なぜ面白いミステリーゲームがつくれるのか? 名作を生んだ打越鋼太郎×竜騎士07 対談

なぜ面白いミステリーゲームがつくれるのか? 名作を生んだ打越鋼太郎×竜騎士07 対談
なぜ面白いミステリーゲームがつくれるのか? 名作を生んだ打越鋼太郎×竜騎士07 対談

なぜ面白いミステリーゲームがつくれるのか? 名作を生んだ打越鋼太郎×竜騎士07 対談

6月30日(木)、スパイク・チュンソフトは極限脱出アドベンチャーゲーム『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』(PlayStation®Vita/ニンテンドー3DS/PC)を発売する。

本作は、『極限脱出 9時間9人9の扉』『極限脱出ADV 善人シボウデス』に続く「極限脱出」シリーズの最新作にして完結作。同シリーズのディレクター・シナリオを務めるのは、シナリオライターの打越鋼太郎さん。かつては『Ever17 -the out of infinity-』や『Remember11 -the age of infinity-』といった名作美少女ゲームを輩出し、近年ではアニメ・ゲーム共に『パンチライン』の企画・脚本を担当した。

特に、アドベンチャーゲームの特質を活かしたミステリー要素を取り入れた仕掛けや演出で高い評価を得ている。

今回、そんな打越鋼太郎さんの新作『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』発売記念として、極限対談企画が実現。

対談相手となるのは、『ひぐらしのく頃に』や、『うみねこのく頃に』など、ミステリーを中心としたサウンドノベルゲームを生み出したクリエイター・竜騎士07さん。

実はこの2人、共に1973年11月生まれの同い年(さらに、誕生日は2日違い!)。

打越さんは商業ゲームを、竜騎士07さんは主に同人ゲームを手がけ、企画だけでなくゲームのシナリオも書いてきた。とはいえ、ゲームクリエイターという共通点がありながら、作品づくりの立場は真逆にある。

そんな2人の対談テーマは、2人に共通する「ミステリー」

ということで、極限対談「ミステリー」編と題し、2人のミステリー遍歴や、どのような考えでミステリーゲームをつくり、シナリオを書いているのか? など、ミステリーやゲームづくりに対する思いを語ってもらった。

企画・編集/吉田雄弥 文/須賀原みち 写真/市村岬 撮影協力/IITOKO

SFミステリーとギャルゲーのふりをしたミステリー

脱出×サスペンスゲーム『極限脱出 9時間9人9の扉』(2009年) 「極限脱出」シリーズ1作目として発売された。現在は、iOSの移植版も配信されている

━━まず、お二人が最初に出会ったミステリー作品を教えてください。

打越鋼太郎(以下、打越) 中学生の時、「三毛猫ホームズ」シリーズ(赤川次郎)を結構買って読んでましたね。当時、「三毛猫ホームズ」の2時間ドラマ(1979年-1984年)を見て、面白いと思って。

竜騎士07(以下、竜騎士) 僕は、小学校の頃に学校の図書室にあった「怪人二十面相」シリーズ(江戸川乱歩)です。といっても、ぼんやりと物語を追って、小林少年や明智探偵の活躍を見て「おぉ、すごいな!」と思っていて、“ミステリー”としては読んでいなかったかもしれないです。

━━お二人の世代ですと、ミステリー界に法月綸太郎さんや有栖川有栖さんといった有名推理作家が数多く登場した、いわゆる「新本格」の時代だと思います。もともとこうしたミステリー文化に触れていたのでしょうか?

打越 僕の場合、ゲーム業界で働くようになってから(自分の手がけた)『Never7』『ever17』と、謎を解き明かしていくSFミステリーのようなギャルゲー(主に男性向け美少女ゲームの俗称)の評価が良かった。

そういったこともあって、綾辻行人さんや清涼院流水さんといった「新本格」で面白いとされている本は読みました。もちろんミステリーは好きですが、全部を読み漁っているという読み方ではなく、物語のさまざまなジャンルのひとつとして楽しんでいました。

竜騎士 僕も「少年探偵団」シリーズからそのまま本の虫になれば良かったんですけど…(苦笑)。当時の世代としては順当に『ロードス島戦記』からTRPG『ダンジョン&ドラゴンズ』に入って、ミステリーに戻ってきたのはスーパーファミコンのゲーム『かまいたちの夜』(1994年)でした。(チュンソフトのサウンドノベルシリーズ前作である)『弟切草』(1992年)からハマって、この2作は僕のサウンドノベルの2大入口です。

だから、僕には「サウンドノベルはホラーでサスペンスで、ミステリーでなくてはならない」という思い込みがあったんです。その後、まさかサウンドノベルが恋愛ゲームで発展することになるとは…(笑)。

