8月16日、映画『シン・ゴジラ』の「発声可能上映」が東京・新宿バルト9にて行われ、漫画家の島本和彦さん、そしてサプライズゲストとして、『シン・ゴジラ』で総監督をつとめる庵野秀明さんが登壇した。
もはや説明不要だが、『シン・ゴジラ』は、東宝「ゴジラ」シリーズの最新作であり、日本中で一大センセーションを巻き起こしている。
上映中の声出し・コスプレ・サイリウム持ち込みOKの「発声可能上映」は、庵野秀明さんの大阪芸術大学の同期生である島本和彦さんのTwitterでの発言が呼び水となり、急遽開催されることとなった注目のイベントだ。
※本記事は『シン・ゴジラ』のネタバレが含まれておりますので、未視聴の方はご注意ください。
取材・文:須賀原みち
某社のCMソング「デイ・ドリーム・ビリーバー」をみんなで合唱したかと思えば、「日本アニメ(ーター)見本市」のCMでスタジオカラーのロゴが出ただけで歓声が上がり、現在製作中の『機動警察パトレイバー REBOOT』予告編では多くの観客が「税金ドロボー!」と叫ぶなど、すでに観客は歯止めが効かなくなっていた。
そして、予告が終わったところで、島本さんの「せーの」の掛け声で会場全体から「見せてもらおうか……庵野秀明の、実力とやらを!!」の大発声。まさに、お祭り騒ぎが始まった。
高良健吾さん演じる志村祐介が登場すると、場内の女性ファンからは黄色い歓声が。また、意外だったのは大杉漣さん演じる大河内総理大臣の人気っぷり。総理が真面目に、しかしどこか間の抜けた発言をするたびに、会場からは「がんばれー!」という声が上がっていた。
満を持して、ゴジラの尻尾が東京湾に出現すると、ひときわ大きな盛り上がりを見せる会場。
そして、内閣での有識者会議(第1回)のシーン。このシーンでは、御用学者3人がゴジラの正体について、のらりくらりと明確な返答を避け、劇中人物と観客を苛立たせる。ネットでは、「緒方明扮する海洋生物学者が宮﨑駿監督に似ている」とも言われており、会場からは「はやおー!」といった歓声が上がるなど、もはや言いたい放題である。
また、歓声だけでなく、サイリウムを使っても『シン・ゴジラ』を盛り上げる。ゴジラが登場するシーンでは赤、自衛隊が活躍するシーンでは緑と、場面場面に合わせてサイリウムの煌々とした光で場内が埋め尽くされる。
特に圧巻だったのは、第4形態のゴジラが霞が関周辺を燃やし尽くす場面。熱焔に合わせた赤から、ゴジラが覚醒し、体内から紫色の光を放射するに従い、会場のサイリウムも紫へと変わっていく。ゴジラの一部にでもなったかのように、会場には紫の光が不気味に蠢いていた。
そのほか、巨災対のシーンで、『新世紀エヴァンゲリオン』のBGM「EM20」のアレンジ「EM20_Godzilla/再始動」「EM20_CH_alterna_01/巨災対」が流れると、BGMに合わせてサイリウムを振ったり、松尾諭さん演じる泉修一が矢口蘭堂(演:長谷川博己さん)に水を渡すシーンでは、水色のサイリウムのほか、ペットボトルを高く掲げるなど、観客たちはさまざまな反応を返していく。
一方、絶えず客席から声が上がる中、ゴジラ襲来後に東京の放射能汚染が報じられるシーンや避難民の様子が映し出される場面では、観客は静かに、まじまじと画面に見入っていたのが印象的だった。
本作で描かれているのは、当然ながらフィクションである。しかし、それでも、観客たちはここでの不用意な発言を避けているように見受けられた。それが一種のタブーなのか、あるいは切実さから来るものなのかはわからないが、この落差をも取り込んでいるのが『シン・ゴジラ』という作品なのだ、と会場を見ながら、筆者は感じていた。
