「求められている自分」「なりたい自分」と現実の自分とのギャップ──それは、誰もが思い当たる普遍的な葛藤の一つだろう。
7月から放送中のTVアニメ『18if』は、各話異なる監督が「夢世界」「魔女」などをキーワードに独自の世界観を描いている。
毎話ごとに登場するヒロインは、時に不幸な運命に絡め取られ、時に自分を取り巻く境遇に引き裂かれ、「こうであってほしい」という自分の理想を夢の世界で体現する魔女として現れる。各話18秒でよくわかる「18if」
第3話「初恋の魔女」で余命短い佳世役を演じた田村奈央さん、第9話「アイドルはトイレにいかない!」で葛藤するアイドル・美咲役の新田恵海さんを迎えて、幼少期の夢や、理想と現実への向き合い方、声優という夢を叶えた今だからこそ話せる、2人のパーソナルな内面に迫った。
加えて、毎回異なるエピソードのラストを飾るED主題歌も、『18if』の世界観を形づくる上で必要不可欠なピースとなっている。そこで、ヒロインを務めた回で主題歌も歌った2人に、担当したキャラクターと、ともに誰かへの想いを歌った第3話「夢恋花」と第9話「ツバサ」という楽曲について話を聞いた。
文:恩田雄多 撮影:稲垣謙一 編集:新見直
田村 小学校の卒業文集には「10年後の夢:声優」って書いていました。それで、20年後は「食べられる声優」みたいなことを……。
新田 “食べられる”!!?
田村 声優として“食べていける”ってこと(笑)。それで30年後はもっとステップアップしてるようなことを書いていたくらい声優に固執していたので、12歳の奈央ちゃんには「声優になれたよ」って言ってあげたいですね。
新田 小学生でそこまで現実的なこと考えてたの?
田村 実際は何も考えてないと思う(笑)。 ──それでも小学生当時抱いた夢を実現するというのはすごいですね。
田村 でも小学生の夢って、生きてるうちに変わるものですよね。私も気持ちが揺れたことがありました。
大学時代、芸術学部の演劇を専攻していて舞台の道に進もうと考えていたんですけど、友人から声優のオーディションに誘われて、「あぁ、私は声優になりたかったんだ!」と気づきました。
でも、声優と舞台女優はどちらも役者には変わらないので、これは気持ちが揺れ動いた内に入っていないですかね……! もちろん舞台にも立ちたいですもの。
結果的にそのオーディションは落ちてしまったんですけど、今後の勉強になると思って、最終選考の観覧に行ったんです。そしたらそこで燃えたぎる何かを感じて。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 声優にならなきゃだよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」と決意して……今に至ります。
新田 えっ! もう現在なの(笑)!?
──コンパクトにまとめていただいて(笑)。新田さんも、小さい頃から声優という夢を持ち続けてきたんですか?
新田 私はどちらかというと、遠回りしつつも昔の夢を叶えているような気がします。保育園時代に「歌手になりたい」と思ってたんですけど、小学校のときは恐竜博士を目指したり、女優になりたいと思ったり。 新田 中学生以降は、何か1つの夢を追うという感じではないんですけど、音楽と歌とお芝居──この3つは、ずっと好きなままでした。
結果的に、ご縁をいただいて声優になって、これまでに舞台やミュージカルを経験したり、歌手として歌うこともできました。
だから、夢までの道は、決して一本ではなかったんですよね。そのつど出てくる選択肢に対して、自分のやりたいことに没頭していたら、たどり着くことができたんです。
新田 不安はありましたけど、それ以上に、会社員として働く自分が想像できなかったんですよね。
田村 わかるー! 私はむしろ、そういう自分を想像したときに、「あぁ、すぐ辞めそう」「社会人として使えなさそう」って思っちゃう(笑)。
新田 うん。私も、「自分には演じること、歌うこと以外できない」と思ってたよ。
でも実は、「合格しなかったら社会人として働こう」と決めて、オーディションを受けたことがあったの。それに合格できたからこそ、不安はあったとしても、この道を突き詰めたいなって。 田村 私の場合、声優を目指したときは何も知らなかった。もう「自分にはこれしかない!」って勢いで、なんとかこの世界には入れることができました。
業界のことや社会のことを知るのは入ってからです。それこそ食べていくのは大変だと思ったんですけど、人生は一度きりだし、失敗しても死ぬわけじゃないから大丈夫、後悔しないように生きようって。
あとは、もう「どうにかなるよ!」って……やっぱり勢いですね。
新田 多かれ少なかれ、不安はどんな職業でもあるじゃないですか。
たとえ安定した仕事だったとしても、「自分はこれでいいのか?」という自問自答はあると思う。それなら、自分の好きなことをやりたいし、そこにある不安なんて飾りのようなものかなって。
田村 もちろんありますよ。そういうときは、どうしたらいいかって考えるんですけど、それでもわからないときは、なんでもいいから行動するようにしています。
普段、受け身なことが多いので、いろんな人の意見を聞きすぎるとわからなくなっちゃう。「自分の意思どこ?」って。だから余計に自分から行動しなきゃって。それが果たして正解なのか、どこにつながっているのかはわからないですけど……全然具体的じゃないですね(笑)。
新田 いいと思うよ(笑)。
正解かどうかの答え合わせって、すぐできるものじゃない。私の人生なんて「あんな昔のフラグを今になって回収ですか?」みたいな感じですよ。だから、何もかもが無駄にはならない。
私みたいに、3歳のときに歌手を目指して、25年経ってからなれることもあるわけじゃないですか。
──新田さんは悩んだり、それこそギャップを感じたりしたときに、どんなふうに対処していますか?
