いよいよ1月5日にNetflixで全世界同時配信が開始されたアニメDEVILMAN crybaby。巨匠・永井豪の最高傑作のひとつである漫画デビルマン(1972年)を、アニメ映画『マインド・ゲーム』や『夜明け告げるルーのうた』などで知られる湯浅政明監督が徹底的に翻案。原作の内容を漏らすことなく、現代的にリメイクした作品となっている。

この『DEVILMAN crybaby』の配信にあたり、前代未聞の怪作『デビルマン』が後世に与えた影響を視覚化するための系譜図を作成し、その監修をつとめた海老原優氏の意図についての記事を掲載した(参照記事)。しかし、その記事中でも語られている通り、『デビルマン』という漫画史に残る偉大な作品ともなると、この系譜図に載せたい作品は人の数だけあるもの……。

というわけで、今回はオカルト業界を代表する雑誌「月刊ムー」編集長の三上丈晴氏、永井豪先生の大ファンを公言する作家・編集者として活躍するゆずはらとしゆき氏、"暴力系エンタメ"の専門家であるライターのガイガン山崎氏を招集! 世代と活躍するジャンルはバラバラながらいずれも永井豪作品に造詣の深い彼らに、『デビルマン』と永井豪作品の凄まじい魅力、そして本作が後世に与えた強烈な影響について、じっくりと語ってもらった。

取材・文:しげる 撮影:市村岬 編集:須賀原みち

『デビルマン』鼎談の参加者プロフィール

三上丈晴(みかみ・たけはる)1968年生まれ。「月刊ムー」の5代目編集長。筑波大学を卒業後、学習研究社(現・学研)に入社し、入社1年目より「ムー」編集部に所属しキャリアを積み重ねる。テレビ出演なども多数。2015年に発売されたムック「デビルマン 大解剖」への寄稿なども。

ゆずはらとしゆき1975年生まれ。作家。小池一夫氏に師事し、漫画原作者やゲームシナリオライターを経た後、小説家として『空想東京百景』シリーズなどを刊行。「パノラマ観光公社」名義で出版企画にも携わり、『追憶都市 toi8 ArtWorks』や『平安残酷物語』などの企画編集を担当。大の『デビルマン』ファンを公言している。

ガイガン山崎(がいがん・やまざき)1984年生まれ。“暴力系エンタメ”専門ライター。特撮映画やドラマ、アニメに造詣の深いライターとして活躍し、特撮系のムック本への寄稿のほか、テレビバラエティに出演することも。2016年に開催された『大都市に迫る 空想脅威展』では「空想脅威のオリジン -永井豪と悪魔の世界-」という解説文を手掛けた。

世代が違っても『デビルマン』入門はアニメから

──「『デビルマン』に影響を受けた作品をマッピングしてみよう」という趣旨で、本日はお三方に集まってもらいました。三上さんは1968年生まれ、ゆずはらさんは75年、ガイガンさんは84年生まれと、それぞれ年齢が10歳ずつくらい離れていて、『デビルマン』との出会いもそれぞれ異なると思います。みなさんの『デビルマン』とのファーストコンタクトはどういったものでしたか?

三上 『デビルマン』との出会いは、本放送時のアニメ(1972年)でした。放送当時は幼稚園児で、ご多分に漏れずデビルマンの人形で遊んだり。その後小学4年生になると、マンガをたくさん読むようになります。出身が青森なので、冬になると家の中で遊ぶしかないんですね。なので、当時好きだったデビルマンを描いたり永井豪先生の作品を読んだりしていました。もう永井豪先生は神ですね……。

永井豪先生は「月刊ムー」の創刊号に漫画『UFOから来た少年 ムー』(79年)を描いていて、その縁もあって(永井豪先生の漫画プロダクションである)ダイナミックプロのパーティーなどで直接お会いしたことがあります。 ゆずはら 僕は75年生まれなので、アニメ再放送の世代ですね。『デビルマン』は夏休みに放送されるアニメの定番でした。ただ、漫画家としての永井豪先生は、僕が漫画を読むようになった80年代は正直、不調だったんですよ。

