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POPなポイントを3行で

  • 「LGBT表現が生まれ、送り出される現場」3回目
  • 『ぼくたちLGBT』著者・トミムラコタへのインタビュー
  • 「この作品をLGBTの啓蒙活動にはしない」の真意

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「漫画を啓蒙活動にはしない」 トミムラコタ『ぼくたちLGBT』インタビュー

『ぼくたちLGBT』1・2巻

本連載「LGBT表現が生まれ、送り出される現場」では、自身もゲイであるライター・須賀原みちが、LGBTを題材にした作品の制作過程を取材。

作品として描かれたものはもちろん、何が“描かれなかった”のか、そしてエンターテインメントだからこそ“描けたもの“とはなにか? その問いかけを通して、現在のLGBTと社会との関わり方に触れたい。

トミムラコタさんの著作『ぼくたちLGBT』は、自身や周囲の知人らの経験談を綴ったノンフィクションのエッセイ漫画。

“ゆるいエッセイ風漫画が中心”という「ジャンプ」看板としては異色のコンセプトで2016年にオープンした集英社のWeb漫画サイト「ふんわりジャンプ」にて連載されたものだ。 『ぼくたちLGBT』はLGBTを題材とした作品ではあるが、当事者一人ひとりの体験談を漫画として明るくPOPに描いている。

今回、この6月に最終巻となる2巻が発売されたのを記念して、担当編集の山口歌織氏(編集プロダクション amadare)、そして一部同席いただいた「ふんわりジャンプ」編集長の清宮徹氏とともに、『ぼくたちLGBT』誕生から制作に至るまでお話をうかがった。

バツイチ子持ち26歳、バイセクシュアルです」と宣言し漫画活動を続ける彼女は、『ぼくたちLGBT』を通して何を得たのか。

取材・構成:須賀原みち 編集:新見直

註:本文では、性的マイノリティを総称して”LGBT”と記している。“LGBTの人”という場合、さまざまな性的指向、性自認の中で、ヘテロ(ストレート)以外のいずれかを指している。

レズビアン専用出会い系サイトが遠いきっかけ

──まず、『ぼくたちLGBT』の連載が始まった経緯について、お教えください。

トミムラコタ(以下、コタ) 最初は、「何か連載をしませんか」みたいな感じでお話をいただきました。

担当編集・山口歌織(以下、山口) 「ふんわりジャンプ」の作家さんを探している時に、コタさんがTwitterで「お父さんがゲイビデオに出た」という4コマをアップして、バズっていたんです。 それを見てお声がけしたんですが、その4コマは『実録!父さん伝説』(イースト・プレス)として他社で書籍化の話が進んでいたところでした。なので、「何か別のテーマがあったらやりませんか?」とお話ししたら、コタさんから「実は私はバイで、周りのすごい面白い人たちを紹介するエッセイをやってみたいです」と。

コタ お話をいただく前から、『ぼくたちLGBT』のベースになる4コマは、個人的にTwitterにアップしていたんです。意外とみんなの反応が良くて、連載としてやってみたいな、と。

ただ、最初はLGBTをテーマにした漫画を描こうとは思っていませんでした。Twitterの方は、LGBTというのは意識せず、ただ私の恋愛の失敗談をメインとして描いていて。

実は私、思春期の頃に見ていたウェブサイトを見に行く趣味があるんです(笑)。自分が高校生の頃に使ってたレズビアン専用の出会い系サイトを見に行くと、サイト自体は残っていたけど、交流掲示板とかはすっかり廃れてしまっていて。ふと「このサイトに来てた人たちは、今どこに行ったんだろう?」と思ったんです。

そんな「昔の思い出を誰かと共有したい」という気持ちと、「自分の恋愛の失敗談を描いてみたい」というのが合わさって、4コマをTwitterに上げ始めました。

──そこからLGBTを題材にされたのはなぜですか?

コタ 私の恋愛の失敗談をメインにしたネームの段階では、性別も何も関係ない『だめんず・うぉ~か~』(扶桑社)みたいな、ちょっとゆるい恋愛エッセイみたいなノリが良いかもしれない、と山口さんと意気投合したんです。

それで、連載として企画にするのであれば「題材はLGBTに絞ったほうがいい」ということだったので、私の体験とLGBTの友達の失敗談を入れた、普通の恋愛エッセイという風にしています。
『ぼくたちLGBT』1巻より

『ぼくたちLGBT』1巻より

山口 男女の恋愛のエッセイ漫画はいくらでもあるので、コタさんのお友達で、LGBTの方々の恋愛失敗談とか成功談を描いていきましょうか、というお話をしました。

私自身はいわゆるストレートなので、「知らない世界だし、面白いな」と。漫画に対しては「面白ければいいじゃない」という意識があるので。
担当編集の山口さん/トミムラコタさんの『ぼくたちLGBT』オマケ漫画より

担当編集の山口さん/トミムラコタさんの『ぼくたちLGBT』オマケ漫画より

──企画が出来上がった段階で、連載にあたっての懸念などはなかったですか?

