鳥山明が描いてきた『ドラゴンボール』の最大の魅力は、強さがシンプルなことだ。「銀河何個分かの果てに出逢えた」 前前前世/RADWIMPS(2016)
弱いやつが工夫を凝らして強いやつを倒すのではなく、単純に強いやつが強い。すなわち、戦闘力の高い方が勝つのである。
そんな『ドラゴンボール』は、原作漫画が終わった後もアニメによってその続きが語られてきた。続編である『ドラゴンボールGT』が最終回を迎え、これ以上続きが描かれることはないだろうと思いながら、僕は少年から大人になった。
そのため、それから18年の時を経て発表された完全新作のTVシリーズ『ドラゴンボール超』がはじまった時は戸惑いを隠せなかった。
文:母野宮子(ハハノシキュウ)/編集:かまたあつし、ふじきりょうすけ
『ドラゴンボール超』に至るまでの前日譚
彼は『ドラゴンボールGT』に、ほとんど関わっていないという話は有名だ。だからこそ『ドラゴンボール』という物語のアフターフューチャーはまったく予想がつかなくなるのである。
なぜなら、『ドラゴンボールGT』が『ドラゴンボールZ』の最終話の5年後の世界の話であるのに対し、『ドラゴンボール超』は『Z』の最終話よりも数年前の話になる。そして『Z』は最終話とその1つ前の話のあいだで5年の月日が流れている。『超』はその空白期間の話だからだ。
つまり時系列に沿って並べると、『Z』→『超』→『Z』の最終話→『GT』という形になる。しかし、後にもう1度言及するが、こうして並べられるほどこの話は単純ではない。
とにかく、僕が両手を上げ、元気をわけてもらいながら話がしたいのは、結局“『ドラゴンボール』は誰が一番強いのか?”って話である。
というのも、この『ドラゴンボール超』は、これまで数々の作家が生み出してきたバトル漫画におけるインフレの歴史を軽く凌駕しているからである。
※以下、『ドラゴンボール超』のネタバレを多分に含みます
12個の宇宙で繰り広げられる物語
まず『ドラゴンボール超』の世界では、宇宙は全部で12個ある。未見の方には「いきなり何を言ってるんだ?」と思われてもしょうがないが、これは事実なのできちんと提言しておく。宇宙は全部で12個ある。※これは『とっても!ラッキーマン』について書いた記事ではありません。
まずはこの宇宙が12個あるという話に追いつくために、『ドラゴンボール超』のストーリーを整理したいと思う。2016年10月時点で、物語はここまで進行している。
『神と神』編、『復活の「F」』編は、『ドラゴンボール超』がはじまる前に公開された映画2本分を再構成した話だ。『神と神』編
『復活の「F」』編
『破壊神シャンパ(第6宇宙)』編
『“未来”トランクス』編 『ドラゴンボール超』エピソード一覧
原作漫画最大の敵である魔人ブウを倒し、平和に戻った世界から数ヶ月後、地球破壊を目論むビルスとスーパーサイヤ人ゴッドに変身した孫悟空が死闘を繰り広げる『神と神』編。
ただし、いずれも悟空は圧勝では終わらない(それどころか、フリーザには地球を破壊されてしまっている)。だから、また新たな修行の日々を繰り返すのだ。
そして、ついに誰も知らない新作ストーリーがはじまる。
待望の完全新作『破壊神シャンパ(第6宇宙)』編
続く『破壊神シャンパ(第6宇宙)』編では、破壊神ビルスに双子の弟がいることが判明する。その弟はシャンパといい、ビルスの住む第7宇宙の隣に位置する第6宇宙で破壊神を務めている。ここが新たな話のスタート地点であり、冒頭で述べた通り、宇宙が12個あると説明される。また、この宇宙は1と12、2と11、3と10といった具合に2つの宇宙が対になる関係にあり、第6宇宙と第7宇宙が1組として成立している。
ビルスとシャンパは非常に仲が悪い。そんな破壊神の2人による兄弟喧嘩が発展していき、2つの宇宙で選りすぐりの戦士を5人ずつ用意し、勝ち抜き戦を行い、勝った方が「超ドラゴンボール」で願いを叶えられるという話へと展開するのだ。
ここで突発的に登場した「超ドラゴンボール」というアイテム。これはドラゴンボール1つが惑星1つ分という超(スーパー)な大きさであり、その大きさを裏切らないレベルで“どんな”願いも叶えられるのだという。
詳細は割愛するが、幾度の戦いを経て、悟空たちのいる第7宇宙の勝利となり、ビルスが願いを叶える権利を得る。そこでビルスが願ったのは、シャンパの第6宇宙にある人類が絶滅した地球の復活だった。
※これはおそらく未回収の伏線であり、復活した第6宇宙の地球から悟空やベジータによく似たキャラクターが登場すると思われる。また悟空と戦った殺し屋・ヒットは、成長することを覚えたため再登場時にはかなり強くなっていることが予想される。