当時、リアルタイムで面白いと思えた永井作品は「週刊漫画ゴラク」で連載していた『バイオレンスジャック』(初出は「週刊少年マガジン」で73年/「ゴラク」では83年より連載)くらいで、少年誌では忘れられた存在になっていました。

むしろ、当時の永井豪先生は過去の作品を掘り起こされる対象になっていて、角川書店が伝奇ノベルス・ブームの時に『凄ノ王』(79年)をノベライズで復活させたり、講談社がKCデラックスという分厚い単行本レーベルで積極的に永井先生の作品を出していました。なので、過去作を読むとすごいんだけど、80年代のリアルタイムの作品はパッとしないので、その落差に戸惑っていた感じですね。

──永井豪という作家を再評価したきっかけは?

ゆずはら やっぱり『デビルマン』ですね。あのスケール感や暴力性や異形性に並ぶ作品って、80年代の新作にもなかったんですよ。80年代に活躍していた若い漫画家は、ちょうどリアルタイムで『デビルマン』を読んでいた世代でしたから、いかに『デビルマン』を越えるかで右往左往していた。「週刊少年ジャンプ」でいえば、『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』(88年)の萩原一至『幽☆遊☆白書』(90年)の冨樫義博がそういう作家でした。

『デビルマン』を最終回から読んだ!?

山崎 僕も『デビルマン』との出会いは、テレビアニメの再放送です。漫画の『デビルマン』に関しては最悪の出会い方で、宝島社から出ていた『いきなり最終回 Part3』(91年)という漫画の最終回だけを集めた本を小学生くらいのときに読んじゃったんですよ。

要は「デビルマン軍団対 デーモンの巨大な超能力の戦いは 苛烈をきわめていた!」からの「ねむったんだね‥‥明」ゴゴゴゴゴゴゴというラストから始まってるんです、僕の『デビルマン』は(笑)。しかも当時は小学生だったから、言葉通り不動明は眠ったんだと思ってたという。そもそもアニメには、サタンも飛鳥了も出てこないんで、あそこで何が起きているのかも理解できてなかったと思います。

三上 それはひどいね(笑)。

山崎 その2、3年後に漫画『デビルマン』を通しで読むことになるんですが、わりと最初はストレートなヒーロー物の体裁で進んでいくじゃないですか。だから、ここからどう展開していくと、「ねむったんだね……明」に繋がるんだろうなと(笑)。

で、素直に「ゲルマーかっけーなー」「ジンメンかっけーなー」と思いながら読んでたら、不動明から「やあ諸君 とうとうここまでわたくしの話を聞いてしまいましたねえ」って話しかけられて、いきなり怒涛の展開に雪崩込んでいく。あれはもう、ビビビッと来ましたよね。

──単行本5冊分で世界が滅亡するのは、すさまじいスピードと展開ですよね。

山崎 あと、終盤にヒンズー教の僧侶が出てくるじゃないですか。あれが一番の衝撃でしたね。まぁ最後の最後に出てくる一番頼りになる仲間が坊主かよ! っていう点にも驚きましたけど(笑)、ずっと神様を信仰していた人たちが、よりにもよって悪魔と合体してヒーローになるなんてカッコよ過ぎるでしょ。これだけでお話がひとつ作れちゃう。 ──その時点で何十年も前の漫画ですが、世代的なギャップみたいなものはなかったですか?

山崎 鳥山明大友克洋以降の世代なので、ヴィジュアル的な古さを一切感じなかったといえばウソになりますが、90年代キッズの僕が読んでいても新鮮な驚きに満ちあふれてましたよ。たとえば、シレーヌの最期なんかもそうですね。いわゆる負けた……と思ったら、実は勝っていたというパターン、それに立ち往生。どちらもありふれたものですが、その合わせ技というのは『デビルマン』で初めて見ました。こういうのがサラッと出てくるじゃないですか、痺れますよ。

それにバイオレンス描写は、むしろ僕らの世代のほうがショックが大きいかも。よりにもよって(ジンメンに取り込まれた親戚の少女)サッちゃんの部分を貫くかね!?みたいな。孫悟空や浦飯幽助は、絶対そんなことしないですからね(笑)。

