『Re:ゼロ』MYTH & ROIDインタビュー Tom-H@ckが語る「アニソン市場をぶっ壊したい」の真意

『Re:ゼロ』MYTH & ROIDインタビュー Tom-H@ckが語る「アニソン市場をぶっ壊したい」の真意
『Re:ゼロ』MYTH & ROIDインタビュー Tom-H@ckが語る「アニソン市場をぶっ壊したい」の真意
『けいおん!』をはじめ、数々の主題歌・劇伴を手がけてきたTom-H@ckさんの生み出す圧倒的なサウンドと、そのTom-H@ckさんに見初められ抜擢されたMayuさんの日本人離れした歌声を武器に活動するMYTH & ROID

2015年にアニメ『オーバーロード』のED「L.L.L」でデビュー、アニメ『ブブキ・ブランキ』のED「ANGER/ANGER」を手がけ、『Re:ゼロから始める異世界生活』(以下、『Re:ゼロ』)でも同じくED「STYX HELIX」を担当した。
7月から放送中の『Re:ゼロ』後期では、OPテーマ「Paradisus-Paradoxum」も手がけている。

アニソンの枠に留まらない挑戦的な楽曲を生み出してきたユニットが、今のアニソン業界と未来を見据えて、胸に抱く野望と挑戦──。

取材・構成:須賀原みち 撮影:市村岬

女子校生と作家が出会い、アニメタイアップで人気を博すまでに

──お二人の出会いとユニット結成のきっかけをお教えください。

Tom-H@ck(以下、Tom) 僕が作家(音楽プロデューサー)としてデビューして活動する中で、いろいろな方から「お前はアーティスト活動をやれ」と言われていたんです。それで、一緒にやるボーカリストをずっと探してた。そんな時に、Mayuの事務所の社長さんの仲介で彼女のライブを見て、「これはすごいな。ぜひやらせてください」という話になりました。

Mayu 初めての顔合わせの時はまだ学生だったので、Tomさんとは学校の帰りに制服で会ったんです。待ち合わせに向かう時、すごく緊張していたのを今でもよく覚えています。

──Mayuさんは元々プロを目指していたんですか?

Mayu 小さい頃から「絶対歌手になる」っていうのはずっとありました。自分の曲をつくってバンドをやって、学校の外でライブをしたりしていました。そういった活動の中で、今の事務所の社長に出会ったんです。

──そうして結成されたのがMYTH & ROIDなんですね。2015年にアニメ『オーバーロード』のED「L.L.L」でデビューし、その後、アニメ『ブブキ・ブランキ』のED「ANGER/ANGER」を手がけ、今月後期に突入したアニメ『Re:ゼロ』でもED「STYX HELIX」を担当。いずれも好評を博しています。楽曲をつくるにあたって、『Re:ゼロ』の原作はどの程度読み込まれるのでしょうか?

Tom 基本的にタイアップをする時は、曲をつくる前に必ず原作を読みます。やっぱり作品の世界観がわからないとダメなので。「STYX HELIX」をつくったときは、原作は3〜4巻、ちょうどアニメ前期の終わりぐらいまでは読みましたね。

Mayu 私もお話をいただいたら、毎回作品を読んで内容を把握します。ですので、私たちは作品に対するこだわりや愛情がすごい強いチームだな、と思っています。

──『Re:ゼロ』アニメはどれくらい見ていますか?

Tom&Mayu 毎週、全部見てます。

──好きなキャラはいますか?

Tom 僕は“腸狩り”のエルザが好きです。映画だと『SAW』とか『セブン』といったサスペンスものが好きなので、キャラクターも狂気的なのが好きなんでしょうね(笑)。

エルザ(C)長月達平・株式会社KADOKAWA刊/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会

Mayu 私は最近だとベアトリスちゃんが好きです。自分のやるべきことをきちんとわかっていて、周りの反対があったとしても自分を通すことができる。そういう芯のある強さを持った女性に惹かれます。ベアトリスちゃんは見た目もすごく可愛らしくて、そのギャップもありますし。

ベアトリス(C)長月達平・株式会社KADOKAWA刊/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会

──アニメ『Re:ゼロ』は今月、後期も始まりましたが、前期で印象に残ったシーンはありますか?

