アニメーター/イラストレーターのmebaeさんが生み出したコンテンツ「罵倒少女」が、大きなプロジェクトとして動き始めました。
2015年、カイカイキキに所属するmebaeさんがTwitterに投稿した、罵倒を浴びせる美少女のイラストとして生まれた「罵倒少女」。その反響は大きく、感銘を受けた他のユーザーが、ハッシュタグ「#罵倒少女」とともにイラストを投稿して、注目を集めました。
そんな中、mebaeさん自身の作品群は、同人サークル・めばえあにめを通じた頒布を経て(『罵倒少女#1』『罵倒少女#2』)、カイカイキキとpixiv、そしてソニー・ミュージックエンタテインメントによる一大プロジェクトがスタート。8月にKADOKAWAから発売される書籍を皮切りに、この夏にはコミックマーケットへの出展(『罵倒少女#3』)も予定されています。
書き下ろしのセリフが加わった罵倒は、原作からボリュームもパワーも格段にアップ。それらを放つ美少女・素子の声を担当するのは、『天元突破グレンラガン』ヨーコ役や『進撃の巨人』アルミン役などで活躍する人気声優の井上麻里奈さん。
果たしてどんなプロジェクトになるのか気なるところですが、井上さんによる罵倒アフレコが行われるということで、当日の現場に潜入してきました。 撮影:市村岬
序盤から「豚!」「クズ!!」「ウゼェ!!!」など、井上さんから放たれる強烈な罵倒の数々。対して、mebaeさんからは「憎悪を込めて。もっと!」「(お前は)“豚でしょ”って教えてあげる感じで」と、罵倒を快感に感じる豚に刺さるように、細かなディレクションが入ります。
これほどまで多くの罵倒の収録は、スタジオにいたスタッフ・関係者全員が初体験。「“もっと厳しく罵倒してください”なんて指示、初めてですよ」というmebaeさんを筆頭に、音響監督も「指示、出しづらいな……(笑)」と難しさを感じているようでした。 井上さんも、膨大な罵倒には「こんなにパターンがあるんだ!」と感心。
「私自身、声優としていろいろな罵倒をしてきたんですけど、また新たなワードに出会うことができて、勉強になりました(笑)」(井上麻里奈さん)
「素子の罵倒は厳しいものばかりですけど、相手に対して、何らかの感情があるからこそ生まれるものだろうと思いました。自分の悪い点を指摘してくれて、自分への戒めとなるような、愛のある罵倒ならアリだなと」(井上麻里奈さん) 当然、ディレクションは徐々に少なくなり、一発OKを連発。「言ってほしいポイントにどストライク! (コツを)めちゃくちゃつかんできてますね!」「“うざい”が良すぎる!!」と、スタジオ内の20人近い大人に不思議な一体感(と豚)が生まれ始めました。
mebaeさん自身も、セリフひとつひとつに笑みがこぼれます。井上さん曰く「収録したセリフの中で心底そう思った」という「ロリコンは人間のクズ」、さらにはシンプル is ベストな「うるせえな、豚野郎」に対して即座に「すばらしいっ!」と反応。終盤には、「こっちのほうがより“豚”に刺さる」と、その場でセリフを変更するなど、こだわりを余すことなく注ぎ込んでいました。
「自分もそうなんですけど、罵倒されるのって楽しいですよね。一般的な人がイラッとしてしまう内容でも、快感に変えることができる。むしろ、“(罵倒を)前向きに捉えられる自分、気持ちいい”みたいな(笑)。そういう意味では、すごく生きやすいと思います」 そんな井上さんは、「罵倒されて気持ちいい人は、人生が2倍楽しめる」としたうえで、「本当だったら、罵倒を反省に活かしたほうがいいんでしょうけど……反省しない豚も、いいかな」と、最後にこれ以上ない一言で締めくくってくれました。
「私は、豚を肯定していきたいです」
mebae 井上さんによる素子はまさにイメージ通りでした。特に「変態」というフレーズは、言われたら即「はいっ!」と反応してしまう、黄金率のようなすばらしさを感じました。
井上さん自身が、罵倒される側だからこそ、「こう言ってほしい」というのがわかるんでしょうね。そんな井上さんの「豚を肯定していきたい」というコメントには、心打たれました。なんだか救われた気がします。もちろん、否定は否定で救われるんですけどね。
──声がついたからこその新たな発見はありましたか?
mebae 収録にあたって追加した中では、「明日はもっとやる気出せよ、豚」の言い方が、応援と罵倒が一体となった新しい罵倒の可能性を感じました。
──そもそも、「罵倒少女」が生まれたきっかけは何だったんでしょうか?
