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  • 「美しい顔」が全文掲載へ
  • 他作品との類似性を巡って物議を醸している
  • 「作品の価値」を巡る議論に発展

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講談社が「美しい顔」を全文公開へ 芥川賞発表を前に“異例の事態”

「美しい顔」が掲載された『群像』2018年6月号

北条裕子さんによる小説「美しい顔」が、他の作者によるルポルタージュ作品などとの類似点を指摘されている問題を受けて、作品を掲載した文芸誌『群像』を発行する講談社が作品の全文を無料公開した(全文公開)。

「美しい顔」は『第61回群像新人文学賞』を受賞し、7月18日(水)に受賞発表を控えている『第159回芥川龍之介賞』にもノミネートされている。

作品の全文が公開されたのは昨晩7月4日。一連の議論が、芥川賞候補作品がWeb上で無料公開されるという異例の事態を引き起こすこととなった。

小説「美しい顔」のあらすじと騒動の経緯

小説「美しい顔」は、東日本大震災を舞台に、母親が行方不明になった女子高生・サナエを主人公とした被災者を描いている。

惨たらしい被災の実態を描くだけではなく、被災者である美少女のサナエに殺到する取材陣とあえてそれに迎合する自身の姿を通して、現実と向き合っていく様が描かれている。

作品は高く評価され、2018年4月には『第61回群像新人文学賞』を受賞して『群像』に掲載され、6月には『第159回芥川龍之介賞』候補作品にもノミネートされることとなった。
北条裕子さん/画像は『第61回群像新人文学賞』告知ページよりスクリーンショット

北条裕子さん/画像は『第61回群像新人文学賞』告知ページよりスクリーンショット

しかしその後、いくつかの作品に類似する表現が指摘され、6月29日以降、その問題が報道され始める。

それらの騒動を受けて、講談社が7月3日にコメントを発表。参考文献を掲載しなかった点について謝罪しつつ、「盗作」や「剽窃」といった表現については強く抗議する内容となっている。

今回の問題は参考文献の未表示、および本作中の被災地の描写における一部の記述の類似に限定されると考えております。その類似は作品の根幹にかかわるものではなく、著作権法にかかわる盗用や剽窃などには一切あたりません。「群像新人文学賞「美しい顔」関連報道について 及び当該作品全文無料公開のお知らせ」より

そして、参考文献として、「大きな示唆を受けた」とする石井光太さんのルポルタージュ作品『遺体 震災、津波の果てに』はじめ、計5作品が挙げられた。

同時に、近日中に、著者の尊厳を守り作品としての評価を広く世に問うため、「美しい顔」の全文公開に踏み切る旨を発表。

翌日7月4日には、講談社の公式サイトにてPDF形式で全文が公開されるに至った。

7月6日(金)発売の『群像』8月号でも、参考文献を明示しなかった点についてお詫び文が掲載される予定だ。

芥川賞候補作が無料公開される“異例の事態”

「大衆小説」を対象とする直木賞、「純文学」を対象とする芥川賞は、ともに文藝春秋が主催する文学賞だ。

数ある文学賞の中でも高い知名度を誇るため、書店にとって、1年に2回、世間の注目が集まる重要な行事となっている。

出版界においては権威ある賞となっている両賞のあり方を巡っては常に様々な意見が交わされているが、同賞の設立者である作家・菊池寛は当初から宣伝の側面も大きいことを明言していた。

毎回、受賞作品だけではなくノミネート作品も注目されるため、報道を目にして書店を訪れる人を見込んで、各書店は出版社へ追加の注文を行う。

長く続く出版不況にあって、芥川賞は、出版社が主導する読者との「お祭り」の一つであり、その宣伝効果を期待されている側面は確実にある。

まだ「美しい顔」の単行本情報などは発表されていないが、仮に受賞を逃したとしても刊行時には注目が見込めたはずで、Web上で無料公開に踏み切ったのは決断だったと言える。

