連載 | #2 冨樫義博『HUNTER×HUNTER』超特集

『HUNTER×HUNTER』考察座談会 冨樫の生き様、その漫画術と思想

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『HUNTER×HUNTER』考察座談会 冨樫の生き様、その漫画術と思想
『HUNTER×HUNTER』考察座談会 冨樫の生き様、その漫画術と思想

わいがちゃんよねやがオフィスに常備していた冨樫作品

約2年間の休載期間となっていた『HUNTER×HUNTER』(ハンターハンター)。4月発売の『週刊少年ジャンプ』より、満を持して新章「暗黒大陸」編が再開されました。

新天地に向けて新たな陰謀が渦巻く波乱の新展開に、日本全土が「ハンター」の話題に染まっていると言っても過言ではない状況です。油断すると『ジャンプ』もすぐ売り切れてしまいます。

一方、これまでにも作者である冨樫義博先生にほとばしる愛を一方的にぶつけ続けてきたKAI-YOU編集部。もちろん社内は毎週「ハンター」の話題でもちきりです。 そこで、連載再開・最新単行本の発売を記念して、社内でも無類の冨樫好きを自負する4名が名乗りをあげ、これまでの『HUNTER×HUNTER』を振り返りながら「冨樫義博の天才性」をテーマに座談会を実施しました。

『HUNTER×HUNTER』に関する疑問点から、『幽☆遊☆白書』『レベルE』などの過去作から脈々と続く冨樫先生の思想や漫画技法など溢れる冨樫愛を語りつくしました。

何はともあれ冨樫先生、『HUNTER×HUNTER』連載再開、そして33巻の発売おめでとうございます! そして毎週『ジャンプ』に載せてくれて本当にありがとうございます!

左からコダック川口、ふじきりょうすけ、わいがちゃんよねや、bpm

※若干のネタバレが含まれます。

暗黒大陸編に突入した『ハンターハンター』

ふじき 『HUNTER×HUNTERは、主人公のゴンが、父親であるジンを探すために「ハンター試験」の合格を目指すところからはじまったじゃないですか。

ジンと仲間がつくったゲーム「グリードアイランド」の世界に行ったけど、結局手がかりは無いままで、「キメラ=アント」編でゴンが瀕死に。と思ったら次の「会長選挙」編であっさり再会。

そこで「ジンを探す」って目的は、あっさり達成されちゃったじゃないですか。今はジンが主人公に代替わりしたように活躍してるし、これからゴンはどうなるんでしょう。

わいがちゃんよねや 新しいゴンの目的は、母親を探すことになるんじゃないかな。さらっと流されてるけど、ジンがゴンに残したテープの中で母親について語ろうとする超重要なシーンがある。

コダック川口 でも「オレの母親はミトさん!」って再生を止めちゃうんですよね。これからはじまる「暗黒大陸」編で、どう回収していくのか全く読めないですね。

緊迫感のあるバトルシーン

わいがちゃんよねや「冨樫は天才なんよ……」

わいがちゃんよねや 『ハンター』は、ストーリー上の快楽やご都合主義を排除してるんよ。キャラクターがどう動くかに冨樫が徹頭徹尾にリアリティを求めてるから、行動の動機や意図がすごく実感を持って読み取ることができる。

ふじき 戦闘中に1発殴るのでも『ワンピース』なら「ゴムゴムのピストル!」で済むところを、『ハンター』の場合は「相手がこういう防御の姿勢をとるだろうから、俺は右手で攻撃する」みたいな一挙手一投足の思考が描かれてる。これは、ほかのバトル漫画と明確に違うところですよね。

ふじき それは同じ能力バトルの頭脳戦と言われてる『ジョジョ』とも明確に違って、ロジックが成り立ってるんです。『ジョジョ』は、最後の一手に「スゴ味」とか「覚悟」って概念があるんで(笑)。

bpm 村田雄介の『ヘタッピマンガ研究所R』って、インタビュー漫画の中で、冨樫は「自分の能力をひけらかしたり、逆に実力を隠したりするのはいくら少年漫画でも読者を馬鹿にしすぎ」と言ってるんです。バカだけど腕っ節は立つ、みたいな漫画のお約束からどれだけハズしていくかを考えているんですよ。

冨樫流の漫画的思考法

わいがちゃんよねや ボマー(ゲンスルー)が右手か左手か、ゴンはどっちの手を捨てるか……と考えていたら答えはまさかの両方。ここ冨樫の真骨頂でしょ。2つの意見を戦わせて、第3の新たな回答(ジンテーゼ)を導き出すっていうのが冨樫流の話のつくり方なんよ。冨樫漫画はこういった弁証法を多用するし、その回答を導き出したキャラクターが勝つことになる。

bpm 「ハンター試験」編のドキドキ2択クイズに、トリックタワーの最後の関門……。ノブナガに捕まったキルアとゴンが脱走するシーン。そういう場面はいくらでも思いつきますね。

わいがちゃんよねや 新人漫画賞の評価で「漫画家になりたいなら、絵を描く暇なんてないはずです」なんてコメントしてるくらいだけど、話やルールづくりがうまい。『ハンターハンター』は、一見作中にパッとは関係しないような社会通念、法律、インフラ、倫理、物理といった背景までも計算されている。

bpm 実際にはネームの前にセリフのかけ合いをして、キャラクターの判断が間違ってないかの検証作業をしていると語ってますね。ルールが敷かれていて、その中でキャラが考えている。だから理不尽な話の流れや矛盾が無いんです。

