日本アニメの未来を変えた──世界中で絶賛されるSFアニメ『カウボーイビバップ』を手がけた渡辺信一郎監督にそこまで言わしめる傑作映画が『ブレードランナー』だ。
それまでクリーンな描写がほとんどだった未来都市に、ずさんな日本語ネオン管で彩られたスラム街や、酸性雨に打たれる高層ビル群などディストピア的思想を初めて持ち込み、その後の作品に計り知れない影響を与えた。
公開は1982年。『カウボーイビバップ』だけでなく『AKIRA』や『攻殻機動隊』など、今なお色褪せぬSF作品群も、如実にその影響下にあることがうかがえる。映画『ブレードランナー 2049』予告
そんなSF映画の金字塔の続編『ブレードランナー 2049』が、公開から35年の時を経て、10月27日(金)より上映される。
それに合わせて、空白の歴史を紡ぐ全3作からなる短編が制作され、そのうちの1本を渡辺監督が担当。原作映画から3年後、2022年に起きた人類/レプリカント(人造人間)の転機となる事件を描く『ブレードランナー ブラックアウト 2022』として、9月26日にYouTubeで公開された。 公開と同日、都内では世界最速上映イベントが実施。渡辺監督に加え、劇中のスピナー(飛行車)デザインを担当した荒牧伸志さんが登壇した。
今回はそんなイベントの直前、渡辺信一郎監督へインタビューをする機会をいただくことができた。レジェンド級のスタッフが勢ぞろいした『ブレードランナー ブラックアウト 2022』の制作秘話から、グローバルにミクストされていく昨今のコンテンツ事情まで、話をうかがった。
取材・文・写真:ふじきりょうすけ
渡辺 まだ見ていないんですが、アニメの打ち合わせのために撮影現場を訪問したんで、生の現場は少し見ましたね。あとは脚本とコンセプトアート、一部分のラッシュだけは事前に見せてもらいました。 渡辺 新作は舞台が30年後ということもあって、最初の映画を踏襲しつつも世界観的に若干変更されてるようでした。30年も経つと世の中も変わってしまいますから。
アニメ版『2022』は原作の映画から3年後という設定なので、世界観的にはむしろ映画『2049』よりもオリジナル映画版になるべく近づけるようにしてます。
──『ブレードランナー』をアニメ化する、という依頼は制作スタジオであるAlcon Entertainmentから直接きたそうですが、その時の印象はいかがだったのでしょうか。
渡辺 やっぱり、この仕事をしていく上で一番影響を受けた作品ですから、やりたい気持ちと怖いなという気持ちが入り混じってて。
『ブレードランナー』の名に恥じないものを本当につくれるのか? っていうプレッシャーもあったけど、最終的にはやりたい気持ちのほうが上回ったと。
もし自分が断って、いつの間にか知らない監督がとんでもないアニメをつくったりしてても悔やみきれないし(笑)。
渡辺 映画版との距離感というのが一番難しいところで、近づきすぎず、かといって離れすぎず、という適度な距離感を測りました。
ただし、映画版に出てくるのと共通のものに関しては極力そのまま再現すると。
そのへんは自分以上にキャラクターデザインと作画監督の村瀬(修功)くんがこだわってて、ガフ(※)もそっくりに描こうと何度も直したりしてましたね。ブレードランナー ブラックアウト 2022
──今回は脚本も監督が手がけられていますよね。
渡辺 ある程度の長さがあるものだと、自分が考えていることにプラスアルファがほしいんで脚本家に入ってもらうけど、短編の場合は自分がやりたいことだけで埋まっちゃうんで自分で書いちゃうことが多いですね。
あと今回、制作が決まったのが去年の秋ぐらいで、非常に時間がなかったのも理由のひとつですけど。
──今作で監督が一番やりたかったことは何だったのでしょうか?