新田 理想とする自分と、今の自分との距離をいかに縮めていくか──難しいですよね。仮に理想が自分と離れすぎていたとしてもいいと思うんです。
私だって、「ミランダ・カーみたいだったら」とか思うこともありますけど(笑)、それは叶わないことじゃないですか。憧れって消せるわけじゃないし、別に消す必要もない。
でも頑張りすぎると自分が壊れてしまったり、がむしゃらに走っていたけど全然違う方向に走っていたりすることもあると思うんです。
大事なのは、自分なりの距離の縮め方を見つけることかなって。
私の場合はですけど、鏡に映る自分と会話しています……。 田村 え! それってどういうときに?
新田 なんてことないとき。朝だったら「今日もがんばろうね」とか、夜なら「おつかれさま」とか。自分の中でできる人もいるけど、私はできないから口に出しちゃう。
田村 私だったらネガティブな言葉しか出てこないかも(笑)。
新田 それも言うの! 結構楽しいよ。もしちょっと自分のことを痛々しいと思ったら、それも言葉に出したほうがいい。
田村 な、なるほど。うん、大事だよね。やってみるよ……自分との向き合い方ってことだよね!
例えば新田さんは『ラブライブ!』で高坂穂乃果、田村さんは『アイドルマスター ミリオンライブ!』で木下ひなたと、互いにアイドル役を担当されていますが、「憧れられる存在」を演じるにあたって意識していることはありますか?
新田 あくまで作品として、キャラクターとして求められていることは意識していますが、自分自身がアイドルになろうとはあまり思ってないですね。
田村 私も応援してくださっている方々は、キャラクターありきで応援してくれていると思います。
だから、ライブなどでステージに上がるときは、私を通じてキャラクターが頑張っている姿が届くようにというのは心がけています。 新田 やっぱり役あってこそだよね。
田村 うん。ただ、MCパートになると自我が出ちゃうので、そこはちょっと「ごめんね」という感じなんですけど(笑)。
新田 だからこそ演じるときは、キャラクターをよく考えて、理解して演じたいって思います。
これまで元気なキャラクターを演じる機会が多かったので、自分自身もそう思われることがあるんですけど、実際は割とネガティブなんです。
最初はやっぱり、求められるキャラクターと自分とのギャップに悩んで、「本当はこんなに素敵な人間じゃないんだよ」と思うときもありました。でも結局、演じる私は私以外の何者でもないんですよね。
田村 私も最近は「自分は自分らしくやろう」って思ってる。
新田 本質は絶対自分だもんね。どんなに遠回りしても、結局はそこにたどり着く。だから、自分にできることを精一杯やって、この世界を存分に楽しみたいなって。 ──つまり、キャラクターと自分とのギャップは醍醐味でもある?
