どうぶつを積んでいく、というシュールな見た目に反した奥深いゲーム性で爆発的にプレイヤー数を伸ばし、11月末頃からTwitterを中心に話題に。12月に入ると、とうとうApp store無料ランキングで1位になってしまった。
なんと、あの「どうぶつの森 ポケットキャンプ」を抜きさったのである。
どういうゲームなのか簡単に説明しよう
このゲーム画面を見れば一撃で理解していただけると思うが、“ランダムに出現するどうぶつを対戦相手と交互に落としていき、バランスを崩した方が負け”というものである。 驚くほどシンプルなゲーム性、しかし、このシンプルさがゲームに奥深さを産み出し、DCGを中心とした対戦ゲームプレイヤーから注目を集めている。例を挙げると、「マジック:ザ・ギャザリング」(MTG)プロプレイヤー・市川ユウキ選手や遊戯王OCGで世界大会優勝の経験もある檜山俊輔選手などの有名TCGプレイヤーがTwitterで言及。
さらに、有名「シャドウバース」プレイヤーにしてゲーム実況者であるもこう氏も動画で取り上げるなど、アナログもデジタルも巻き込んで、カードゲーム界隈で大きな旋風を巻き起こした。
その結果、「アグロゼブラ」や「コントロールジラフ」に「OTKオカピ」、「トップ象」といったカードゲーム用語を絡めたネタ用語が、次々と産み出される事態にもなった。どうぶつタワーバトル(通称「DTB」)のガチ勢の用語がパワーワードで溢れている pic.twitter.com/XfjqxuC3Sa
— トール@カーボンローラー (@tall712) 2017年12月6日
では、「どうぶつタワーバトル」は、なぜカードゲーマーたちを惹きつけるのか。「あいつ、やってないカードゲームあんの?」でおなじみTCG界のワタリドリこと私、オグマフミヤが紐解いてゆこう。
文:オグマフミヤ 編集:ふじきりょうすけ
ランダム性と戦略のバランスがアツい
1:勝負に絡むほどよいランダム性
「どうぶつタワーバトル」では、上述の通り落とすどうぶつがランダムに決定される。状況によって落としやすいどうぶつは変わるため、どのどうぶつが出るかは着地させる難易度に大きく影響し、ひいてはゲームの展開に深く関わる。
このランダム要素がゲームにスリルとバランスをもたらしていて、ギリギリのピンチで子ヤギが出ては間一髪で生き残ったり、逆に象が出て頭を抱えることになったり。終盤においては、さらにその影響を強める。 そして、カードゲームにおいてもランダム要素は大きく勝負に関わっている。
例えば「MTG」や「シャドウバース」では、自分の番の始めにデッキから1枚ドローできるが、その1枚が有用なカードであればゲームを有利に進めることができるし、今ドローしても仕方ないカードであれば窮屈な展開を強いられる。
ゲームのクライマックスともなると大ピンチからの唯一の解決策を引き込み逆転勝利! もしくは、それができず無残に負けるなど、1枚のドローが勝負を左右する劇的な展開も起こりうる。
実力に左右されない完全なランダム要素が勝負に大きく関わることにより、実力差のある相手にも勝つことがあったり、実力の拮抗する相手との勝負では運がギリギリの闘いを演出するのだ。
ほどよいランダム性が勝負に絡むことにおいてカードゲームと「どうぶつタワーバトル」は似ており、カードゲーマーを惹きつける1つの要因となっている。
2:運だけではない戦略性
では勝負に重要なのは運だけなのかというと、決してそうではない。カードゲームにおいてはドローしたカードがどんなによくても、それをどのように使うかという戦略的な思考も重要となる。複数あるカードをどの順番で使うのか、どのタイミングで使うのかといった選択肢の中から最適解を選択する。