「ふんわりジャンプ」清宮徹編集長(以下、清宮) Twitterにアップされていた4コマは編集部員全員が読みましたが、みんなすごく好意的な反応でしたね。

最初は、僕も(LGBTは)全然知らない世界だったので、(漫画にした場合)すごいシリアスな作品が多いのかな、と思っていたんです。でも『ぼくたちLGBT』は、秘めているテーマはシリアスなんですけど、すごく前向きで、明るくポジティブな作品という印象を受けました。

LGBTに対して偏見を持っている人や、僕みたいなLGBTについて無知な人間でも、「LGBTの中にはこういう風に考え、行動する人がいるんだ」というのが理解しやすくて、入りやすい作品だと思ったんです。

「“いろんな人がいる”という多様性をわかってもらいたい」ということを意識しながら、偏見やいろいろな制約にもめげずに、そこを突破していこうとする意志みたいなものを感じました。それにプラスして、ユーモアもあるのがすごく良いな、と思って。

コタ LGBTという繊細なテーマだったので、Web媒体ではあるけれど「ジャンプ」という看板のついた媒体で企画が通るのか不安でした。でも「OKです」と言われて、「やった!」と。

清宮 「ふんわりジャンプ」は、集英社の少年誌である「少年ジャンプ」グループと、青年誌である「ヤングジャンプ」グループのうち、青年誌のグループに属しています。ただ、いろいろなテーマを扱う青年誌のグループでさえ、現状LGBTという題材を扱った作品は少ないです。
清宮編集長

清宮編集長

でも、「ふんわりジャンプ」は、そういったなかなか紙の商業誌ではやりにくいテーマを拾い上げるために始めた媒体なんです。

グルメやペット、育児といったテーマの作品も多いですが、やはり対象の読者層が大人ということもあって、少しシリアスさを含んだテーマだったりと、作品のバラエティを増やしていろんなファンに対応したいという思いがありました。なので、『ぼくたちLGBT』はまさに欲しいと思っていた作品でした。

LGBTは遠い存在ではない、と気付いた

──2016年の連載開始当初は、ちょうど日本でもLGBTブーム的なものが出てきた時期でもあります。こういった時勢が連載を後押しした部分はありますか?

清宮 そうですね。テレビのバラエティにマツコ・デラックスさんやミッツ・マングローブさんが出てくるようになって、昔は単なるオネエキャラとして捉えられていたものが、人間性の深さを感じられるようになってきた。

それまではどうしても「LGBTは特殊なもの」と思ってしまう部分があったけど、世の中全体がLGBTについて興味を持ってきて、無関心ではなく理解をしないといけない、と感じるようになってきた時期でもあったので。

コタ メディアでも、少しずつLGBT関連の記事が出始めたタイミングでしたね。

清宮 例えば(ストレートである)我々が新宿二丁目に行くと、ゲイバーに行って歌って恋愛相談をして終わり、という感じ。でも、そこではLGBTの人たちと出会いがあって。LGBTにもいろんなタイプがある、ということがわかってくるようになりました。

山口 そうやって、徐々に私たちにとっても身近に感じられるようになりましたね。

──『ぼくたちLGBT』を読むと、コタさんはLGBTの友人が非常に多い印象を受けます。

コタ 自分自身、中学生の時から新宿二丁目に出入りして友人が多かったのと、高校の同級生でも当時からゲイを公言してる子もいたりして、身近にLGBTがゴロゴロいたんですよ。

しかも、みんなそのことに暗く悩んでいるというより、普通に公言して生活しているという姿を見ていました。だから、そういった「LGBTの人たちの日常を描きたい」という気持ちがありましたね。

協力してくれる友人もたくさんいたので、ネタ出しに困ることもないだろうなって(笑)。

高校の同級生でも、『ぼくたちLGBT』を描いてから「実は私もレズビアン/ゲイ/バイ/トランスジェンダーだったんだよ」という人がゴロゴロ出てきて。もっとみんな早く言えば良かったのに、って思うんですけど。

『ぼくたちLGBT』は入り口の入り口

──ほかにも連載を始めて、読者からの反応で印象深かったものはありますか?

