるならもっと嬉しいんです。僕は今のスタンスが最高に気持ちいいですし。
──「今のスタンス」とは?
福島 僕を好きと言ってくれる人から仕事のオーダーをいただき、自分と何かをやりたいという人と動けて、それを周りにつなげていく。しかも、クラウドファンディングで支援してくれる人がいるから望ましい形にできる上で、スタッフのみんなにもちゃんと費用を払える。全員がリスペクトしあって作品がつくれる環境ですよね。 ──しかも、浜田さんや福島さんが共感して生まれたものに、支援者も共感できる。
福島 それがやっぱり、すごくいいです。
浜田 そういえば写真展のとき、福島さんから「クールな顔で入ってきた人が、帰り道はとってもにこやかだったよ」って報告されたこと、ありましたよね(笑)。
福島 嬉しかったなぁ。彼にとって良い時間で、「心の震え」が伝わったかもなって。さっきも言ったけれど、僕の写真はSNSだけでは伝わりにくいみたいだから。でも、向き合えば、きっと伝わるんですよ。
浜田 私も、戸田真琴さんと福島さんの写真展で「このあふれる感情は何なんだろう」って思いました。戸田さんのことに自分は詳しくなかったけれど、福島さんの写真を見て、戸田さんが好きになったというか……心を持っていかれた、みたいな。
福島 それを思ってもらえるということは、そのときから、きっと僕らは共感しているんだよね。
たびたび「なぜ、こんなふうにモデルを撮れるんですか」と聞かれるんだけれど……僕からすると「撮れる」のではなくて、彼女たちと一緒に共感しているだけなんです。あえて言葉にするならば、僕にはその感動を写真にするだけの圧倒的な技術力があるから、かな。 ──誰もが写真というツールを手にできる現在で、福島さんの写真に惹かれる理由が、わずかなりとも見えた気がしました。
福島 今は「国民総カメラマン」の時代で、写真は生活必需品じゃないですよね。それくらい誰でも撮れるものに価値を見いだすのが、僕たちフォトグラファーなりカメラマンなんですね。そこで「お金をもらう」というのは、やはり圧倒的でなければいけないと考えています。
今は「SNSで実力のある人が見つけられる世界になった」とも聞きます。ただ……これは日本語の難しさであり面白さでもありますが、その言葉が指す「実力」とは何か、という話なんでしょう。
──デジタルな閲覧や「いいね」だけでは成しえない、その圧倒的な感動を分け合うためにも、まさに実力のある写真展や写真集が必要なんでしょう。
福島 そうですね。やっぱり、こんなふうに話ができる「写真」は、いいよね。
2017年7月にはクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」にて、セクシー女優・戸田真琴さんとの写真集制作プロジェクトを立ち上げ、目標金額の216%である541万円の支援を達成。それらを含む3つのプロジェクト全てで、目標値を大幅に超える結果を残した。
そして、次なるプロジェクトとして、グラビアモデルの浜田翔子さんとの「デビュー15周年記念! 写真集制作プロジェクト」が発足。その募集ページの文章を読んで、驚いた。“グラビア界のレジェンド”とも評され、業界の最前線でファンの心をつかんできた浜田翔子さんが「ずっと自信がなかった私を変えさせてくれる撮影だった」と綴っていたからだ。 さらに「福島さんの作品はストレート現像の、ほぼ修正なし」なのだという。レタッチを用いずにモデルを撮り続ける彼の現場は、何がちがうのか。クラウドファンディングと写真を取り巻く現在地を、どう見ているのか。それを体験した浜田翔子さんへお話を伺う前に、まずは福島さんの歩みから聞いてみることにした。
僕も戸田真琴さんとの写真展で、彼の作品に釘付けになったひとりだ。その写真が宿す感動の理由を、純粋に、知りたかった。
取材・文・編集:長谷川賢人 写真:稲垣謙一(インタビュー)、福島裕二(モデル)
僕の写真には「いいね」が付かないけど、バズる必要もないと思っている
──浜田翔子さんがクラウドファンディングに寄せた文章、グッときました。福島 グッときたのは、僕も同じですね。自信がずっとなかった私を変えさせてくれる撮影だったんです。
今はレタッチで加工している写真が多い中、福島さんの作品は撮って出しの修正なし。人間味があふれていて、普段は消されてしまうようなシワの一つ一つがその人自身を写していて、32年生きてきたんだ! シワがある事を幸せなんだ! って素敵な証になるような作品なんです!