Tom 『Re:ゼロ』はアニメの中でも特殊なつくり方をしていて。監督さんが一話一話に100%の山場を絶対につくる方なので、すべてが衝撃的でした。ただ、小説がこういう演出や絵でアニメになるんだっていうことで、特に第1話にはみんな引きこまれたと思います。

Mayu シーンではないんですが、『Re:ゼロ』では私たちの楽曲が作品のエンディングを“彩る”というよりも、すごく“溶け込んでいる”感覚があって、それがすごく新鮮でした。普通のアニメだとエンディング用の映像に楽曲がつくんですけど、2話ではピアノのイントロからエンディングに入ったりと、5話くらいまで毎回違う楽曲の使われ方をしていて、「今回はどんな終わり方をするんだろう」って楽しみにしていました。

7話のエンディングでは、「STRAIGHT BET」も使っていただきました。私たちの楽曲が作品を引き立たせるのと同時に、作品が私たちの楽曲を引き立たせてくれてる、という普通のアニメタイアップにはない“溶け込み”を感じましたね。

──おっしゃったように、『Re:ゼロ』7話のエンディングでは「STYX HELIX」のカップリング曲「STRAIGHT BET」が使われていました。主人公のスバルが自らの意思で“死に戻り”を決意するという重要なシーンでしたが、この楽曲は『Re:ゼロ』で使われることを前提としていたのでしょうか?

Tom 「STRAIGHT BET」はMYTH & ROID史上一番アニメに寄った曲で、言うなれば劇伴的な位置づけなんです。普段は曲をつくる上で(アニメの)絵コンテまで見ることはあまり多くないんですけど、その時は全部見せていただいて、そのシーンに足りないであろう部分を音楽で補った感じですね。スバルが「誰かを救いたい」と思って、テンションが上がった状態を保つシーンだったので、オープニングやエンディング曲をつくるときとは全然違いました。

「アニメの世界観は最大でも5割」という挑戦

──やはりアニメの主題歌ということになると、作品の世界観をかなり反映されているのですね。

Tom MYTH & ROIDはKADOKAWAさんで全部やらせてもらっていて、同社の音楽プロデューサーの若林豪さんに結構こと細かく言われるんですよ。「こういう世界観にしたい」とか、それこそ当たり前ですけど「売れたい」とか。僕はMYTH & ROIDのプロデューサーなので、若林さんのやりたいことと全部を揉んで形にしています。それは、『オーバーロード』の「L.L.L.」や『ブブキブランキ』の「ANGER/ANGER」も同じです。

ただし、MYTH & ROIDの夢はアニメソングといわゆるJ-POP的なアーティストとの架け橋になりたいということなんです。なので、アニメの世界観は最大限でも5割くらいで、あとの半分はアニメを知らない人が聴いてもすごく魅力的な歌詞や楽曲、魅せ方にしようというのは、いつも絶対に意識しています。

──「アニメの世界観は最大でも5割」というのは、例えば「STYX HELIX」ではどのように反映されているのでしょう?

Tom 「STYX HELIX」の主メロディーは、いわゆるヒットを狙ってるメロディーで、日本人が好きなやつなんですよ。J-POPアーティストの常套句とまでは言わないですけど、そういうものを狙って、分析して書いている。でも、その裏で鳴ってるボーカルのハモリやウーハーは民族音楽の理論を使っています。民族音楽の部分は『Re:ゼロ』の世界観が少し反映されているかな。

──Mayuさんは歌う際にTomさんからどういった指示があるのでしょうか?

Mayu 「L.L.L.」の時から、「どうすればこのサウンドに、この世界観を載せられるか」というところに関しては、毎回かなり詰めています。自分の引き出しにないようなものを創り出したり、いろんなものを引っ張ってきて融合させたりしながら…そういった試行錯誤はありますけど、最終的には「自分がこの歌になる」という感覚で歌っています。

Tom ひとつ面白かったのが、「Oh, please don't let me die」のメロディーで、最後の「die」って落ちるところはちょうどアクセントになっているので、ボーカリストは強く歌いたいところなんですよね。でも、そこを「ものすごく弱く歌ってくれ」と言ったのを覚えています。強くいくべきところをわざと全部抜いて、全体的にバランスを失わずに浮遊感が出るよう、ボーカルディレクションをしました。

──それは、楽曲の世界観を表現するために?