そして、やはり1番の盛り上がりを見せたのは、本編のクライマックスである「ヤシオリ作戦」だ。一度見たら忘れられない「無人在来線爆弾」では、電車のカラーに合わせた色とりどりのサイリウムが踊る。ゴジラの活動凍結のため、血液凝固剤の経口投与が始まると、会場からはまさかの“一気”コール! これにはシリアスなシーンながらも、爆笑が巻き起こっていた。
こうして、ゴジラの凍結に成功すると、「人類の勝利だー!」「うぉー!」と快哉を叫ぶ観客。しかし、ラストカットで背びれの付いた大量の人型(巨神兵に見えるという指摘も)が蠢くゴジラの尻尾が映し出されると、「庵野やめてー!」「え〜っ!?」と不穏な空気を残し、終了。
エンドロールに突入しても、「庵野ー!」「(監督・特技監督の)樋口ー!」といった叫びが響いていた。
「俺たちはみんな、庵野の手のひらの上で転がされてたんだ! 俺たちはみんな、庵野に負けたんだ!」と叫ぶと、会場中からは「え〜っ!?」との声が上がるも、島本氏は「ここで負けることによって、庵野にエネルギーをやって、第2、第3のゴジラをつくってもらわなくちゃいけない!」と、次回作への期待を表明した。
司会者から、上映中に盛り上がったシーンを聞かれると、「1番びっくりしたのは“一気”ですね! あの“一気”があったからこそ、ゴジラは凍結された!」と、力強く答える島本さん。「幸せだ、私は……」と余韻に浸る姿も。
「これを見て、庵野監督の才能はどうでしたか?」という司会者の率直な質問に対しては、「いやぁ、カヨコ・アン・パタースンの撮り方が全部良い! やられました」と、興奮冷めやらぬよう。 そんな時、なんとサプライズで庵野監督が登場! これには会場のボルテージもマックスで、「うぉ〜!」「きゃ〜!」といった嬌声が上がり、「庵野」コールが起こる。
驚きを隠せない島本さんは、「俺はお前のつくったもので感動せん! しかし、今日は俺の負けだ、庵野〜!! 素晴らしいものをつくった〜」と、まさかの敗北宣言を口にしたのだった。
そんな庵野さんに対して、島本さんが「『シン・ゴジラ』ができたときにどう思ったの?」と問いかけると、庵野さんは「あぁ、やっとできたなって」と、あっけらかんと答える。
その答えに狼狽したのか、島本さんは「まだ良いのできる? まだつくる? 気持ちいいっしょ?」と畳み掛けるが、「いや、あまり(笑)。極めてニュートラルなんだけど。おまえ(島本)のほうが面白いよ(笑)」と、庵野さん。 島本さんは「これから気分よくしていって、『アオイホノオ2』の時は出てもらわないと困るな!」と言うと、会場は大盛り上がり。庵野さんも「負けてないよ君は。すごい魂こもってない言葉だったけど(笑)。全然負けてないよ。今日の島本は素晴らしかった! ありがとう、島本くん!」と、2人で固い握手を交わしたのだった。
今回の発声可能上映について、庵野さんは「(チケットが)7分で売り切れたっていうのが素晴らしいんですけど、できれば3分にしてほしかった。3分だったら、『ガンダム』ネタが使えたのに……残念!」と、『機動戦士ガンダム』の「コンスコン強襲」での名セリフを引き合いに、オタク心をくすぐる発言も残した。 最後は、島本さん、庵野さん、そしてカヨコ・アン・パタースンのSPを演じていたライター・マフィア梶田さんを囲んでの記念撮影。島本さんの提案で、観客全員が「庵野、俺たちの負けだーっ!」と叫びながらの撮影となった。
──今回の「発声可能上映」では、どういったことを叫ばれましたか?
島本和彦(以下、島本) 伊福部昭さんの音楽に合わせたり、サイリウムを振ったり、これがすごく楽しくて、楽しくて……!