デビルマンの同時代性を紐解く

──みなさんに語っていただいた通り、稀代の名作である『デビルマン』は世代を超えて強い影響力を持っています。それは後世のクリエイターにとっても同じで、『デビルマン』の影響を受けて生まれてきた作品も多いのではないでしょうか。

ゆずはら 『デビルマン』に関係する作品となると、『デビルマン』の少し前からたどっていくほうがいいでしょうね。

山崎 そうなると、前身作品ともいえる『魔王ダンテ』(71年)からですかね。『デビルマン』もそうですが、『ダンテ』に出てくる悪魔は、別に地獄からやってきたみたいなオカルティックな存在ではなく、あくまでも地球の先住民族の成れの果てというSF的な設定がなされてる。ほとんど怪獣映画のノリで、そこが新しかったんじゃないかと思います。

三上 多分、あの設定の元になってるのはクトゥルー神話ですね。

ゆずはら 70年代の頭くらいに、ポリティカルなSF作品がまとまって登場した時期があるんです。『サイボーグ009』の天使編が69年で、この作品はほぼ『デビルマン』と同じ構図ですが、未完に終わっています。

『サイボーグ009』というのは東西冷戦構造を背景にした理想主義的な物語で、それが「善悪逆転」「神話否定」というテーマである「天使編」まで話のステージが上がってしまうと、もう主人公たちの能力では解決できなくなってしまう。石ノ森作品には永井作品のような理屈や倫理性そっちのけの暴力性はないので、『デビルマン』のように力技で解決することができない。

山崎 「天使編」は、ちょっとオチの付け方に困っちゃったんじゃないかなっていう感じがしますよね。

ゆずはら そうなんですよね。で、「天使編」のリメイクである「神々との闘い編」も中断してしまう。永井豪先生は67年には石ノ森章太郎先生のアシスタントから独立しているので、「天使編」や「神々との闘い編」には関わっていませんが、時代的にはこの流れを見ているはずです。

69年頃は、そういった圧倒的な暴力性に世界を蹂躙されるペシミスティックなSF作品がやたらと多かった時期です。山上たつひこ『光る風』とか、日野日出志『あしたの地獄』(共に70年)とか、平井和正&桑田次郎『デスハンター』(69年)とか。

あと、永井豪先生の『オモライくん』(72年)から『デビルマン』のように、ギャグからシリアスへの急転回という意味では、ジョージ秋山『デロリンマン』(69年)から『アシュラ』『銭ゲバ』(共に70年)があります。 ──70年前後の永井豪先生は、何を描いていたのでしょうか?

ゆずはら 膨大な執筆量ですけど、石川賢先生と合作で『ガクエン退屈男』(70年)を描いていますね。これは『ハレンチ学園』(68年)の「ハレンチ大戦争」と同時並行で、血みどろのバイオレンスを描いた作品です。

この後に『魔王ダンテ』を描いて、それが『デビルマン』につながっていく流れです。『ガクエン退屈男』は後の『バイオレンスジャック』の原型となっています。つまり、この時期に描いた『ガクエン退屈男』と『魔王ダンテ』の方向性が、シリアス転向後の永井豪先生の両輪になっていくのですね。

特撮とアンチヒーロー『デビルマン』のルーツ

山崎 当時の流れを把握するには、アニメと漫画だけでなく、特撮ヒーロー物も一緒に考えないといけない。まず『ウルトラQ』及びウルトラマン(66年)から始まるウルトラシリーズがあり、そこに対抗する形で等身大ヒーロー物の仮面ライダー(71年)が始まります。で、これと前後するように、ライダーのような“ダークヒーロー”が次々と生まれてくるんですね。 デビルマンも、そのひとりと考えていいと思います。

まぁ、『マジンガーZ』(72年)もそうですが、『デビルマン』もまた“ポスト『ウルトラマン』”であり、“ポスト『仮面ライダー』”だったと。特撮ヒーロー的なことをアニメでもやってみようということですね。なんたって、妖獣に機械獣ですから。

