ゆよゆっぺさん、ヒゲドライバーさんといったアーティストが所属し、最近ではアイドルレーベルの新設も話題になったマネジメント事務所・レーベルのTOKYO LOGIC。その代表を務めるのは、自身もロックバンド・ヒゲドライVANのギターとして活動する村田裕作さんだ。
村田裕作さんは、現在の音楽業界に対してクリエイターへの扱いなども含めた強い問題意識を抱えている。
例えば前述のヒゲドライバーさんは、作曲家として『機巧少女は傷つかない』ED「回レ!雪月花」や『艦隊これくしょん -艦これ-』ED「吹雪」など、アニメファンなら知っている大ヒットソングを生み出した。しかし、アーティスト「ヒゲドライバー」としての知名度や本人名義でのCDの売り上げは、作曲を手がけたアニソンに遠く及ばないという現実もある。 ゆよゆっぺさんも、作家として今や世界で活躍するBABYMETALの「KARATE」などを作詞作曲したが、ベビメタファンのうち何割がその名前を知っているかだろう。 レーベルの解散、立ち上げ、そして運営──あらゆる場面を経験する中で、村田さんは、クリエイターへのリスペクトの欠如と、メーカーやメディアなど音楽の周囲を取り巻く環境変化とそれに対する怠慢が横たわっていると語る。
いまの音楽業界には何が足りないのか。その大きな問いに対する答えを、TOKYO LOGICの活動を通じて紐解く今回のインタビュー。所属アーティストに対しても「成功とは言えない」と断言する村田さん。その刺激的で鋭利な言葉の端々から、音楽ビジネスの本質が見えてくる。
取材:新見直 構成:恩田雄多
村田裕作(以下村田) 2011年まで、音楽レーベル「LOiD」を運営していました。けど、運営会社が親会社のavexに吸収される時、レーベルは潰してCDも廃盤が決まって。ネット系のクリエイターを引っ張ってきてそれなりに売り上げを出していたのに、会社の事情で解散とか絶句って感じでした。
そのあとフリーで少し活動して、TOKYO LOGICを立ち上げたのが2012年だから、もう6年目になるのかぁ。 ──最初から所属していたアーティストはヒゲドライバー、ゆよゆっぺ、マチゲリータの3人ですか?
村田 そう。レーベルの解散にあたって、関係したアーティストには「いまのボカロシーンの盛り上がりを考えるとLOiDはボカロやネットクリエイター中心のレーベルだったから、いろいろなところから声がかかると思うけど、好きなところに行っていい」って伝えてました。
結果的に、3人が残ってくれたけど、もし誰も残らなかったら……極端な話、音楽にこだわらなくてもいいかなとも思ってた。
当時はまだ20代で、自分だけが生きていくという意味ではどんな仕事でもあるから、あまり気にしてなかった。だから、3人が残ってくれたからこそ、今も音楽に携わっている、と言えるのかもしれない。
──LOiDが解散した時点で「誰も引き取らない」という選択もできたと思いますが。
村田 これはTOKYO LOGICという社名の由来にも関わってくるんですけど、まあ人情だね。僕、東京こそ人情味があると思ってるから。 そんな東京から発信することを示したかったから、社名に「東京」は絶対入れようと思っていて。あとはLOiD時代に「LOiD’s LOGiC」というコンピレーションのタイトルをつけたことがあって、その響きが好きだった。“東京から発信するやり方・倫理”というのが面白そうだなと。
僕は東京生まれ東京育ちで、東京民って言っても親は下町が地元だし。「東京の人は冷たい」とか言うけど、気取ってるのはむしろ地方から出てきた人たちでしょって思う。怒られそうだけど(笑)。
そもそも人情がなかったらこんな仕事やってないっすよ!
──当初は3人のアーティストから始まって、bakerさんやHeart’s_Cryさん、ゆよゆっぱさん、カラスヤサボウさんが加わりました。
村田 実はもっといるんだよね。Massive New Krewとか風雅なおとさんとか……全部合わせると13~4組くらいかな。
──なぜこのメンバーなんでしょうか? 共通点は?