新田 そうですね。キャラクターと同じイメージを抱かれるのは、そう演じられているからなのかも、と。だとしたら、これほど役者冥利に尽きることはないですよ。
田村 演じたキャラクターのイメージがつくって、必ずしも悪いことではないんですよね。
新田 今はそのギャップを楽しめるようになった気がする。キャラクターのように思ってもらえるなら、それはそれでいいかなって。
田村 せやな。
7月から放送中のTVアニメ『18if』は、各話異なる監督が「夢世界」「魔女」などをキーワードに独自の世界観を描いている。
毎話ごとに登場するヒロインは、時に不幸な運命に絡め取られ、時に自分を取り巻く境遇に引き裂かれ、「こうであってほしい」という自分の理想を夢の世界で体現する魔女として現れる。
加えて、毎回異なるエピソードのラストを飾るED主題歌も、『18if』の世界観を形づくる上で必要不可欠なピースとなっている。そこで、ヒロインを務めた回で主題歌も歌った2人に、担当したキャラクターと、ともに誰かへの想いを歌った第3話「夢恋花」と第9話「ツバサ」という楽曲について話を聞いた。
文:恩田雄多 撮影:稲垣謙一 編集:新見直
一直線に歩んだ田村奈央、遠回りして夢を叶えた新田恵海
──『18if』では夢世界を中心に、理想と現実とのギャップなどの描写が頻繁に登場します。お二人は子供の頃の夢を覚えていますか?田村 小学校の卒業文集には「10年後の夢:声優」って書いていました。それで、20年後は「食べられる声優」みたいなことを……。
新田 “食べられる”!!?
田村 声優として“食べていける”ってこと(笑)。それで30年後はもっとステップアップしてるようなことを書いていたくらい声優に固執していたので、12歳の奈央ちゃんには「声優になれたよ」って言ってあげたいですね。
新田 小学生でそこまで現実的なこと考えてたの?
田村 実際は何も考えてないと思う(笑)。 ──それでも小学生当時抱いた夢を実現するというのはすごいですね。
田村 でも小学生の夢って、生きてるうちに変わるものですよね。私も気持ちが揺れたことがありました。
大学時代、芸術学部の演劇を専攻していて舞台の道に進もうと考えていたんですけど、友人から声優のオーディションに誘われて、「あぁ、私は声優になりたかったんだ!」と気づきました。
でも、声優と舞台女優はどちらも役者には変わらないので、これは気持ちが揺れ動いた内に入っていないですかね……! もちろん舞台にも立ちたいですもの。
結果的にそのオーディションは落ちてしまったんですけど、今後の勉強になると思って、最終選考の観覧に行ったんです。そしたらそこで燃えたぎる何かを感じて。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 声優にならなきゃだよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」と決意して……今に至ります。
新田 えっ! もう現在なの(笑)!?
──コンパクトにまとめていただいて(笑)。新田さんも、小さい頃から声優という夢を持ち続けてきたんですか?
新田 私はどちらかというと、遠回りしつつも昔の夢を叶えているような気がします。保育園時代に「歌手になりたい」と思ってたんですけど、小学校のときは恐竜博士を目指したり、女優になりたいと思ったり。 新田 中学生以降は、何か1つの夢を追うという感じではないんですけど、音楽と歌とお芝居──この3つは、ずっと好きなままでした。
結果的に、ご縁をいただいて声優になって、これまでに舞台やミュージカルを経験したり、歌手として歌うこともできました。
だから、夢までの道は、決して一本ではなかったんですよね。そのつど出てくる選択肢に対して、自分のやりたいことに没頭していたら、たどり着くことができたんです。
好きを実現するためにつきまとう不安は飾りのようなもの
──過程は違いますが、お二人とも「声優になる」という夢を叶えています。一方で、声優という職業は、一般的な会社員に比べて安定性が低い仕事だと思います。田村さんのお話にもありましたが、「声優として食べていく」ことへの不安はなかったんですか?新田 不安はありましたけど、それ以上に、会社員として働く自分が想像できなかったんですよね。
田村 わかるー! 私はむしろ、そういう自分を想像したときに、「あぁ、すぐ辞めそう」「社会人として使えなさそう」って思っちゃう(笑)。
新田 うん。私も、「自分には演じること、歌うこと以外できない」と思ってたよ。
でも実は、「合格しなかったら社会人として働こう」と決めて、オーディションを受けたことがあったの。それに合格できたからこそ、不安はあったとしても、この道を突き詰めたいなって。 田村 私の場合、声優を目指したときは何も知らなかった。もう「自分にはこれしかない!」って勢いで、なんとかこの世界には入れることができました。
業界のことや社会のことを知るのは入ってからです。それこそ食べていくのは大変だと思ったんですけど、人生は一度きりだし、失敗しても死ぬわけじゃないから大丈夫、後悔しないように生きようって。
あとは、もう「どうにかなるよ!」って……やっぱり勢いですね。
新田 多かれ少なかれ、不安はどんな職業でもあるじゃないですか。
たとえ安定した仕事だったとしても、「自分はこれでいいのか?」という自問自答はあると思う。それなら、自分の好きなことをやりたいし、そこにある不安なんて飾りのようなものかなって。
夢と現実のギャップに悩むときは鏡で
──『18if』では、なりたい自分と現実の自分とにギャップを感じた女の子が、眠り姫病、魔女になっています。現実と理想の間で、「もっとこうなりたい!」と思う瞬間はありますか?田村 もちろんありますよ。そういうときは、どうしたらいいかって考えるんですけど、それでもわからないときは、なんでもいいから行動するようにしています。
普段、受け身なことが多いので、いろんな人の意見を聞きすぎるとわからなくなっちゃう。「自分の意思どこ?」って。だから余計に自分から行動しなきゃって。それが果たして正解なのか、どこにつながっているのかはわからないですけど……全然具体的じゃないですね(笑)。
新田 いいと思うよ(笑)。
正解かどうかの答え合わせって、すぐできるものじゃない。私の人生なんて「あんな昔のフラグを今になって回収ですか?」みたいな感じですよ。だから、何もかもが無駄にはならない。
私みたいに、3歳のときに歌手を目指して、25年経ってからなれることもあるわけじゃないですか。
──新田さんは悩んだり、それこそギャップを感じたりしたときに、どんなふうに対処していますか?
