アニメとCMは相性がいい? 『ノラガミ』監督が描いた家族のリアル

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アニメとCMは相性がいい? 『ノラガミ』監督が描いた家族のリアル
アニメとCMは相性がいい? 『ノラガミ』監督が描いた家族のリアル

『未来色の風景』

新築マンションの建設にあたって、そこで暮らす家族を描くオリジナルアニメーションCMが公開された。これだけ聞くと、昨今珍しくもない話だろう。

しかし、『ノラガミ』で監督、『おおかみこどもの雨と雪』では助監督として繊細な心理描写を見せたタムラコータローさんを監督に迎え、キャラクター原案は『艦隊これくしょん-艦これ-』などで活躍中のしずまよしのりさんが担当している。

マンションのアニメCM制作スタッフとしては、いささかガチな布陣ではないだろうか。
横浜・十日市場アニメーション『未来色の風景』
それにしても、なぜ住宅という高額な商品の宣伝に、アニメという手法が選ばれたのだろうか。今回は、プランナー側の狙いとタムラコータロー監督へのインタビューを交えつつ、その謎を紐解いていきたい。

そこから、広告におけるアニメ表現ならではのアドバンテージ、また「アニメ」と「広告」双方を巡る状況の変化、さらには「郊外」に対する日本の状況などが見えてきた。

文:しげる 編集:恩田雄多

「アニメ=オタク」という図式は意識しない演出プラン

横浜から電車1本で行ける街・十日市場を舞台に、新たに建築されるマンションを中心とした暮らしを描くアニメ『未来色の風景』。 制作スタジオはボンズ、音楽はシティポップバンド・Awsome City Clubが手がけ、実生活でも夫婦である声優・井ノ上奈々さんと市来光弘さんが結婚後夫婦役で初共演──と、本格的なスタッフと挑戦的なキャスティングが特徴だ。

全3話のアニメは12月18日から順次公開中で、井ノ上さんと市来さんという実夫婦キャストは、すでに公開された第1弾「2人の新しい暮らし」に出演。第2弾以降も赤羽根健治さんや上坂すみれさんなど、人気声優陣が控えている。 登場するのは、十日市場で暮らす3組の家族。郊外か都心か、専業主婦か共働きか、子供の有無や年齢など、様々な条件の異なる人々が共生する生活をアピールする狙いだ。

このような目的のためにアニメが選ばれた最大の理由に、「まだ実物が存在しない風景を魅力的に描ける」という点がある。と言うのも、劇中に登場するドレッセ横浜十日市場など主要な建物は建設中で、完成形を映像で見せることが非常に難しい。 アニメならば現在の完成予想図をもとにドラマを組み立てることができるし、背景美術に力を入れれば十日市場の生活も細やかに描くことができる。

それまで街と接点のなかった人が街を知ることで、「もし自分がここで暮らしたら…」とリアリティを伴って想像してもらえる。プランナーが目をつけたのはまさにその部分だった。 プランニングに関して重要視されたのが、すでに「アニメ=オタク向け」という図式は成立していないという視点だ。そこでアニメファン向けの演出は特段意識しないようにした。

ファンタジーでも「萌え」でもなく、アニメをあくまで表現手段として捉え、今はまだ存在していない街を舞台にした日常をしっかりと描くために「何が効果的か?」に注力したという。

『ノラガミ』のタムラコータローが考える家族

タムラコータロー監督起用の背景にも、街の登場人物である家族や、その絆を描いた作品に関わってきた手腕がある。

『ノラガミ』では夜卜と雪音の関係の変化による疑似家族的なドラマを描き、『おおかみこどもの雨と雪』でも助監督の立場から"家族"というテーマに取り組んだタムラ監督は、まさにこのCMの監督としてうってつけの人材と言えるだろう。

『ノラガミ ARAGOTO』noragami-anime.net (C)あだちとか・講談社/ノラガミ ARAGOTO製作委員会

タムラ監督は"家族"についてこう語る。

「自分にとっては困ったときに“助け合える”“支えたい”と思うのが家族かな。法律や血縁は形式に過ぎないと思います。形式上“家族”でも過干渉やネグレクト、家庭内暴力といったうまくいかないケースはごまんとある」

タムラコータロー監督

確かに家族は形式に過ぎない。それではなぜ、家族をテーマに据えた物語が古今東西で絶えることがないのか?