村田 仲が良い(笑)。
──やはりそこは大切なんですね。
村田 自分の信条でもあるけど、マネジメントするということはその人の人生を背負うということでしょ。そしたら、本人の人となりを知ってないと背負えるわけない。
ありがたいことに「入れてください」とか「仕事振ってください」って言ってくれる人もいるけど、その人のこと知らなかったら「無理です」と答えるしかない。
食わせられなかったときの責任を負わなきゃいけないし、相手にもうちの責任を負ってもらわないといけない。一緒にやるってことはそういうことだから。
──ただ、商業の音楽レーベルとしては、その人のクリエイティブが優れていれば、人となりは二の次という判断もあると思います。
村田 そんな人間を扱える自信はない。クリエイティブは良いけど、破滅的な生活をしてる人がいるとして、もしその人が死んでしまったら自分は後悔することになるから。
もちろん、“才能に惚れた!”みたいな出会いがあったらいいと思いますよ。でも、実際に仕事していて感じるけど、そういう出会いって本当に少ないよ(笑)。
例えば、ボカロ「KAITO」の中の人と古参ボカロPのbakerさんとのアコースティックユニットとか、ゆよゆっぺさんがシンガーソングライターとしてCDをリリースしたりとか、失礼ですがマニアックですし、売る側が「売れ線だ」とは思っていないように感じるのですが。 村田 うん、本人がやりたいって言ったからね。
──「やりたいからやらせる」というのは英断ですが、リスクは高いのでは?
村田 リスクは高いねぇ……。
でも、ゆっぺくんやヒゲさん、マチゲくんには特に、立ち上げから助けてもらってるし、自分が助けた面もなくはない。そんな関係性があるからこそなんじゃないかな。bakerさんなんかは、以前いた会社が解散した後に、自分にもっとこういう事学んで来い!って言ってくれた人だから。そんな関係性があるからこそなんじゃないかな。
基本的に本人の「やりたい!」って意志は尊重する。ただ、それによって負うリスクはアーティスト自身にもあるってことは伝えるようにしてる。本人たちはわかってると思うけど、数字が残せなかったら、次の仕事はないかもしれないから。
実際、業界的にヒットしているアーティストは、狙ってやったというよりも、やりたいことを突き詰めた人が多い気がします。狙ってうまくいったケースってあるのかもしれないけど、自分はあまり知らないかも。
──だからこそ非常に怖いなと思います。音楽に限らず、狙って当てるのが難しい一方で、売上を立てるためにやり続けなくてはいけない。何の確証も根拠もない中で、ひたすらバットを振り続けるのは過酷です。そういう現実を、アーティストにどうやって説明しているんですか?
村田 例えばヒゲドライバーの場合は、死ぬほど説得した(笑)。東京に出てこい、一緒にやろうって。それでも本人が諦めかけたこともあったけど。成功する根拠はないから、僕が「メロディがすごく良い」と評価しても、本人から「嘘つけ!」と言われたらどうしようもない。でも結局、やってみるしかないんですよ。そのときに認めてくれる人がひとりでもいるなら、何かしらの可能性があるんだと思って。
──根拠はなくても、村田さんとしては心の底では「こいつは売れなきゃおかしい」と思っている?
村田 正直、ヒゲドライバーはここまで売れるとは思ってなかった……と言うと問題かもしれないけど。スタートの段階で「こいつは売れる」と思ってやってません。良いモノを持ってるから、「ハマれば何かが起こるんじゃないか?」くらいの感覚。
どちらかというと「売れるべき」よりも「売れてほしい」という願いが強いかもね。売れると思ってやってたことはないけど、自分を信じてついてきてくれたから、売らなきゃいけいし、裏切れない。
村田 全然してないでしょ。
──成功するために、具体的に何が必要なんでしょうか?
村田 何だろう……。個々に感じてることは違うけど、全員に共通するのは、「人を巻き込む力」が足りないこと。誰かに、「応援してあげたい」という感覚を強力に抱かせるあの感じが足りない。
でももしかすると、作家業をしたことで生活に余裕が生まれちゃうのかもね。
ストイックさはあるんだけど……出てない、というか。「なぜ自分はアーティストとして売れたいのか?」という根底の気持ちを持ってはいるけど、出せてない。それを前面に出すかの是非は別として、僕としては出したほうが愛されると思う。今は中途半端なんだよ。
人となりもクリエイティブも、それぞれが魅力的ではあるんだけど、若干余裕がありそうな感じがして、それがつまらないのかもしれない。
──そこには矛盾がありますよね。生活させるためには作家業が必要だけど、それで余裕ができてしまうがゆえにアーティストとしては売れづらくなっているという。
村田 矛盾してることは自分でもわかってる。でも例えば、声優さんは実家がお金持ちな人が多いそうじゃない?
