彫刻とVTuberって同じなんだ! Maison book girl和田輪インタビュー

特別ふろく バーチャルワダリン受肉のヒミツ

突然ですが、今回インタビューを行った、ライターの白石です。ここまで、和田さんの創作に対する思いやその系譜についてうかがってきましたが、いかがでしたか? 

ブレない意識で表現に対して向き合いながら、自身の創作に最適な媒体を探して向き合う彼女の姿に、冷静と情熱を見ることができ、僕は大変感動しました。

ですが、いざVTuberになる際の具体的な制作についてお話をうかがったところ、これがもうメッッチャクチャ大変な経緯で受肉を果たしておりまして、これは絶対詳細に解説しなければ! と思い、ふろくとしてインタビュー末尾に掲載しました。

MacとiPhoneでバーチャル世界に受肉するハードルの高さと、それを実現した和田さんの大変さを感じて下さい。未来はこうしてできています。 ──ところで和田さんは、完全な"Mac・iOSネイティブ環境での受肉"を果たしてますよね?

和田 そうなんですよ!

──めちゃめちゃ大変ですよね?

和田 これって、大変ですよね……?私が素人だからとかじゃなくて、本当に大変なことですよね?

──僕、元コンピュータ雑誌の編集者で、MacとかiOSデバイスにかなり詳しいんですけど、これは、Windows環境の倍は大変だと思います……。

和田 嬉しい! この大変さをわかってくれる人がいなくて……(笑)

iPhoneとMacをLightningケーブルで接続し、iPhone版のFacerig(※5)で顔認識を行い2Dアバターを付与、その映像をMacのQuickTime(※6)でキャプチャして、音声はiPhone付属のイヤフォン「EarPods」に付いている通話用マイクから入力して、Mac版のGarageband(※7)でボイスチェンジャーを通して出力。音声と画像を合わせてYoutubeに配信している。Mac版のFacerigが存在しないため、このような複雑な経路での配信となった

※5 Facerig……Holotech Studios社の開発したモーションキャプチャーソフト。ビデオカメラで撮影した人間の顔から表情をトラッキングし、用意した3D頭部モデルにリアルタイムで反映できる。前述のLive 2Dと連携するプラグインを使えば、3D頭部モデルの代わりに、Live2Dで作成した2Dイラストに対してモーションを反映できる。Windows版とiPhone版があり、和田さんはiPhone版を利用して自身の表情をトラッキングしている。
※6 QuickTIme……macOS・iOSに標準搭載されている動画再生用アプリケーション。Mac版には「iOSデバイスのスクリーンをMac上に表示する機能(画面キャプチャー機能)」があり、和田さんはこの機能によってiOS版Facerigの動作スクリーンをMac上に表示した。
※7 Garageband……macOS・iOSで利用できる音楽作成・編集ソフト。和田さんはボイスチェンジャーの機能を使っている。


──Macでの受肉にはあまり前例もないなかで、いろいろ試行錯誤をしたと思うんですけど、例えば絵って何で描かれました?

和田 絵はMacBook Airのトラックパッドに、iPhone用のタッチペンで描きました。左手にマウスを握って、描きたいところをマウスでクリックしつつ、トラックパッドでペンを滑らせて。

「キーボードの上にピアスを置いて、気づかないまま閉じたら画面が割れてしまって……」と語る和田さんの満身創痍なMacBook Air。映像や音声の編集にはスペックが及ばないところもあり、現在は別のMacを使用しているとのこと

──作業で1番大変だったのは?

和田 Live2Dの作業を終えて、アバターを画面に映して自分と同期させるところが1番大変でした。

技術的に、FacerigもMacには対応してないし、iPhoneを接続してもレイテンシーが発生するし、同時にGarageband立ち上げると重いし……。

しかも、なぜか『RPGツクール』のゲームがどうしてもやりたくて、Wineでexeファイル無理やり立ち上げて(※8)みたいな……。めちゃめちゃでやってたので、放送の途中でゲーム落ちちゃったりとか、音声がなぜか乗らないとか……。

※8 Wineでexeファイル無理やり立ち上げて……「exeファイル」はWindowsにおけるアプリケーションの実行ファイルで、Macでは開けない。WineはMac上でexeファイルを開くために作られたオープンソースプログラムであり、いくつかのアプリケーションではWindowsネイティブに近い動作を実現している。複雑なアプリケーションは動かないことも多い。

──そういえば、バーチャルの和田さんは眼鏡浮いてますよね?