ゆずはら そこに脚本家の辻真先さんを呼んできて、『デビルマン』のアニメ企画をつくってみたらあらぬ方向に行ってしまったという。

三上 70年代の後半でウルトラシリーズも『仮面ライダー』シリーズも一度終わるんですよね。それが80年代に入ってから、再評価されることになる。

山崎 ストレートなヒーローに対するアンチテーゼというものが、当時の空気として根強くあったのでしょう。漫画の『デビルマン』を持ち上げるために、「アニメの『デビルマン』は、普通のヒーロー物だった」みたいな言い方をする人が大勢いますけど、とんでもない。主題歌で“正義のヒーロー”だなんて謳いつつ、ただ惚れた女のために戦ってるだけですからね。それはそれで正義かもしれないけど、すごい個人的な理由でしょう。漠然とした正義感で戦っていたのは、むしろ漫画のデビルマンのほうなんです。

漫画と違って、アニメのデビルマンは、デーモンとしての人格がそのまま残ってます。だから、何よりもまずミキちゃんありきで、次第に「ミキちゃんの家族くらい守ってやろう」、「ミキちゃんの通う学校の連中くらい助けてやろう」となり、最終的に人類すべてを守る戦いに身を通じていく。

そういう意味では、デビルマンが文字通り正義のヒーローになっていくまでの過程を描いた作品と言えるかもしれない。明確に描写はされないですけど、こっちの『デビルマン』も最後は明くんが負けて死んじゃうんじゃないかということが示唆されながら物語が終わる。普通のヒーロー物どころか、思いっきりアンチヒーロー物なんです。

永井豪フォロワーたちと『デビルマン』の落とし子

──では、『デビルマン』に影響を受けた作品というと、具体的にはどんな作品が挙がってきますか?

ゆずはら 70年代には思ったほどないんですよね。

山崎 やっぱり『デビルマン』を読んだ世代がクリエーターになったときに大量に誕生した気がします。80年代半ばから90年代にかけてですね。

有名なところだと、『寄生獣』(88年)ですか。異形同士の戦いを通して、人間の性「悪」なり! というテーマを描くという。『ベルセルク』(89年)なんて、もっとあからさまですよね。蝕はサバトだし、グリフィスは飛鳥了だし、たまにガッツが不動明の顔になってるときもある(笑)。

ゆずはら 『寄生獣』の岩明均先生は文化人類学的な視点を持っている方なので、『デビルマン』的なテーマを自身の解釈で描いたという感じですよね。あと、『デビルマン』のテーマ性に最も近づいた作品は『幽☆遊☆白書』だと思います。他者とのディスコミュニケーションを異能バトルへ抽象化し、『デビルマン』的な価値対立へ接近した結果、作品はボロボロに壊れていくんですが、黙示録の世界へたどり着くことはなく、日常へ還ってくるという形で、ようやく『デビルマン』に影響を受けた世代の回答を出すことができた、と思っています。

三上 日本的な形で『デビルマン』のテーマを再解釈した作品としては、『孔雀王』(85年)も挙がるかなぁ。

ゆずはら 『孔雀王』は、『デビルマン』の影響を受けた夢枕漠菊地秀行といった小説家が生み出した伝奇ノベルスの影響下にある作品という感じがします。80年代の伝奇ノベルス・ブームは半村良平井和正から始まっていますが、一連の永井作品も大きな影響を与えていますね。

三上 『デビルマン』には天使と悪魔というものが出てくる一方で、モンスター的な要素も強いですよね。伝奇ノベルスで取り上げられたのは、そういった要素のほうだと思います。最初は和物っぽい要素で世界観を展開していた『孔雀王』も「実はルシファーだった」みたいな形になっていきます。 山崎 「伝奇」的な要素に注目すると、『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』(99年)も挙げられるかなと。イリスとの戦いで傷ついたガメラが、日本に飛来する無数のギャオス軍団に戦いを挑んでいくラストは、『デビルマン』の最終決戦を彷彿とさせます。

実際、脚本の伊藤和典さんと特技監督の樋口真嗣さんは、本作で『デビルマン』をやりたかったらしいんですね。ただ、監督の金子修介さんは、そういうダイナミックプロ的な破滅の美学を持ち合わせていなくて……SF漫画といえば、手塚治虫先生という世代なんでしょう。

『ガメラ3』って、わりとしっちゃかめっちゃかなところがあるんですが、それは手塚ロマンと豪ちゃんロマンがぶつかり合った結果といえるかもしれません。すいません、これは余談ですね。