どうすればカードを最大限有効に使えるのかを考えることはプレイヤーの実力が大きく影響する部分であり、戦略を練る力はプレイした分だけ鍛えることのできる能力である。DTB1600-1700の間を行き来。負けた時に「どこに置けば良かったか」「むしろ一手前が悪手」「キリンの受け入れを考えていなかった」「パンダを安易に置きすぎて相手を楽にさせてしまった」などの反省点が噴出。RAGEでDTB頼む。
— Yuuki Ichikawa (@serra2020) 2017年12月4日
「どうぶつタワーバトル」でもギリギリの状況で象が出たら負けなのか、子ヤギが出たら勝ちなのかというと、そうではない。
小さい子ヤギでさえ、適切ではない場所に落としてバランスを崩してしまうこともあるし、大きな象でもここしかないという絶妙の場所に落とせば、逆に相手をピンチに追い込むこともある。
そのように角度と左右を調整し、どこにどのように落とせばいいかを考える戦略も勝負を左右する大きな要因である。
ランダム要素が絡む以上、運が勝負に影響することは避けられないが、その上で要求される知略、戦略性という点にも重きが置かれる。カードゲーマーたちは、どんなどうぶつが出てもそこから更に考えをめぐらせている。
「どうぶつタワーバトル」の戦略性は、カードゲームと強いシンパシーを感じるのだ。
3:頭脳の闘いにおける技術介入
戦略的な思考が重要なことはおわかりいただけただろう。しかしカードゲームにおけるプレイヤースキルとは、戦略を考えることだけではない。最大限有効な選択肢を選択し、それを正確に実行する技術力も重要なスキルである。
カードゲームはたとえばサッカーやバスケットボールと違い反射神経を求められるものではない。そのうえ相手との肉体的接触やそれに伴う妨害もないが、それでも様々な要因でミスを引き起こしてしまうことがある。どうぶつタワーガチ勢の壁掴み対決。相手初手カバ前足掴みに対してこちらの初手はコントロールステルスぞうさん。負けはしたがこれぞガチ勢バトルって感じでしたわ。#どうぶつタワーバトル #どうぶつタワー pic.twitter.com/Ypjmm7k3yz
— 山野奥 どうタワバトルガチ勢 (@yamaknork) 2017年12月6日
複雑な手順のプレイともなるとプレイする難易度が上がり、それが勝負を左右する重要な場面ともなればそのプレッシャーも尋常ではない。そのような状況下で自分の選択を正確に実行する技術を要求されるという点は他のスポーツにも通ずる部分であり、カードゲームの重要な要素なのである。 そして技術が要求されるのは「どうぶつタワーバトル」でも同じだ。
子ヤギを出し、落とすのに最適な角度とポイントに気づいたとしても、それを正確に実行できなければ意味はない。こうした技術はギリギリのバランスを争う終盤戦において特に重要で、“ここしかないポイントに正確に落とせるかどうか”は、プレイヤースキルのみせどころなのである。
緊迫した状況下で動作の正確性を求められる「どうぶつタワーバトル」。プレイする中で鍛えられていくメンタルを含めた技術力は、同じように正確性を求められるカードゲームのプレイにおいても有用なものとなっていくはず。
……となれば我々カードゲーマーが、「どうぶつタワーバトル」をプレイしない道理はないわけである。
DTBは完全にe-Sports
ほどよいランダム性、深い戦略性、そして技術の正確性を競うという要素の詰まった「どうぶつタワーバトル」は、同じように運、知略、技術を求められるカードゲームを愛し、日々研鑽を積みながらも新しい地平を捜し求めるカードゲーマー達がたどり着いたフロンティアだ。色々難しく言ってきたが、なんといっても恐るべきは、その手軽さなのでちょっと気になったらぜひプレイしてみてほしい。
カードゲーマーとしては、e-Sports、DCGと色んな界隈を巻き込んで盛り上がっていく中で、相互に作用しあって、「どうぶつタワーバトル」もカードゲームもより一層盛り上がっていったらいいな、と祈るばかりである。
みんな「どうぶつタワーバトル」しよう! そしてカードゲームもしよう!