Tom なぜかというと、前2作が強さや激しさ、狂気を表現するために、ものすごい張り上げる系のボーカルだった。でも、「STYX HELIX」に激しさや狂気は全然ない。激しさや狂気を伴った曲に負けない歌を表現するには、Mayuが持ってる優しい部分とかデリケートな歌声の部分を出さなくてはいけなかったんです。

ほかにも、1番と2番のドラムフィルをまったく同じにしていて、これは90年代のDJ的なサンプル文化の手法なんです。要は、1番や2番の間奏などのセクションを小節単位でずっとループしている。でも、2000年代を超えると機材やコンピューターが発達して、色々やれることが出来てきて、クリエイターがこだわり出した結果、この手法があまり採用されなくなった。でも、僕は今、日本人は90年代の音楽をすごく欲しているんだろうな、という思いがある。だから、今までなかった美学を引っ張ってきて、自分の中に吸収して、それを“美”として世に出したんです。

──その“ループ感”は『Re:ゼロ』の世界観ともマッチしていますしね。ただ、Mayuさんは世代的に90年代の音楽にはそんなに触れていないのでは?

Mayu 邦楽に関しては、むしろ90年代〜2000年前半ものをよく聴いていました。世代的には「自分はこれが好き!」っていうジャンルが固まる前の段階だったので、良い意味で幅広くとりあえず流行りの音楽を聴いていました。『ポケットモンスター』や『デジタルモンスター』のアニメの曲だったり、当時の邦楽は今でも好きですね。なので、今回の90年代っぽいメロディーというのは、自分の中ではストンと落ちた感じはありました。

Tom 時代がR&B全盛期でもありましたね。

──実際に、CDが売れていた時代ということですよね。

Tom そうですね。特に90年代はメロディーの強い楽曲が多いので、ボーカリストのMayuはそういうものが好きなのかもしれない。

アニソン市場をぶっ壊したい

──一方で、現在のアニソン市場では、カラオケが大きな存在感を示している部分があると思います。MYTH & ROIDさんの楽曲はすごくスタイリッシュですが、歌うのは難しい。“売れる”という意味で、そういった部分を意識はされないのでしょうか?

Tom 考えていません。カラオケで歌われることは色々な意味で良いことが沢山あるのですが、それは他の人がやっているし。今のアニソンの市場って、少し嫌な言い方をすると、ちょっと俗っぽくてわかりやすい音楽が売れて、アーティストのビジュアルを全面に出していて、なおかつスタイリッシュな音楽になるとなかなか売れないんです。

例えば、本格的なR&Bといった──ジャンルは何でもいいんですが──邦楽で知名度のあるアーティストが「アニソンのタイアップをやります」ってなっても、アニメ作品にそれなりのパワーがなければ、予想の範囲を超えたセールスは出にくい。アニソンという市場に入った時には、制作側がコントロールして目線を市場にいるみんなに合わせてつくり上げないといけない。

でも、僕は音楽家として、はっきり言ってそういう市場をぶっ壊したいと思ってる。もちろん、セールスについてはメーカーからも言われるし、売れないと有名になれないのは自分でもわかっているので、MYTH & ROIDの裏コンセプトは「アーティストビジュアルを全面に出しながら、ものすごくスタイリッシュなことをやって、なおかつセールスを出す」ということ。しかも、それをアニソン業界でやるというのが、ひとつの夢でもあります。だから、CDジャケットやMVもすごくスタイリッシュなものにしている。今、それが少しずつ形になっていると思います。

──確かに、MYTH & ROIDのCDジャケットでは、一貫してアニメのイメージを採用していませんね。

Tom 「STYX HELIX」からハイセンスなものが得意なデザイナーさんに変わったので、楽曲のコンセプトとアニメの世界観を知っていただいた上でつくっていただいています。あとは、「iTunes Store」とかでランキング上位に上がってきた時に、「何これ、アニメの楽曲のジャケットなの!?」っていう衝撃を与えたい。だから、もう全体的にぎゃふんと言わせたい(笑)

──それは既存のアニソンファンの方に対してですか? それとも、アニソンに対して「どうせアニソンでしょ」と偏見を持っている人たちに対してでしょうか?

Tom どっちもでしょうね。それはアニソンだけじゃなくてJ-POP全体の話で、やっぱりすでに見えている市場があるから、つくる側はエンドユーザーに向けてつくらざるを得ない。では、それを広げるためにはどうすればいいのかというのは、クリエイターみんながものすごく長い間考えていて、例えば、海外の憧れのアーティストのエッセンスを少しずつ楽曲に入れていって、「これはすごい良い音楽なんだ」というのをユーザーに伝えていく。僕たちクリエイターは、ユーザーを置いてけぼりにしないよう、階段形式でちょっとずつすごい音楽をつくっていくということをやらなくちゃいけない。「全体を壊したい」というのは、そういう意識が強いかもしれないです。

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