コタ 第一話で、自分がノンケ寄りのバイセクシャルで、なかなか公言していなかった、っていうのを描いたら、同じような方からメッセージをいただきました。

私は“モヤモヤセクシャリティ”と呼んでるんですけど、そういう人って明確なゲイやレズビアンと比べて、LGBTコミュニティの中ではカミングアウトしづらいんですよ。モヤモヤセクシャリティは公言するまでもないけど、でも誰かに言いたい……だから「同じような人を見つけて嬉しい」という反応はたくさんの人からいただいて、この作品を描いてよかったな、と思いますね。

今、「13人に一人はLGBT」と言われていますが、モヤモヤセクシャリティの方を含めると、もっと多くいるんじゃないのかな、って感じます。

あと、印象に残ったのは「タイトルが『ぼくたちLGBT』だから、家族に見つかるとマズいので買えないんですけど、応援してます」というメッセージをいくつかいただいたんです。

ヘテロだったら、家族から「この本、何?」って聞かれても「面白いんだよ」ですみますけど、本当に「バレちゃいけない」と思ってる人たちにとっては、この漫画も家には置いておけない要素のひとつなんだということに気づいて、衝撃でした。

私自身は、家族に「バレちゃいけない」と感じたことがなかったので……。 re_MG_0407 山口 『ぼくたちLGBT』はド直球なタイトルですからね。

──ちなみに、僕も人前でAmazon kindleアプリを開いてもバレないように、LGBT関連の電子書籍を買う時は専用のAmazonアカウントを使っています。編集者としても、タイトルを付ける際にその発想には思い至らなかった?

山口 タイトル付けの時は、LGBTに興味がある人に手に取ってもらえるように、むしろわかりやすくしようと考えていました。タイトルからの周囲バレを気にする人がいるというのは、後で気づきました。

コタ 私はとりあえずいろんな人たちに見てほしいという気持ちがあったので、ヘテロの方にも気軽に手に取ってもらえる“入り口の入り口”の本として、この作品を描いていました。だから、タイトルや帯にも「LGBT」や「LGBTs」という単語をつけたんです。

やっぱり、いきなりLGBTに関する専門書や用語解説を手に取ったり、長文のWeb記事をじっくり読み込むのは難しいと思うんです。でも、漫画なら入り口が柔らかくなっていいな、と。だから、ギャグエッセイ漫画でなんとなく手に取って「こんな人たちもいるんだ」くらいで終わってもらっていいと思っていました。

──『ぼくたちLGBT』というタイトルについての議論はありましたか?

コタ 最初、『ぼくたちLGBT』は仮タイトルだったんです。それでOKをいただいて連載が動き出して。後から山口さんに「タイトルを変えたい」と言っても、もうすでに変更はできなかったみたいで……。たまにメディアの記事などでも、主語を大きくすることに対しての批判もあるじゃないですか。

──「ぼくたち」であったり、「ゲイは〜」など、主語を大きく括ることで、当事者から「一緒にするな!」というふうに声が上がることもありますね。

コタ 今思うと、ちょっと気にしすぎたかなって思うところもあったんですけど……。連載を始めてから、Twitterなどでたまにチクチク心に来るような反応を見て、敏感になっていた部分があったんです。

山口 やっぱり批判的なもの含めていろんな意見が来ますね。エッセイなんだけど「フィクションじゃないの?」という疑いの感想も、たまにあります。

ほかにも、本当に苦しんでいる方からは「こんなに楽しいことばっかりじゃない」とか「もっと悩んでる人もいっぱいいるんですよ」という意見をいただくこともあります。でも、ディープな部分は専門家の方にお任せをして、私たちはもっと“ライトに読める作品”をテーマにして、そこは崩さないようにしていました。

「誰かに話したい」という当事者の気持ち

──文面での判別は難しいと思いますが、作品に対しての批判的な意見というのは、ヘテロ側とLGBT側、どちらから上がってくることが多いのでしょう?