──……そうなんですか?
村田 そう聞いてます。俳優や声優になるための専門学校に、自分のお金で通ってる人もいる一方で、親に援助してもらっている人も相当数いるそうです。でも、結局売れる人は売れるから、そう考えると、やっぱりお金の出どころに起因する飢餓感というのは関係ないのかもしれない……。
ただ、事実として、うちのアーティストについては、作家業くらいのハングリー精神が、アーティスト業からは見えてこないというのは一番正しいんじゃないかな。作家業のときは「もっと良い曲つくってやろう!」とかギラついているのに、自分が前に出た途端、そういう意識が極端に少なくなるのが問題なんだと思います。
頼んでくれる人がいたほうが、つまり、何かを返す対象がいたほうがやりやすいのはわかるんだけどね。依頼されたときは、ライブでの魅せ方・盛り上げ方も考えながら作曲するんだけど、自分の曲だとやらなくなる。
アーティスト業の場合、クライアント、つまり要請してくれる他人がいないから、「自分がやらなきゃいけないんだ」ということに対して、リアルな感覚になれていないのかな。本来は、自分の曲に一番注力しなきゃいけないと思うんだけど。
商業的な仕事のやり方をしろとは言ってないけど、もうちょっと考えたほうがいい気がする。
──アーティスト業の場合、最終的に責任を負うのが自分だから、ということで甘えが出てしまう?
村田 それ! たぶんその通りだと思います。人の曲を手がけるほうが責任感は生まれやすいじゃん。
「甘え」という言い方が正しいかわからないけど、作家業における誰かの何かを背負う感覚を、もう少し自分のアーティスト業に回帰させることができれば、うまくいくのかなって、いまKAI-YOUさんから教わった気がします(笑)。
村田 僕はもともと、ボーカロイドが登場したときに、クリエイターがよりメジャーに注目される時代になるって信じてたけど、実際はそうはならなかったんですよね。結局は、ファンの興味や関心は「初音ミク」というキャラクターに集約されてしまったような印象がある。
supercellや米津(玄師)くん、livetuneとか、そこからアーティストとして知られるようになった人もいるけど、市場の大多数はクリエイターまで見てないなって思う。
最近はCDを買うことも減ってるから、ますます作詞や作曲のクレジットが世に出づらい状況ではある。SpotifyやApple Musicで音楽を聞いてて「この曲、誰がつくったんだろう?」と思わないよね。
Perfumeを聞いて「なんだこれ!誰がつくってるんだ?」って調べて、「中田ヤスタカ? capsuleもやってるのか」から「好き!」に行き着くのが本当は理想だよね。だから中田さんが最近、歌手とコラボした時に意識的に「中田ヤスタカ feat. 〇〇」と打ち出してるのは、正解なのかもしれない。クリエイターがまず先に立っている。
──村田さんの中でのモデルケースとして、作家としてもアーティストとしても成功しているアーティストは、中田さん以外にいますか?