このチームで撮影していただいた素の私を見ていただけたら嬉しいです。 ──CAMPFIREプロジェクトページより
──以前に写真展を拝見して心惹かれたのもありますが、ここまで言われる写真家は何が違うんだ?!と。まずは福島さんのことを聞かせてください。あれ以来、福島さんのTwitterやInstagramもフォローして、日々写真を見ては、ときめいているんです。
福島 でも、僕の写真って「いいね」が全然つかないんですよ。SNSで見ても、何だかわからないみたい(笑)。それで最近、モデルの女の子に「僕の写真はバズらないんだよね」みたいに言ったら、怒られたんです。
──え? 怒られちゃうんですか。
福島 「本気でバズるつもりじゃないのに、そんなことを言うのはやめたほうがいいし、私は福島さんにバズってほしくない」って。
──そういう怒られ方!
福島 「何で?」と返したら、「バズる=流行るだと思うけど、福島さんの写真は『根底を写すもの』じゃないですか。私だって、そんな挨拶するみたいに『いいね』できませんから」と。
──瞬間的に「きれい!」と感じてハートをタップ……みたいな良さじゃないと。
福島 まぁ、たしかに僕はそれでもいいんです。先日撮影したモデルからは「毎晩、福島さんが撮った写真を全部見返して眠っています」とメッセージをもらったんですが、その言葉でも伝わるものがありますよね。僕はそう思えるほどの彼女を撮れたことで作品は完結しているわけだし、SNSでの評価を求めてもいないから、言われてみるとバズる必要はないなぁ、と。
──ただ、デジタルな鑑賞環境が整って、Instagramといった写真特化のSNSもあるなかで、その評価を求めないことに僕は恐れも感じます。
福島 SNSと写真について、まず僕が思っていることから話しましょうか。SNSが表れて以降に感じるのは、そこに流れているのが「画像」であって写真ではないのだろうということです。
──写真ではない?
福島 そうです。テレビの映像も、ネコのイラストも含めて、全部が画像なんです。ドラマを想起するような「写真」ではないから、文字通りに流れていってしまう。
でも、僕が送るものは「写真」にしたいし、僕はそんな「写真」を見てもらいたい。たとえ、そう考えるのが僕ひとりであろうと、それを啓蒙していかないと写真は画像になり続けてしまうから。 福島 写真は「心の震え」を生みます。僕の写真展に来てくれた人は、それを知る機会に触れてくれているんだと思っています。僕としても「写真とは何か」を知る入り口になると信じていますしね。
先日開催した浜田翔子ちゃんの写真展には、5日間で1000人以上が訪れてくれたけれど、少なくとも半分の人は感じてくれたんじゃないでしょうか。写真を知らない人でも、アマチュアカメラマンでも、僕のアンチでも、何でもいいんです。その「心の震え」を感じてくれさえすれば。
技術を支える、吐き気がするほどのアシスタントノート
──そもそも、写真を始められたきっかけは?福島 若い頃の僕はちゃらんぽらんで、あるときは「水道って最後に止まるんだ」と知るくらいにお金が一銭もなくなったり(笑)。コンビニの店員さんと仲良くなり、廃棄のお弁当をもらったりしてたんだけど、いよいよ「やばい」と思って。
僕にはカメラマンの兄貴がいたから、ひとまず居候させてもらうことにしたんです。「おまえ、何が出来る?」と言われ、「人に声をかけられる」って答えたら、撮影モデルのスカウトをやることになりまました。スカウトするにも業界のことを覚えなきゃいけないということで、兄貴と仲の良かった上野勇さんに付くことになった。それが僕の師匠です。
だから、「写真が好き」というより「カメラマンってカッコいい!」から、僕のキャリアは始まっているんです。始めたときは、カメラの使い方すら知りませんでしたから。アマチュア時代がなく、いきなりプロカメラマンのアシスタントに付いて、独立するまで4年半かけて写真を覚えていきました。アシスタント時代を含めれば、もう27年ぐらいプロの現場で写真に携わってきたことになります。
──作品の前提に、現場で培った技術力があるのですね。
福島 当時つけていた「アシスタントノート」を、僕のスタッフに見せると「吐きそう」って言いますよ(笑)。フィルムの時代だから、シーンごとに色温度や露出量、撮影時間などを全てメモしてあるんです。それを撮影している師匠のペースに合わせて書き留めていました。