番外編:「どうぶつタワーバトル」用語を解説
カードゲーマーが「どうぶつタワーバトル」に惹かれる理由について解説したところで、そのカードゲーマーによって生み出されたであろう「どうぶつタワーバトル」用語達も解説しよう。1:アグロゼブラ
アグロとはカードゲームにおいては積極的に攻め立てる速攻のような戦略のことを指す言葉である。ゼブラはシマウマ。つまり直訳すると、シマウマで序盤から攻める戦略と言えるが、そもそも「どうぶつタワーバトル」において攻めるとはなんなのか。
シマウマは背中から落とすと首の部分がカーブになっており、そちら側に重量がかかると割りと簡単に転がる。これを利用し、序盤にシマウマを背中から落とすことで相手がシマウマの首側に落としてきたどうぶつを盤外に投げ飛ばす、もしくは序盤から盤面を思い通りにさせなくしていく戦略。これが“アグロゼブラ”というわけである。
「そもそも出てくるどうぶつはランダムなんだから、序盤にシマウマもなにもないだろう」とおっしゃる気持ちもよくわかる。だが、型として定着している。某国民的RPGを題材としたDCGに「アグロゼシカ」というデッキタイプが存在することはたぶん関係ない。
2:コントロールジラフ
コントロールとは、相手を妨害しながら、盤面の主導権を握り続ける戦略のことをいう。ジラフ(つまりキリン)は「どうぶつタワーバトル」に登場するどうぶつの中でもかなり特殊な存在であり、長い首を活かして他のどうぶつにはできないようなトリッキーな置き方をしたりできる。……が、そのトリッキーさゆえに取り扱いが難しいどうぶつでもある。
そんなキリンの特異性を活かし、相手に不安定な盤面を押し付けコントロールする。これが“コントロールジラフ”である。
高い技術力と戦略眼を要求されるコントロールはカードゲームにおいても人気の高い戦略であり愛好家は多い。コントロールジラフも「どうぶつタワーバトル」において一大戦略として成長していくのかもしれない。
3:OTKオカピ
OTKとは、ワンターンキル(One Turn Kill)、つまり最初の番で勝ってしまうことを言う。ワンターンキルは大抵のゲームにおいて非常に難しく、そもそも不可能になっている場合も多い。しかしその困難なワンターンキルをなんとか成立させる道筋を探すことは論理パズルのようで結構楽しく、一種の憧れであるワンターンキルを追い求めるロマンチストは後を絶たない。
オカピは、現在の「どうぶつタワーバトル」ブームにおいて「他の動物はわかるけどあの馬みたいなやつ何?」と少し話題になった。どうぶつの中でもマイナーな存在であるが、このオカピが、ほかの馬シリーズに比べて首がピンと伸びている。これにより、首のほうに簡単に転がることがあるのだ。
この特性を利用し、相手が安易にオカピの背中に落としてきたどうぶつを盤外に転がり落とす戦略を“OTKオカピ”と言う。ちなみにオカピは馬ではなく、キリンの仲間らしい。
4:トップ象
トップとはデッキトップ、つまり山札の一番上のカードのことであり、次にひくカードもしくは今引いたカードのことを指す。カードゲームにおいては、あるカードを引いたことを「デッキトップした」と言ったり、今引いたカードで問題を解決することを「トップ解決」と言ったりする。
では、その“トップ象”がどういうことなのかというと、要は象が出た! ということである。「ギリギリのスペースでバランスをとりあう終盤においてトップ象は弱い」といったような使われ方をする。
5:5象、2虎
これはカードゲーム用語ではないのだが解説しておこう。どうぶつの前についている数字は回転のボタンを押す回数のことで、つまりどうぶつが回転した後の角度を表している。このゲームでは画面下の回転ボタンを押すと45度ずつどうぶつが回転する。つまり、“5象”はスタートの状態から5回ボタンを押し、225度回転させた状態の象のことである。
現在ではナーフ(修正)されたようだが、初期では平面にこの5象を落とすとかなり絶妙なバランスで着地し、上に落ちてきたどうぶつをだいたい盤外へ転がすことができたようで、現在でも状況によっては似たような活用ができることから「5象は強い」と言われる。
また2虎は90度回転させた虎のことを言うわけだが、虎はこの90度回転させた状態で平面に落とすと抜群の安定で着地する。
このことから中央で激戦を繰り広げる中、端に残った小さなスペースに2虎を落とすといったようなことや、縦に置くことで、その上に置かなくてはいけない相手にプレッシャーをかけるなど様々な場面で活躍することから、よくこの言葉が聞かれる。
ゲーム! ゲーム! ゲーム!
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オグマフミヤ
プレイヤー
「関係各所に「何でも知ってるな」と評される知性と感性を活かし、よきアイドルと音楽を求めて時代のエッジをさまよう本格派平成4年生まれ。
TCGについても広くあれこれプレイし、真剣勝負の世界に魅力を感じながらコミュニケーションツールとしての側面にも関心を持ち、競技プレイからカジュアルプレイまで楽しむユーティリティプレイヤー Twitter: @oresamax
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