1935年に設立された芥川賞の長い歴史において、決してトラブルがなかったわけではない。

記念すべき第1回、小説「逆行」でノミネートされ受賞を強く望んだ太宰治が落選したエピソードは有名だ。選考委員の一人だった川端康成の講評(作品への評価コメント)に激昂した太宰が「川端康成へ」という文章の中で「刺す。そうも思った。大悪党だと思った。」(青空文庫)とまで書いたことが世間の耳目を買った。

ほかにも、受賞辞退や誤報騒動、あるいは選考委員による不遜な講評を巡る議論など、社会的に広く知られているわけではないが、過去にも様々な問題は起こっている。

ただ、筆者の記憶している限り、長い歴史を誇る芥川賞において「盗作」という言葉が取り沙汰されるような騒動が立ち上がるのも初めてなら、芥川賞候補作品が単行本化される前にWeb上で全文無料公開されるというのもやはり異例の事態だ。

「作品の価値」を巡る議論に発展

様々な報道が飛び交い、ネット上で議論を巻き起こしている「美しい顔」騒動。

参考にしたことも本人と出版社が認め、参考にされている出版社がその対応を不服としている以上、同作を巡る問題はいまだ解決に至っていない。

さらに講談社はコメントの中で、出版社として参考文献を明示しなかった自らの落ち度を謝罪しつつ、「盗撮」や「剽窃」といった報道や、『遺体 震災、津波の果てに』を出版する新潮社の「単に参考文献として記載して解決する問題ではない」との主張について抗議している。

上記の問題を含んだ上でも、本作の志向する文学の核心と、作品の価値が損なわれることはありません。「群像新人文学賞「美しい顔」関連報道について 及び当該作品全文無料公開のお知らせ」より

著者(や出版社)の品格や言動が作品のイメージを損ねてしまうこともあるのは事実だが、それが必ずしも「作品の価値」に直接影響を及ぼすとは限らない。

仮に「盗作」や「剽窃」といった著作権侵害であれば作品の価値がそのまま疑われることとなるが、それは法廷で争われるべきもので、現時点で参照されている側は著作権侵害を訴えていない。

影響を与えた作品や参考にされた作品を基本的に明示することのない小説などの創作における慣習も大きく影響しているが、具体的記述に及ぶレベルで参考にした文献が存在するのであれば(当然その行為自体も創作上は褒められたものではないが)せめて明示されるべきであったし、それが後から露見した結果、批難が集まるのも仕方ない。

そしてその責任の多くは、本作がデビュー作である著者ではなく、担当編集や出版社が負うべき問題である。本来、編集や出版社が著者を守るためにも万全を期しておくべきだっただろう(著者本人が参考文献の存在を秘匿していた場合はそれも難しいが)。

だからこそ、この騒動は「作品の価値」を貶めない、とする講談社の主張にも一理ある。

とはいえ、今回の件では、東日本大震災という未曾有の災害をモチーフにしている点が議論に拍車をかけている。今現在も復興活動が続いている震災をモチーフにする上でしかるべき執筆の手続きだったのかが問われている、という指摘もある。

評論家の荻上チキさんは、7月3日に放送されたTBSラジオ『荻上チキ Session-22』にて、参照元である『遺体 震災、津波の果てに』はもちろん、「美しい顔」を読んだ上で、法的問題や道義的問題とは別に、「美しい顔」の作品的価値を認め、きちんと双方を読んだ上での公平な評価や議論をリスナーに対して呼びかけている。

「この作品でしか描けなかった世界観というものがまずあるということは強調しておきたい」TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」音声配信より、10:33頃

まだ一晩しか経っていないが、果たして、ネット上で本件を糾弾しているうちの何人が全文公開された「美しい顔」を読むだろうか。

そして、関係者全員にとって不本意な形ではあるだろうが、「芥川賞」の行方にも注目が集まる。

芥川賞ノミネート作品

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