「みんな心のどこかで、常に人生の青写真を探してるんだと思うんですよ。とはいえ、人は皆同じ立場ではなく、人の数だけ人生がありますから、自分に合った青写真を探し続けるんだと思います。そしてその人生に大きく影響するのが"家族"。そうである以上、これからもいろいろな形の"家族"の物語がつくられると思います」

十日市場で暮らす、多彩な背景を持った家族の青写真としての『未来色の風景』。監督の言葉からは、そんな作品のイメージが見えてくる。

「難しく面白い」アニメCMが受け入れられている

もう1つ、本作制作において、重要な背景が存在する。それは、ここしばらく増加傾向にある、スタジオジブリ以外によるアニメ作品のヒットだ。

『時をかける少女』『サマーウォーズ』といった細田守監督作品や、邦画史上歴代2位の興行収入を記録した新海誠監督の『君の名は。』など、アニメが広く受け入れられるようになっている。 その結果、ディズニー的あるいはジブリ的な表現以外のアニメが、CMにおける表現手段としても効果的だと広告業界からも改めて注目されるようになった

架空の世界やヨーロッパ的な風景といった非日常ではなく、『君の名は。』や『サマーウォーズ』のように、現代の日本の街を精緻に描いた身近な世界観の作風が社会的に浸透したことも、特にその要因として大きいだろう。

ここ最近だけでも丸井、マルコメ、日清、マクドナルドなど、家族をターゲットとする大手企業がアニメをCMに用いるケースが増えている。タムラ監督は、近年増加するアニメCMとそれが受け入れられている環境をどのように捉えているのだろうか。 「世代的に、アニメが自然に受け入れられる土壌ができてきたんだと思います。自分は歓迎ですね。TVや映画とは違うターゲットに向けてつくるわけですから、いつもと同じ手法が通じない。そこが面白いしやりがいを感じます」

難しさとやりがいを感じるアニメCMに、監督自身、コンセプトを噛み砕いた上で実作業に取り組んだ。

「十日市場のプロジェクトが目指す街づくりというのは、全国の郊外が今後行き当たる問題に正面から向き合った取り組みじゃないでしょうか。ただ、コンセプトを大上段に構えたフィルムをつくっても煙たがられる可能性もある」 今はまだないものを魅力的に描けるアニメだからこそ、理想を追求しすぎるとリアリティが薄れ、視聴者が自分事と認識できなくなる。

「まずはその街で暮らすことに魅力を感じてもらうところがスタートなのかなと。そこで、プロジェクトのコンセプトの範囲内で、生き生きとしたライフスタイルをアニメで描ければと考えたのが本作ですね」

「何もかもうまくいってる人たちって共感できない」

あくまで十日市場のプロジェクトを伝えることを大前提としつつ、街での暮らしを魅力的に描くことを目指したタムラ監督。そこにはリアルなドラマを描くことを得意とする、監督らしい視点もあった。 「何もかもうまくいってる人たちって共感できないと思うんですよ。日常に溢れるちょっとした孤独感や不安、そういうものがあると急に親近感がわく。フィルムの空気感は明るくしたかったのであまりスポットを当ててないけど、そういう裏側の感情はきっとどこかに持っているんじゃないか。そんな感じにキャラクターを描こうと意識しました」

多数の作品で、人と人とのドラマを描いてきたからこそのバランス感覚が垣間見える。

「ポジティブモンスターにならないように、多面的で繊細な一面をどこかにほんのり残したつもりです」 制作にあたったのは、タムラ監督との関わりも深いボンズ。近年の代表作である『文豪ストレイドッグス』でも写実的でリアルな横浜の街を描いていた点が起用の決め手となった。