いまは撮影時の設定が記録されるし、その場で写真も確認できるから、ずいぶん楽になったと思いますね。そんなふうにアシスタントを経て、プロカメラマンであることのプライドを胸に、20年近く現場に立ってきました。ただ、プロでもいろんなスタンスの人がいます。
僕はモデルと深く向き合って撮影してきたのですが、現場でもよく言われたんですよ。「そんなに毎回、100点を目指してどうすんだよ?」みたいに。
──良い言い方ではないですが「仕事だから割り切れよ」と。
福島 そうですね。たとえば、撮影時間が60分あって、10分で終わっちゃえるような撮影だとしたら、真っ当に60分をかける必要はないともいえるわけです。やっぱり業界によっては、時間をかけずに終えるほど喜ばれることもありますから。
ただ、僕はそうできなかった。実際になくなった仕事もありますし、うまくいかないことも、いっぱいあった。でも、ある時に自分の写真を振り返ってみて思ったんです。写真を撮ることが記録なのだとしたら、記憶に残らない写真は記録にもならないのかもしれない、と。それで、5年ぐらい前から作品も撮るようになりました。
レタッチは「シャッターを切った感動」がウソになるようで
──記憶に残らない写真は、記録にもならない。福島 僕がシャッターを切るのは感動したときです。だから、僕はレタッチをほぼしません。レタッチするほどに記憶との差異が生まれていくようで、作業をするほど気持ち悪くなってしまう。「あれ、こんなことに感動してシャッター切ったかな?」って。
相手の表情や光の入り具合が重なった「シャッターを切った瞬間の感動」が、レタッチで後からウソになっていくようで……それが嫌なんです。とはいえ、ノーレタッチにこだわっているのではなくて、記憶にあるものが崩れてしまうことに違和感を覚えるわけです。
僕もAdobe Lightroomを通してRAW現像はしますけれど、サイズを変えたり、コントラストをカットしたりする微調整だけですね。1枚30秒くらいで終わります。
──早い……!
福島 あとは単純に、レタッチが面倒なのもありますよ(笑)。
──ただ、世の中の写真は、どこかレタッチや加工偏重になっているふうも感じます。
福島 それは全然いいんじゃないですか?
フィルムの時代から加工技術はあったし、僕が大切にしているのは自分の精神衛生だけですから。ただ、僕が「なぜレタッチしないんですか?」と聞かれた時には、「加工して良くなるイメージが見えているのだったら、撮る段階で調整すればいいのではないでしょうか?」と答えます。
僕はアンチ加工というわけではありません。そもそもファッションやファインアートであれば加工を前提に撮影が行われているし、素材としてのモデルもそこにいる。でも、僕はそういう撮り方をしていないだけです。
僕が撮りたいのは、モデルをしてくれた彼女が30年後に写真を見たとき、「これは福島裕二が撮った写真で、当時のそのままの私だ」って感じられるようなものです。僕はそれでいいと思っているから、今の彼女の最大限を一生懸命に撮る。
僕は写真展で大きなサイズの展示をよくします。もちろん、モデルには理解をしてもらった上ですが、実物よりも大きく見えることに恥ずかしさを覚えるだろうし、本人にしたら絶対不可侵な部分もある。ただ、それをお互いが許容できる関係で表現するなら、僕は「写真」にとっても彼女にとっても有益なのだろうと思っています。
たとえば、おばあちゃんの笑顔が素敵で、心がぎゅーってなる写真があったら、そのシワを取って20年前に戻すようなレタッチをしますか?(笑)
──しないです。そのままがいいわけですからね。
福島 そういう思いで人と向き合ってシャッターを切らなかったら、彼女は20歳のときの写真だけがあればいいじゃないですか。それに、派手さやキレイさにばかり目がいくと、やっぱり記憶には残っていかないと思っているんです。
グラビアモデル15年の浜田翔子、初めての「呼吸できる」撮影
──ここからは浜田翔子さんにもお話を伺えればと。福島さんのようなスタンスで撮られる方って、浜田さんの15年のキャリアにおいても特異に映るんでしょうか。浜田 珍しすぎます(笑)。これまでカメラマンさんと、こんなに現場を含めてお話をしたことはないですね。