それと、巨災対シーンの拍手がすごく良かったよね。最初、みんな冗談で発声してたんだけど、ヤシオリ作戦になったら、みんな(黙って、矢口蘭堂の演説を聞いて)“ヤシオリ作戦参加モード”になった。「絶対ここでゴジラを倒さなきゃいけない!」っていう気持ちでサイリウムを振ってたのがすごかった!!
──ヤシオリ作戦での“一気”コールは想定外でしたか?
島本 そうですね。みなさんの発想が素晴らしかったです!
──庵野監督が来たのも、想定外でしたか?
島本 想定外でした! (発声可能上映を)用意だけして「俺に丸投げか! やってやるよ!!」って感じだったけど、嬉しかったです。 ──「庵野監督の作品をみんなで見る」ということで、『アオイホノオ』で描かれてた大阪芸術大学の頃を思い出したりも?
島本 そうですね。シーンとして見るんじゃなくて、みんなが和気あいあいとして、仲間的な感じで叫び合ってるから、大阪芸術大学のシアタールーム的な感じがあって。すごく懐かしいし、「あぁ、みんな、また庵野の作品で感動しやがって!」っていうのはあるけど、今回は俺も感動したからいいよ!
──「庵野、もうやめてくれ!」という感情はなかったんですか?
島本 「やめてくれ」という気持ちはもうないね。
──庵野監督の『新世紀エヴァンゲリオン』に続いて、今回の『シン・ゴジラ』でも日本中がお祭り騒ぎになっていますよね。この状況をどう見ていますか?
島本 『シン・ゴジラ』は、邦画の歴史上で非常に重要な位置に値するものになったと思う。『エヴァンゲリオン』が最初に出た時、そこから潮の流れが変わったように、僕は『シン・ゴジラ』で潮の流れが変わるな、と思った。
そういう意味で、今回の上映会もものすごく意味がある一瞬だったので、一緒に参加してくれたみんなは歴史の証人になったかな、と思うね。 ──『シン・ゴジラ』を見た時、「庵野、やめろ!」と最初に思ったシーンはどこですか?
島本 (巨災対のシーンで)『エヴァ』の曲が流れた時に、「ちょっとヤバイぞ、これ」って思って。僕は自分でも会社をやってるけど、会議ってなかなか意味がない。そんな中、『本当の会議がどういうものか』というのを見せてもらって、ちょっと高揚した。「会社でこういう会議をしたい!」って思って、だんだん教育されていく。
そして、やっぱりヤシオリ作戦で『宇宙大戦争』のテーマがかかった時。「この曲を、ここで流そう」と提案した時に、多くの人にダメと言われたであろうことを全部踏み越えて「いや、かける。これじゃないとダメ」って、庵野秀明は言ったと思う。そういうシーンが頭に浮かんで、「よくぞ通した!!!」と。
今まで、たくさんのリメイク作品を見てきた中で、「ここであの曲をかけろよ!」って思って溜まってきた人生のストレスが、あの『宇宙大戦争』(のBGM)で「そうなんだ、庵野〜!! この映画がヒットして、これから出てくるリメイク版はこれをやってくれればいいんだ〜!! よくぞやった!!」ってビビ〜って来ました!!
──「ゴジラ」シリーズの中で、『シン・ゴジラ』をランキングにすると、何番目になりますか?
