『Re:ゼロ』MYTH & ROIDインタビュー Tom-H@ckが語る「アニソン市場をぶっ壊したい」の真意

3〜4年サイクルで変化するアニソン業界で、今求められているものは?

──一昔前は、アニメの主題歌でヒットを飛ばしたアーティストが“アニソン”と呼ばれることに抵抗を示していた場合もありました。MYTH & ROIDは、“アニソンアーティスト”と呼ばれること自体は嫌なことではない?

Tom 全然嫌じゃないです。入り口がなんであれ、結果が変わればいいと思っている。入ってきやすい入り口で入ってきていただいて、「こんな景色があるんだよ」って、みんなを連れて行く出口を僕たちが創り上げればいいだけなので。

──「STYX HELIX」を聴いて“インダストリアルロック”という分野を知って、そこから色々な楽曲を聴いてくれる人がいたら良いと。

Tom そう。だから、もうジャンル自体をすでに考えていません。僕たちがやりたいことがあって、KADOKAWAさんと出会って、アニメのタイアップをさせていただけた。そこで、「アニソンと一般的なアーティストの架け橋になる存在になりたい」という考えはあるけど、「MYTH & ROIDがアニソンアーティストかどうか」というのはそもそも考えていない。

──良い意味でも悪い意味でも、「こんなのアニソンじゃない」という反応があったりはしないのですか?

Tom そういう反応がないようにプロデュースしてます。語弊のある言い方かもしれないですけど、supercellのryoさんがプロデュースしているEGOISTもそうで、本格的な音楽を欲する層は絶対的にいますし。

──JUDY AND MARYの「そばかす」(『るろうに剣心』)やシャ乱Qの「シングルベッド」(『D・N・A2 〜何処かで失くしたあいつのアイツ〜』)など、一般的にはアニソンと認識されておらず、「実はアニソン」という楽曲も多くあります。MYTH & ROIDはそういったものとアニソンの狭間を埋めたいのかな、と思いました。MYTH & ROIDは作品の世界観を5割盛り込むということでしたが、「そばかす」などは、JUDY AND MARYがアニメに詳しくないから『キャンディキャンディ』をイメージしてつくったという話もあって、当時のアニメファンからは批判もありました。

Tom 多分、一番の違いは年代だと思います。「そばかす」はもう20年くらい前の楽曲ですよね。この業界は3〜4年くらいのスパンで(トレンドが)変わっていっている。だから、「そばかす」みたいにアーティスト優先ですごい良い音楽が出来て、それが『るろうに剣心』とタイアップしたから爆発的にヒットするっていうのは、今は多分無理。

感情の解放を後押ししたい

──MayuさんはTomさんのビジョンをどの程度共有されているのでしょうか?

Mayu アニメを通してMYTH & ROIDを知っていただけることもあれば、逆にジャンルの存在によって私たちの目標に進むペースが遅くなってしまうこともある。だから、Tomさんがおっしゃった架け橋になるやり方でなければ、最終的に私のやりたいこととTomさんのやりたいことの双方はできないだろうな、と思っています。

──Mayuさんが伝えたいことって、どういうことなんですか?

Mayu 自分がずっと生きてきて、「おかしい」って思うことありませんか? 私は「おかしい」と思って言ったことに対して、何かを言われるのは別にいいけれど、「おかしい」と思ったことを言えない世の中には問題があると思っています。たとえ少数派でも、自分の中に根拠があって「正しい」と思えることだったら、表明することができなきゃいけない。自分がそういう感情を持っていることを自分で許してあげられる、そういう世の中にしていきたい。

私は「私が歌で、歌が私」っていう宿命とでも言いますか…。「歌で失敗したら、私の人生は終わる」って本当に小さい頃から思っていて…。幸せなことって言葉でもなんでも共有できるものなんですけど、負の感情や辛い記憶って、人は出来るだけ風化させて消してしまいたいと思う場合が多いものですよね。でも、私の場合は逆です。そんな負の感情こそ表現していきたい。

歌い手にとって音楽は感情に直結しているので、Tomさんには私が許せないことや「世の中が呪わしくて…」みたいなことを知っておいてもらいたくて、色々な話をしています。私は歌で言いたいことを言っていて、歌を遺書として残したいと思っているんです。

Tom 彼女、魔女なんですよ。闇の魔女!(笑)

Mayu いやいや、私天使だから!(笑) いや、でも本当に、歌で伝えることが、私の人生でやることなのかな、って。

──音楽を通して、世の中についてのMayuさんの考えなどを表現して、それをみんなに聴いてもらいたいということですね。

Mayu やっぱり自分が洋楽を聴いてきて、海外の文化を見たり聞いたりすることが多かったので、日本に生きているだけですごく違和感を感じるんです。テレビ番組やバラエティ、ニュースや雑誌を見ても「おかしい」と思うことが自分の中にすごくあって…。たとえ世の中自体が変わらなくても、私と同じ思いをしているわずかな人たちが「おかしい」と思っていることを、少しでも口に出せる勇気を持てたらいいなっていう気持ちはずっとあります。

──Mayuさんがそこまで思う理由はなぜですか?

Mayu なぜなんでしょうね…。私は本当に小さい頃から性格も信念も変わらないんですよ。私の場合、常に自分のキャンバスが真っ白なままで来てしまったので、色がごちゃ混ぜになって無自覚に濁ってしまっている人がすごく多いと、敏感に感じるようになってしまった。それまで私は自分の人生を順風満帆だと思っていて、人間のことをすごく愛している生き物だったのに、徐々に人間を愛したいのに愛せなくなってしまうっていうわけのわからない状況になって…。

それで、幸せなことだけでなく、負の感情も私は歌という形で残して、私にとっても聴いてるみなさんにとっても、その歌が感情の解放になったら良いなって思います。

凹凸が噛み合って、MYTH & ROIDは成り立っている

──Mayuさんの確固たる意思について、Tomさんはどう受け止めていますか?