キルアが念を使えなかった理由を真面目に考える

ふじき でも、キルアが「空中闘技場」編まで念を知らないのっておかしいですよね? 家族はほとんど念能力者だし、「キメラ=アント」編でも、ゼノの念能力に言及する場面がある。

bpm キルアって感が良くて分析力のあるキャラクターじゃないですか。相手の動きを見てどういう能力か自分で分析するんです。これはゾルディック家の特性と言ってもよくて、ゼノもクロロと戦った時にどういう能力でどういう意図でやってるのかを全部予測して行動していた。

ってことを考えれば、ゼノやシルバがキルアの小さい時に「ほれ見てみ、あそこに置いてあるりんごを落としてやろうぞ」とか言いながら念を見せて……。

bpm「キルアほれ見てみ〜〜」

bpm じゃなくても、キルアの洞察力を持ってすれば、自分の家族はなにか不可思議な能力があるとは気づいているはずなんです。だから、これまでの不思議なことは全部念だったんじゃないかって考えている。

それにキルアって甘えてるとこがあるせいか、ことあるごとに実家帰るんですよ(笑)。その時ゼノに探りを入れててもおかしくないと思いませんか? 相手の能力を知らないことは自分の死に繋がることを知ってるんですよ、キルアは。

ふじき 「天空闘技場」でヒソカが念でプレッシャーをかけられた時に、原因を理解できなかったじゃないですか。その時も家族と同じ気配を感じていたんですかね。

bpm もちろん。だから真っ直ぐウイングのところに行った。家族と同じ気配を感じたと考えられますよね。

コダック川口 「兄貴と似た嫌な空気を感じる」とか「ウイングの念は兄貴よりまだマシ」って言ってたしね。

わいがちゃんよねや 「会長選挙」編見ればわかるんだけど、キルアの家はなんだかんだ過保護だから念を教えてないと思うのよ。キルアは暗殺者として未熟な部分もあるから、イルミの針の能力で、記憶が操作されたり、行動が制限されて念の情報が入らないようにされていたと考えるのが自然。

ハンター最大の敵、無関心?

ふじき「少年漫画といえばラスボスなんですよ」

ふじき 『ハンターハンター』の物語において、どういう存在がラスボスになりえるんですかね。「暗黒大陸」編では、カキンの王族とドン=フリークスって新キャラクターたちが鍵だと思うんですけど、明確な敵という感じはまだしないじゃないですか。

わいがちゃんよねや 「“未知”という言葉が放つ魔力。その力に魅せられた奴等がいる。人は彼等をハンターと呼ぶ。」っていうナレーションから漫画がはじまってるんだから、ハンター最大の敵は好奇心の無いやつじゃないかな。全てを知ってしまった存在、悟ってしまった存在。だからジャイロよ。キメラアントに転生した人間だし、ラスボス感が尋常じゃない。

コダック川口 ジャイロは「世界は俺に興味がない」って子どものときに悟ってしまってますからね。NGLっていう武装国家をつくりあげた過激派で、あれだけインパクトがあるのに本編に絡んでこなかったから、ラスボスの可能性もあると思います。「暗黒大陸」編では出てくるのかなあ。

コダック川口「ほかの人がすごすぎてビールを飲むことしかできねぇ」

bpm 未知に対する探究心こそがハンターの生き様(スタイル)なので、そこを否定する存在が現れたらどうなるのか……。そうだ、『レベルE』の1巻でも実は同じことを言っている。

がっかりである。今年で、もう30歳だ。
10代の時、どうしても30代の自分なんて想像できなかったが、今は鏡の前に立てば、いやでも汚いオッサンが目に入る。
唯一の救いは、精神年齢が変わらない事だ。
暇を持て余したりする事は全くない。
中学生の頃と同じく、やりたい事や欲しいものが腐る程ある。
そのほとんどが夢想の産物であるために達成不可能だが、死ぬ寸前までこんな自分でいたいものだ。 『レベルE』1巻 巻頭言より

bpm 「やりたいことや欲しいものが腐る程ある」って、この生き様こそハンターじゃないですか。つまり冨樫義博はハンターなんですよ。『レベルE』を描いてた29歳の当時から『ハンターハンター』を描くことは必然だったんです。

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冨樫義博『HUNTER×HUNTER』超特集

1998年より『週刊少年ジャンプ』にて連載を開始した漫画家・冨樫義博さんが描く『HUNTER×HUNTER』。 主人公のゴン=フリークスが父親であるジンを探すためハンターとなり、キルア、クラピカ、レオリオといった仲間達との絆を深めながら、未知なる敵との戦いを描きます。 緻密に計算された高度な攻防と読者の予想を上回り続ける展開で人気を博す一方、非常に寡作なことでも知られ、現在までに500回以上の休載を繰り返していることも話題となりました。 冨樫義博『HUNTER×HUNTER』超特集では、そんな本作に魅せられたKAI-YOUの面々が、作品にまつわる疑問や伏線などを考察するコラム記事を執筆。ときには座談会も実施しながら、一読しただけでは伝わりづらい冨樫義博作品に通底する思想を紐解きます。

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3件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:5583)

レベルE 何年も前だけど、すごい内容だと感心したら、HUNTER×HUNTERの冨樫さんのマンガだと後で気がついた!
今でも再放送して欲しいくらいの内容だ!

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