そして、オチとして、この宇宙を跨いだ団体戦を俯瞰していた12の宇宙の頂点に立つ全王様が登場する。
ここで全王様が「12ある全ての宇宙の戦士を集めて武道会を開催しよう」ということを言い出したため、インフレの風呂敷の大きさは、とんでもないものになってしまうわけである。
パワーインフレを整理する
悟空たちが住んでいるのは第7宇宙であり、おそらく第7宇宙で1番強いのは悟空よりも強い破壊神ビルスよりも強い付き人のウイスであると推測できる。その隣にある第6宇宙で1番強いのは、殺し屋のヒットよりも強い破壊神シャンパよりも強い付き人のヴァドスだと同じように言える。
第10宇宙については、「"未来"トランクス編」で話が進んでおり、これがのちの物語に大きな影響してくる可能性が高い。
そして、全12の宇宙を束ねているのが全王様であり、その全王様のもとで案内役として働く大神官に対し、ウイスがこういう発言をしている。
「大神官様の強さは全宇宙の5本の指に入るお方。私なんて足元にも及びませんわ」
ちなみに、全王様自身の戦闘力はまったくの不明だが、なぜか「悟空と友達になりたい」という話をしている。
パラレルワールドを肯定した未来トランクス
これは、悟空の姿をした謎の敵・ゴクウブラックと手を組んだ第10宇宙の界王神見習いであるザマスとの戦いを描く物語だ。それと同時に、『ドラゴンボール』世界におけるパラレルワールドの肯定だと僕は思っている。
ここで、よく言われている「スーパーサイヤ人ブルーとスーパーサイヤ人4ではどちらが強いのか?」という議題に僕なりのオチをつける。
悟空とベジータが時系列通りに強くなっていくのであれば、「スーパーサイヤ人4の方が強い」というのが模範解答だが、実はそうではない。
『ドラゴンボール超』に続く『ドラゴンボールGT』の世界線は、破壊神ビルスが長い眠りから目覚めなかった世界線なのだと僕は考える。
つまり『ドラゴンボール超』の中盤に“未来”トランクスを登場させることにより、よりはっきりとパラレルワールドの存在を肯定しているわけである。
※というか、すでにこの2つの物語には矛盾点が生じている。例えば、『GT』における最後の敵はドラゴンボール本体に宿る超一星龍(イーシンロン)だが、その存在を認めるとなると、「超ドラゴンボール」の存在を時系列的に無視できないからである。つまり、『ドラゴンボールGT』では、孫悟飯とビーデルの娘・パンが成長し10歳になるまでのあいだ地球は平和だったことになる。そのため、この2つの強さは相対的な天秤には乗せられない関係にある。
少し補足すると、破壊神ビルスは、のちに「超ドラゴンボール」の力で不老不死を手に入れ「人間0計画」を実行に移す前のザマスを破壊し、「“未来”トランクスの世界は平和になった」と断言する。だが、実際に“未来”トランクスの世界線の未来に戻ると、そこでのザマスとゴクウブラックは健在なのである。
これにより、過去が未来やパラレルワールドに干渉できないことを強調している。
パワーインフレの止まらない『ドラゴンボール超』
ゴクウブラックの正体は、別の世界線のザマスが「超ドラゴンボール」で悟空と身体を交換した姿であることが明かされる。そして、このゴクウブラックとザマスは「“未来”トランクスの世界の神を全て皆殺しにした」と言っている。この理屈だけで推測すると「最強はゴクウブラックとザマスの2人だ」という結末になってしまうが、実はそこまで単純ではない。神を殺すには幾つかのルールがあるらしく、そのルールを理解した上で殺害することを可能にしている。
現在、明かされているルールは2つ。「界王神が死ねば破壊神も死ぬ」「破壊神が死ねば、天使(付き人のことである)は破壊神が復活するまで一切の活動ができない」というもの。
つまり、破壊神に比べて戦闘力の低い界王神をターゲットに絞れば皆殺しも不可能ではないのである。
※両手を上げたままでこの記事を書いている現在の僕は、翌週にゴクウブラックとザマスが合体するという事実をまだ知らずにいる。
ここからは、僕の解釈でさっきの風呂敷をさらに広げてみようと思う。冒頭で述べた通り、この世界には12の宇宙がある。
だが、その12の宇宙から最強の戦士を集めたとしても、悟空たちの世界線に住む戦士たちが最強だとは限らない。各々の宇宙において想定できるすべてのパラレルワールドの中から最強の戦士を選りすぐらない限り、全王様は満足しないのではないだろうか?