『ひぐらしのく頃に』(2002年-2006年)を書こうとした時は恋愛ゲーム全盛期で、みんなサウンドノベルのことを「ギャルゲー」と呼んでいた。だから、『ひぐらし』は「ギャルゲーのふりをして、プレイしたら人が死ぬミステリーだった」というホラーを狙ったんです。結局、僕に絵心がなかったので、ギャルゲーのふりはできなかったんですが(笑)。

連続怪死・失踪事件の顛末を描いたサウンドノベル同人ゲーム『ひぐらしのく頃に』(2002年) 「コミックマーケット62」で初めて頒布。のちに、アニメやドラマ、映画、コミックなど多数のメディアミックス展開が行われ、商業化されている

━━“ミステリー×ゲーム”というジャンルを手がけるお二人ですが、ゲームだからこそできる表現などもありますか?

打越 いっぱいありますけど、“一人称視点で表現できる”というのは、小説を除くと他のメディアにはありません。“主人公がこちら側にいて、向こう側にキャラクターがいる”という一人称視点をビジュアルや音楽と共に表現できるのは、アドベンチャーゲームだけですね。

竜騎士 具体的に言うと、「主人公の顔が、プレイヤーの認識していた顔と違う」といったトリックは、まさしくゲームじゃないとできない表現です。マンガとかだと、鳥瞰図で描かないと不自然な場面が出てきてしまいます。

僕は自己表現がしたくて、いろいろチャレンジをして、最後に『ひぐらし』のようなサウンドノベルゲームにたどり着きました。サウンドノベルの魅力は、小説に負けない文章量がありつつ、マンガの感覚で読み進められ、マンガと小説にはないBGMに、映画やドラマのような演出がある。こうした様々なメディアのいいとこ取りをしたジャンルで、感情を揺さぶる仕掛けはミステリーを表現するのには大変向いてるんじゃないかなと思います。

好きなようにやる? 商業と同人のゲームづくりの違い

竜騎士07

━━トリックのお話が出ましたが、ミステリー作品をつくる際には、やはりトリックから考えていくのでしょうか?

竜騎士 僕の場合は、まず“見せたい面白い画”が先にあります。

例えば、親しい二人がお互いに「お前が犯人だろ!」と罵り合って刺し合う…とか。次に、この画が成立するトリックや仕掛けってなんだろう? というところから入っていきます。どんなに素晴らしい舞台装置やトリックがあっても、それで見せられる画が面白くなかったらつまらない。

料理の盛り付けと同じように、ミステリーの醍醐味のひとつとして「犯行現場に踏み入った時に、どれだけ不可解で理解できない画ができているのか」というのがあると思います。「金田一耕助」シリーズにあるような、死体を見た瞬間に「なんだこりゃ!?」というインパクトがほしいので、僕にとってトリックや仕掛けは後です。

打越 僕の場合、作品によっても違いますが、まずはトリックうんぬんよりも、「予算はいくらなのか」とか、例えば『極限脱出 9時間9人9の扉』(2009年)の時は『逆転裁判』や『レイトン教授』シリーズが流行っていたので、ニンテンドーDSのアドベンチャーゲームで他の方がまだやっていなかった「脱出ゲーム」を取り入れてみたり…と、まずは企画を通すために工夫するという、すごく現実的なところから始めます。

企画が通ってから、ようやく自分がやりたいものを企画に持ってきて、先にプロット上での一番の大仕掛けやトリックを考えます。ただ、正に竜騎士さんがおっしゃったみたいに、途中で「こうしたらもっと画的に面白くなる」ということが思いついたら、プロットを捻じ曲げたくなります。それで元々のプロットが破綻するならその部分は全部捨ててしまって、原型がほぼなくなっちゃうこともありますね(笑)。

━━竜騎士さんも見せたい画を優先して、それまでのプロットを捨てることがあったりしますか?

竜騎士 僕の場合、捨てるというよりむしろ増えていきます。例えば、すごく面白いトリックを思いついて、非常にインパクトのあるシチュエーションをつくることができた。

多くの場合、「そのトリックを使えば、面白い現場をいくつもつくれるな」って思うんです。普通の小説だと、1回使ったトリックはほかのアイディアがあっても捨てなくてはならない。でも、僕の『うみねこのく頃に』という作品では、「全部同じトリックだけど見せ方が違う」という事件が描けたので、そういうのは楽しかったです(笑)。僕にとって、トリックというのは万華鏡のように覗く度に形を変えられるワクワクがあります。

『うみねこのく頃に』/PC版の同人ゲームが2007年に「コミックマーケット72」で頒布された

ミステリーはあくまでエンターテインメントの1つ

━━先ほど、“見せたい画”や“企画の通りやすさ”……言い換えると“世の中でウケている傾向”といったお話が出ました。制作の際に、読者やプレイヤーを意識している部分はありますか?