島本 1位だね! もちろん、最初のやつ(1954年『ゴジラ』)は置いといて。
変な話、「本当に格好良いな!」って心酔できるのって、子どもの時だけなんです。自分が子どもで、10歳以上も年上の人がつくった作品には感動できたけど、製作者がこっちにおもねって「こんなの良いでしょ?」ってつくった作品では感動できない。
そんな中、「この歳になって、なに感動させられてんだ」「芯から感動しちまったぜ…! 庵野…!!」っていう。もうヤバイ。
ここで、島本さんは、生配信されていた「LINE LIVE」のカメラに顔を寄せると、
「俺はこれを見たら、次はこれ以上の感動をひねり出さなきゃいけないんだ! 音もついてない漫画の中でさ。俺だけが負けたんじゃない! 同業者のクリエイター、お前ら全部負けたんだよ!!!! だから、いいか! 一緒に戦って、次は庵野に勝つものをつくらないとダメだってことはわかってんな、お前ら! 見る人がみんな『庵野に負けた』って思うんだぞ! 怖いだろう…? このハードルは怖いぞ、夜も寝れなくなるんだから!! 頑張ろうぜ!!」
と、熱い激励ともいえるコメントを、声の限りに叫んでいた。それは、島本さんの心の叫びであるとともに、自身をモデルにした『アオイホノオ』の主人公・焔燃(炎尾燃)の心の叫びでもあるようだった。
こうして、『シン・ゴジラ』の「発声可能上映」は大盛況のまま、幕を閉じたのだった。
もはや説明不要だが、『シン・ゴジラ』は、東宝「ゴジラ」シリーズの最新作であり、日本中で一大センセーションを巻き起こしている。
上映中の声出し・コスプレ・サイリウム持ち込みOKの「発声可能上映」は、庵野秀明さんの大阪芸術大学の同期生である島本和彦さんのTwitterでの発言が呼び水となり、急遽開催されることとなった注目のイベントだ。
周りの「特撮に対して一言二言持っている」人間を集めて映画館に行き、シン・ゴジラ観ながら「ああ〜‼︎やめろ庵野‼︎俺の上を行くな〜‼︎‼︎」と崩れ落ちるまさにあの心境を味あわせてやりたい‼︎いや、味わってもらいたい‼︎ #シンゴジラ
— 島本和彦 (@simakazu) 2016年7月30日
今回は、この『シン・ゴジラ』発声可能上映の様子をレポートしよう!島本和彦さんの願いを叶えるために、庵野秀明が東宝にお願いし、実現したそうです! https://t.co/T2Ftqfqdef
— 株式会社カラー (@khara_inc) 2016年8月8日
※本記事は『シン・ゴジラ』のネタバレが含まれておりますので、未視聴の方はご注意ください。
取材・文:須賀原みち
『シン・ゴジラ』発声可能上映の熱狂をレポート
19時、チケット販売が7分で完売したという会場はもちろん満席御礼。ゴジラをはじめ、『シン・ゴジラ』にちなんださまざまなコスプレをした人やサイリウムを手にした観客は、今か今かと上映を待ちわびていた。 そんな中、東宝スタッフの司会のMCで、客席に座っていた島本和彦さんが万雷の拍手と「島本」コールの中、壇上に上がった。 島本さんは、「みんな一丸となって、『シン・ゴジラ』を応援して、もっともっと盛り上げて、この会場が伝説に残る場所になるよう、ぜひ一体となって、『自衛隊頑張れ!』って言って、隣が『自衛隊なんかに負けるな!』って言っても、ギスギスせずにやっていきましょう!!」と宣言した。 島本さんの登壇で、さらにテンションが上がったのか、本編開始前の劇場予告から大盛り上がり。某社のCMソング「デイ・ドリーム・ビリーバー」をみんなで合唱したかと思えば、「日本アニメ(ーター)見本市」のCMでスタジオカラーのロゴが出ただけで歓声が上がり、現在製作中の『機動警察パトレイバー REBOOT』予告編では多くの観客が「税金ドロボー!」と叫ぶなど、すでに観客は歯止めが効かなくなっていた。
そして、予告が終わったところで、島本さんの「せーの」の掛け声で会場全体から「見せてもらおうか……庵野秀明の、実力とやらを!!」の大発声。まさに、お祭り騒ぎが始まった。
