志田未来「号泣ラップ」生みの親! 上鈴木伯周に聞くラップ×演技の可能性

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志田未来「号泣ラップ」生みの親! 上鈴木伯周に聞くラップ×演技の可能性
志田未来「号泣ラップ」生みの親! 上鈴木伯周に聞くラップ×演技の可能性

志田未来さん/画像は志田未来スタッフ公式( @mirai_staff)より

10月から毎週日曜日、22時30分より放送中のTVドラマ『レンタル救世主』。

沢村一樹さんらが演じる"レンタル救世主"たちが、依頼者の無理難題を解決していくという勧善懲悪の物語です。 なかでも注目を集めたのは、志田未来さん演じる百地零子。感情が高まると泣きながらラップをしてしまうというキャラクターで、鬼気迫るような表情と身を切るようなリリックが視聴者に大きな衝撃を与えました。 今回は、そんな志田未来さんのラップを監修した双子のラップユニット・P.O.P上鈴木伯周さんにメールインタビューを敢行!

そもそもラップ監修とはどういった立場なのか? ドラマで人気女優がラップをするという設定なんてあり得なかったというイメージを覆し、どのような形で広がっているのか? 12月11日(日)放送の最終回直前に、濃密に語っていただきました。

文・編集 ふじきりょうすけ

脚本段階から携わるラップ監修

P.O.P 上鈴木伯周さん、上鈴木タカヒロさん

──上鈴木伯周さんは、ラップ監修としてはどのように作品に携わられているのでしょうか?

上鈴木伯周 まず、脚本を作成する前、企画が決まるか決まらないかの段階で、脚本家の渡辺雄介くん、監督の菅原さん、プロデューサーの福井さんとお会いして、「ドラマの中のラップは、どういう形がありえるか?どういう形がベターなのか?」という打ち合わせをしました。

その段階で僕から以下の方針を伝えて、その後で脚本制作がはじまりました。

1:事前に劇伴が用意できないのであれば、リズムに合わせたラップはできない。なぜなら、後から無理やりラップに音楽を合わせることはできないし、もしくはかっこ悪くなってしまう。なので、ラップのアカペラだけで表現しうる形を目指す。

2:できるだけヒップホップの文脈からは離れて、リズムと言葉だけで「ラップ」とわかるギリギリのスタイルにする。

3:練習期間が取れなさそうなので、1話もしくは序盤のラップの出来をみながら難易度を調整する。

上鈴木伯周 脚本には、ざっくりとしたラップ調の台詞が書かれていて、そこに「ここはラップで」といったメモも添えられています。

僕と兄は、その脚本を読んで前後の流れを考え、そのシーンでのラップの意味、そして伝えたい言葉を考え、素材の言葉に付け足し削ったりしながらラップに整えます。

そのリリックを監督などに提出し、内容の添削を経て、ラップの仮歌を作成し、練習に臨みました。

──監修には上鈴木兄弟のお二人とマチーデフさんが記載されています。どのような分担になっているのでしょうか?

上鈴木伯周 基本的には上鈴木兄弟でラップの制作&監修しています。

ですが、ラップ練習や撮影当日の監修という直接現場に行く工程で、僕ら双子のスケジュールが調整つかない場合に、友達のラッパーで信頼のおけるマチーデフ君に現場の立会や監修をお願いしました。

志田未来だからできる「ラップ×演技」の表現力

──『レンタル救世主』では、山場のシーンで志田未来さんのラップが披露されます。物語のキーとしてラップが機能することについてはどのように感じられましたか?

上鈴木伯周 本来演技とは絡み合うことが少なかったラップという表現方法が、ドラマの中で登場人物のキャラクターや心情を表すツールとして機能するという点は凄く面白いと感じました。

ドラマの中のラップが面白いのは、ラップをはじめる前に話の流れができている、という点にあると思います。例えば、1話のいわゆる「号泣ラップ」では、ラップをする前に「窮地に追い込まれている」という状況が既にあり、視聴者にも伝わっている。 上鈴木伯周 だから、客観的で説明的な歌詞は最小限で済むし、「何にもないの! わかってよ!」などのストレートな言葉も嫌味にならない。

