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山本寛インタビュー【前編】「クリエイターやファンを舐めた結果アニメが衰退した」

山本寛さん

アニメ監督/演出家として知られる山本寛さんが、アニメを取り巻く環境に対して変化の必要性を訴えている。

涼宮ハルヒの憂鬱』ではシリーズ演出、『らき☆すた』では監督をつとめ、2014年には東北地方を舞台にした『Wake Up, Girls!』を立ち上げた山本監督。現在はクラウドファンディングを通じておよそ2100万円の支援を集めたオリジナルアニメ『薄暮』を制作中だ。

事の発端は10月9日から放送された『Wake Up, Girls! 新章』の第1話。劇中で山本監督が作詞した曲が使われたものの、EDに楽曲情報に関するクレジットが掲載されなかった。それ以前から、山本監督は2期制作陣への批判とも取れるツイートを繰り返していたが、放送後、「アニメを護る、アニメを変える戦い」として「革命の三ヶ月」を掲げ始めた。

同月内には、「下卑た狂気からアニメを解放するために仲間が集まる場所」として、自身が代表をつとめる同人団体「日本フィルアニマチオン」を設立。アニメを愛する人々と対極に位置する「ポタク」の排除などを訴えている。

革命や団体、そしてポタク──日常において聞き慣れないワードや、SNSからの鋭い発言が注目を集める一方で、山本監督が何を成し遂げようとしているのか、判然としないまま1カ月が経過した。

KAI-YOU.netでは、前身となる雑誌『界遊』時代にも一度、山本監督へインタビューを行っている。当該雑誌刊行の2009年から8年が経過する中で、「監督は何を求めているのか?」「『革命』とは何なのか?」「ポタクの排除とは?」など、様々な疑問を抱えて、改めて監督へのインタビューを敢行。

声を荒げ、突き進む山本監督に、アニメ業界への提言とともに、「革命」のゴールについて話を聞いた。

取材:新見直・恩田雄多 文:恩田雄多

山本寛はなぜ声を荒らげるのか?

──10月以降、「革命の三ヶ月」や「日本フィルアニマチオン」の設立など、立て続けにアニメ業界に対して疑問を投げかけています。それぞれの真意をお聞きする前に、そういった活動の背景にあるものを教えていただいてよろしいでしょうか?

山本寛(以下、山本) 遡ると、去年のことです。この業界の一番の暗部を見せつけられて、様々なトラブルが起こって完全に疑心暗鬼の塊になって、「廃業する」と決めて周囲にはそう話していました。

けれど、僕のファンだと言ってくれた、現在『薄暮』のプロデューサーとして動いてくれているつかさ製菓の和田(浩司)さんが、どうしてもアニメをつくってほしいと僕を引き止めたんですね。

その当時は完全に精神を病んでいたので、どうしても嫌だと断っていました。「アニメなんか辞めた方がいい、アニメで稼ごうとするからみんな変になる」と諭したんですが、彼が粘り強く説得してくれて。

──熱意にほだされる形で、またアニメをつくろうということで始まったのが『薄暮』だったんですね。

山本 そう、そんな中で今年に入って、クリエイターを蔑ろにする、もっと言うと、監督に対する裏切りが続出して、もうやってらんないよってことです。僕自身も同じような境遇の経験があるから、監督側の気持ちは痛いほど理解できる。

特に2017年は、出資者や版元・権利者が悪びれることなく監督の首を切るという出来事が目立ちましたよね。1月の『うどんの国の金色毛鞠』の井端義秀さん※に始まり、3月には『魔法陣グルグル』のげそいくおさん※、9月に『けものフレンズ』のたつきさん※。僕は業界の膿が一気に出てきたと思っています。 山本寛さん 山本 もちろん、これまでにもネット上で告発や問題点が指摘されることはありました。でも、それらの多くは、あくまでも「アニメ業界はブラックだ」という一点に着地していた。間違ってないし、決して無駄ではないけど、それが匿名だったり、“アニメーターのAさん”だったりして、「誰が言っているの?」と、いわゆる声なき声で終わってしまっていた。

それが2017年になって、井端さん、げそさん、たつきさんと、市場やネットへの訴求力・影響力のある人が、立て続けに発言していった。井端さんに至っては枕営業にまで言及してましたからね。