歓声にサイリウム、まさかの“一気”コールも
冒頭、東宝のロゴマークが3つのバージョンで流れるところから「東宝ー!」「ありがとうー!」と、思いの丈をぶつける観客たち。序盤では主要キャラが登場するたびに、「矢口ー!」など、まるでライブ会場のように歓声が上がる。高良健吾さん演じる志村祐介が登場すると、場内の女性ファンからは黄色い歓声が。また、意外だったのは大杉漣さん演じる大河内総理大臣の人気っぷり。総理が真面目に、しかしどこか間の抜けた発言をするたびに、会場からは「がんばれー!」という声が上がっていた。
満を持して、ゴジラの尻尾が東京湾に出現すると、ひときわ大きな盛り上がりを見せる会場。
そして、内閣での有識者会議(第1回)のシーン。このシーンでは、御用学者3人がゴジラの正体について、のらりくらりと明確な返答を避け、劇中人物と観客を苛立たせる。ネットでは、「緒方明扮する海洋生物学者が宮﨑駿監督に似ている」とも言われており、会場からは「はやおー!」といった歓声が上がるなど、もはや言いたい放題である。
また、歓声だけでなく、サイリウムを使っても『シン・ゴジラ』を盛り上げる。ゴジラが登場するシーンでは赤、自衛隊が活躍するシーンでは緑と、場面場面に合わせてサイリウムの煌々とした光で場内が埋め尽くされる。
特に圧巻だったのは、第4形態のゴジラが霞が関周辺を燃やし尽くす場面。熱焔に合わせた赤から、ゴジラが覚醒し、体内から紫色の光を放射するに従い、会場のサイリウムも紫へと変わっていく。ゴジラの一部にでもなったかのように、会場には紫の光が不気味に蠢いていた。
そのほか、巨災対のシーンで、『新世紀エヴァンゲリオン』のBGM「EM20」のアレンジ「EM20_Godzilla/再始動」「EM20_CH_alterna_01/巨災対」が流れると、BGMに合わせてサイリウムを振ったり、松尾諭さん演じる泉修一が矢口蘭堂(演:長谷川博己さん)に水を渡すシーンでは、水色のサイリウムのほか、ペットボトルを高く掲げるなど、観客たちはさまざまな反応を返していく。
一方、絶えず客席から声が上がる中、ゴジラ襲来後に東京の放射能汚染が報じられるシーンや避難民の様子が映し出される場面では、観客は静かに、まじまじと画面に見入っていたのが印象的だった。
本作で描かれているのは、当然ながらフィクションである。しかし、それでも、観客たちはここでの不用意な発言を避けているように見受けられた。それが一種のタブーなのか、あるいは切実さから来るものなのかはわからないが、この落差をも取り込んでいるのが『シン・ゴジラ』という作品なのだ、と会場を見ながら、筆者は感じていた。
そして、やはり1番の盛り上がりを見せたのは、本編のクライマックスである「ヤシオリ作戦」だ。一度見たら忘れられない「無人在来線爆弾」では、電車のカラーに合わせた色とりどりのサイリウムが踊る。ゴジラの活動凍結のため、血液凝固剤の経口投与が始まると、会場からはまさかの“一気”コール! これにはシリアスなシーンながらも、爆笑が巻き起こっていた。
こうして、ゴジラの凍結に成功すると、「人類の勝利だー!」「うぉー!」と快哉を叫ぶ観客。しかし、ラストカットで背びれの付いた大量の人型(巨神兵に見えるという指摘も)が蠢くゴジラの尻尾が映し出されると、「庵野やめてー!」「え〜っ!?」と不穏な空気を残し、終了。
エンドロールに突入しても、「庵野ー!」「(監督・特技監督の)樋口ー!」といった叫びが響いていた。
島本和彦先生、庵野秀明監督に敗北宣言
上映終了後、再び島本さんが登壇。島本さんは「いやぁ、すごかった…! みなさん素晴らしいです」「俺たちがゴジラを倒したぞ〜!!」と高らかに宣言。「俺たちはみんな、庵野の手のひらの上で転がされてたんだ! 俺たちはみんな、庵野に負けたんだ!」と叫ぶと、会場中からは「え〜っ!?」との声が上がるも、島本氏は「ここで負けることによって、庵野にエネルギーをやって、第2、第3のゴジラをつくってもらわなくちゃいけない!」と、次回作への期待を表明した。
