Minchanbaby インタビュー 飽き性でメンヘラなラッパーとしての生き方

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Minchanbabyさん

POPなポイントを3行で

  • Minchanbabyにインタビュー
  • メンヘラおじさんだと思われてもいい
  • 飽き性だから常に最新でありたい
「メンヘラ」という言葉からどんなアーティストを思い浮かべるだろうか?

あいみょんやミオヤマザキなどそれを武器のようにしているアーティストも今では大勢いるが、ことヒップホップという現場においてMinchanbabyの右に出る者を筆者は思い浮かばない。

彼は長いキャリアを積み重ねていながら、2016年2月に突如、旧名MINTとしての活動終了を宣言。以降、SNSの更新も止まったことからファンや関係者の間では、引退の2文字が1人歩きした。

しかし2017年、名前をMinchanbabyに改め再始動。その背景には何があったのか? 取材を通して「メンヘラおじさん」としての生き様を感じてほしい。

取材・編集:ふじきりょうすけ 撮影・文:山下智也

Minchanbabyで再始動

──TwitterにMINTの活動を終了すると書いたのが2016年の2月でした。あのとき何があったのでしょうか?

Minchanbaby 2007年以降ずっと仲良くしてたエンジニアさんのスタジオが使えなくって、メンタルをやられた時期でした。いろんなものが溜まっていたんで、空気の入れ替えの意味でMINTとしての活動を終了しますっていう。

実際辞めるつもりはなかったんですけど、その頃は活動も活発じゃなかったし楽曲の発表もあまりしてなかったんで。リスナーのほとんどが本気と捉えてしまったんですね。 Minchanbaby 自分としては、「また言うてるで」ぐらいで軽く捉えられると思ってたんですけど、意外とほとんどの人が自分との思い出を真面目に語りはじめたり。昔知り合いやったラッパーや自分のツイートみてる外側の人たちが拡散したこともあって、マジな雰囲気になってました。

友達からも直接「マジなん?」って聞かれたり。その度「マジなはずないやんか」って答えました。でも、私生活でもごちゃごちゃがあったから一旦リセットやねって。

──ごちゃごちゃ……?

Minchanbaby さっきも言った使ってたスタジオが使えなくなったのも大きいですけど……。もう一つは2年ほどの同棲を解消したことです。常に誰かと一緒にいる心地良さを知ってしまって。それがなくなったのも大きいですね。

抽象的な歌詞は、俺が歌わなくてもいい

──最新アルバムの『たぶん絶対』でもそうですが、Minchanbabyさんのリリックって物凄く写実的ですよね。それこそ性的な部分にはエグさも感じるほどで。

Minchanbaby 名前言ったり、商品名も出しちゃうとか。性に関してのことを言うにしても、シーツにくるまりとかじゃなく、ちゃんと具体的に言う。

例えば今取材してもらってるビジネスホテルもなんかすごいエロく感じるんすよね。泊まるだけの人もいるやろけど、そういうことのために泊まる人もいるし。自分はラブホテルよりもビジネスホテルでの方が回数多いんで。

でも、そこが難しいんですよね。今、売れてる人たちの歌詞って抽象的だから。 ──誰にでも当てはまるからきっと聴きやすいんですよね。

Minchanbaby やっぱり全然知識ない人が聴いて「あ、なんかいい曲」っていうのが売れるってことなんやろうなって思うんです。

でも抽象的な歌詞って、俺が歌わなくてもいい歌詞ができちゃったってなるんですよ。僕の歌詞は我が出過ぎてて、多くのリスナーからの共感を得づらい。それこそ同乗者がいたら車で気軽に流せないとか。

それこそMinchanbabyには、ちょくちょく聴くっていうファン層はいない気がしてるんです。めっちゃ好きか、全く知らないかじゃないかな。

──Minchanbabyさん自身もよく言われていますが、極端にファン層がわかれるのは……メンヘラだからですかね?

Minchanbaby よく言うてますけど、いまはメンヘラおじさんだと思われていい。それをそのまま出しちゃったのが今回のアルバムです。だから、聴いてどう思われようがいい。今回、幸いなことにCDも売れてますし、良い結果に繋がったと思ってます。

いままではどっかで「メンヘラやと思われたくない」って気持ちがあって……。メンヘラだとモテなくなるんすよね、やっぱりね。ただでさえモテないのに、「メンヘラ」っていうともう一歩二歩距離をつけられるから。

それでポップにコーティングしたりもしてたんですけど、なにかを演じるみたいなことはもうしんどくて。気持ち悪い言い方ですけど、(リスナーも)リアルなものを求めてるんじゃないですか。