和田 「つる」がなくて(笑)一応前人の方がいらっしゃって、つるを別パーツで作ればできそうなんですけど、まだ「面」の作り方もあんまりわかっていないので、眼鏡でも実装できたのが奇跡です(笑)

──今、3D化を目指して作業されてますよね。これも大変そうですか?

和田 大変ですね、何もかも初めての状態でゼロから完成まで行こうとしているので……。

過去に完成までつくった経験があれば、「後で後々こういう問題が起きるから最初のうちに対策を打っておこう」みたいなこともできると思うんですけど、それがいま行き当たりばったりでいろんな問題を乗り越え乗り越え……という感じ。大変です。

──3Dモデルの作成にあたって導入したBlender(※9)はどうですか?

和田 感動しました(笑)。接着剤を使わなくても接着できるわけじゃないですか、皮膚と骨を。それはすごいことだと思うんですよね。

もし現実世界のマテリアルで人間の形をつくれたとしても、あるポーズでここに立たせようとしたら物理的な問題で倒れちゃうとか、支えが必要だったりとかで、一番理想の形にはならなかったりします。でも3DCGだとそれを軽々乗り越えられるということに感動しました。 ※9 Blender……オープンソースで開発された3DCGソフト。無料で使える3Dレンダリングソフトとして支持を集める。

──結局Boot Camp(※10)でWindowsも導入してましたね。

和田 そうなんです。本当はできることなら全部Macでやりたかったんですけど、プログラミングまではまだ手が出せなくて、Unity(※10)とかもよくわからないし……。


※9 Boot Camp…アップルの開発したデュアルブート用ソフトウェア。導入すると、ストレージにWindows用のパーティションを作成してMacにWindowsをインストールすることができる。ネイティブ環境で起動できるのが利点。
※10 Unity…ユニティ・テクノロジーズが開発したゲームエンジン。統合開発環境を内蔵しており、ゲームの制作以外にも音声解析、動画制作などに導入事例がある。
──受肉した後にも、「生きる大変さ」があるんですね……。

和田 VTuberの世界にも、「テレビの世界で活躍するバラドルからライブアイドルまでの幅広さ」みたいなものがあると思っていて、配信トラブルとかの"生きてる大変さ"も含めて、エンタテイメント的な目で見てもらえたら良いなって思います。だんだんアップデートして可愛くなっていくさまを見せていければいいなと思ってます。

──引き続き、応援しています。

2022年2月5日追記🎉🎊

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和田

Maison book girl

矢川葵、井上唯、和田輪、コショージメグミ、による4人組グループMaison book girl(通称ブクガ)のメンバー。身長148cm、北海道出身。
同グループは音楽家サクライケンタが楽曲から世界観構築まで全面プロデュースを行い、独自の音楽性やブランディングが施された世界 観が話題を呼び、2016年11月メジャーデビュー。2017年4月5日には待望のメジャー1stアルバム「image」を発売。2018 年 5月17日~5月19日にイギリス・ブライトンで行われる国際音楽フェス『THE GREAT ESCAPE FESTIVAL2018』に日本代 表として出演。来る11月21日には待望となるメジャー2ndアルバム「yume」を発売、アルバムを引っさげて11月25日には 日本橋三井ホールにて「Solitude HOTEL 6F」の開催が決定。

白石倖介

ライター/ラッパー

コンピュータ専門誌の編集者を経て、フリーライターとして活動中。Mac歴23年、iOSにも詳しい。写真も撮る。毎週土曜、秋葉原のはずれで早口で喋っている。主にTwitterにいます。

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