司会者から、上映中に盛り上がったシーンを聞かれると、「1番びっくりしたのは“一気”ですね! あの“一気”があったからこそ、ゴジラは凍結された!」と、力強く答える島本さん。「幸せだ、私は……」と余韻に浸る姿も。
「これを見て、庵野監督の才能はどうでしたか?」という司会者の率直な質問に対しては、「いやぁ、カヨコ・アン・パタースンの撮り方が全部良い! やられました」と、興奮冷めやらぬよう。 そんな時、なんとサプライズで庵野監督が登場! これには会場のボルテージもマックスで、「うぉ〜!」「きゃ〜!」といった嬌声が上がり、「庵野」コールが起こる。
驚きを隠せない島本さんは、「俺はお前のつくったもので感動せん! しかし、今日は俺の負けだ、庵野〜!! 素晴らしいものをつくった〜」と、まさかの敗北宣言を口にしたのだった。
そんな庵野さんに対して、島本さんが「『シン・ゴジラ』ができたときにどう思ったの?」と問いかけると、庵野さんは「あぁ、やっとできたなって」と、あっけらかんと答える。
その答えに狼狽したのか、島本さんは「まだ良いのできる? まだつくる? 気持ちいいっしょ?」と畳み掛けるが、「いや、あまり(笑)。極めてニュートラルなんだけど。おまえ(島本)のほうが面白いよ(笑)」と、庵野さん。 島本さんは「これから気分よくしていって、『アオイホノオ2』の時は出てもらわないと困るな!」と言うと、会場は大盛り上がり。庵野さんも「負けてないよ君は。すごい魂こもってない言葉だったけど(笑)。全然負けてないよ。今日の島本は素晴らしかった! ありがとう、島本くん!」と、2人で固い握手を交わしたのだった。
今回の発声可能上映について、庵野さんは「(チケットが)7分で売り切れたっていうのが素晴らしいんですけど、できれば3分にしてほしかった。3分だったら、『ガンダム』ネタが使えたのに……残念!」と、『機動戦士ガンダム』の「コンスコン強襲」での名セリフを引き合いに、オタク心をくすぐる発言も残した。 最後は、島本さん、庵野さん、そしてカヨコ・アン・パタースンのSPを演じていたライター・マフィア梶田さんを囲んでの記念撮影。島本さんの提案で、観客全員が「庵野、俺たちの負けだーっ!」と叫びながらの撮影となった。
「次は庵野に勝つものをつくらないとダメ」
上映会終了後、島本さんへの囲み取材が行われた。──今回の「発声可能上映」では、どういったことを叫ばれましたか?
島本和彦(以下、島本) 伊福部昭さんの音楽に合わせたり、サイリウムを振ったり、これがすごく楽しくて、楽しくて……!
それと、巨災対シーンの拍手がすごく良かったよね。最初、みんな冗談で発声してたんだけど、ヤシオリ作戦になったら、みんな(黙って、矢口蘭堂の演説を聞いて)“ヤシオリ作戦参加モード”になった。「絶対ここでゴジラを倒さなきゃいけない!」っていう気持ちでサイリウムを振ってたのがすごかった!!
──ヤシオリ作戦での“一気”コールは想定外でしたか?
島本 そうですね。みなさんの発想が素晴らしかったです!
──庵野監督が来たのも、想定外でしたか?
島本 想定外でした! (発声可能上映を)用意だけして「俺に丸投げか! やってやるよ!!」って感じだったけど、嬉しかったです。 ──「庵野監督の作品をみんなで見る」ということで、『アオイホノオ』で描かれてた大阪芸術大学の頃を思い出したりも?
島本 そうですね。シーンとして見るんじゃなくて、みんなが和気あいあいとして、仲間的な感じで叫び合ってるから、大阪芸術大学のシアタールーム的な感じがあって。すごく懐かしいし、「あぁ、みんな、また庵野の作品で感動しやがって!」っていうのはあるけど、今回は俺も感動したからいいよ!