三上 70年代以降というのは、『エクソシスト』(73年)や『オーメン』(76年)みたいなホラー映画や74年のユリ・ゲラーの超能力ブームのように、オカルト的な流行が社会的に流行っていた時代でもあります。

ゆずはら その流れを取り込もうとして永井先生が描いたのが、『凄ノ王』という捉え方もできますね。

後の世代になるにつれ、『デビルマン』の類似作品は増えるんですけど、暴力性はだんだんなくなってくるんですよ。『寄生獣』や『ベルセルク』あたりだとまだ、当時のスプラッターブームなどもありましたし、漫画雑誌も暴力表現に寛容だったんですけど。

でも、90年代以降は「暴力性をいかに抑えるか」ということがテーマになってしまった。例えば、『トライガン』(95年)の内藤泰弘『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』(94年)の和月伸宏といった90年代の作家は主人公の男性キャラが暴力を行使することに対し、非常に慎重でした。永井先生的な暴力性を全開にすると、少年漫画の主人公として成立しないという時代が来てしまった。

山崎 「ジャンプ」系の作家だと、桂正和さんも『デビルマン』の影響を受けてますよね。連載版の『ZETMAN』(02年)って、デビルマン対ウィングマンみたいな話でしたし。

三上 「暴力性」という意味では、『進撃の巨人』(2009年)ってちょっと変わった立ち位置の作品ですよね。『デビルマン』というか『魔王ダンテ』っぽい作品ですけど。

山崎 『進撃の巨人』作者の諫山創さんに取材したとき、「エレン巨人を見て、『エヴァだ』『エヴァ』だと騒ぐ人が多いけど、あれはむしろ永井豪先生の『魔王ダンテ』じゃないすか?」って聞いたんですよ。そしたら、諫山さんは「実は、世代的に永井豪先生は通っていないんです。『魔王ダンテ』ってどういう話なんですか?」とおっしゃるので説明したら、「確かに似てるかも」と驚かれてましたね。

ゆずはら 『進撃の巨人』は、ある意味、先祖返りみたいなところがありますね。暴力性の行使自体は忌避せず、代わりにデスゲーム的な抑圧と緊張感を与えることで、物語を構築していますから。

山崎 『デビルマン』のほうは、『進撃の巨人』を描き始めてから後追いで読んだらしいです。だから永井豪チルドレン、『デビルマン』チルドレンというよりは、孫かひ孫といった関係性なんでしょうね。

ゆずはら 後の世代に影響を与えた永井作品を挙げるとしたら、『デビルマンレディー』(97年)もあります。この作品で永井先生は、暴力の主体を女性に移しているんですね。

『デビルマンレディー』自体はそれほど世間の評価が高い作品ではないんですが、女性キャラが直接的な暴力を行使する方向性は、例えば『BLACK LAGOON』(01年)とか『Trash.』(10年)とか『デストロ246』(12年)といった、アンチモラルなガールズバトル系作品に影響を与えていると思います。

「暴力性」や「アンチモラル」…『デビルマン』の構成要素

──今挙がった作品群をマッピングするにあたって、『デビルマン』の要素をキーワードとして抽出するとしたら、どんなものが挙がってきますか?

ゆずはら まずは「暴力性」でしょうね。さっき言った通り、少年漫画誌のフィールドでは90年代以降に後続が途絶えますが、倫理性を超越した「暴力性」は『デビルマン』の大きなファクターだと思います。あとは「異形への嗜好」というか「肉体の変容」ですね。

山崎 豪先生のデザインメソッドとして、変なところから何かを生やすっていうのがありますよね。シレーヌだったら、頭に翼がついてるじゃないですか。それほど派手じゃなくても、左右で腕の付いてる位置が違ったり……まぁ、これは単純にデッサンが狂ってるだけのものも混じってるかもしれませんが(笑)、とにかく異形にこだわられてるのは間違いないですね。

ゆずはら あと、後半生の永井豪先生は「破壊と再生」というモチーフに取り憑かれていますよね。

『デビルマン』で一度世界をぶっ壊してしまってから、壊れた世界をどのようにして再生させるかというテーマを繰り返している。『手天童子』(76年)では「破壊と再生」を円環的に美しい形で提示しているんですけど、さらにその上を行こうとしているのか、何度も挑戦しています。