竜騎士 う~ん……僕はどちらかというと、同人という場で趣味人としてやってきました。僕が個人でつくる作品なので、そもそも企画会議がなくて、企画はなんでも通るし、予算のことも気にしなくていい。

だから、さっき言った『ひぐらし』で「“サウンドノベル=ギャルゲー”という概念を裏切って、殺しのゲームをつくってやる」というのも、世間に対する反感とか「俺ならこうする!」という気持ちがダイレクトに反映されています。

僕のファンの方に「次、何が見たいですか?」って聞くと、みなさん決まって「なんでも好きなものを書いてください」って言っていただけるんです。僕は世間の空気を読まずに、本当に好きなものを好き勝手に書いてますね(笑)。

打越鋼太郎

打越 それは才能があるから許されるんですよ。僕はまず、クライアントにヒヤリングするところからはじめないといけない。クライアントが何を求めて、世間ではどんなゲームが流行っているのかをリサーチします。

最近つくったアニメとゲームで展開されている『パンチライン』(アニメ:2015年、ゲーム:2016年)は、それこそユーザーのためを思って企画したんですよ。というのも、僕は「世の中の人はみんなパンツが好きだ」と思ってたんです。

━━一同 (爆笑)

ゲーム『パンチライン』(2016年4月)打越さんはアニメ版共に企画原案と脚本を手がけている

竜騎士 地元のゲームショップで『パンチライン』を見た時、「“パンチライン”と”パンチラ”のダブルミーニングって、上手いな~!! (キャッチコピーの)『パンツを見たら人類滅亡!?』って、最高にイカレてていいな(笑)」と思いました。でも、「極限脱出」シリーズと同じ方、つまり打越先生がシナリオを書いてることを知って、戦慄しました。「この人、とんでもない人だな」って(笑)。

━━確かに、振り幅が非常に大きい印象を受けますね。

打越 僕、すごい売れない人なので、大衆向けにやる転機として『パンチライン』で思い切り振ってみようという気持ちもありました。ところが、実は男性の6~7割はおしりよりおっぱいのほうが好きなんですよね(笑)。僕はどちらかというおしり星人寄りなので、そこがちょっと失敗でした。そんなこともあって、みんなに合わせるのはそろそろ止めようかな、と思ってます。

竜騎士 打越先生が『パンチライン』のシナリオを書いたと知った時、『パンチライン』は「“ミステリー作家という狭い箱に締め付けられたくない」という打越先生の主張なんだな、と僕は感じました。

僕も「自分の作品はミステリーだ」と思って書いているのではなくて、幅広いエンターテインメントの1つの見せ方として、ミステリーを書いていただけなんです。僕は、女の子たちがキャッキャ遊んでいるパートや着替えを覗かれていやーん! みたいなのも大好物ですし、自分をミステリー作家だと思ったこともありません。ただ、ミステリーという見せ方を気に入っているだけ

打越 おっしゃる通りです。自分の中では色んなものが書きたいし、書けるという気持ちもあります。

直接的には言われませんが、例えば暗に『Ever17』みたいな作品を求められているな、というのはなんとなく感じています。だから、「ほかのテイストの作品も書けます」ということで、『パンチライン』という作品に挑んだんです。けれど、アニメの視聴者たちからは「打越がやるんだから、絶対何か重大なトリックが隠されているはずだ。すべてが伏線だ!」といった風に見られてしまう……全然違うんですけど(苦笑)。

竜騎士 「いつパンツの柄を確かめるために、惨殺死体が出てくるんだ…!」みたいな(笑)。

【動画】打越鋼太郎 × 竜騎士07 シナリオライターが語るミステリーの魅力とは?

1
2

SHARE

この記事をシェアする

Post
Share
Bookmark
LINE

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。

コメントは削除されました

削除されました

コメントは削除されました

削除されました

コメントを削除します。
よろしいですか?

コメントを受け付けました

コメントは現在承認待ちです。

コメントは、編集部の承認を経て掲載されます。

※掲載可否の基準につきましては利用規約の確認をお願いします。

POP UP !

もっと見る

もっと見る

よく読まれている記事

KAI-YOU Premium

もっと見る

もっと見る

ゲームの週間ランキング

最新のPOPをお届け!

もっと見る

もっと見る

このページは、株式会社カイユウに所属するKAI-YOU編集部が、独自に定めたコンテンツポリシーに基づき制作・配信しています。 KAI-YOU.netでは、文芸、アニメや漫画、YouTuberやVTuber、音楽や映像、イラストやアート、ゲーム、ヒップホップ、テクノロジーなどに関する最新ニュースを毎日更新しています。様々なジャンルを横断するポップカルチャーに関するインタビューやコラム、レポートといったコンテンツをお届けします。

ページトップへ