そして、最終的に物語の核を担うのは、『ドラゴンボール超』というタイトルのごとく登場する「超ドラゴンボール」の効力だと僕は思う。
「“どんな”願いでも叶う」の「どんな」には、今のところ文字通り制限がないという描写が続いている。判明しているものだと、前述したようにビルスが第6宇宙で地球を復活させたり、ザマスを不老不死にしたりしている。
かつて「どんな願いでも叶う」と言っていたにもかかわらず、フリーザを倒せなかった元祖ドラゴンボールであるが、この願いのインフレにも大いに注目したい。
それと同時に、そんな元祖ドラゴンボールの中に宿る超一星龍(イーシンロン)が最強の敵とされてきた『GT』の理屈に沿って考えるのであれば、「超ドラゴンボール」の中にも強力な敵が宿っていても何ら不思議ではない。
そう考えると「スーパーサイヤ人ブルーとスーパーサイヤ人4ではどちらが強いのか?」の問いの答えもいずれは導き出せると思う。
「超ドラゴンボール」の中に眠っているであろう強力な敵を倒す『ドラゴンボール超』世界の悟空が一番強く、そこから逆算すると次第に答えが見えてくるからだ。
そして、その時の悟空の形態が果てのないインフレに終止符を打つのではないだろうか? ※記事初出時、一部記述に誤りがあったため訂正いたしました。
この記事どう思う?
番組情報
ドラゴンボール超
- 放送日時
- フジテレビほかにて毎朝日曜朝9時放送中
- ※地域により放送時間が異なります。
【スタッフ】
原作・ストーリー&キャラクター原案
鳥山 明
プロデューサー
野﨑 理(フジテレビ)
佐川直子(読売広告社)
木戸 睦
シリーズディレクター
地岡公俊
キャラクターデザイン
山室直儀
制作
フジテレビ
読売広告社
東映アニメーション
【キャスト】
孫悟空・孫悟飯・孫悟天:野沢雅子
ベジータ:堀川りょう
ブルマ:鶴ひろみ
トランクス:草尾毅
ピッコロ:古川登志夫
亀仙人:佐藤正治
クリリン:田中真弓
チチ:渡辺菜生子
ビーデル:皆口裕子
ミスターサタン:石塚運昇
魔人ブウ:塩屋浩三
ビルス:山寺宏一
ウイス:森田成一
ナレーション:八奈見乗児
関連リンク
ハハノシキュウ
ラッパー
青森県弘前市出身のラッパーであり、作詞家、コラムニストなどの顔も持つ。MCBATTLEにおける性格の悪さには定評があり、優勝経験の少なさの割には高い知名度を誇っている。2015年にはおやすみホログラムとのコラボをはじめ、8mm(八月ちゃんfromおやすみホログラム×MC MIRI fromライムベリー)の作詞を手掛け、アイドル界隈でもその知名度を上げている。また、KAI-YOUにてMCBATTLEを題材にしたコラムの連載を開始、文筆の世界においても実力に伴わない知名度を上げようとしている。現在、処女作『リップクリームを絶対になくさない方法』、DOTAMAとのコラボアルバム『13月』に続き、おやすみホログラムのプロデューサーであるオガワコウイチとのコラボアルバムを製作中。
連載
クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。
2件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:1480)
そして、その時の悟空の形態が果てのないインフレに終止符を打つのではないだろうか?
身勝手の極意がそうですね
CKS
面白すぎるがな 笑いすぎてエラ骨痛いわ