今までうかがい知ることのできなかった「本当の魔女」を日本で初めて多角的に紹介する展覧会として開催前から注目を集め、2015年中すでに大阪、新潟、名古屋、浜松、広島…と全国で開催されて、東京会場がフィナーレ。
今回は、声優の上坂すみれさんも魔女をイメージした衣装で駆けつけた東京会場の内覧会に行ってきたので、その模様をレポートします!
文:鈴木梢
魔女の秘密を歴史や資料と共に読み解く「魔女の秘密展」
みなさんは「魔女」と聞いて、どんな想像をするでしょう。幼いころに憧れた、夢いっぱいの衣装に身を包み魔法を自在に使う少女か、はたまた『白雪姫』や『オズの魔法使い』に登場するような、邪悪な魔術を操る女性や老婆か…。そしてそれは、おとぎ話の中だけの存在だと思っていませんか?
実はヨーロッパでは中世から近代へ移行するころまで、「魔女」の存在は人々に信じられてきたのです。
魔女という存在はどのように生まれ、現在に至るのか。
日本の漫画に登場する魔女の紹介から、魔女裁判で実際に使用された拷問道具まで…日本初公開のものを含めた豊富な資料をもとに、歴史をひもときながら、その秘密のすべてがわかる展覧会が、この『魔女の秘密展』なのです。
ジャパンカルチャーの魔女たちがお出迎え!
本展でまず私たちを迎えてくれるのは、なじみ深いジャパンカルチャーの魔女たち。魔女が登場する漫画を手がける方々の作品が並びます。真島ヒロさんは『FAIRY TAIL』、古河美希さんは『山田くんと7人の魔女』、渡辺航さんは『まじもじるるも』と、それぞれの作品の描き下ろしイラストが展示されています(描き下ろし作品を使用したアイテムがグッズコーナーで購入できるので要チェックです)。 ちなみに、安野モヨコさんは、本展のためのオリジナルキャラクターを描き下ろし。グッズコーナーでは、彼女が手がけた魔法少女ファンタジー作品『シュガシュガルーン』のアイテムも販売されています。
嫌われながらも必要とされてきた中世の魔女たち
ようやくここから本編とも言える第1章。魔女の起源を辿ります。中世、近世の時代においては、魔術や神秘的な力が日常生活と結びついていました。現在では科学的に証明できることも、そのころは魔術などと考えないと説明がつかなかったのです。
「ジャパンカルチャーの魔女たち」のエリアを抜けると、お守りやお札など、いわゆる“まじない”に使われる道具が展示されているエリアへ辿り着きます。 このころ魔女という存在は忌み嫌われながらも、その経験の豊富さや能力に対して人々は尊敬の念も持ち合わせていました。それでも、当時の魔女の定義は「悪魔と契約を結び、黒魔術で悪事を働く者」。魔術に頼りながらも悪事が自らに及ばないよう、人々はさまざまなお守りを身につけたり、お札を口にしたりするようになったのです。
近世、魔女たちは時代の不満や憎悪の標的に
それまで嫌われながらも受け入れられていた魔女たちですが、世界が一変。魔女たちは、一気に不満や憎悪の標的となります。活版印刷機の発明により起きたメディア革命や、気候の寒冷化(小氷期)による農作物の収穫量の激減・飢餓、深刻な疫病の大流行…と精神的に不安となる社会的要因も多く、それらすべてが魔女による仕業だとされたのです。
悪魔と契約をし、指示を受けて黒魔術を行っていたとされる魔女ですが、家畜などの奇形もそれが元凶だとされていたようです。 この第2章「妄信する」のエリアでは、あらゆる不幸を魔女のせいにした時代が反映されている絵画や書物が数々登場します。
一般市民が一般市民を「魔女」として裁く時代へ
自然の猛威や戦争、疫病の流行といった不安定な時代に生きていた人々は、その不安な気持ちを解消するための手段として「魔女」というスケープゴートをつくり出したのです。第3章「裁く」のエリアでは魔女に対する妄信が激化し、社会的弱者たちがあらぬ噂を立てられ、告発され、終いには「魔女裁判」にかけられることとなります。
これまでは絵画や書物などの作品が中心でしたが、このエリアでは魔女たちを裁くための実際の尋問を体験(4つのモニターに尋問官が映し出され、実際の尋問を再現している)ができたり、拷問具を間近で見たりすることができます。
拷問は自白を得るために正統な手段だとみなされており、魔女とされた人々は脅され、自白を強要され、拷問を受けることとなったのです。 「棘のある椅子」は火と併用されるなどすさまじい使い方をされたようですが、中にはあまり苦痛を与えない拷問具など、魔女たちを裁くためのあらゆる道具が展示されています。
それぞれの道具に説明やエピソードが詳細に添えられているので、読んでいるだけで痛みを感じそうなくらいの壮絶さが…。
魔女のイメージは、人々を魅了する存在へ