共感しなくても──まったく死にたいと思わんって人でも、「死にたい」って思いをめっちゃかっこよくラップしてるやつがおるんやって。そこに食いついてくれたやろなって思います。

──Minchanbabyさんといえば「韻」だと思うんですが、こだわりを聞かせてください。

Minchanbaby 歌詞を書く上で、ルールとかハードルがないと書けないんですよね。小節数こんだけあって、踏まなくてもいいから恋愛の話どうぞ、とか言われても書けないんです。

韻を踏むという縛りがあることで、すごい言葉を持ってこないといけない場合があって……踏まなければ言いたいことを言っちゃえるんですけど、ここで踏まなアカン、フロウをつくらなアカンって。だからMなんでしょうね。体質的に。

なかなか出てこない韻を乗り越えたり、ピタッとするのがきたときの感じが好きやから、いまだに固めに踏むんやと思うんです。それがすごい歌詞になるときがある。

ヒップホップがクロスオーバーしかけた瞬間

──少し前の話になるんですが、ネットラップをされてた時代のことをうかがいたくて。僕はねむきゅん(夢眠ねむ)のオタクだったので「魔法少女☆未満」のリミックスされてたのが好きで。

Minchanbaby あの時代。 ──Cherry BrownさんやAKLOさんたちが活躍されている中で、Minchanbabyさんがオタク的なことをラップしていたのが印象に残っているんです。

Minchanbaby 自分は、新しいものにすぐには飛びついたりしないタイプなんですけど、そういうリミックスの文化がTwitterで広がって可視化されたんですよね。

アイドルやアニメの曲で二次創作的なことしてる人たちが、これだけの人数ここにおるんやって。それで下の世代に混ぜてもらいました。

二次創作をしてる人たちってこの曲が好きってだけで勝手にリミックスしちゃう。自分の形にして出すまでが早かったんですよ。それで自分もそうしようと思って。そういう時期でした。 Minchanbaby 俺の世代でやってる人がいなかったというのが大事で、3番手4番手やったらやってない。だから今思うと、時代の空気を考えてやってたんじゃないかな。

アニメを見てるファンや原曲のファンとか、日本語ラップに関係ない人の反応もあるんで、その広がりが面白かった。

──『けいおん!』のリミックスなどもありましたもんね。でも……Minchanbabyさんはいわゆるオタクではないですよね?

Minchanbaby アニメも見ないし、アイドルの曲もいっぱい聴いたのはあの時期だけでしたね。ライブに行くとノリがキツかったんですよ。

──なるほど。オタク的な部分ではなく、2007年から2010年ぐらいにかけてインターネットにいろんなカルチャーが衝突しだしたことが面白かったと。

Minchanbaby そうそうそう。あのとき、もう1つ新しいエリアというか場所ができかけた気がするんですよ。

リミックスが流行って、ヒップホップのビートメーカーよりも二次創作してる人たちが増えたんです。ラップのアカペラをダウンロードして使うみたいな。

韻踏合組合(※)の「前人未踏」をokadadaさんやtofubeats君、The LASTTRAK君もやってたり。
韻踏合組合 - 前人未踏(tofubeats remix)
※韻踏合組合……大阪府を拠点に活動しているヒップホップグループ。Minchanbabyは2000年から2004年まで所属していた。「前人未踏」は結成10周年シングルであり、すでに脱退していたMinchanbabyもfeatで参加している。
──異ジャンルもクロスオーバーするというか。

Minchanbaby まさにクロスオーバーした時期で、ここに何か残ると思ったんすよ。だから2012年、全曲Cherry Brown(Lil’Yukichi)プロデュースで『ミンちゃん』を出したんすけど、リリースした頃にはみんな元々居た場所に戻り始めた。

結果、そこになんにも生まれへんかったなっていう感じはあるし、それ以降も波は寄せてきてないですよね。

──また重なり合う予感もありませんか?

Minchanbaby しないですね。ヒップホップで言えば今の新しいMCバトルブームもありますけど、普通にリスナーとして聴いたり、視聴者として見るみたいな感じなんじゃないんですかね。

──バトルの話でいうと、韻踏合組合は「ENTER」を主催していますが、Minchanbabyさんはその辺に興味とかって……?

Minchanbaby いやいやいや、まったくないんで。ブームになる前からバトルは出たこともないし、苦手なんですよね。「フリースタイルダンジョン」も見たことない。

自分は考えられたものが好きなんです。だからリリック書くのにものすごく時間かかるんですけど……即興性みたいなのに、なにも感じないし寒気がしちゃう。

トレンドを自分なりに解釈して挑戦

──Minchanbabyさんはこれまでにも、ILLMINTからMINTへと名義を変えられてますが、名前を変えることでどういった変化があるんですか?