山崎 今でこそ聖書をモチーフにした作品はたくさんありますけど、豪先生が真っ先に手を付けたひとりであることは間違いないでしょうね。 ゆずはら もうひとつ、『デビルマン』の軸となるのは「アンチモラル」でしょうか。

サバトなど『デビルマン』で描かれた「アンチモラル」な要素に惹かれた作家が『ベルセルク』を描いたりしていますから、問題ないかな、と。あと、「アンチモラル」な作品としては『幽☆遊☆白書』も強烈でしたね。極悪非道な人間の罪が何万時間という量で記憶されているビデオテープの争奪戦とか。

(ここまでに挙がったタイトルを見つつ)でも、こうして見ると、『デビルマン』の影響を強く受けている作品は少年画報社とか、一橋音羽系ではない出版社に偏ってますね。

山崎 永井豪フォロワーの作家が住み着いてるのって、マイナー誌なんですよね……。

──2000年代以降には、『デビルマン』から直接的な影響を受けた作品が減るんですね。

ゆずはら 僕はライトノベル作家でもあるのですが、今、永井豪的なテーマを提案すると即ボツになりますね。許されているのは、『Fate/stay night』(04年)などのTYPE-MOON『魔法少女まどか☆マギカ』(11年)などを輩出したニトロプラス周辺だけでしょうか。その両者ですら、歴史上の英雄の女体化や魔法少女同士のデスゲームという形で、男性的な暴力性を回避する処理が不可欠になっています。暴力性を抑制しようとした90年代を経て、抽象的な暴力ですら、行使を許されるのは少女だけになってしまった感がありますね。

『ブギーポップは笑わない』(97年)の上遠野浩平も「精神的な異形性」という永井豪的なテーマを扱っていましたが、現在「ブギーポップ」シリーズ自体がライトノベルの中で傍流になってしまっています。

山崎 最近の作品で『デビルマン』っぽいテーマを扱っているのは、『東京喰種トーキョーグール』(11年)くらいですかね。

ゆずはら 『東京喰種』は『幽☆遊☆白書』経由で、『デビルマン』的な要素を取り入れている感じですね。冨樫義博は『HUNTER×HUNTER』(98年)でも永井豪的なグロテスクな意匠を使っていますが、冨樫先生自身が『幽☆遊☆白書』で永井豪的なテーマと一回決着をつけているので、『HUNTER×HUNTER』はもっと理性的に描いている気がします。いわば、永井先生における『デビルマン』と『凄ノ王』の関係ですかね。

三上 こうして見ると、やっぱり『凄ノ王』は特異な作品だと感じます。

ゆずはら 『凄ノ王』は「伝奇バイオレンス」の要素を理性的にまとめた作品で、それまでの永井先生の集大成って感じがしますよね。不穏な言い方になってしまいますが、『凄ノ王』で永井先生の全盛期は一度終わっています。

山崎 僕は『アイアンマッスル』(83年)とかも面白いと思いますけどね。

今回作成した系譜図 ※作品は10年区切りで並べたもので、すべて時系列で並んでいるわけではない

モダンな漫画のスタイルを作り出した豪ちゃん先生

ゆずはら 『新世紀エヴァンゲリオン』は『デビルマン』の系譜に入れてもいいのかなあ……。

山崎 『デビルマン』というよりも『マジンサーガ』(90年)な気もしますね。液体で満たされたコクピットとか地球を壊滅させちゃう主人公とか、メカのギミックから物語の展開まで幅広く影響を与えてます。あと、石川賢先生の『魔獣戦線』(75年)とかも入ってるような。

ゆずはら やっぱりガイナックスやカラーの作品は、精緻に制御された異形性など、石川賢先生の影響のほうが強く見られるんですよね。双葉社での『ゲッターロボ』シリーズの担当編集者だった中島かずきさんを『天元突破グレンラガン』(07年)の脚本に起用したりとか。

山崎 賢先生は亡くなるまでダイナミックプロに在籍されていたからわかりにくいかもしれないんですけど、豪先生とはまた異なる巨大な才能の持ち主なので、本来ならば一緒くたに語っていい存在ではないんですよね。永井豪、石川賢、そして『地上最強の男 竜』(77年)などを描いた風 忍……こういった異常な天才が、ひとつのプロダクションに3人もいるというのがダイナミックプロのすごいところです。

変な話、「伝奇バイオレンス」とか「アンチモラル」と並んで、「石川賢」っていうカテゴリがあってもいいくらい。この図に挙がってる作品の半分くらいは、賢先生の影響下にあるんじゃないですか?