これが曲の場合だと、同じ状況のラップをするためにAメロで経緯を説明し、そのあとで徐々に感情のレベルを上げていって……としなければならないので、やっぱり難しいですね(笑)。

──志田未来さんがラップをすると聞いた際の心境と指導についての構想を聞かせてください。

上鈴木伯周 「非ヒップホップ」でありながら、ラップという歌唱法をなぜか信じ、感極まると言葉がラップになってしまう。そんな「ガラパゴス的な女性ラッパー」みたいなものが表現できると面白いな、という思っていました。

すでに、インターネットの中などには、ヒップホップの文脈を踏襲しない自由なラップ表現が萌芽していると考えているので、「Zeebraもエミネムも知らない内気な女の子の奥の手がラップだったら、なんだか素敵だし面白いな」と思いました。

そんな構想があったので、役者としてのスキルが高く、かつ、ヒップホップが身近じゃない志田未来さんは適役だな、と。けれど同時に、志田さんがどれくらいラップができるか全くわからかったので不安もありました。

ただ、その不安は最初のラップ練習と1話目の長い「号泣ラップ」シーンをやり遂げてくれたことで杞憂に終わりますが。

──以前、Instagramで「ヒップホップの文脈とは別で『ラップ』と『台詞』の妙を表現できれば」、とおっしゃられていました。それは具体的にどういうことでしょうか?

上鈴木伯周 ヒップホップの文脈での「ラップ」は、乱暴に言うと、一定のリズムと歴史に縛られてると思うんです。裏を返せばそれが美学だったりスタイルだったりしますが。

そんなヒップホップの歴史や常識を1回棚上げして、「言葉がリズミカルになる」「韻を踏む」というラップの基礎要素と演技/台詞が絡み合うことで、視聴者に「これはラップ?」「なんか違うし、ダサい?」「でも凄いかも!」みたいな感情がつくれれば、と。

上鈴木伯周 例えば『レンタル救世主』では、トラックや何かのリズムに合わせてラップすることは、ほぼ排していて。だからこそ、リズムや小節感覚にとらわれず、緩急を自在に使うことで豊かな言葉での感情表現ができているかなと思います。

この緩急ってのはまさに役者さんのスペシャルな部分で、ラッパーでは及ばない。僕達ラッパーは、志田さんよりも上手にヒップホップ的なラップはできますけど、感情を爆発させ号泣しながらのラップなんて絶対できません

志田さんのラップは、これまでに一度も聴いたことも、観たこともない、斬新で時に危なっかしい、でも凄くフレッシュなスタイルになったと思います。

つまりはそのフレッシュさって、一番ヒップホップなんじゃないですかね。「ラップ×演技」という冒険に真摯に取り組む志田さんの姿と結果を近くでみてたら、僕たちヒップホップ側の人間も歴史とかスタイルとかに因われず、もっとチャレンジせねばと背筋が伸びました。 ──志田さん自身はラップに触れたことがないそうですが、指導するにあたって苦労した点などはありませんでしたか。

上鈴木伯周 ラップ指導は志田さんの希望もあって、録音した音を聞いてもらうという形ではなく、直接お会いして「口伝」的な方法でラップを教えていました

机に向かい合わせで座り、まず僕がラップを実演してみて、その後でリピートアフターミー的に志田さんがラップをやりだす。5分くらい僕の仮ラップを聴いてくれるだけで、すぐに再現できちゃうんです。リズム感がいいというより、耳がいい。

聴いたものを聴いたままに再現できるというのは、役者さんの特殊能力なのかもしれません。なので指導にはそれほど苦労なかったです。ちなみに、福原遥さんのラップも志田さんのと同様のフローで作成、指導、監修しています。

世間をざわつかせた志田未来の「号泣ラップ」

──志田さんのラップシーンに寄せられたSNSなどの反響について、どのように感じられましたか?

上鈴木伯周 志田さんが劇中でラップすることは隠しといて、放送後にSNSで反響がでればいいな、みたいな戦略もあったので、1話目のあとにSNSがざわついてたのはとても嬉しかったです。 上鈴木伯周 賛否両論あったこともよくて。そもそも、ラップについてこんなにSNSで活発に議論されること自体、素晴らしい。

ある人は笑い、ある人は感動し、ある人はチャンネルを変え、ある人はヒップホップの文脈から「NO」を言い、ある人は来週も楽しみにしてくれたり。まぁとにかく、ずっと気になってました(笑)。

──そんな練習を経て、放送されたなかで最もお気に入りのラップはどれですか?