──「庵野、もうやめてくれ!」という感情はなかったんですか?
島本 「やめてくれ」という気持ちはもうないね。
──庵野監督の『新世紀エヴァンゲリオン』に続いて、今回の『シン・ゴジラ』でも日本中がお祭り騒ぎになっていますよね。この状況をどう見ていますか?
島本 『シン・ゴジラ』は、邦画の歴史上で非常に重要な位置に値するものになったと思う。『エヴァンゲリオン』が最初に出た時、そこから潮の流れが変わったように、僕は『シン・ゴジラ』で潮の流れが変わるな、と思った。
そういう意味で、今回の上映会もものすごく意味がある一瞬だったので、一緒に参加してくれたみんなは歴史の証人になったかな、と思うね。 ──『シン・ゴジラ』を見た時、「庵野、やめろ!」と最初に思ったシーンはどこですか?
島本 (巨災対のシーンで)『エヴァ』の曲が流れた時に、「ちょっとヤバイぞ、これ」って思って。僕は自分でも会社をやってるけど、会議ってなかなか意味がない。そんな中、『本当の会議がどういうものか』というのを見せてもらって、ちょっと高揚した。「会社でこういう会議をしたい!」って思って、だんだん教育されていく。
そして、やっぱりヤシオリ作戦で『宇宙大戦争』のテーマがかかった時。「この曲を、ここで流そう」と提案した時に、多くの人にダメと言われたであろうことを全部踏み越えて「いや、かける。これじゃないとダメ」って、庵野秀明は言ったと思う。そういうシーンが頭に浮かんで、「よくぞ通した!!!」と。
今まで、たくさんのリメイク作品を見てきた中で、「ここであの曲をかけろよ!」って思って溜まってきた人生のストレスが、あの『宇宙大戦争』(のBGM)で「そうなんだ、庵野〜!! この映画がヒットして、これから出てくるリメイク版はこれをやってくれればいいんだ〜!! よくぞやった!!」ってビビ〜って来ました!!
──「ゴジラ」シリーズの中で、『シン・ゴジラ』をランキングにすると、何番目になりますか?
島本 1位だね! もちろん、最初のやつ(1954年『ゴジラ』)は置いといて。
変な話、「本当に格好良いな!」って心酔できるのって、子どもの時だけなんです。自分が子どもで、10歳以上も年上の人がつくった作品には感動できたけど、製作者がこっちにおもねって「こんなの良いでしょ?」ってつくった作品では感動できない。
そんな中、「この歳になって、なに感動させられてんだ」「芯から感動しちまったぜ…! 庵野…!!」っていう。もうヤバイ。
ここで、島本さんは、生配信されていた「LINE LIVE」のカメラに顔を寄せると、
「俺はこれを見たら、次はこれ以上の感動をひねり出さなきゃいけないんだ! 音もついてない漫画の中でさ。俺だけが負けたんじゃない! 同業者のクリエイター、お前ら全部負けたんだよ!!!! だから、いいか! 一緒に戦って、次は庵野に勝つものをつくらないとダメだってことはわかってんな、お前ら! 見る人がみんな『庵野に負けた』って思うんだぞ! 怖いだろう…? このハードルは怖いぞ、夜も寝れなくなるんだから!! 頑張ろうぜ!!」
と、熱い激励ともいえるコメントを、声の限りに叫んでいた。それは、島本さんの心の叫びであるとともに、自身をモデルにした『アオイホノオ』の主人公・焔燃(炎尾燃)の心の叫びでもあるようだった。
こうして、『シン・ゴジラ』の「発声可能上映」は大盛況のまま、幕を閉じたのだった。
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イベント情報
『シン・ゴジラ』発声可能上映(現在は終了)
- 場所
- 新宿バルト9
- 日時
- 8月15日(月)19:00の回
- 料金
- 通常料金
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