──永井豪先生に影響を受けた作品と、石川賢先生に影響を受けた作品ではなかなか峻別が難しい?

山崎 やっぱり賢先生と比べると、豪先生の影響は拡散しているというか、ここ! と具体的に指摘しにくいな。『ベルセルク』のように、“俺なりの『デビルマン』”といえる作品は少ないのかもしれない。一方で“俺なりの『仮面ライダー』”は、無数にあるんですけどね。ただ、現代の漫画文化そのものが、かつて豪先生が切り拓いたモダンなスタイルの上に成り立ってるわけじゃないですか。

だから、ある意味では誰もが豪先生のフォロワーであり、逆に誰も直接的な影響は受けていないなんてことにもなりかねない。それぐらい永井豪という作家は巨大な存在なんです。

ゆずはら そもそも『デビルマン』『バイオレンスジャック』『手天童子』『凄ノ王』と、4本連続で伝奇SFの大傑作を出しているんですから。普通の人ならそこで寿命が尽きていますよ。

山崎 しかも『キューティーハニー』(73年)や『ハレンチ学園』(68年)、『マジンガーZ』みたいに、それ自体がジャンルの始祖になるような作品をいくつも生み出してますからね。豪先生がいなかったら、みんな知ってる大好きなアレやソレも存在しなかったかもしれないよっていう。

ゆずはら 逆に近年の永井作品は、かつての無意識の行動を理論で再定義することを楽しんでいますよね。ユングが集団的無意識にハマったみたいな感じで。最新作の『デビルマンサーガ』(15年)も、デーモンと人間の関係性を理詰めで組み直しているところがすごく面白い。

話を戻すと、「善悪逆転、神話否定」といったテーマ性の高さ、劇画ではない漫画的な絵柄でのフィジカルな暴力性の強調、ロボットアニメの新しい形を開拓……永井豪先生にはいくつかの大きすぎる功績があって、その流れから今回の図のような形で枝葉が分かれていったのではないかと思います。

山崎 『デビルマン』以外にも、いっぱい面白い漫画を描かれているので、まだ読まれたことのない方は、現行作品も含めていろいろチェックしてもらえると嬉しいですね。70歳を超えてなお月に何十ページ、下手したら百何ページも描いてる人なんて、他にいないでしょう。まさに漫画の鬼……悪魔ですよ。

そして、直系の子孫『DEVILMAN crybaby』へ

今回の鼎談では、識者の方々に『デビルマン』と永井豪作品が後世に与えた有形無形の影響を振り返った。その結果、人生すら捻じ曲げるほどのパワーに満ちた永井豪の作品群の上に、現在の日本のサブカルチャーが存在しているという事実が浮き彫りとなった。

その直系の子孫にして最新型ともいえるアニメ『DEVILMAN crybaby』では、「永井豪的なるもの」は一体どのような形で再構築されたのか? そして、その『DEVILMAN crybaby』は今後、どのような形でこれから生み出されていく作品に影響を及ぼしていくのか……。まずはアニメ本編を視聴し、そんな思いを巡らせてもらえれば幸いである。

作品情報

『DEVILMAN crybaby』

配信
Netflix
公開日
1月5日(金)から
原作
永井豪「デビルマン」
監督
湯浅政明
脚本
大河内一楼
音楽
牛尾憲輔
キャラクターデザイン
倉島亜由美
デビルデザイン
押山清高
ラップ監修
KEN THE 390
色彩設計
橋本賢
美術監督
河野 羚
撮影監督
久野利和
編集
齋藤朱里
音響監督
木村絵理子
プロデューサー
新宅洋平・永井一巨
アニメーションプロデューサー
チェ・ウニョン
アニメーション制作
サイエンスSARU
Produced by Aniplex Inc.Dynamic Planning Inc.

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