魔女たちへの裁きが18世紀までに終わると、「魔女」のイメージはゆっくりと変化していったようです。それこそ冒頭のジャパンカルチャーの魔女たちのように、人々を助ける純粋な存在としても評価されるように。最後の第4章「想う」のエリアでは、醜くも幻想的な魔女のいる世界を、さまざまな技法で表現した芸術作品が展示されています。中には日本における魔女である「鬼女」を描いた作品も。
魔女という存在はだんだんと「ミステリアスな雰囲気」「魔法という未知の能力」といったファンタジー的要素を持つものとして扱われるようになったわけですが、現在もマンガや映画、小説などさまざま物語や絵画などを通じて、私たちに魅力的な世界を見せてくれています。
本展に関わる人々の思いとは
また、本展最初の開催となった大阪会場において特別番組のナビゲーターを務め、図録にも執筆をされている山田五郎さんも登場。ドイツを訪れ、魔女ゆかりの地を巡ったこともあるそうです。昔の話だと思われるかもしれませんが、現在もドイツでは魔女迫害の歴史に真剣に向き合っています。魔女というのは歴史の中で急に出てきて、良いもの、かわいいもの、楽しいものとなったわけではないのです。こんなヨーロッパの歴史があったのだと、本展で知っていただければと思います 本展の監修者・西村祐子さん
さらに、東京会場のオフィシャルアンバサダーを務める声優の上坂すみれさんは、魔女をイメージした衣装で登場されました。魔女裁判って、普通の市民同士が妬みや恨みなどで訴え合いをして起こっていたんですよね。法律が通用しない中世の暗黒期だから起きたというわけではない。なまじ民主的な状況が整って、メディアも発達したからこそ起きた悲劇なんです。つまり現代の日本のいじめと同じような構図で、自分が被害者になる前に誰かを訴える。インターネットで噂が流布してそれが本当かのように扱われ、バッシングされ、まるで魔女裁判のような構図ですよね。
今回の展覧会のひとつひとつも見どころですが、魔女とは、日本と関係ない昔の話ではなく、現代にも十分共通するところのある話。人の心の恐ろしさや群集心理の残酷さについて、この展覧会を通じて考えていただければと思います山田五郎さん
魔女といえばキラキラしていて女の子の憧れの存在というイメージがあり、私もいまテレビアニメ『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』で魔女っ子(星野輝子)を演じていることもあるんですが、ちょっとドジっ子くらいのイメージがあって。
でもこの展示では普段は見られない拷問具なども見ることもできて、社会においてどのような存在意義を持っていたのかとか、魔女という存在の暗い部分を初めて知りました。それこそ双頭の仔羊や猫を見ると、本当になんでも魔女のせいにされていたんだなって…驚くことがたくさんありました 上坂すみれさん
魅力的なオリジナルグッズが盛りだくさん!
ちなみに今回の音声ガイドを担当するのは、俳優の佐々木蔵之介さん。子どもやファミリー向けの「白猫バージョン」と、一部過激な表現を含む「黒猫バージョン」の2種類が用意されています。それぞれ一部内容が異なるため、2度行っても楽しめること間違いなし。 魔女にまつわるグッズや、本展オリジナルグッズなどおみやげも豊富なので、最後までたっぷりと楽しめます。 会期は3月13日(日)まで。ぜひ足を運んでみてくださいね。この記事どう思う?
イベント情報
『魔女の秘密展』
- 会場
- ラフォーレミュージアム原宿(東京都渋谷区神宮前1-11-6 ラフォーレ原宿6階)
- 会期
- 2016年2月19日(金)〜3月13日(日)
- 開館時間
- 11:00~19:00(入場は18:30まで。尚、最終日は17:00閉場のため、入場は16:30まで)
- 観覧料
- 当日一般・大学生 1,200円(税込)、高・中学生 1,000円(税込)、小学生 200円(税込)
- ※未就学児入場無料
- 主 催
- TBS、東京新聞、東映
- 企画協力
- プファルツ歴史博物館
- 後援
- ドイツ観光局、TOKYO MX
- 協力
- ルフトハンザ ドイツ航空、ルフトハンザ カーゴ AG、日本通運、講談社、コルク、ヴィレッジヴァンガードウェブド
- URL
- www.majo-himitsu.com
所蔵元 : ドイツ(プファルツ歴史博物館、ローテンブルク中世犯罪博物館ほか)、
オーストリア(ザンクト・フローリアン、アウグスチノ修道院参事会、マリア・ロレート教会ほか)、
フランス(カルカソンヌ美術館、トゥールーズ・オーギュスタン博物館ほか)、リヒテンシュタインなど30ヵ所以上の美術館・博物館から出展。
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