渡辺 『ブレードランナー 2049』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督と話す機会があったんだけど、「『ブレードランナー』の世界はあくまで80年代に考えた未来であって、今現在考える未来とは違うんだ」と言ってたのが印象的で。
やっぱりSFって未来を描いていても、そのつくった時代というのを色濃く反映してしまう。
だから、デザインとか見た目は極力前の映画に合わせるけど、テーマ的な部分は同じではあり得ないんです。例えば人種だけとってみても、前の登場人物が全部白人なのが今見ると違和感を感じたりして。そこは変えていくべき部分じゃないかなと。 ──渡辺監督の感じた映画『ブレードランナー』のテーマと、本作『2022』で扱うテーマについて詳しくうかがえますでしょうか?
渡辺 インタビューでテーマを語るというのは監督がするべきじゃなく、作品そのもので語るべきだと思うし、インタビュアーもそんなこと聞くべきじゃないと思いますが(笑)。
ごく簡単に最初の映画版との違いを言うなら、映画版では「自分は何者なのか」というアイデンティティの問題を扱ってると思うんですけど、同じテーマを繰り返してもしょうがないんで、「自分が何者かはわかった先に、どう生きるべきなのか」という方向にシフトさせています。
あとは……脚本を書いてた時がアメリカ大統領選の真っ最中で。絵コンテ作業の時にトランプが大統領に就任して、大統領令で入国禁止とかで大混乱の頃だったんです。
──「レイシストなのか?」という批判があがっていた真っ只中じゃないですか。
渡辺 毎日そういうニュースが流れてきていたので、むしろ影響を受けないほうが難しい(笑)。
ただ、そういう排外主義とかのテーマ性を無理やり押し込もうとしてるわけじゃなくて、自然に出てくるぐらいがいいかなと。
逆に言えばそういう影響もあえて排除しないで、日々感じてることが作品に反映されていくことで、自然に前作からアップデートされているはずです。
※ガフ……『ブレードランナー』に登場する特別捜査官。小さな折り紙をつくる癖がある。
それまでクリーンな描写がほとんどだった未来都市に、ずさんな日本語ネオン管で彩られたスラム街や、酸性雨に打たれる高層ビル群などディストピア的思想を初めて持ち込み、その後の作品に計り知れない影響を与えた。
公開は1982年。『カウボーイビバップ』だけでなく『AKIRA』や『攻殻機動隊』など、今なお色褪せぬSF作品群も、如実にその影響下にあることがうかがえる。
それに合わせて、空白の歴史を紡ぐ全3作からなる短編が制作され、そのうちの1本を渡辺監督が担当。原作映画から3年後、2022年に起きた人類/レプリカント(人造人間)の転機となる事件を描く『ブレードランナー ブラックアウト 2022』として、9月26日にYouTubeで公開された。 公開と同日、都内では世界最速上映イベントが実施。渡辺監督に加え、劇中のスピナー(飛行車)デザインを担当した荒牧伸志さんが登壇した。
今回はそんなイベントの直前、渡辺信一郎監督へインタビューをする機会をいただくことができた。レジェンド級のスタッフが勢ぞろいした『ブレードランナー ブラックアウト 2022』の制作秘話から、グローバルにミクストされていく昨今のコンテンツ事情まで、話をうかがった。
取材・文・写真:ふじきりょうすけ
やりたい気持ちがプレッシャーを上回った
──渡辺監督は、『ブレードランナー2049』はすでにご覧になられているのでしょうか?渡辺 まだ見ていないんですが、アニメの打ち合わせのために撮影現場を訪問したんで、生の現場は少し見ましたね。あとは脚本とコンセプトアート、一部分のラッシュだけは事前に見せてもらいました。 渡辺 新作は舞台が30年後ということもあって、最初の映画を踏襲しつつも世界観的に若干変更されてるようでした。30年も経つと世の中も変わってしまいますから。
アニメ版『2022』は原作の映画から3年後という設定なので、世界観的にはむしろ映画『2049』よりもオリジナル映画版になるべく近づけるようにしてます。