上鈴木伯周 お気に入りというよりも、忘れられないのは1話目の「号泣ラップ」ですね。

シリーズを通して、あのラップが「ラップ×演技」という意味で一番難しいものだったと思いますし、ラップキャラのお披露目でもあるため失敗が許されないなかで、僕らの想像を遥かに超える表現を志田さんが見せてくれました。

思い入れのあるパンチラインは2話の「同情するならカネをくれ! なんて言う暇あるなら韻を踏め!」。

過去のドラマから台詞を引用する、という同局TVドラマならではの遊びですし、「~する暇あるなら韻を踏め」は、ラッパー仲間を相手に普段使いしたいところ。

団塊サラリーマンから小学生にまで広まるヒップホップ

──ドラマだけでなくCM、バラエティーでもラップが数多く取り入れられるようになりました。こういったラップブームについてはどのように感じられていますか?

上鈴木伯周 凄く良いと思います! この調子でラップに関するご相談、いつでもお待ちしています!! と前のめりでまずは一言。

「ラップの陳腐化」への危惧みたいなテキストを見たりもしますが、このブームによってラップを認識した人口と年齢層が広がったことが素晴らしいと思っているので、僕は意外と楽観視しています。

「フリースタイルダンジョン」のYouTubeをチェックしながら満員電車に揺られる団塊サラリーマンも見ましたし、ラップっぽく喋りながら集団下校してる小学生にも遭遇しました。それほど広い層にラップが広まっているので、次は、フリースタイルやCM用の短いラップだけじゃなく、気になったアーティストの曲を聴いたり、ライブに行ってみたりすると良いと思います。 上鈴木伯周 逆に、この調子で「ラップ」がどんどんヒップホップから離れていってく、ということにも興味があります。『レンタル救世主』で志田さんが演じた零子のように、例えば八百屋の店主の客引き、商品のプレゼン、夏休みの宿題、祖母の趣味、辞世へ向けてなど、日常の中にラップ表現が溢れるかもしれない。

かつてギャングの中に眠っていた物語やアートがラップにより掘り起こされましたが、今までラップに触れていない老若男女から飛び出す新しいラップ、そして新しい言葉にとても興味があります。

──上鈴木兄弟のお二人は「SR サイタマノラッパー」シリーズや、マチーデフさんとの共著『ラップの教科書 DVDで学ぶ超実践的ラップ講座』を刊行されるなど、ラッパーのなかで最も「ラップを指導する」という役割を担っていると思っています。「ラップ監修」という役割についてどのように考えられているのでしょうか?

上鈴木伯周 「ラップは教わるものじゃない」と言われたりしますが、他の歌唱法や楽器と違って、ラップにはまだ体系化されたナレッジが少ない。一方で、誰にでもできちゃう敷居の低さもある。

だから、なんとなく手を付けるとかっこ悪くなったり、まとまらなかったり、イメージと違ってくることがままあるんです。だから、そのギャップを埋めるのが「ラップ監修」の役割だと思います。 上鈴木伯周 ラップは確かに教わるものじゃない、けれど、テーマの設定と作詞、譜割り(リズム)、韻の仕組みなどにはテクニックやコツや流行がある。なので、それらを駆使して、クライアント(依頼者)の目的に合わせたラップを仕上げていく。

ただ、どれだけつくり込んで、そしてじっくり指導したとしても、最終的にはクライントの想いや本人のスタイルが際立ってくるのがラップの面白いところ。

ドラマ、CM、テーマ曲、小学生や社会人とのラップ・ワークショップ、などなど、日々いろんな「ラップ監修」をやらせてもらってますが、みんなちがって、みんないい。今後は、校歌、社歌、幼稚園のお遊戯用ラップ、プロポーズ、アイツをやんわりディスりたい……などなど、まだ「監修」したことのない分野のラップを作ってみたいですね。意外と真面目に。
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イベント情報

レンタル救世主(最終回)

放送日
12月11日(日)22:30~
放送局
日本テレビ系列

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