mebae 普段、仕事で書籍のカバーイラストを描くときは、かわいい女の子がニコッとしてたり、頬を赤らめてたりと、ほとんどが見る側に対して好意的なんです。一方で、世の中には、自分も含めて、眉間にしわを寄せた本当に嫌そうな顔でも、癒される人もいるんじゃないかと。
そういった作品が自分の欲しいかたちで現実になかったので、それなら自分で描こうと思ったのがきっかけです。描いてみたら、思った以上に反響があって、自分と同じような人がいるんだなと(笑)。 ──完全に趣味で始めた「罵倒少女」が、他のイラストレーターの方々にも広がり、同人サークルでの頒布や書籍化を経て、大きなプロジェクトとして動き始めました。
mebae 個人的に、まだまだ広がると思っています。とはいえ、(罵倒されて喜ぶ)“豚”を増やしたいとは思っていません。見たくない人には見せないようにしたいですし、無用に人を傷つけたくないので。傷つけたいわけではなく、癒やされてほしいんですよ。
……なんか変なこと言ってますか?
──いえ、全然大丈夫です。なぜ豚は、罵倒されることで癒されるんでしょうか?
mebae 自分に自信がない人が抱く「俺、本当はこんなにダメなのに、なんでみんなわかってくれないんだ」という感情が、直接「お前はダメだ」と言われることで腑に落ちるという。「そうなんだよ。俺、ダメなんだよ」って。それが、癒やしにつながっているんだと思います。
──そういう意味では、いわゆるSやMといった概念を超えた話かもしれません。
mebae そうなんですよ。趣味・嗜好だけの話ではなく、普遍的な感情もあるような気がして、それならもっと多くの人にも通じるものがあるんじゃないかと。かといって、みんなを豚にしたいわけでも、罵倒したいわけでもありません。
──プロジェクトとして、映像化などの構想はあるんでしょうか?
mebae あったらいいですね。実写ドラマ化とか。家族や親戚に、「俺、女の子から罵倒されるドラマの原作者なんだ」って言ったり、「新刊なんだ」と得意気に罵倒本を渡したり……基本的に、冷たい視線を返されるというのがセットなんですけどね。
否定によってもたらされるポジティブな感情は、決して一般的ではないかもしれません。とはいえ、至ってノーマルな筆者個人としても、そうした感情の変化に一種のうらやましさを抱いてしまうことがありました。
井上麻里奈さんの熱演やmebaeさんのドロっとした熱情を通して、傍観者でしかなかった自分に喚起された複雑な感情に身を委ねた一瞬、コミュニケーションの奥深さを感じると同時に、「あぁ、豚になるってこういうことなのか」という全身を貫く深い理解と抗いがたい恍惚が押し寄せてきた瞬間があったことだけは、ここに書き記しておきたいと思います。
ソニー・ミュージックエンタテインメント・pixiv・カイカイキキという3社によって本格始動した「罵倒少女」。プロジェクトリリースとなる8月4日12時、コミュニケーションの新たな扉が開かれることになりそうです。
原作のmebaeさんによるサイン入り「罵倒少女」色紙を2名の方に、8月12日(金)から3日間に渡って開催される「コミックマーケット90」で配布される予定の「罵倒少女」ステッカー(サインは入りません)を5名の方にプレゼント! Twitterアカウント「@KAI_YOU_ed」をフォローしたうえで、この記事のURLを「#罵倒少女」というハッシュタグをつけてツイートした方の中から、抽選で7名の方に、色紙かステッカーいずれか1枚をプレゼント!