新田 理想とする自分と、今の自分との距離をいかに縮めていくか──難しいですよね。仮に理想が自分と離れすぎていたとしてもいいと思うんです。
私だって、「ミランダ・カーみたいだったら」とか思うこともありますけど(笑)、それは叶わないことじゃないですか。憧れって消せるわけじゃないし、別に消す必要もない。
でも頑張りすぎると自分が壊れてしまったり、がむしゃらに走っていたけど全然違う方向に走っていたりすることもあると思うんです。
大事なのは、自分なりの距離の縮め方を見つけることかなって。
私の場合はですけど、鏡に映る自分と会話しています……。 田村 え! それってどういうときに?
新田 なんてことないとき。朝だったら「今日もがんばろうね」とか、夜なら「おつかれさま」とか。自分の中でできる人もいるけど、私はできないから口に出しちゃう。
田村 私だったらネガティブな言葉しか出てこないかも(笑)。
新田 それも言うの! 結構楽しいよ。もしちょっと自分のことを痛々しいと思ったら、それも言葉に出したほうがいい。
田村 な、なるほど。うん、大事だよね。やってみるよ……自分との向き合い方ってことだよね!
キャラクターとのギャップをどう受け入れてきたか
──声優として様々な役を演じるという意味では、ファンに夢を見せる立場であり、なおかつファンから憧れや理想を抱かれることもあると思います。例えば新田さんは『ラブライブ!』で高坂穂乃果、田村さんは『アイドルマスター ミリオンライブ!』で木下ひなたと、互いにアイドル役を担当されていますが、「憧れられる存在」を演じるにあたって意識していることはありますか?
新田 あくまで作品として、キャラクターとして求められていることは意識していますが、自分自身がアイドルになろうとはあまり思ってないですね。
田村 私も応援してくださっている方々は、キャラクターありきで応援してくれていると思います。
だから、ライブなどでステージに上がるときは、私を通じてキャラクターが頑張っている姿が届くようにというのは心がけています。 新田 やっぱり役あってこそだよね。
田村 うん。ただ、MCパートになると自我が出ちゃうので、そこはちょっと「ごめんね」という感じなんですけど(笑)。
新田 だからこそ演じるときは、キャラクターをよく考えて、理解して演じたいって思います。
これまで元気なキャラクターを演じる機会が多かったので、自分自身もそう思われることがあるんですけど、実際は割とネガティブなんです。
最初はやっぱり、求められるキャラクターと自分とのギャップに悩んで、「本当はこんなに素敵な人間じゃないんだよ」と思うときもありました。でも結局、演じる私は私以外の何者でもないんですよね。
田村 私も最近は「自分は自分らしくやろう」って思ってる。
新田 本質は絶対自分だもんね。どんなに遠回りしても、結局はそこにたどり着く。だから、自分にできることを精一杯やって、この世界を存分に楽しみたいなって。 ──つまり、キャラクターと自分とのギャップは醍醐味でもある?
新田 そうですね。キャラクターと同じイメージを抱かれるのは、そう演じられているからなのかも、と。だとしたら、これほど役者冥利に尽きることはないですよ。
田村 演じたキャラクターのイメージがつくって、必ずしも悪いことではないんですよね。
新田 今はそのギャップを楽しめるようになった気がする。キャラクターのように思ってもらえるなら、それはそれでいいかなって。
田村 せやな。
この記事どう思う?
関連リンク
0件のコメント