今いちばん脱げるシンガーソングライター、北九州市に帰る 地元の素顔、恩師の言葉

POPなポイントを3行で

  • 全国で住みたい地方都市1位に輝いた福岡・北九州市
  • 「今いちばん脱げるシンガーソングライター」藤田恵名が凱旋
  • 地元・北九州市で触れた、街の素顔、家族や恩師との再会
福岡・北九州市。深刻な公害を克服して治安を劇的に改善させ、2018年には全国でもっとも住みたい地方都市1位に輝いた「奇跡の街」といわれている。文化的にも「いい意味でごった煮」と北九州市職員の方が認める通り、多くの個性が絶妙に存在する街だ。

しかし一方で、「修羅の国」という根強い枕詞がつきまとい、悪いイメージをなかなか払拭できない「日本で一番勘違いされやすい街」ともいえる。

今回、そんな北九州市をともに巡ってもらうのが、シンガーソングライターの藤田恵名さん。
藤田恵名さん

藤田恵名さん

リリースする作品のジャケットはヌード、ライブもビキニで魂の歌を歌うことで一躍注目を浴び、メディアの露出も急増している「今いちばん脱げるシンガーソングライター」だ。バラエティ番組『アウト×デラックス』に出演した際に、マツコデラックスに進路相談をしたことでも話題となった彼女は、北九州市・若松区出身でもある。

仕事の幅が多岐に渡ることから「収集がつかなくなっている」と自認する藤田さん。明るくない過去を背負いながらもひたむきな努力を重ね、中学生から口にしていた夢を実現させてきた彼女。その強烈なキャッチフレーズとビジュアルも相まって、恐れずにいえば、イロモノ扱いされている側面もある。彼女こそ「今もっとも誤解されやすいアーティスト」かもしれない。

「勘違いされやすい街」と「勘違いされやすい女」。そんな共通項をもつ両者だが、深く掘り下げていけばいくほど、次第に表れる本当の姿がある。

「長く地元に帰れなかった時期があった」という藤田さん。「今いちばん脱げるシンガーソングライター」に、地元・北九州市で心も脱いで感じてもらった、地元のこと、家族のこと、教育のこと。

取材・文:和田拓也 撮影:山口雄太郎 編集:新見直 協力:藤田恵名、北九州市

藤田恵名が北九州市に凱旋

この日は快晴。まず藤田さんが降り立ったのは小倉。 小倉駅 「19歳で上京してからは、地元に帰省してもいつも1日か2日で帰ってしまうことが多く、ゆっくりできないので知らないことの方が多いかもしれません。今回は新鮮な気持ちで地元・北九州市を楽しみたいと思います!」と藤田さん。

「高校では芸能コースのある博多の学校に北九州市から通学していたので、一番小倉で遊んでいたのは中学生の時。小倉は、当時住んでいた若松からドキドキしながら電車やモノレールやバスを乗り継いで、おもいっきり背伸びをして行く場所でした。

都心部の小倉に行くことを“街に行く”と言っていたんですけど、“街”が近づくにつれて気持ちが高ぶったのを覚えています」と久しぶりの小倉の街並みを眺めながら話す。
魚町銀天街からさらに奥へ曲がった「鳥町食堂街」には、焼うどん発祥の店「だるま堂」などもある

魚町銀天街からさらに奥へ曲がった「鳥町食堂街」には、焼うどん発祥の店「だるま堂」などもある

北九州市随一の繁華街で、アーケード商店街発祥の地であり、いまなお賑わいをみせる魚町銀天街から細い路地を折れ鳥町食堂街へ。狭い路地に老舗の店がひしめき合う、小倉でも有数のディープなエリアだ。

「入り組んだ路地も、小さい頃は怖くて入れませんでした。こんな“味な店”がたくさんあるんですね...」と驚く藤田さん。

一同がまず最初に訪ねた食処は「耕治」。創業63年、北九州市出身の小説家である松本清張が、足繁く通った老舗中華料理店だ。 老舗中華料理店「耕治」 この日は一番人気の中華そば、焼き飯、シュウマイをいただいた。ちなみに、西日本では炒飯(チャーハン)を焼き飯と呼ぶことが多い。 「耕治」絶品の中華そば 「あぁ、美味しい...。東京では太ちぢれ麺が多いから、やっぱりこの細麺を食べると落ち着きます。スープは胡椒が効いていて、コクがあるのに、あっさり優しい。焼き飯もパラッパラで一粒一粒味がある。