応募期限は8月5日(金)18時まで。後日、当選した方にTwitterのDMにてご連絡いたします。必須要項ではありませんが、ハッシュタグついでにあなたが罵倒されたいセリフをツイートすると関係者(主にmebaeさん)が喜びます。振るってご応募ください。
2015年、カイカイキキに所属するmebaeさんがTwitterに投稿した、罵倒を浴びせる美少女のイラストとして生まれた「罵倒少女」。その反響は大きく、感銘を受けた他のユーザーが、ハッシュタグ「#罵倒少女」とともにイラストを投稿して、注目を集めました。
書き下ろしのセリフが加わった罵倒は、原作からボリュームもパワーも格段にアップ。それらを放つ美少女・素子の声を担当するのは、『天元突破グレンラガン』ヨーコ役や『進撃の巨人』アルミン役などで活躍する人気声優の井上麻里奈さん。
果たしてどんなプロジェクトになるのか気なるところですが、井上さんによる罵倒アフレコが行われるということで、当日の現場に潜入してきました。 撮影:市村岬
「もっと憎悪を!」相次ぐ細かなディレクション
場所は都内某所。外の雨音が聞こえそうなほど静かな雰囲気の中で、アフレコはスタートしました。序盤から「豚!」「クズ!!」「ウゼェ!!!」など、井上さんから放たれる強烈な罵倒の数々。対して、mebaeさんからは「憎悪を込めて。もっと!」「(お前は)“豚でしょ”って教えてあげる感じで」と、罵倒を快感に感じる豚に刺さるように、細かなディレクションが入ります。
これほどまで多くの罵倒の収録は、スタジオにいたスタッフ・関係者全員が初体験。「“もっと厳しく罵倒してください”なんて指示、初めてですよ」というmebaeさんを筆頭に、音響監督も「指示、出しづらいな……(笑)」と難しさを感じているようでした。 井上さんも、膨大な罵倒には「こんなにパターンがあるんだ!」と感心。
「私自身、声優としていろいろな罵倒をしてきたんですけど、また新たなワードに出会うことができて、勉強になりました(笑)」(井上麻里奈さん)
罵倒が響く現場に生まれる不思議な一体感(と豚)
時間の経過とともに、現場の空気は変化……というより徐々にヒートアップ。まるでゾーンに突入したかのように、切れ味を増していく井上さんの罵倒。その鋭さには、音響監督が「今の“バーカ”、ガチでイラッとしましたね」とこぼす場面も。「素子の罵倒は厳しいものばかりですけど、相手に対して、何らかの感情があるからこそ生まれるものだろうと思いました。自分の悪い点を指摘してくれて、自分への戒めとなるような、愛のある罵倒ならアリだなと」(井上麻里奈さん) 当然、ディレクションは徐々に少なくなり、一発OKを連発。「言ってほしいポイントにどストライク! (コツを)めちゃくちゃつかんできてますね!」「“うざい”が良すぎる!!」と、スタジオ内の20人近い大人に不思議な一体感(と豚)が生まれ始めました。
mebaeさん自身も、セリフひとつひとつに笑みがこぼれます。井上さん曰く「収録したセリフの中で心底そう思った」という「ロリコンは人間のクズ」、さらにはシンプル is ベストな「うるせえな、豚野郎」に対して即座に「すばらしいっ!」と反応。終盤には、「こっちのほうがより“豚”に刺さる」と、その場でセリフを変更するなど、こだわりを余すことなく注ぎ込んでいました。
反省しない豚でもいい、私は豚を肯定する
静かに、でも確かな興奮に包まれて、およそ90分間にわたる収録は終了。自身はラジオのコーナーで豚役(罵倒される側)を担当しているという井上さんは、罵倒されて喜ぶ男性についてどう思っているのでしょうか。「自分もそうなんですけど、罵倒されるのって楽しいですよね。一般的な人がイラッとしてしまう内容でも、快感に変えることができる。むしろ、“(罵倒を)前向きに捉えられる自分、気持ちいい”みたいな(笑)。そういう意味では、すごく生きやすいと思います」 そんな井上さんは、「罵倒されて気持ちいい人は、人生が2倍楽しめる」としたうえで、「本当だったら、罵倒を反省に活かしたほうがいいんでしょうけど……反省しない豚も、いいかな」と、最後にこれ以上ない一言で締めくくってくれました。
「私は、豚を肯定していきたいです」
「罵倒」はSやMといった趣味嗜好を超える普遍的概念
──まずは本日の収録を終えて、率直な感想を教えてください。mebae 井上さんによる素子はまさにイメージ通りでした。特に「変態」というフレーズは、言われたら即「はいっ!」と反応してしまう、黄金率のようなすばらしさを感じました。
井上さん自身が、罵倒される側だからこそ、「こう言ってほしい」というのがわかるんでしょうね。そんな井上さんの「豚を肯定していきたい」というコメントには、心打たれました。なんだか救われた気がします。もちろん、否定は否定で救われるんですけどね。
──声がついたからこその新たな発見はありましたか?
mebae 収録にあたって追加した中では、「明日はもっとやる気出せよ、豚」の言い方が、応援と罵倒が一体となった新しい罵倒の可能性を感じました。
──そもそも、「罵倒少女」が生まれたきっかけは何だったんでしょうか?
