走りながら小便をして拓けた活路 芸人/カンボジア代表 猫ひろしインタビュー

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オリンピック騒動は「笑えた」のか?

──オリンピックのために「国籍を変える」という手段について、メディアで取り沙汰され物議を醸しました。

猫ひろし ロンドンオリンピック直前が一番批判が多かったですね。SNSにしろ新聞にしろ、「予想はしていたけど、ここまで叩かれるのか」と驚きました。もう大炎上で、ネットとか新聞とか、なるべく見ないようにしていましたね…。

──日本で賛否両論巻き起こっていた中、カンボジアでの状況はいかがでしたか?

猫ひろし 実はカンボジアではほとんどニュースになってなかったんですよ。カンボジアでは僕も有名じゃないし、そもそも日本ほどスポーツを見る文化がない。日本で走っていると「あ、猫ひろしだ」ってヤンキーから追いかけられたりしますが、カンボジアで追いかけてくるのは野犬ぐらい。

会ったことのない日本人に批判されるのはどうってことありませんが、一緒に練習しているカンボジアの選手に言われたらと思うときつい。でも、そういうことを言うカンボジア人はまったくいませんでした。僕と彼らはライバルであり仲間。僕が必死に練習しているのをカンボジア人ランナーも知っているから、応援してくれるし自己新記録を出したら祝ってくれる。

リオオリンピック後、一緒に練習してきたランナーが「カンボジアを世界に広めてくれてありがとう」って喜んでくれたんです。すごくうれしかったですね、“猫の恩返し”です。 日本での批判も、リオの時にはほとんどなくなっていて、みんななんとなく流れで言ってるだけなんだな、ということはわかりました。

──無事、大舞台で完走されたわけですが、当初は言わばネット番組内のただの企画にすぎませんでした。オリンピックのための過酷なトレーニングを乗り越える、ほかの動機はなかったのでしょうか?

猫ひろし ないですね。「芸人として、オリンピックに出られたら面白いんじゃないかな」というのが一番強い動機でした。強いて言えば、そのために真面目に練習をした結果、タイムがぐんぐん伸びていったこと。今思えば、トレーニング中はとてもストイックでしたね。

──ただ、あえて不躾な質問をさせていただきます。「芸人としてオリンピックに出たら面白い」という動機で始めたのに、日本では批判が集まっていたということは結果的に「オリンピックを巡る騒動は笑えない状況だった」とも言えると思いますが、芸人としてご自身はどう考えていますか?

猫ひろし 全員が全員応援してくれるわけじゃないし、日本で批判されるのは想定してました。でもそこは仕方がない。自分で勝手にやったことですが、国籍を勝手に変えるというリスクを選択して、家族もいる中で人生をかけていますから。

僕は“カンボジア人”なので、(日本人から見れば)「外国人タレント」ですし。今後日本に国籍を変えることなんて考えてもいないし、カンボジアの人が喜んでくれて笑ってくれたならそれでいいと思っています。

ただ、芸人は何をするにも話題にしないといけない、ネタにしないといけないですよね。国籍を変えたのにオリンピックに出場できなければ「ただのカンボジアの芸人」でしかなく、僕が目指したのは「オリンピックに出場した芸人」だったので

──ある意味「ちゃんとオチをつける」ためにオリンピックに出場する必要があったと。

猫ひろし そうですね。

カンボジア人として何ができるか、オリンピック出場後に変わったこと

──もう一つ、マラソン人口の少ないカンボジアに国籍を変更したことも、「フェアではない」と批判された大きな要因の一つだったのではないでしょうか?

猫ひろし 当然そういう考えもありますよね。でもそれも、僕がカンボジア人になって、どうやってカンボジアの人と接していくか。問題はそこだと思うんです。事実、カンボジア人選手とも深い関係を築けていますし、僕がカンボジア人になることでカンボジアの陸上界が底上げされるかもしれない。カンボジア人として何ができるか、ということを常に考えています

ロンドンオリンピック前後は、「猫ひろし」で検索すると「猫ひろし クズ」と(サジェストで)出てきてたのが、今では「猫ひろし カンボジア」になりましたよ。

──アメリカでトランプ政権が誕生して、国家や人種、コミュニティーの分断が国際的に懸念されていますが、カンボジア人として意識していることはありますか?

猫ひろし うーん……。あんまり難しいことはわからないです(苦笑)。ただ、日本人じゃなくなってから見えてきたこともある。日本人がいかに親切で丁寧か、とか。国籍変えることにはすごい抵抗もありましたけどね。

あ、でも、カンボジアで生まれたギャグもたくさんありますよ!


(編集部注:この場で披露していただきましたが、都合によりカットいたしました)

ま、カンボジアとまったく関係ないですけどね(笑)。僕の良いところは、環境に左右されないところなので。

──カンボジア人になってから、実生活への影響はありましたか?