シュウマイも、大ぶりで皮が薄くて肉がぎゅうぎゅうに詰まってます。これ、なんでこんなにトロトロなんですか? 仕事でこんなに美味しいもの食べれるなんて幸せです...」

前回一緒に北九州市を回ったぼくりり(ぼくのりりっくのぼうよみ)さんと、全く同じことをいう藤田さん(関連記事)。
北九州市の老舗中華屋で絶品ラーメンに舌鼓!
 
ちなみに、「耕治」に通い詰めた松本清張のお気に入りの一品は8500円のフカヒレの姿煮ラーメン。「耕治」に43年勤める現総料理長・角井賢次郎さんは当時、厨房から松本清張の姿を覗いていたという。 「耕治」現総料理長・角井賢次郎 「作家を目指していた先代が松本先生のお世話になっていましてね。先代の作品にアドバイスをしていただいたり、お店にもよくいらしてました。東京に移られてからも、しょっちゅうフカヒレラーメンを冷凍して送っていましたよ。『これを夜食にすると筆が進むんだ』とおっしゃって、大変気に入ってらっしゃいました」。
「耕治」が発行していた小冊子

「耕治」が発行していた小冊子。松本清張はなんと無償で原稿を寄稿していた。永六輔など、名だたる大作家の文も寄せられた、驚異の”中華料理店ZINE(ジン)”だ

中華そばがあまりにも美味しすぎて、筆者は翌日の休憩時間に編集部一同を連れて再度「耕治」を訪れた。地元民のオススメは担々麺。筆者はこちらもきちんと食してきた。フカヒレラーメンを食べていたら、原稿の筆もさらに進んだだろうか。

思い出の船に乗って、生まれ育った若松へ

小倉から次に一同が電車で向かったのは若戸大橋。戸畑区と、藤田さんが生まれ育った若松区を繋ぐ、建設当時は東洋一とされた吊り橋だ。
電車に乗り、若戸大橋へ向かう。「この電車は小倉と若松の移動でよく使いました。ぐっとくるものがあります」

電車に乗り、若戸大橋へ向かう。「この電車は小倉と若松の移動でよく使いました。ぐっとくるものがあります」

若戸大橋のふもとの街「戸畑」に着くと、「うわぁ...! 本当に久しぶりです。当時の思い出が蘇ってきました。若戸大橋の建設にはおじいちゃんが関わっていたそうなんです。おばあちゃんの家で、写真もよく見ていました」と興奮気味に話す。

「当時は当たり前すぎて気づかなかったんですが、駅前から橋や海が見えるこの眺めは凄い。ローアングルの大橋をここまで間近に見ることができる街ってなかなかないですよね」 若戸大橋を撮影する藤田さん 戸畑渡場から、若戸渡船へと乗り込む。運賃はなんと大人100円(子ども、お年寄りは50円)。藤田さんが最後に若戸渡船に乗ったのは、15年以上前のことだ。

「嬉しい…! でも緊張してきました。船に乗るのは12、3歳以来ですね…。あちこちに転校してきたので、記憶も曖昧になりがちで。でもこの船だけは特に覚えていて、また乗りたいと思っていたんです」 若戸渡船 「船は交通手段のひとつとして使っていいました。ずっと変わらないで欲しいなぁ」 船乗り場 若松に到着するまでの約3分の乗船時間も、当時は「ものすごく長く感じた」という藤田さん。「お母さんとお姉ちゃんにひっついて、いつもお菓子を持って、ドキドキしながら乗っていました。船が岸から離れて、『ちゃんと着くかな』って。何より、お仕事でこの船にまた乗れたことが本当に嬉しいです」と、うっすらと涙を浮かべていた。
「今一番脱げるシンガーソングライター」が、北九州市の思い出の船で!