mebae 普段、仕事で書籍のカバーイラストを描くときは、かわいい女の子がニコッとしてたり、頬を赤らめてたりと、ほとんどが見る側に対して好意的なんです。一方で、世の中には、自分も含めて、眉間にしわを寄せた本当に嫌そうな顔でも、癒される人もいるんじゃないかと。
そういった作品が自分の欲しいかたちで現実になかったので、それなら自分で描こうと思ったのがきっかけです。描いてみたら、思った以上に反響があって、自分と同じような人がいるんだなと(笑)。 ──完全に趣味で始めた「罵倒少女」が、他のイラストレーターの方々にも広がり、同人サークルでの頒布や書籍化を経て、大きなプロジェクトとして動き始めました。
mebae 個人的に、まだまだ広がると思っています。とはいえ、(罵倒されて喜ぶ)“豚”を増やしたいとは思っていません。見たくない人には見せないようにしたいですし、無用に人を傷つけたくないので。傷つけたいわけではなく、癒やされてほしいんですよ。
……なんか変なこと言ってますか?
──いえ、全然大丈夫です。なぜ豚は、罵倒されることで癒されるんでしょうか?
mebae 自分に自信がない人が抱く「俺、本当はこんなにダメなのに、なんでみんなわかってくれないんだ」という感情が、直接「お前はダメだ」と言われることで腑に落ちるという。「そうなんだよ。俺、ダメなんだよ」って。それが、癒やしにつながっているんだと思います。
──そういう意味では、いわゆるSやMといった概念を超えた話かもしれません。
mebae そうなんですよ。趣味・嗜好だけの話ではなく、普遍的な感情もあるような気がして、それならもっと多くの人にも通じるものがあるんじゃないかと。かといって、みんなを豚にしたいわけでも、罵倒したいわけでもありません。
──プロジェクトとして、映像化などの構想はあるんでしょうか?
mebae あったらいいですね。実写ドラマ化とか。家族や親戚に、「俺、女の子から罵倒されるドラマの原作者なんだ」って言ったり、「新刊なんだ」と得意気に罵倒本を渡したり……基本的に、冷たい視線を返されるというのがセットなんですけどね。
罵倒によって開かれる新たなコミュニケーションと豚への扉
井上さん演じる素子による罵倒が凄みを増す一方で、徐々にディレクションが少なくなり、笑みをこぼし始めるスタッフ、これは、人間のフェティシズムの深淵をのぞいている──「罵倒少女」の収録現場は、そんな錯覚に陥りかねない空気が漂っていました。否定によってもたらされるポジティブな感情は、決して一般的ではないかもしれません。とはいえ、至ってノーマルな筆者個人としても、そうした感情の変化に一種のうらやましさを抱いてしまうことがありました。
井上麻里奈さんの熱演やmebaeさんのドロっとした熱情を通して、傍観者でしかなかった自分に喚起された複雑な感情に身を委ねた一瞬、コミュニケーションの奥深さを感じると同時に、「あぁ、豚になるってこういうことなのか」という全身を貫く深い理解と抗いがたい恍惚が押し寄せてきた瞬間があったことだけは、ここに書き記しておきたいと思います。
ソニー・ミュージックエンタテインメント・pixiv・カイカイキキという3社によって本格始動した「罵倒少女」。プロジェクトリリースとなる8月4日12時、コミュニケーションの新たな扉が開かれることになりそうです。
「罵倒少女」プレゼント企画!
最後に、同志諸君(豚)に朗報があります。原作のmebaeさんによるサイン入り「罵倒少女」色紙を2名の方に、8月12日(金)から3日間に渡って開催される「コミックマーケット90」で配布される予定の「罵倒少女」ステッカー(サインは入りません)を5名の方にプレゼント! Twitterアカウント「@KAI_YOU_ed」をフォローしたうえで、この記事のURLを「#罵倒少女」というハッシュタグをつけてツイートした方の中から、抽選で7名の方に、色紙かステッカーいずれか1枚をプレゼント!
応募期限は8月5日(金)18時まで。後日、当選した方にTwitterのDMにてご連絡いたします。必須要項ではありませんが、ハッシュタグついでにあなたが罵倒されたいセリフをツイートすると関係者(主にmebaeさん)が喜びます。振るってご応募ください。
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プロジェクト情報
「罵倒少女」プロジェクト
- リリース
- 2016年8月4日(木)
- 原作・イラスト
- mebae
- 声
- 井上麻里奈
- 制作
- ピクシブ・カイカイキキ・ソニー・ミュージックエンタテインメント…and more
【展開】
・2016年8月12日(金)~14日(日)「コミックマーケット90」ブース出展
・2016年8月10日(水)=罵倒(バトウ)の日 イラスト作品集『罵倒少女』発売(KADOKAWA発行)
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