猫ひろし 僕の娘は国籍変更前に生まれたのですが、今後2人目の子供ができた場合、その子はハーフになりますね。今後、その子はどちらかの国籍を選ぶことになるのですが。

ほかに良かったこととしては、「東京マラソン」には海外ランナー向けの「準エリート」枠というものがあって、抽選じゃなくても走ることができるんです。控室が屈強なアフリカやヨーロッパの選手と同室なので、それが一番ドキドキですが(笑)。

──リオオリンピックでは、カンボジア人ランナー・猫ひろしさんとして、現地からのTwitterも話題になりました。 猫ひろし 僕は競技者であると同時に芸人でもあるので、そういった発信は大事にしようかなと思いまして。お陰さまで『Yahoo!ニュース』でも毎回ツイートが取り上げられ、オリンピック期間中にフォロワーが2万人から5万人ぐらいに増えましたね。そういう意味でもちゃんと「ネタ」にできたのかなと。

でもオリンピックが終わった途端、みんなフォロー外すんですよ! もうすでに5000人くらい減っています。マラソンのこと以外にも定期的に面白いことつぶやいてるんですけどね。おかしいですね。

──ちなみに、「素人」から急成長を遂げた猫さんならではの、一般の人でも取り入れられる、トレーニングや健康法がもしあれば教えてください。

猫ひろし トレーニング方法については『猫トレ』(ベースボール・マガジン社)という本でもまとめたのですが、一つだけ、よくダイエットのために、水分だけとってジョギングする方がいらっしゃいますが、やめたほうがいい。栄養をカットしてジョギングをした体は「乾いたスポンジ」みたいなものなので、食事をすると一気に吸収して逆に太っちゃう。

僕も実践していますが、炭水化物やタンパク質、水分、野菜をしっかりとって運動すること。バランスが大事ですね。

「支援してくれる方」の応援が可視化されていく現在

──現在、クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」で、猫さんのオリンピック挑戦を描いたドキュメンタリー映画『NEKO THE MOVIE』(タイトル未定)映画制作の資金募集プロジェクトがスタートしています。「クラウドファンディング」という仕組みはご存じでしたか?

猫ひろし いえ、今回堀江さんから聞いて、初めて知りました。

──堀江貴文さんが映画のプロデューサーも務められています。堀江さんとは、オリンピック出場されるきっかけとなったネット番組からのご縁ですか?

猫ひろし そうですね。堀江さんがオリンピックへのきっかけをつくってくれたのですが、その後刑務所に入っちゃったりして、実際に僕の練習を手伝ってくれたのは別の専門チームなんです。

でも堀江さんはずっと応援してくれていて、ロンドンオリンピックがかなわなかったときも、リオが決まったときも連絡をくれました。

リオのときは現地まで見に来てくれて、そこで堀江さんがスマホで撮影してくれた動画がFacebookですごく拡散されたらしいんですよ。そのときに初めて「これ映画化したほうがいいんじゃない?」って言ってくださって。

──『NEKO THE MOVIE』で監督を務められている鈴木雅彦さんは、5年間猫さんに密着取材されたとのことですね。

猫ひろし 7年間です。僕が“日本人”のときから。

最初は、鈴木監督が担当しているTVのスポーツ番組の素材として撮影されていたらしいのですが、放送する機会にあまり恵まれずお蔵入りになりかけたところ、堀江さんがプロデューサーとして現れたという。

──製作はこれからとのことですが、特に注目してほしいところは?

猫ひろし 僕は自分のことを「足が速い芸人」だと思っています。オリンピックに出ることが決まっても、一日5個ぐらいギャグを考えていました。さっきも一つ見せましたけど、鈴木監督にも撮ってもらっているんで、かなりの量の未公開ギャグがあると思いますよ。どれぐらい映画に使われているかはわかりませんが。

──かつてはネット上での批判に悩まされた猫さんですが、クラウドファンディングでは資金集めだけではなく、「支援してくれる方」の応援が可視化されるという側面があります。

猫ひろし 素直にうれしいですね。応援してくださる方のメッセージを文字として読むと「良い映画を完成させないと」という気持ちになります。芸人としての僕を知っている人も知らない人も、たくさんの人に見ていただきたいですね。 ──2020年は東京オリンピックですが、猫ひろしさんは出場するつもりは?

猫ひろし 3年後にどうなっているかわからないですが、もちろん「チャンスがあれば」とは思っています。

──では最後に、マラソンは競技であると同時に、走っている時間が長いため自己と向き合う時間も長く、自分との戦いという側面も大きいと思います。猫ひろしさんは、走っている時は何を考えていらっしゃいますか?

猫ひろし 大抵、やらしいこと考えてますね。

──ありがとうございました。
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猫ひろし

芸人/マラソンランナー

147cm小さな巨人・猫ひろし。お茶間に浸透したギャグ百連発は未だ進化中の芸人! その傍ら芸能界きっての健脚。2008年東京マラソンで本格的にマラソンに着手。 2010年にはフルマラソン3時間切りのサブスリーランナーとなる。2011年11月カンボジアにてオリンピック代表になるべく国籍を変更する。一度、カンボジア代表で ロンドンオリンピック出場決定となるが、IOCより参加資格を満たしてないと判断され、オリンピック消滅となった。それでも走り続け、4年後のリオオリンピック出場を果たした!

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