小倉とも違う、若松に流れる素敵な時間

若松はかつて、石炭の積み降ろしの拠点として栄えた町だ。日本の近代化を支え、現在も新エネルギーの産業拠点となっている。大俳優の高倉健さんが、昔積み降ろしのバイトをしていた場所でもあるそうだ。

そんな若松には、古くから残る、味のある看板や商店、市場が今も残っている。“レトロ風”ではなく、本物のレトロな風景を楽しむことができる。 上野海運ビ 若松の渡場からすぐのところにあるのが「上野海運ビル」。旧三菱合資会社の若松支店として大正2年に建造、築100年を超える。国の有形文化財建造物として登録され、映画のロケ地としても度々使われている若松の文化的なシンボルだ。現在ではオフィス、古着・雑貨屋、カフェなどが入り、一般にも解放されている。 上野海運ビルの内部 上野海運ビル rere_DSC8971 若松を散策中、小腹が空いて食したのが、この旅で最も衝撃だったといっても過言ではない、創業から100年を超える「丸窓天ぷら店」のすり身の天ぷらだ。 丸窓天ぷら店 小倉の食の台所「旦過市場」の超人気商品の「カナッペ」に勝るとも劣らない美味しさ。小麦粉などの“つなぎ”を入れずに白身魚だけを使うことで、フワフワのすり身となるのだそう。
「めちゃくちゃおいしい!信じられないくらいモチモチしています!!」と藤田さんも驚いて、思わず一番人気の「きくらげ入りのすり身天ぷら」もペロっと平らげる

「めちゃくちゃおいしい!信じられないくらいモチモチしています!!」と藤田さんも驚いて、思わず一番人気の「きくらげ入りのすり身天ぷら」もペロっと平らげる

手押しポンプのある「ウエル本町商店街」

手押しポンプのある「ウエル本町商店街」

若松の昔ながらの市場「えびす市」

若松の昔ながらの市場「えびす市場」

筑豊で産出された石炭を若松港まで輸送することを目的に、九州で二番目の鉄道が敷設されたのがかつての「若松操車場」。跡地には当時のSLがそのまま展示されている

筑豊で産出された石炭を若松港まで輸送することを目的に、九州で二番目の鉄道が敷設されたのがかつての「若松操車場」。跡地には当時のSLがそのまま展示されている

新たな文化の発信地を目指す

若松にある、ちょっと変わったお店が「ナカガワ・スポイル」だ。このお店、なんとランチのサブスクリプション制度「フリーランチ」を導入している、ちょっと変わったどころか、にわかに信じられないお店だ。
月に540円で、平日何度でもランチを食べることができる

月に540円で、平日何度でもランチを食べることができる

小倉駅に近い商店街を中心に「リノベーションまちづくり」を推進するなど、行政としても移住促進を積極的に図っている北九州市だが、その流れは若松区にも起きている。

若松の空き家となってしまった木造密集地帯を活用し、街の活性化に取り組むのが「ワカマツグラシパートナーズ」だ。シャッター街となってしまったこの街を、「1ヶ月のうち30日間、シャッターが開いている状態にすること」を目標に始まったプロジェクト。
「ワカマツグラシパートナーズ」が手がける、古民家をリノベーションした民宿施設。「ナカガワスポイル」のすぐ裏手にある

「ワカマツグラシパートナーズ」が手がける、古民家をリノベーションした民宿施設。「ナカガワスポイル」のすぐ裏手にある

現在ではシェアハウスやゲストハウス、雑貨屋、インテリアショップなど、少しずつ輪を広げている。「ナカガワスポイル」を営むのは藤田毅さん。東京で仕事をしていたが、地元である北九州市に戻り「ワカマツグラシパートナーズ」に参加した。 「ナカガワスポイル」藤田毅さん若松の魅力は、何より海が近いこと。仕事とか人生の悩みって、そのときに海を見るだけで、救われることもあるんです」と藤田毅さん。

北九州市について「家賃も安くて若い方にとって移住はしやすいので、色眼鏡で見ない県外の若者が多く北九州市に来ている」のを感じるという。

「地方そのものが盛り上がって来ているのは感じますが、まだまだこれからですね。若松に関わらず、『人材不足』『地元就職率が低い』など、問題の深刻さは逆に地方の魅力にもなる。ビジネスチャンスって『困ったこと』からはじまります。そういう意味で、いろんなチャンスが転がっている街です」と話す。