コタ 連載を始めた頃は、Twitterとかを見る限り、ネット上でLGBTに関する発言をしている方から厳しい言葉をもらっていた印象です。

ほかにも、匿名で送れるWebアンケートにあった「気持ちわるい、クソレズが」みたいな悪口のコメントとかは、これを送ったのはヘテロの方なのか、LGBTの方なのか、どっちかわからない部分もあります。「いや、私はバイなんだけどな…」って思ったんですけど(苦笑)。

ある程度アンケートが貯まると、山口さんが紙にまとめてもってきてくれるんです。「悪い意見もある紙と、良い意見しか書いてない紙、どっちを読みたい?」って(笑)。絶対傷つくことがわかってるのに、怖いもの見たさで悪い意見の紙を見たら、案の定キツくてヘコみましたね……。

山口 私が読んでもけっこうヘコみました。
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印刷して渡されるアンケート用紙

コタ 作品が創作だったら「自分の物語が悪かった」って思うんですけど、エッセイだと、私がこれまでやってきたことをそのまま批判されているのと同じなので、ちょっとキツかったです。

山口 コタさんがご自身をさらけ出して描いているのを知っているので、フィクションだと疑われるのは、一番辛かったですね。

でも、割合として批判的な意見は少ないですし、「私も実はLGBTなんですけど、隠れていて、今ここで告白します」というカミングアウトの感想も多かったです。ほかの作品のアンケートと比べて、回答の文章が長いものも多かった

「私もこういう経験をしていて、よければ取材を受けますので連絡をください」といって送ってくださる方もいます。連載自体は終わってしまったので、何か別の機会があれば……とも思うんですが。

コタ TwitterのDMでも、悩み相談というか「返信なくていいので、聞いてください」といって長文で送ってくださる方も多いです。私も返信をして、やり取りをさせていただくこともあります。
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『ぼくたちLGBT』1巻より

──LGBTの当事者が「誰かに話したい」という欲望を持っていることを強く感じたりしますか?

コタ 実際、「身近な人には言えないけど、誰かには言いたい」っていう10代の子からメッセージをもらったりもしました。これはけっこう嬉しかったです。私みたいな「遠くの知らない大人」だから言えるんでしょうね(笑)。

──コタさんは思春期の頃にレズビアンの交流掲示板を使っていたということですが、「誰かに言いたい」という気持ちに共感したりしますか?

コタ そうですね、その気持ちに近かったのかなって。(当時)私は東京に住んでいて、(言える相手を)探して新宿二丁目に行けたけれど、地方出身の方からは「出会い系サイトすら過疎っている」というお話を聞きました。都心部に比べて、地方の人はより「誰かに言いたい」という気持ちが強いのかな、というのも感じましたね。

LGBTはこんなにいっぱいいるのに。

──連載中、印象に残っている出来事などはありましたか?

コタ 「LGBTというテーマを扱っているのに、サイトのアンケートに『男/女』の選択欄しかないのはどうなんだ」という意見がちょこちょこあったので、山口さんにお伝えしたらすぐに対応していただけて、すごいありがたかったです。

山口 「確かに『男/女』で分けちゃダメだよね」と思って編集長に相談をしました。その時も、「その他」でいいのか? 「どちらでもない」とかのほうがいいのか? と、言葉使いにはすごく悩みましたが、「男/女/その他」というふうに変更しました。

コタ でも、そうやって項目を追加してくださって、それを「BuzzFeed Japan」が記事にしてくださって(外部リンク)、その記事に対しても「集英社やるじゃん」みたいな意見がいっぱい出て……意見が出る→意見を反映してもらえる→みんなが喜ぶ、っていうハッピーな話だったので、その出来事全部が嬉しかったです。

大きいような小さいような出来事ですけど、それでひとつ先に進めたような気がして。

山口 Web媒体なので、すぐに対応できたのは良かったです。(アンケートの)この形式が普通になるといいんだろうなって。

コタ あとは、ヘテロの方から「LGBTは遠い世界の話だと思ったのに、もっと身近な話だったんだ」という意見が来た時も嬉しかったです。

幼馴染のレズビアンの子がノンケの子と付き合ったんですけど、そのノンケの子に話を聞くと、「まさか自分が同性と付き合うなんて。テレビとか映画、漫画、遠い世界の外国の話だと思ってたのに」って言っていて。私はその発言に驚いたんです。だって、LGBTはこんなにいっぱいいるのに

LGBTをテーマにフィクションで漫画を描くことも一瞬考えたんですけど、やっぱりフィクションだと「漫画の中の話だ」とか「BL」「百合」というジャンルになっちゃうのかな、とも思って。だから、遠い世界ではない日常をエッセイという形で出したいというのは強くありました。

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