村田 tofubeatsもそうかな? ……まぁネット発の人たちは、クリエイターの名前を出してて、健全だよね。
TOKYO LOGICでも、ヒゲドライバーをはじめ、いろいろな人に曲を書いてるけど、その人のファンがヒゲさんにまで注目してくれるかというと……ゼロではないけど、10でもない。2〜3くらい(笑)。ヒゲドライVAN - 0831 (Music Video)
仮にアイドルだとすれば、基本的にはアイドルが好きで聞いてるわけだから、そこに作詞・作曲っていう生々しい人間の存在はいらないじゃん。アイドルの曲が好きな人たちをわざわざ“楽曲派”と言うけど。
そんな数少ない楽曲派の中には、ゆっぺくんやヒゲさんを掘り起こす人もいるんだよね。そう考えると、掘り起こす楽しさを伝えていくことが、一番大事なのかな。
村田裕作さんは、現在の音楽業界に対してクリエイターへの扱いなども含めた強い問題意識を抱えている。
例えば前述のヒゲドライバーさんは、作曲家として『機巧少女は傷つかない』ED「回レ!雪月花」や『艦隊これくしょん -艦これ-』ED「吹雪」など、アニメファンなら知っている大ヒットソングを生み出した。しかし、アーティスト「ヒゲドライバー」としての知名度や本人名義でのCDの売り上げは、作曲を手がけたアニソンに遠く及ばないという現実もある。 ゆよゆっぺさんも、作家として今や世界で活躍するBABYMETALの「KARATE」などを作詞作曲したが、ベビメタファンのうち何割がその名前を知っているかだろう。 レーベルの解散、立ち上げ、そして運営──あらゆる場面を経験する中で、村田さんは、クリエイターへのリスペクトの欠如と、メーカーやメディアなど音楽の周囲を取り巻く環境変化とそれに対する怠慢が横たわっていると語る。
いまの音楽業界には何が足りないのか。その大きな問いに対する答えを、TOKYO LOGICの活動を通じて紐解く今回のインタビュー。所属アーティストに対しても「成功とは言えない」と断言する村田さん。その刺激的で鋭利な言葉の端々から、音楽ビジネスの本質が見えてくる。
取材:新見直 構成:恩田雄多
マネジメントとは「その人の人生を背負う」こと
──改めて、TOKYO LOGICを設立した経緯を教えてください。村田裕作(以下村田) 2011年まで、音楽レーベル「LOiD」を運営していました。けど、運営会社が親会社のavexに吸収される時、レーベルは潰してCDも廃盤が決まって。ネット系のクリエイターを引っ張ってきてそれなりに売り上げを出していたのに、会社の事情で解散とか絶句って感じでした。
そのあとフリーで少し活動して、TOKYO LOGICを立ち上げたのが2012年だから、もう6年目になるのかぁ。 ──最初から所属していたアーティストはヒゲドライバー、ゆよゆっぺ、マチゲリータの3人ですか?
村田 そう。レーベルの解散にあたって、関係したアーティストには「いまのボカロシーンの盛り上がりを考えるとLOiDはボカロやネットクリエイター中心のレーベルだったから、いろいろなところから声がかかると思うけど、好きなところに行っていい」って伝えてました。
結果的に、3人が残ってくれたけど、もし誰も残らなかったら……極端な話、音楽にこだわらなくてもいいかなとも思ってた。
当時はまだ20代で、自分だけが生きていくという意味ではどんな仕事でもあるから、あまり気にしてなかった。だから、3人が残ってくれたからこそ、今も音楽に携わっている、と言えるのかもしれない。
──LOiDが解散した時点で「誰も引き取らない」という選択もできたと思いますが。
村田 これはTOKYO LOGICという社名の由来にも関わってくるんですけど、まあ人情だね。僕、東京こそ人情味があると思ってるから。 そんな東京から発信することを示したかったから、社名に「東京」は絶対入れようと思っていて。あとはLOiD時代に「LOiD’s LOGiC」というコンピレーションのタイトルをつけたことがあって、その響きが好きだった。“東京から発信するやり方・倫理”というのが面白そうだなと。
僕は東京生まれ東京育ちで、東京民って言っても親は下町が地元だし。「東京の人は冷たい」とか言うけど、気取ってるのはむしろ地方から出てきた人たちでしょって思う。怒られそうだけど(笑)。
そもそも人情がなかったらこんな仕事やってないっすよ!
──当初は3人のアーティストから始まって、bakerさんやHeart’s_Cryさん、ゆよゆっぱさん、カラスヤサボウさんが加わりました。
村田 実はもっといるんだよね。Massive New Krewとか風雅なおとさんとか……全部合わせると13~4組くらいかな。
──なぜこのメンバーなんでしょうか? 共通点は?
村田 仲が良い(笑)。
──やはりそこは大切なんですね。
村田 自分の信条でもあるけど、マネジメントするということはその人の人生を背負うということでしょ。そしたら、本人の人となりを知ってないと背負えるわけない。
ありがたいことに「入れてください」とか「仕事振ってください」って言ってくれる人もいるけど、その人のこと知らなかったら「無理です」と答えるしかない。
食わせられなかったときの責任を負わなきゃいけないし、相手にもうちの責任を負ってもらわないといけない。一緒にやるってことはそういうことだから。
──ただ、商業の音楽レーベルとしては、その人のクリエイティブが優れていれば、人となりは二の次という判断もあると思います。
村田 そんな人間を扱える自信はない。クリエイティブは良いけど、破滅的な生活をしてる人がいるとして、もしその人が死んでしまったら自分は後悔することになるから。
もちろん、“才能に惚れた!”みたいな出会いがあったらいいと思いますよ。でも、実際に仕事していて感じるけど、そういう出会いって本当に少ないよ(笑)。
ヒゲドライバーがここまで売れると思ってなかった
──TOKYO LOGICのアーティストは全体的に、いわゆる売れ線を狙っていないような気がします。例えば、ボカロ「KAITO」の中の人と古参ボカロPのbakerさんとのアコースティックユニットとか、ゆよゆっぺさんがシンガーソングライターとしてCDをリリースしたりとか、失礼ですがマニアックですし、売る側が「売れ線だ」とは思っていないように感じるのですが。 村田 うん、本人がやりたいって言ったからね。
──「やりたいからやらせる」というのは英断ですが、リスクは高いのでは?