この若戸大橋のふもとの戸畑と若松の街。決して大げさではなく、日本離れした街並みも含め、かつてのニューヨーク・ブルックリンに近いポテンシャルを筆者は感じた。

北九州市職員の方が「古いものと新しいものが歩み寄りを見せている」という北九州市を、またひとつ体現している街だと感じた。

“女神が嫉妬した”岬に、ひっそりと佇む「縁結び」の神社

この日の北九州市は猛暑日。一同は小倉から車で約40分、避暑スポットとして少しずつ人気が高まっている海岸「遠見ヶ鼻」へと向かった。 遠見ヶ鼻
水浴びもできる格好に着替えた藤田さん。快晴の中、ピンクのビキニが眩しい

水浴びもできる格好に着替えた藤田さん。快晴の中、ピンクのビキニが眩しい

小さな鳥居が構える坂を下り、木が生い茂り木漏れ日が心地良い細道を抜けると、透き通った空と海が眼前に広がる。 遠見ヶ鼻 遠見ヶ鼻 ポツンと設置されているのは、妙見埼灯台(みょうけんさきとうだい)。空と海のコバルトブルーに、白よりも鮮やかにみえる灯台の白壁。潮風に侵食された岩肌が作る大地の層。まるで西洋画のようなコントラストに、ここが日本であることを一瞬忘れてしまう。
約3千万年前の地層が露出した一帯は、福岡県の天然記念物に指定されている

約3千万年前の地層が露出した一帯は、福岡県の天然記念物に指定されている

岬をさらに降りると、隠れるようにある、プライベートビーチさながらの海岸が見えてくる。
炎天下のこの日、スタッフ一同「飛び込みたい...」と心から思っていた

炎天下のこの日、スタッフ一同「飛び込みたい...」と心から思っていた

藤田恵名さん 海から少し登ったところにある鳥居をくぐると、海を望む小さな無人の神社、「御嵜(みさき)神社」がある。 御嵜(みさき)神社 縁結びの神社として知られる御嵜神社は、ある言い伝えがある。神社には夫婦の神様が祀られているのだが、夫のイザナギノミコトは遠見ヶ鼻の美しい夕陽に心を奪われてしまう。 御嵜(みさき)神社 嫉妬した妻のイザナミノミコトは、八つ当たりを起こして沖では遭難事故が相次いでしまったため、村人たちが夕陽が見えないように社を建て、それ以降夫婦はまた仲睦まじく暮らすようになったのだという。それから、この神社は夫婦円満、縁結びの神社とされるようになった。

イザナギノミコトが見とれたように、夕暮れどきになると、響灘(ひびきなだ)に沈む夕陽を堪能できる。認知度があまり高くないため人も少なく、絶好のインスタスポットとして人気が高まっているそうだ。北九州市定番のデートスポット「門司港」からワンステップ踏み出したいときは、ぜひここに寄るのがいいだろう。近くには海水浴場やレストラン、露天風呂に疲れるかんぽの宿もある。全国的な酷暑の今夏、避暑スポットとしてもぜひ足を運びたい場所だ。

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プロフィール

和田拓也(Wada Takuya)

和田拓也(Wada Takuya)

Editor / Writer

1986年生まれ。サッカーメディア「DEAR Magazine」を運営する傍ら、「HEAPS Magazine」などWeb媒体を中心に執筆・編集を行っている。ストリートやカウンターカルチャーが好きです。

Twitter: @theurbanair
Instagram: @tkywdnyc
SIte: http://dearfootball.net/

山口雄太郎(Yamaguchi Yutaro)

山口雄太郎(Yamaguchi Yutaro)

Photographer

1987年長野県生まれ。
神田外語大学外国語学部国際コミュニケーション学科卒業。2010年ナショナルジオグラフィック国際写真コンテスト風景部門優秀賞、2015年上野彦馬賞入選、2014年・2017年清里フォトアートミュージアムヤングポートフォリオ作品収蔵。

http://www.yutaro-yamaguchi.com/

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