Minchanbaby MINTっていいやんと思ってMINTにした時の自分と、今の自分は違うじゃないですか。あのときの判断を今考えるとダサい。音の響きもダサいし、「エム・アイ・エヌ・ティー」ってわざわざ伸ばさなアカンかったり。エゴサーチにも余計なもんが引っかかりまくるし。

今の名前はアンジェラ・ベイビーって中国出身のモデルから取ってるんですよ。名前に「ベイビー」って入ってるのが、めっちゃかわいいと思って。 ──過去の作品をダサいと思うんですね!?

Minchanbaby ダサいし飽きてくるんですよね。それを言えちゃうから、ラッパーとして長く続けられてるんじゃないかな。

基本的に飽き性なんですよ。ヒップホップもトレンドが時期ごとに変わっていって、新しい価値観が出てくるのがおもしろい。それを丸ごと取り入れるわけじゃないけど、挑戦したり自分なりに解釈して取り入れていきたいですね。

──新しいものと言えば、ItaqさんやSLEEP GODさんとコラボした曲は、アルバム『たぶん絶対』とは全く音楽性が違うのがおもしろかったです。音楽性やアーティストの振れ幅は、意識されたんですか?

Minchanbaby 今回、アルバム制作に3年ぐらいかかったので、同じことばかりしてても進みにくくなる。だから全然違うのにしようかなとは思ってました。

(コラボするアーティストは)完全にTwitterでDMとかです。遊びみたいな感じでやりませんかみたいな(笑)。キャリアの割にはフットワーク軽いんとちゃうかな。
Minchanbaby "You Oughta Know(Freestyle) feat. ITAQ"
──『たぶん絶対』の「終末(仮) feat. Jinmenusagi」には、電波少女の名前が出てきますが、アーティスト性で共感する部分があるんですか?

Minchanbaby 電波少女は単純にリスナーとして好きで、カラオケで歌いたいんですよね。

彼らもメンヘラって言っちゃうと語弊あるかもしれませんが、結構こじれてる部分への共感もあります。なにかを表現するにしてもひねってる人に惹かれますね。

──ひねるっていう。

Minchanbaby 自分はすごい真っ直ぐな表現したつもりでも、そもそも性格がひねくれてるから変な癖がかかってたりするんですよ。わざと曲げようと思ったらむっちゃ曲げれるんですけどね。

それこそ「イチゴの歌」は、めっちゃ曲げようとしました。あんだけ「死にたい」って言ってたやつがラブソング書くんやって。
Minchanbaby × in the blue shirt "イチゴの歌"
──曲げすぎて逆にど真ん中というか(笑)。

Minchanbaby ゲームだと1回画面から出て、また戻ってきてストライクみたいな感じですよね。in the blue shirtさんのビートに「死にたい」とかのせるのは違うから、ラブソングにしました。

でも「産毛の数だけキスをする」「コンデンスミルクで足舐めたい」とか、ああいう表現で自分を出さしてもらって。

──そこがズバッと刺さっているところですから。

Minchanbaby 俺、こういう歌詞もちゃんと書けるんや、もしかして天才かもなって思ったんですけど、具体的なリリックをなくすと、もう俺じゃなくても良くなるから。 ──最後に、今後の活動について教えていただけますか?

Minchanbaby なかむらみなみちゃんってラッパーと一緒にユニットをはじめました。ふたりのテロリズムって言うんですけど、今、EPサイズで制作進めてます。

ゆるふわギャングしかり、ELLE TERESAさんとYuskey Carterさんのコンビを見て、ああいう男女ユニットがいいなと思って。

それに自分、A&Rの能力があるというか、ほんまにいいなと思った人って俺より売れるジンクスあるんですよ。DAOKOさん、Jinmenusagi、Cherry Brown、AKLOさんもそうだし。そういう流れでいくと、次はみなみちゃんかな。

──売れる予感がしてるんですね!

Minchanbaby 彼女がビジュアルとインパクトあるので前に出てもらって、後ろに俺が控えてるみたいな感じ。キャラが濃ゆい2人でいいかなって。

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2004年に大阪のヒップホップクルー・韻踏合組合を脱退。2007年に1stソロアルバム『after school makin' love』をリリース。2008年終わりからネットでの無料ダウンロードによる楽曲発表をスタートさせ数多くの作品を生み出した。2012年には、Cherry Brownさんが全曲プロデュースした2ndアルバム『ミンちゃん』をリリース。2016年には、活動終了を宣言したが2017年にMINTからMinchanbabyに名前を改名し再始動。9月には3rdアルバム『たぶん絶対』をリリースした。

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