一方で、入江泰浩さん※がNHKの「クローズアップ現代+」に出演して、アニメ制作会社が置かれた厳しい現状を強く訴えた。電波に乗せたという意味で、本当に素晴らしかったです。実態の伴った発信が相次いだのは、業界全体として問題改善への機運が高まったからなんじゃないかと思っています。

※井端義秀:『境界線上のホライゾンII』で助監督補佐を担当。2016年10月に放送された『うどんの国の金色毛鞠』では当初監督だったが、途中降板。同年末に、自身のFacebookでプロデューサーから解任されたと告白

※げそいくお:『ハッカドール THE あにめ~しょん』で監督やキャラクターデザインなど、複数の役割を1人でこなす。2017年3月に自身のTwitterで『魔法陣グルグル』の監督を解任されたことを明らかに

※たつき:2017年を象徴するヒット作『けものフレンズ』の監督。9月にTwitterで突如アニメの制作から外れたと発表。反響は大きく、現在、KAODOKAWAと制作会社であるヤオヨロズとの話し合いへと発展している

※入江泰浩:1980年代から多くのアニメで作画監督/原画/演出などを担当。JAniCA(一般社団法人日本アニメーター・演出協会)の代表理事。2017年6月放送の「クローズアップ現代+」に出演して、圧倒的な予算の少なさや、アニメーターには支払われるシステムがないなど、業界の問題点を語った(外部リンク

クリエイターや客を舐めすぎた結果、市場は冷え切った

──首を切るというのは、監督を辞めさせるということですよね。その場合、出資者・権利者とは具体的に誰なんでしょうか?

山本 ほとんどの場合、作品のプロデューサーです。それも実力で判断するのではなく、プロデューサーの都合やわがまま、簡単に言うと「この人は嫌い」で首を切っちゃう。僕は他にもここでは挙げられない、声なき声をこれまでにもたくさん聞いてきたので、そんな惨状から監督を守りたいと思っています。

だから、まるで僕1人が戦っているように見えるかもしれないけど、そういうわけではないんですよ。ただ、声を上げるのってなかなかできることじゃない。でもたつきさんも、Twitterで暴露しちゃいましたよね。あれがせめてもの抵抗だったのかなって。

僕としても2016年まではひとりぼっちだと思ってたから、「こんな虫ケラどもがはびこるアニメはもういいや」って、業界から離れようとしてたんですよ。それが2017年に声が上がるようになった。それならなんとかしなきゃいけないなと。

──膿が出たというアニメ業界ですが、現在の状況をどのように見ているのでしょうか?

山本 市場はもう冷え切ってますよね。流行には乗るけど、去るのも早い。実際、今期も人気作の続編は総じてヒットしてないですね。

これは客を舐めすぎた結果だと思います。「この程度でいいや」「こういうつくり方でいいや」「監督変えてもいいや」「コンセプトなくてもいいや」──そういうことをやり続けた結果ですよ。

アイドルアニメもそうですね、かわいい女の子がキャッキャウフフしていれば金になるという時代は終わって、すでに客は飽き始めているのに、まだ勘違いしている。

そういう意味では、客がBlu-rayやグッズを買いたくないというモチベーションの高まりは、「革命」の1つと言えますね。

業界に関して言うと、変えるというよりも、ほっといたら勝手に潰れますよ。すでに出資者は減り始めているし、中国資本やソーシャルゲーム資本も、財布の紐はどんどんきつくなっている、それに伴って本数が緩やかに少なくなってプレイヤーも減る、そしてアニメはますます売れなくなる、という負のスパイラルは自然と回り始めてますね。

──ただ、2009年にインタビューさせていただいたときに、「本数を絞って製作費を集中させればクオリティも上がっていく」というお話をされていました。本数の減少はメリットでもあるのでしょうか?

