関西にいた最終期である2012年から2014年頃の音楽シーンと言えば、京都ではHomecomingsやHAPPY、夜の本気ダンス、神戸はtofubeats、The fin.、キュウソネコカミ、大阪でもKANA-BOONなど筆者と同世代の20代前半、才能あふれる新世代バンドやアーティストが続々と登場した。
そんな盛り上がりを間近に見て、これは関西シーンを現地から伝える必要があると思い、2014年には京都在住の音楽評論家・岡村詩野が開講している音楽ライター講座を母体として、100作品以上の関西音楽をレビューした無料電子書籍「現代関西音楽帖」の制作にも編集長として参加できた。
もちろん、情報発信がどんな立場でもフラットになったことにより地方拠点バンドにも目が当たる機会が増えたことは言うまでもないが、そもそもローカルという軸でカテゴライズ(シーン化)するという音楽の聴き方にこそ、加速度的な発展をひしひしと感じている。
中でも、ここ1年で続々と噂を聞くようになった土地が札幌だ。
長年独自の音楽シーンが形成されてきた土地ではあるが、00年代後半からGalileo Galilei、FOLKS、Drop’s、爆弾ジョニーらがいち早くオーバーグラウンドに飛び出した。きっかけは2007年「閃光ライオット」でのGalileo Galileiの優勝であるが、良くも悪くも若いうちにフックアップされることとなり、デビュー後に音楽性に悩むことの多い早熟の世代となった。
そんな札幌シーンの印象を分断したのが、(苫小牧のバンドではあるが)3人組パンクバンド・NOT WONKの衝撃だろう。生き埋めレコーズでの京都や大阪のバンドとの共鳴や、KiliKiliVillaという新世代のパンク・ハードコア・ギターポップレーベルの流れから登場し、鮮やかに北海道全体のギターロック色をリセット。多様性の開花を全国に印象付けた。
それを契機に現在続々と登場している、勢いある札幌シーンのニューカマーたちの動きを見ていくのが本稿の論旨だ。
札幌のロックバンドシーンを沸かせるニューカマー
BUMP OF CHICKENやtacicaといった下北系ギターロックが隆盛を極める中で登場した、初期のGalileo Galileiを彷彿とさせる国内産ギターロックの王道をゆくメロディ。そこに青春パンクのメロコアの名残を残した青春感とギターサウンドが感じられる。
5月に1stミニアルバム『ライトアップ』をリリースし、道外への進出も増えているシーンの優等生であり、これからの主軸を担うであろうバンドだ。
グミや最終少女ひかさ、OH!マイキーズ、THEサラダ三昧など、札幌ギターロックは現在花盛りで、その点はKANA-BOONをはじめ、夜の本気ダンス、ココロオークション、感覚ピエロらが揃う大阪のギターロックシーンと同じ質感を感じる。
ポストロックを起点としてアンビエントやエレクトロニカ、フュージョンも通過しているテクニカルかつフットワークの軽いデジタル・サウンドであるが、そのビートや歌は極めて有機的。
スモーキーでまろやかなボーカル、適材適所に配され過剰にならない豊かな音色がオーガニックに感じられる点は、日本のポストロックにおいて残響レコード以降のアプローチとしてアップグレードさせている。
4月には2人組ロックバンド・ROTH BART BARONと道内スプリットツアーも経験し、7月にはタワレコ限定でフルアルバム『BALL』が発売されたばかりだ。
2014年と最近の結成だが、それも酒場での盛り上がりからそのまま発展した流れ。マイペースだからこそ出来る極上のヒッピーソング。放浪しながらシンプルなリズムセクションとスティールペダルが彩るオルタナカントリーの質感は、ハンバートハンバートにも通じるもの。
一方で、古川直久の少ししゃがれた声がよりエモーショナルに響き、3月にリリースされたEP『Light』は、フォークシンガー・加川良の『アウト・オブ・マインド』(1974年)の精神を引き継ぐ、日本で数少ないカントリー・ブルーグラスの大名盤の様相。
札幌の荒野を描きながらも、高円寺のJIROKICHIをはじめ東京・中央線沿いのライヴハウスや、大阪の野外コンサート・祝春一番の舞台にも似合う、日本のブルース・カントリー最前線である。