村田 リスクは高いねぇ……。
でも、ゆっぺくんやヒゲさん、マチゲくんには特に、立ち上げから助けてもらってるし、自分が助けた面もなくはない。そんな関係性があるからこそなんじゃないかな。bakerさんなんかは、以前いた会社が解散した後に、自分にもっとこういう事学んで来い!って言ってくれた人だから。そんな関係性があるからこそなんじゃないかな。
基本的に本人の「やりたい!」って意志は尊重する。ただ、それによって負うリスクはアーティスト自身にもあるってことは伝えるようにしてる。本人たちはわかってると思うけど、数字が残せなかったら、次の仕事はないかもしれないから。
実際、業界的にヒットしているアーティストは、狙ってやったというよりも、やりたいことを突き詰めた人が多い気がします。狙ってうまくいったケースってあるのかもしれないけど、自分はあまり知らないかも。
──だからこそ非常に怖いなと思います。音楽に限らず、狙って当てるのが難しい一方で、売上を立てるためにやり続けなくてはいけない。何の確証も根拠もない中で、ひたすらバットを振り続けるのは過酷です。そういう現実を、アーティストにどうやって説明しているんですか?
村田 例えばヒゲドライバーの場合は、死ぬほど説得した(笑)。東京に出てこい、一緒にやろうって。それでも本人が諦めかけたこともあったけど。成功する根拠はないから、僕が「メロディがすごく良い」と評価しても、本人から「嘘つけ!」と言われたらどうしようもない。でも結局、やってみるしかないんですよ。そのときに認めてくれる人がひとりでもいるなら、何かしらの可能性があるんだと思って。
──根拠はなくても、村田さんとしては心の底では「こいつは売れなきゃおかしい」と思っている?
村田 正直、ヒゲドライバーはここまで売れるとは思ってなかった……と言うと問題かもしれないけど。スタートの段階で「こいつは売れる」と思ってやってません。良いモノを持ってるから、「ハマれば何かが起こるんじゃないか?」くらいの感覚。
どちらかというと「売れるべき」よりも「売れてほしい」という願いが強いかもね。売れると思ってやってたことはないけど、自分を信じてついてきてくれたから、売らなきゃいけいし、裏切れない。
作家業で生まれる余裕がつまらない
──売れてほしいと思う一方で、村田さんは以前から所属アーティストに対して、「(楽曲などをアーティストに提供する)作家としては実績を積み上げているけど、アーティストとしては成功していない」とおっしゃっています。村田 全然してないでしょ。
──成功するために、具体的に何が必要なんでしょうか?
村田 何だろう……。個々に感じてることは違うけど、全員に共通するのは、「人を巻き込む力」が足りないこと。誰かに、「応援してあげたい」という感覚を強力に抱かせるあの感じが足りない。
でももしかすると、作家業をしたことで生活に余裕が生まれちゃうのかもね。
ストイックさはあるんだけど……出てない、というか。「なぜ自分はアーティストとして売れたいのか?」という根底の気持ちを持ってはいるけど、出せてない。それを前面に出すかの是非は別として、僕としては出したほうが愛されると思う。今は中途半端なんだよ。
人となりもクリエイティブも、それぞれが魅力的ではあるんだけど、若干余裕がありそうな感じがして、それがつまらないのかもしれない。
──そこには矛盾がありますよね。生活させるためには作家業が必要だけど、それで余裕ができてしまうがゆえにアーティストとしては売れづらくなっているという。
村田 矛盾してることは自分でもわかってる。でも例えば、声優さんは実家がお金持ちな人が多いそうじゃない?