グラビアは撮影時間も短いから、着替えて撮っての繰り返し。でも、福島さんの現場はゆっくりしていて、1日で2シーンも撮ったら終わり、みたいな。グラビアでなくて、作品撮りというのも大きいと思いますけれど……。
「私、撮影なのに、呼吸をちゃんとしてるな」って。
──呼吸、ですか。
浜田 グラビアの撮影中は、ずっと呼吸できないんですよ。顔がこわばっちゃったり、おなかを引っ込めたりするのもあって(笑)。
でも、福島さんがしゃべってるの聞いて、めっちゃ笑っている顔が撮られたり……現場が自然すぎました。
福島 加えて、翔子ちゃんの言葉を借りるけれど、人物撮影の被写体はキャラクターを求められることがある。それが子どもでも、自分の奥さんを撮るのでも、カメラマンがキャラクターを設定してしまうんですね。
その状況で「すごくいい笑顔だね」と言われても、本人にとっては「いい笑顔」じゃなかったりする。料理に置き換えるなら、翔子ちゃんは「塩を利かせすぎたかな?」と感じていたのに、「抜群の塩加減だね」って褒められ続けるようなものです。
──それが続くと「自分が本当にいいと思える塩加減」がわからなくなりそうです。
福島 もっと言えば「ナチュラルで、抜群の塩加減」って褒められたあとに、彼女たちは醤油を足されるところを見るんですよ。レタッチというね。
そんなとき、彼女の気持ちはどうなるんだろうって思うんです。たとえ相手が「嬉しい」と言ってくれて、それが嘘でも真でも、やっぱり僕には耐えられない。
──それなら現場で伝えた言葉と感動を、そのまま作品に載せて出すことを選ぶ、と。
福島 そうですね。だからこそ、彼女たちが許してくれたら写真展でも大きく見せます。僕の展示はB0サイズもありますから(笑)。 浜田 そう! 福島さんとの写真展で、すごく笑ってる一枚が大きく展示されたんです。私はめっちゃ笑顔だと丸顔になってしまうのがコンプレックスで……だけど、10年来のファンの方も「この写真が一番いい、こんな顔は今まで見たことがない」って。それを聞いて、泣いちゃいました。
──それは「選んでいなかった」というより「撮れていなかった」のでしょうか。
浜田 たぶん、そうです。グラビアも15年やっていると、ポージングや表情にクセが付いてしまっている自分もいました。
福島 そのクセはみなさんが見てきていますし、僕はそれを撮りたいわけでもないですからね。15年分の翔子ちゃんに、今の翔子ちゃんを足したい想いで撮っていました。
特に作品撮りでは、相手の人生を本気で変えようと思っています。きれいな表情はもちろん、ルーズな顔も、見たことないような一面も、心の闇を感じる瞬間も撮る。「笑顔が嫌いだ」と彼女が言ったなら、僕の写真で好きになってもらいたい。
そうすると、新しい未来も生まれていくし、自分の幅も広がっていくはずだから。 福島 僕は撮影現場でも、モデルに共感したいんです。ヘアメイクも、チームのメンバーも、みんな一緒になって「いいね」って声にするし。この写真を撮っているときも「裕二さん、今の翔子ちゃん素敵です」って、後ろからよく聞こえてきますから。
浜田 そしたら福島さんが「そうだろ?」って(笑)。みんなで共感し合えるから、すごく楽しい。
福島 翔子ちゃんが寝転んで、僕が下を向いて撮っていたりすると、眼鏡の縁に涙が溜まっちゃってピントが全然合わないこともあったね。
浜田 福島さんがぼたぼた涙を流していて。そんな撮影は初めてだったので、自分も涙が出てきちゃうし。
福島 だからこそ残るのは、本人もレタッチなしで仕上がりを確かめられて、チームのみんなで共感した「記憶に残っている写真」なんですよね。
そういう写真の積み重ねだから、言うなれば撮ったままで作品になっています。撮影が終わったら、Adobe Bridge(写真管理ソフト)で良いカットを選抜して、AirDropで彼女たちのiPhoneに写真を送っちゃうんです。
そうしたら、いつでも手元で「かわいい」と言われた自分が見られますからね。
実力のある写真は共感をつなぎ、感動を呼ぶ
──そして、CAMPIFREで「浜田翔子デビュー15周年記念! 写真集制作プロジェクト」がスタートしましたね。福島 一緒に作品撮りをするようになってから、「翔子ちゃんのグラビアデビュー15周年記念に何かやらない?」と話があがったんです。そのときに翔子ちゃんが、ぼそっと「福島さん、私のシワをきれいに撮ってください」って。もう、燃えるしかない!
──そこで、クラウドファンディングを選んだ理由は?