十日市場には緑も多いが、CMとして打ち出したいのは、都会的な暮らしと郊外的な暮らしの両立。そういう意味で「都会も魅力的に描くことができる」という点は必須だった。 従来とは異なる、魅力的かつ都会的な郊外というイメージを後押しするのが音楽の存在だ。決してイメージを押し付けるのではなく、自然な見せ方を意識したことで生まれたMVのような映像。

新時代のシティポップを発信し続けるAwsome City Clubは、そんな新たな郊外の暮らしを描く『未来色の風景』にうってつけと言える。

Awesome City Club

「架空の街のサウンドトラック」というテーマで活動するAwsome City Clubが、初めて実在する街の音楽を手がける。タムラ監督としても会心の布陣だったという。

そしてキャラクター原案に起用されたしずまよしのりさんは、バランス感覚に優れた現代を代表するイラストレーターの1人。 特に、写実性とアニメ的な記号性の両方を表現できる手腕を見込んだ結果だという。

このような理由と経緯で主要スタッフが揃った『未来色の風景』。実際のCMで伝えられたのは、どのようなメッセージなのだろうか。

「都心との適度な距離を保ちたい人がいる以上、郊外の需要はある」

プランナー側がタムラ監督と十日市場のロケハンを重ねる中で、印象的だったタムラ監督の言葉が「『どんな家族の形も受け入れられる街』になっていけるといいよね」というもの。 家族の形も、ライフスタイルも、様々な選択肢があり多様化する現代社会。そこには、「郊外に対して理想を押し付けることを避けたい」という監督の考えがあった。

全国的な郊外開発の結果、そのどれもが均質化してしまい土地ごとの個性が失われつつあるという指摘が、2000年代から持ち上がっている。しかし、タムラ監督の視点はもっとフラットだ。 「郊外の問題は個々人のライフスタイルに集約しますし、ライフスタイルに『べき論』を持ち込まない方がいいかなと思ってます。暮らしが快適なら、(どんな郊外があっても)いいのではないかと」

何が快適かどうか、その判断は個人の感覚に左右される。 「都心が快適だという人もいれば、郊外の方がほっとするという人もいる。都心との適度な距離を保ちたい人がいる以上、郊外の需要はこれからもあると思います」

しかし、昨今では住民の高齢化をはじめ、郊外は新たな問題に晒されている。そこで十日市場のプロジェクトにおいても、大きなテーマとなったのは「サステナビリティ=持続可能性」だ。 高齢化や住宅自体の老朽化によって希薄化したコミュニティ。これらは全国の昭和30~40年代に開発された郊外住宅地が抱える問題だ。これに対し、持続可能な街とは何かという問いに答えたのが十日市場の複合開発だ。

今回、舞台となった十日市場町の周辺地域も、「環境未来都市 横浜」が推進するモデル事業である「持続可能な住宅地モデルプロジェクト」の1つ。

大型マンション「ドレッセ横浜十日市場」と高齢者向け住宅「クレールレジデンス横浜十日市場」を中心に、保育園やスーパー、コミュニティスペースなどが複合的に建設される。住みやすく持続可能な暮らしができるよう、周辺環境全体を整えている。

タムラ監督が向き合い、描いた持続可能な暮らしとは?

タムラ監督は「持続可能性が注目されるのは、多くの地域でコミュニティが持続できていないということの裏返し」だと指摘する。 「持続できなければ自然と少子化、過疎化、孤独死といった問題に行きついてしまいます。人が集まらなければ経済も活性化しません。その地域に住まう人たちのリスクは増える一方です。これは本来、地域コミュニティが持続できていれば解決できる問題なんです」

そんなテーマを表現する上で、突飛な手法に頼るのではなく、思いやりや気づかいを大切に描いたというタムラ監督。それこそが、「長続きするコミュニケーションの大前提」と続けた。 「街づくりも『こうすると快適かな?』『これなら住んでもらえるかな?』と、そこで暮らす人々を想像し、思いやったり気づかったりしながらつくるわけじゃないですか。そのやさしい気分を個々人のキャラクターに集約させています」