山本 たしかにずっと言ってますね。だから業界全体としては良い流れになると思いますよ。でも、その過程で現状だと不条理にこぼれ落ちる優秀なクリエイターが出てきてしまうということです。自然淘汰はまだいいんですが、力のある人たちは救済したい。もうひたすらクリエイターを護るというか、囲い込むというか、そのときのために対策は講じておきたいと思っています。
薄暮

山本監督の言う「CtoC」の手段の1つ・クラウドファンディング。新作『薄暮』ではCAMPFIREを活用して支援を募った

山本 クリエイターが生き残るための手段の1つが、既存の「BtoC」ではなく「CtoC」(Creator to Customer)という考え方です。ビジネスモデルとして崩壊寸前の「B」(Business)の部分をいかに飛び越えて、つくり手と受け手がつながれるか。クラウドファンディングはその一例ですけど、方法はそれに限らず考えていきたいですね。

そういう当たり前の流れをつくるために現状のビジネスサイドは邪魔なので、もう徹底的に叩くしかないというのが、僕の主だった考え方ですね。

革命成就の条件とは?

──『けもフレ』のたつき監督降板については様々な話があるので、誰が悪いと一概に言うことは難しいと思いますが、あそこで問われたことの1つは「アニメは誰のものなのか?」という話でもあったように思います。

山本 監督やクリエイターのものに決まっています。出資者のものでもなければ、ユーザーのものでもない。

著作権法では、作品における著作者は監督なんです。でも、著作者であって、権利者ではない。権利者はさっきも言った通り出資者ですね。いかに著作者が護られていないか。そういう意味では法律に対して問いかけている側面もありますね。

作品は監督のものである」ということを、まず揺るがないものにしたい。もちろん原作があるものについては、原作者のものです。アニメ化されたときに、監督の手によって原作をぐちゃぐちゃにしてしまったら、それは解任されてもしょうがないですよ。僕自身『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』※では、そこまで強弁しませんでした。最終的に僕のものではないので。
らき☆すた

TVアニメ『らき☆すた』/画像はAmazonより

山本 ただしオリジナルに関しては、監督がもっと強く権利を主張すべきだと思います。だからこそ、監督の手によってファンの付いた作品なのに、頭だけすげ替えるように監督を変えるというのは本末転倒。そこはもう明確なんですよ。

それでも、よく「いや大人の事情で」みたいなことを言い出すヤツがいますが、「お前は大人の事情でアニメを見てるのか?」「作品が見たいのか? 監督の人間性だけ見ていたいのか? どっちなんだ?」と言いたい。

※『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』:『涼宮ハルヒの憂鬱』では1期のみシリーズ演出として参加し、『らき☆すた』では4話まで監督をつとめた

──つまり「革命の三ヶ月」とは、3カ月間でクリエイターがどれだけ立ち上がれるか、ということですか?

山本 わかりやすく言うと、3カ月は単純に『Wake Up, Girls! 新章』のオンエア時期であって、そのあいだに何かを変えたい、ということなんですけどね。

具体的には言えないんですけど、まずは僕の周りで「革命」の最初を成功させたい。それは個人的なことかも知れないけれど、絶対業界に波及すると信じています。

それに伴って、ビジネスサイドの立場の人たちが「変わっちゃった」と意識し始める。僕はそれが、本気でたつきさんや『けものフレンズ』に影響するんじゃないかと考えています。

今のままだったら、たつきさんはおそらく戻ってこれない。別にたつきさんに思い入れがあるわけじゃないけど、やっぱり不条理に首を切られた人間を戻したいという、クリエイターを護る立場なんです。そういう意味では、「たつきさんの復権こそが革命」と言っても過言ではない。

当然『けものフレンズ』の問題が3カ月で解決するはずないんですけど、まずは僕が手本というか、一例を見せたい。それが必ず大きな影響を与えるだろうと。

──監督の権利を守るために戦う。つまり製作委員会と権利について交渉できるようにするということですか?

山本 まさに今、それをやろうとしています。半分パフォーマンスにはなるんですけど、負け戦でもいいから戦ったことは示しておきたい。権利に関して事前に交渉できる、交渉していいんだ、と皆が思ってくれたら、それはもう「革命」ですね。

内部から変えられなければ民意に訴えるしかない

──クリエイターが委員会に対して主張するのはやはり難しいのでしょうか?。

山本 僕のように口うるさいクリエイターがたくさんいれば良かったんですけどね。宮崎駿さんや庵野秀明さんのように、僕より上の世代にはいるんですけど、特に30〜40代のクリエイターが本当に弱いし、元気がない。