福島 クラウドファンディングでつくった写真集は「売れなかったけれど、ごめん!」と話せるんですよ。かつて写真家にはパトロンがいて、その写真たちが形になってきた歴史があります。それと同じように、クラウドファンディングは彼女がやりたいものを、支援者や制作者が協力して実現させられる。
でも、商業写真集では「肌の露出が足りないから売れないんじゃないか?」なんて推測されます。それは元を正せば、肌が見えないと売れない畑をつくってきたから起きている、ともいえることなんです。そこへ僕らの写真集を持っていっても売れるわけがありませんよね。だって、畑が違うんですから。
商業写真との向き合い方は考えるべき時期にあるし、クラウドファンディングには写真家たちもすごく注目していますね。
──畑の違いを思うと、浜田翔子さんが涙するような写真や、それを欲しいと願う人は存在しているのに、その人たちのための写真集がないともいえますね。
福島 さらに、クラウドファンディングならファンも一緒になってつくれますし、写真集の奥付に名前を載せられたりもする。その瞬間に「僕たちの作品撮り」になりますよね。
──クラウドファンディングを成功してきた福島さんが思う、最大のメリットは何だと考えますか。
福島 クラウドファンディングの中でも、僕がCAMPFIREさんを選ぶ理由は最大の広告宣伝効果です。
この前、うちの奥さんから急に「あなた写真展やるの?」って言われて。どうやら、奥様方がする部活のメーリングリストに広告として表示されたみたいです。そのほかにも、あらゆるところで目にしたり、CAMPFIREのトップページから知ってくれる人がいたり。
ただ、それは僕が有名になるから嬉しいという話ではありません。彼女たちがやりたいことを僕も一緒にやりたいから、費用対効果が高まるならもっと嬉しいんです。僕は今のスタンスが最高に気持ちいいですし。
──「今のスタンス」とは?
福島 僕を好きと言ってくれる人から仕事のオーダーをいただき、自分と何かをやりたいという人と動けて、それを周りにつなげていく。しかも、クラウドファンディングで支援してくれる人がいるから望ましい形にできる上で、スタッフのみんなにもちゃんと費用を払える。全員がリスペクトしあって作品がつくれる環境ですよね。 ──しかも、浜田さんや福島さんが共感して生まれたものに、支援者も共感できる。
福島 それがやっぱり、すごくいいです。
浜田 そういえば写真展のとき、福島さんから「クールな顔で入ってきた人が、帰り道はとってもにこやかだったよ」って報告されたこと、ありましたよね(笑)。
福島 嬉しかったなぁ。彼にとって良い時間で、「心の震え」が伝わったかもなって。さっきも言ったけれど、僕の写真はSNSだけでは伝わりにくいみたいだから。でも、向き合えば、きっと伝わるんですよ。
浜田 私も、戸田真琴さんと福島さんの写真展で「このあふれる感情は何なんだろう」って思いました。戸田さんのことに自分は詳しくなかったけれど、福島さんの写真を見て、戸田さんが好きになったというか……心を持っていかれた、みたいな。
福島 それを思ってもらえるということは、そのときから、きっと僕らは共感しているんだよね。
たびたび「なぜ、こんなふうにモデルを撮れるんですか」と聞かれるんだけれど……僕からすると「撮れる」のではなくて、彼女たちと一緒に共感しているだけなんです。あえて言葉にするならば、僕にはその感動を写真にするだけの圧倒的な技術力があるから、かな。 ──誰もが写真というツールを手にできる現在で、福島さんの写真に惹かれる理由が、わずかなりとも見えた気がしました。
福島 今は「国民総カメラマン」の時代で、写真は生活必需品じゃないですよね。それくらい誰でも撮れるものに価値を見いだすのが、僕たちフォトグラファーなりカメラマンなんですね。そこで「お金をもらう」というのは、やはり圧倒的でなければいけないと考えています。
今は「SNSで実力のある人が見つけられる世界になった」とも聞きます。ただ……これは日本語の難しさであり面白さでもありますが、その言葉が指す「実力」とは何か、という話なんでしょう。
──デジタルな閲覧や「いいね」だけでは成しえない、その圧倒的な感動を分け合うためにも、まさに実力のある写真展や写真集が必要なんでしょう。
福島 そうですね。やっぱり、こんなふうに話ができる「写真」は、いいよね。
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1件のコメント
CKS
ノーレタッチって、意気込みとしてはまぁあるだろうけど、マジでやってんのはすげぇな・・・