Tom 反逆心や反骨心は誰しもが持っている気持ちだと思います。Mayuのマインドはある意味、不器用な部分があるかもしれないけど、それを世の中で広めるためのやり方を僕が引き受ければいい。「ANGER/ANGER」は作詞家のhotaruと相談して、彼女が世の中に対して思っていることを言わせる場を俺たちが用意しました。彼女の不器用な部分を僕たちが器用に回せば、ユニットとしてパワーになる。僕たちのそういう凹凸の部分が噛み合って、MYTH & ROIDは成り立っているのかもしれないです。やはりMayuは自我がすごい強くて、それがアーティストとして武器になる部分でもあるので、基本的には自由に頑張ってもらえるようにしています。

──それこそ、信念の強いMayuさんとTomさん2人が衝突することはないのでしょうか?

Tom 僕は、彼女の気持ちが高ぶった時は、黙って見守ってます(笑)。ただ、やりすぎはよくないので、「他人には迷惑をかけるなよ」とはいつも言っています。ブレーキが効かなそうな時は僕が止めてあげればいいし。

──Tomさんの俯瞰的な目線は、やはりプロデューサー的ですね。

Tom 僕が一番最初に憧れた日本人って、ポルノグラフィティの音楽プロデューサーの本間昭光さんなんですよ。普通ならアーティストに憧れるものでしょうが、輝いている人の裏には必ず誰かがいて、そういう表からは見えない人のすごさを昔から感じていた。MYTH & ROIDもそうですけど、そういう立ち位置が自分の中でしっくり来るのはあるかもしれないです。

──Tomさんは、ご本人名義や音楽ユニット「OxT」としても活動されています。MYTH & ROIDだからこそ出来ることはありますか?

Tom 音楽としてのセンシティブな芸術性を保ったままで、売れるものを出す。そういう「こんなアニソンアーティストいなかったな」っていうのは、多分このユニットでしか出来ないだろうと思います。

──その挑戦は怖くないですか?

Tom 全然、怖くないです。僕に作家やプロデューサーとしての仕事が来る時って、「ほかと違う個性のあるものを出したい」とか挑戦したいって時なんですよ。だから、ギャンブルが仕事になっているような感じで、新しいことをするのにプレッシャーは一切ありません。

「絶対にiTunes Store1位は取れる」という確信の上で実験した作品

──最後に、『Re:ゼロ』後期のオープニングには、新曲「Paradisus-Paradoxum」が起用されています。この楽曲の聴きどころをお教えください。

Tom MYTH & ROIDとしては、初めてのオープニングです。今回、11人くらいの編成で初めてストリングスを録りました。そういう意味で、「Paradisus-Paradoxum」はMYTH & ROIDの中で一番実験的な曲で、さっき「挑戦することに不安はない」って言いましたけど、みんながこの曲をどういう風に聴いてくれるのか、というのは気になりますね。いや、絶対に「iTunes Store」1位は取れると思うんだけど(笑)。
──実験的な曲というのは、どういう意味ですか?

Tom コードや和音の積み重ねが、日本人が好きなものではないんですよね。でも、俗っぽい感じも少し入れてる。ものすごくスタイリッシュなものが7割くらいなので、それがどう受け止められるのかな、と。

──Mayuさんは歌われてみてどうでしたか?

Mayu この曲に限らず、常に実験と挑戦の繰り返しでした。私は洋楽を聴いて育ってきたので、自分の良さが一番出るのは英語のフレーズなんです。今回、英語の歌詞も多くて、その上でこの曲の「侵蝕」というテーマを表現するために歌い方を色々考えました。それをみなさんが聴いてどう反応してくれるのか? というのは、自分の中で学びたいことでもあるし、挑戦でもあります。

Tom ただ、今回は、いつもよりものすごく早く「(楽曲を)上げてくれ」ってずっと言われてました。なぜかというと、「かなり映像にこだわりたいから」と。基本的にタイアップは音に映像を合わせるわけですけど、それでもいつもより一ヶ月くらい早くアップしました。相当力を入れていると思うので、「Paradisus-Paradoxum」にどんなオープニング映像がついたのか、是非その目で確かめてください!
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MYTH

コンテンポラリー・クリエイティブ・ユニット

MYTH & ROID(ミスアンドロイド)はボーカリスト・Mayu、プロデューサー・Tom-H@ckを中心としたコンテンポラリー・クリエイティブ・ユニット。インターナショナルで本格的なサウンド、鋭角的でキャッチーなメロディ、圧倒的なボーカルパフォーマンスを兼ね備えた気鋭のユニットである。
2015年7月、シングル「L.L.L」でメジャーデビュー。iTunes Storeジャンル別ランキングでは同時リリースのOP楽曲(同じくTom-H@ckプロデュースのユニット“OxT”)と合わせ1位、2位を独占、iTunes総合ランキングでは最高3位を記録。ED曲としてタイアップしたTVアニメ「オーバーロード」のヒットと共に鮮烈なデビューを果たした。
2016年には、2ndシングル「ANGER/ANGER」・3rdシングル「STYX HELIX」と矢継ぎ早に新作を発表。
ユニット名である「MYTH & ROID」は過去を想起させる「Myth」(神話)と未来を想起させる「Android」を組み合わせた造語。互いのルーツを掛け合わせ新たな世界を切り開きたいという思いで考案された。デビュー以来「インターナショナルな活躍に最も近いアーティストになるのではないか」との呼び声も高い。

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