家族の形もライフスタイルも多様化する時代に、求められている郊外の形は決して1つではない。個人による快適な暮らしの追求をそれぞれ肯定しつつ、街全体の「やさしい気分」を描き出す。タムラ監督が目指したのはそんな映像だと言える。 「本作を通して、少しでも横浜や十日市場での暮らしに興味を持っていただけたら嬉しいです。OP映像を手がけた『文豪ストレイドッグス』でも横浜に足を運んだんですが、ここはまだまだたくさんの魅力が隠れています」

その魅力がどのように描かれているのか、そして街と暮らしを描くとはどういうことか。『未来色の風景』を見つつ、じっくりと考えてみてほしい。
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作品情報

未来色の風景

監督
タムラコータロー
キャラクター原案
しずまよしのり
キャラクターデザイン・総作画監督
徳岡紘平
アニメーション制作
ボンズ
主題歌
Awesome City Club「yesから二人始めましょう」
キャスト
EP1:市来光弘、井ノ上奈々/EP2:赤羽根健治、上坂すみれ/EP3:天野心愛、宝亀克寿

【Episode.1】 「2人の新しい暮らし」
東京で働く新婚夫婦の物語。
十日市場という名前を聞いたこともなかった妻。はじめは地元を離れることに不安を覚えていたが、横浜でのアクティブな新生活で徐々に2人の過ごし方にも変化が生まれていく。
[キャスト] 美樹役:井ノ上奈々/夫:洋平役:市来光弘

【Episode.2】 「夫の出張記念日」
出張が多く忙しい夫とその家族の物語。
仕事は充実しているが少し寂しさを感じていた夫と、周囲と一緒に子育てを楽しむ妻。妻は、夫がいない間に友人達とある計画をしていた。
[キャスト] 誠司役:赤羽根健治/咲織役:上坂すみれ

【Episode.3】 「転校生の放課後」
十日市場に転校してきた中学生と祖父母の物語。
共働きの両親と、祖父母が住む十日市場に引っ越してきた。はじめての転校に戸惑っていたものの、祖父母のおせっかいで街に親しんでいく。
[キャスト] ほのか役:天野心愛/祖父役:宝亀克寿

【YOKOHAMA GREEN BATON PROJECTが『未来色の風景』に込めた想い】
YOKOHAMA GREEN BATON PROJECTは「環境未来都市(※1) 横浜」が推進するモデル事業「持続可能な住宅地モデルプロジェクト」として、公募によって選定された東急電鉄・東急不動産・NTT都市開発の3社により推進されている、横浜市緑区最大級(※2)の複合開発(※3)プロジェクト。分譲マンション「ドレッセ横浜十日市場」、シニア住宅「クレールレジデンス横浜十日市場」、戸建住宅地の街づくりを通じ、地域の方々や街に賛同いただける皆様と共に周辺地域を育てることを目的とし情報を発信していくプロジェクトの総称です。 今、本当に必要なのは、次の世代に手渡したくなる街をつくること。
次のランナーへ、大切なバトンをつないでいくように、未来の家族たちへ胸を張ってつなぐことができる、緑でいっぱいの横浜を作りたい。ずっと住み続けたくなる、そして次の世代へ手渡したくなる街を作るために、そんなまちづくりへの想いでプロジェクトはスタートしました。

※1:「環境未来都市」構想とは、国の「新成長戦略」(平成22年6月閣議決定)に位置付けられた、21の国家戦略プロジェクトのひとつ。環境問題や超高齢化社会など、現代社会が直面する様々な課題に対応するために、「誰もが暮らしたいまち」「誰もが活力あるまち」の実現をめざすものです。全国では横浜市をはじめ11の都市・地域が「環境未来都市」として選定されています。
※2:1997年以降に横浜市緑区内で供給された駅徒歩10分以内の民間分譲マンションのうちの3番目の戸数(MRC 調べ)
※3:2019年秋開業予定。開業予定時期は変更になる場合があります。また、計画が変更となる場合があります。予めご了承ください。生活利便施設は運営者によりサービス内容が、変更になる場合があります。

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関連キーフレーズ

タムラコータロー

アニメーション監督/演出家

主な作品に『ノラガミ』(2014年)、『ノラガミ ARAGOTO』(2015年)監督、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)助監督など。

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