当初はドラムボーカルの男性とキーボードの女性というツインボーカルのファニーなアンサンブルや、Czecho No Republicを彷彿とさせるトロピカルなインディーサウンドにより、いち早く大阪のレコードショップ・FLAKE RECORDSからもプッシュされていた。
しかし、2014年にメンバー&パートチェンジをして以降、2015年12月に出た初のEP『as you are』では突如トライバルなビートと、エフェクトを巧みに使いサウンドスケールが格段に拡大。Vampire Weekendをはじめとするニューヨーク・ブルックリン界隈に視座を向け、新たなステージを迎えている。
3月にリリースした初の全国流通アルバム『くらし』は、前半こそはっぴいえんど起源の良質なメロディとシンプルなバンドアンサンブルが活かされたフォーク・ロックであるものの、叙情的なコーラス・ホーンも携え徐々にエモーショナルに開けていく「今、夜が明ける」、郷愁も含めたいたないオルタナカントリー「ハイウェイ」というラスト2曲の構成・メロディラインは、デビュー当時のくるりをも思わせる秀逸な流れだ。
6月に発売されたばかりの5枚目のアルバム『あなたとわたしの物語』は、シンプルな演奏ながらも素っ頓狂な曲構成やコード感が心地よいポップミュージックの万華鏡。
「夜」「愛と呼べる日まで」「ささやかに祈る」などのフォーキーな楽曲には、2人時代のオフコースをも思わせるニューミュージックの様相も感じられる。
Ancient Youth Club
そんな前述の彼らの次の世代のインディーニューカマーとして注目すべきはAncient Youth Club。札幌出身の2人と、鹿児島出身の2人がTwitterで出会った南北遠距離結成バンド。その共通のフェイバリットとしていたのが、年齢としては同世代ですでに全国と戦っていたGalileo Galileiであるというのも興味深い。
当初はSoundCloudを介しての楽曲公開のみで活動していたが、後に鹿児島出身の2人が札幌に移住し、札幌を中心にライヴも精力的に行っている。
8月3日(水)には、2015年に200枚限定で発売された『For,Emma』のリマスタリング盤の全国流通も決定。「Milk」「Manhattan」ではWild Nothingを思わせるシューゲイザーを通過したオルタナサウンド、「アンドロイド」ではサニーデイ・サービスを通過したネオアコ~フォーク・ロックなど、全体を包む靄がかったドリーミーな空気の中でさまざまなアプローチを試行錯誤している様子が見受けられる。
また、Fukase(SEKAI NO OWARI)や、同世代であれば高橋海(Lucky Tape)にも通じる、大野佑誠(Vo, Gt)のジュブナイルかつ倦怠感ある声も強烈なセンチメンタルを伴って聴こえてきて、数年後には全国のライヴハウス・フェスを駆け回っている姿が容易に想像できる、弱冠20歳そこそこの旗手である。
2015年は活動が停滞していたものの、最近本格的に活動再開を発表。YouTubeにアップされた新曲「Truth of Magic」は、サカナクションを生んだ土地の後継として期待の出来るクラブロックサウンド。
ライヴでは3人での演奏ともあって、ビートや個々のサウンドのチープさが妙なアングラ感を生んでいたが、今後ますます洗練されていくだろう。
4月に出た『AWESOME』は初のスタジオレコーディングアルバムだが、「やる気ねえのか!」と言いたくなるだらだらしたローファイサウンドはシャッグスを彷彿とさせる危なっかしさで、聴いていると酒も飲んでないのに酩酊状態、体から力が抜けてくる。
コルネリや碧衣スイミングが2011年まで結成していたバンド・角煮を思わせる、札幌アングラシーンの最前線として最悪で最高なサウンド。
三沢洋紀(ex.ラブクライ)と植野隆司(テニスコーツ)のユニット・真夜中フォークミュージックにコーラスとして参加したり、2015年に20周年にして初リリースを果たしたNU-NUとも共鳴しそうなスタイルは、ゼロ世代や今の難波ベアーズ界隈とも共鳴し、徐々に全国的に侵食しそうな予感。
峯大貴
音楽ライター兼新宿勤務会社員25歳。
関西音楽メディアki-ft構成員(http://ki-ft.com )。
CDジャーナル、OTOTOY、BELONG、Skream!などで執筆。
掲載情報は以下tumblrにて。
minecism.tumblr.com
Twitter:@mine_cism
0件のコメント