声を上げられない、呼びかけに応えられない、それは仕方ない部分もあるのかなって。本来なら、監督をはじめクリエイターが徒党を組んで、協会やユニオンのようなかたちで声を上げるのが一番効果的だと思います。でも、それは僕にとってもリスキーなんですよ。 山本寛さん 山本 具体的に、ある団体を設立し、出資者やクライアントなど、いろいろなしがらみと戦った結果、団体は機能するようになったけれど業界を干されてしまった人もいます。何かを変えるためには仕事を失う覚悟が必要なのかと思うと同時に、僕もあと10年で2〜3本はつくりたいと感じたんですよ。

それくらいやったら僕も満足するかなって。だから、50歳過ぎたら監督やクリエイターのための団体をもっと強気につくっていこうと思ってるんですけどね。本当だったら、今すぐにでもやりたいけど、やっぱり今は作品をつくりたいし、つくることで、今いる仲間を救いたい。

──今はまだやりたいようにできているわけではない、と。

山本 でもね、そんな状態だと業界の中から立て直すのは無理なんですよ。

じゃあどこに訴えるのかといったら、民意しかない。「あなたは何が見たいんだ?」「どの監督でどんな作風を求めているんだ?」と民意に訴えて、民衆が業界の流れを変えていくのが時代性を鑑みても最も的確というか、見栄えがいいじゃないですか。

世界的な動向を見てもそうですよね。イギリスのEU離脱やカタルーニャの独立運動、アラブの春、そしてトランプ大統領の誕生と、民衆が世の中を動かしたケースがいくつも生まれている。

日本ではまだまだかもしれませんけど、先の総選挙での立憲民主党の盛り上がりを見る限り、「自分たちが変えていかなきゃいけないんだ」というボトムアップの機運は、すでに高まっていますよ。

後編はこちら

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山本寛 // やまもとゆたか

アニメ監督・演出家

1974年生まれ。大阪府出身。京都大学文学部卒業後、京都アニメーションに入社。演出を木上益治氏に師事。『POWER STONE』で初演出、以降『週刊ストーリーランド』『あたしンち』等数多くの作品に携わる。

2006年に『涼宮ハルヒの憂鬱』のシリーズ演出として参加。『涼宮ハルヒの憂鬱』の劇中歌で使用された『恋のミクル伝説』の作詞 やエンディング曲の演出なども手掛ける。このエンディングアニメーションは「ハルヒダンス」現象として世界中で大ブームとなる。
2007年、『らき☆すた』で初監督。同年アニメ制作会社Ordetを設立、代表取締役社長となる。アニメーション以外にも数多くのメディアで講演、執筆活動など多彩な才能を発揮する。
2010年に実写映画として『私の優しくない先輩』 を監督し、2010年度TAMA映画賞最優秀新進監督賞を受賞。「月刊アニメディア」での連載小説『アインザッツ』が出版される。
2011年3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震以降は、復興支援やチャリティー活動にも積極的に参加している。

主な作品
2006年『涼宮ハルヒの憂鬱』(TV第一期)シリーズ演出
2006年『涼宮ハルヒの憂鬱』TVCM(実写)絵コンテ・出演
2007年『らき☆すた』(TV第1~4話)監督
2008年『かんなぎ』(TV)監督
2010年『私の優しくない先輩』(実写映画)監督
2011年『フラクタル』(TV)監督
2012年『blossom』(配信)監督
2013年『戦勇。』(TV)監督
2013年『宮河家の空腹』(配信)監督
2014年『Wake Up, Girls!七人のアイドル(映画)』『Wake Up, Girls!(TV)』原案・監督
2014年『愛』(CX「OV監督」内で放送。実写)監督
2015年『Wake Up, Girls!青春の影(映画)』『Wake Up, Girls!Beyond the Bottom(映画)』原案・監督

山本寛

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この記事へのコメント(9)

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匿名のユーザー

匿名のユーザー

けもフレは大きな話題になって何万もの署名が集まったり、製作委員会側が続投の意思表示して話し合いしてる状態ですよね。すでにたくさんの人が動いてるたつき監督の復権こそが「俺の革命、俺の影響」で、可能性がない魔法陣グルグルやうどんの国の監督復権は革命対象外ですか…。

匿名のユーザー

匿名のユーザー

山本監督、革命頑張ってください。
微力ながら応援してます。

匿名のユーザー

匿名のユーザー

山本監督、薄暮楽しみに待ってます

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