──……そうなんですか?
村田 そう聞いてます。俳優や声優になるための専門学校に、自分のお金で通ってる人もいる一方で、親に援助してもらっている人も相当数いるそうです。でも、結局売れる人は売れるから、そう考えると、やっぱりお金の出どころに起因する飢餓感というのは関係ないのかもしれない……。
ただ、事実として、うちのアーティストについては、作家業くらいのハングリー精神が、アーティスト業からは見えてこないというのは一番正しいんじゃないかな。作家業のときは「もっと良い曲つくってやろう!」とかギラついているのに、自分が前に出た途端、そういう意識が極端に少なくなるのが問題なんだと思います。
頼んでくれる人がいたほうが、つまり、何かを返す対象がいたほうがやりやすいのはわかるんだけどね。依頼されたときは、ライブでの魅せ方・盛り上げ方も考えながら作曲するんだけど、自分の曲だとやらなくなる。
アーティスト業の場合、クライアント、つまり要請してくれる他人がいないから、「自分がやらなきゃいけないんだ」ということに対して、リアルな感覚になれていないのかな。本来は、自分の曲に一番注力しなきゃいけないと思うんだけど。
商業的な仕事のやり方をしろとは言ってないけど、もうちょっと考えたほうがいい気がする。
──アーティスト業の場合、最終的に責任を負うのが自分だから、ということで甘えが出てしまう?
村田 それ! たぶんその通りだと思います。人の曲を手がけるほうが責任感は生まれやすいじゃん。
「甘え」という言い方が正しいかわからないけど、作家業における誰かの何かを背負う感覚を、もう少し自分のアーティスト業に回帰させることができれば、うまくいくのかなって、いまKAI-YOUさんから教わった気がします(笑)。
「ボカロ以降、クリエイターが注目される時代に」ならなかった
──アーティストがアーティストとして売れてほしいという意味では、作曲家や作詞家など、クリエイター側にスポットが当たることも必要なのではないでしょうか?村田 僕はもともと、ボーカロイドが登場したときに、クリエイターがよりメジャーに注目される時代になるって信じてたけど、実際はそうはならなかったんですよね。結局は、ファンの興味や関心は「初音ミク」というキャラクターに集約されてしまったような印象がある。
supercellや米津(玄師)くん、livetuneとか、そこからアーティストとして知られるようになった人もいるけど、市場の大多数はクリエイターまで見てないなって思う。
最近はCDを買うことも減ってるから、ますます作詞や作曲のクレジットが世に出づらい状況ではある。SpotifyやApple Musicで音楽を聞いてて「この曲、誰がつくったんだろう?」と思わないよね。
Perfumeを聞いて「なんだこれ!誰がつくってるんだ?」って調べて、「中田ヤスタカ? capsuleもやってるのか」から「好き!」に行き着くのが本当は理想だよね。だから中田さんが最近、歌手とコラボした時に意識的に「中田ヤスタカ feat. 〇〇」と打ち出してるのは、正解なのかもしれない。クリエイターがまず先に立っている。
──村田さんの中でのモデルケースとして、作家としてもアーティストとしても成功しているアーティストは、中田さん以外にいますか?
村田 tofubeatsもそうかな? ……まぁネット発の人たちは、クリエイターの名前を出してて、健全だよね。
TOKYO LOGICでも、ヒゲドライバーをはじめ、いろいろな人に曲を書いてるけど、その人のファンがヒゲさんにまで注目してくれるかというと……ゼロではないけど、10でもない。2〜3くらい(笑)。
そんな数少ない楽曲派の中には、ゆっぺくんやヒゲさんを掘り起こす人もいるんだよね。そう考えると、掘り起こす楽しさを伝えていくことが、一番大事なのかな。
この記事どう思う?
1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:1779)
ボーカーロイドを通して、クリエイターが注目される
いや、されなかったと書かれているのは個人の世界観のみ、個人の感想である。
もちろん人気のない曲や、作詞家は注目されない事は当然であるが、
ふと立ち寄った曲の作曲家を見る事はある、その曲を気に入ったらそのクリエイターを好きになるのは必然であり、初音ミクだから、音楽アプリで軽々流れるからと、クリエイターを無視する風潮は全くない。
むしろそのクリエイターと視聴者の関係の築きやすさを好むユーザーは多く、その良点こそがボーカーロイドの良さである。