──『ブレードランナー』をアニメ化する、という依頼は制作スタジオであるAlcon Entertainmentから直接きたそうですが、その時の印象はいかがだったのでしょうか。
渡辺 やっぱり、この仕事をしていく上で一番影響を受けた作品ですから、やりたい気持ちと怖いなという気持ちが入り混じってて。
『ブレードランナー』の名に恥じないものを本当につくれるのか? っていうプレッシャーもあったけど、最終的にはやりたい気持ちのほうが上回ったと。
もし自分が断って、いつの間にか知らない監督がとんでもないアニメをつくったりしてても悔やみきれないし(笑)。
アイデンティティの渇望とアメリカ大統領選
──実写からアニメへ移行しているにも関わらず、とても自然に作品の世界に入れました。渡辺 映画版との距離感というのが一番難しいところで、近づきすぎず、かといって離れすぎず、という適度な距離感を測りました。
ただし、映画版に出てくるのと共通のものに関しては極力そのまま再現すると。
そのへんは自分以上にキャラクターデザインと作画監督の村瀬(修功)くんがこだわってて、ガフ(※)もそっくりに描こうと何度も直したりしてましたね。
渡辺 ある程度の長さがあるものだと、自分が考えていることにプラスアルファがほしいんで脚本家に入ってもらうけど、短編の場合は自分がやりたいことだけで埋まっちゃうんで自分で書いちゃうことが多いですね。
あと今回、制作が決まったのが去年の秋ぐらいで、非常に時間がなかったのも理由のひとつですけど。
──今作で監督が一番やりたかったことは何だったのでしょうか?
渡辺 『ブレードランナー 2049』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督と話す機会があったんだけど、「『ブレードランナー』の世界はあくまで80年代に考えた未来であって、今現在考える未来とは違うんだ」と言ってたのが印象的で。
やっぱりSFって未来を描いていても、そのつくった時代というのを色濃く反映してしまう。
だから、デザインとか見た目は極力前の映画に合わせるけど、テーマ的な部分は同じではあり得ないんです。例えば人種だけとってみても、前の登場人物が全部白人なのが今見ると違和感を感じたりして。そこは変えていくべき部分じゃないかなと。 ──渡辺監督の感じた映画『ブレードランナー』のテーマと、本作『2022』で扱うテーマについて詳しくうかがえますでしょうか?
渡辺 インタビューでテーマを語るというのは監督がするべきじゃなく、作品そのもので語るべきだと思うし、インタビュアーもそんなこと聞くべきじゃないと思いますが(笑)。
ごく簡単に最初の映画版との違いを言うなら、映画版では「自分は何者なのか」というアイデンティティの問題を扱ってると思うんですけど、同じテーマを繰り返してもしょうがないんで、「自分が何者かはわかった先に、どう生きるべきなのか」という方向にシフトさせています。
あとは……脚本を書いてた時がアメリカ大統領選の真っ最中で。絵コンテ作業の時にトランプが大統領に就任して、大統領令で入国禁止とかで大混乱の頃だったんです。
──「レイシストなのか?」という批判があがっていた真っ只中じゃないですか。
渡辺 毎日そういうニュースが流れてきていたので、むしろ影響を受けないほうが難しい(笑)。
ただ、そういう排外主義とかのテーマ性を無理やり押し込もうとしてるわけじゃなくて、自然に出てくるぐらいがいいかなと。
逆に言えばそういう影響もあえて排除しないで、日々感じてることが作品に反映されていくことで、自然に前作からアップデートされているはずです。
※ガフ……『ブレードランナー』に登場する特別捜査官。小さな折り紙をつくる癖がある。
この記事どう思う?
イベント情報
ブレードランナー 2049
- 公開
- 10月27日(金)全国ロードショー
- 配給
- ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
関連リンク
0件のコメント