「“ゲームクリエイターの聖地”と呼ばれている食堂を取材しませんか?」
ある日、「KAI-YOU.net」の編集者がこんなことを言ってきた。なんでも、元任天堂の名物社員の方が始めた完全会員制の食堂らしく、場所は日本にあるということ以外は非公開。まさに知る人ぞ知るお店だという。今回、取材許可が下りたということで、早速そのお店「84」(はし)へと足を運んだ。
取材・文/須賀原みち
冒頭で紹介したとおり、「84」は完全会員制のお店。会員にはランクがあり、新規のお客さんは会員の方に紹介してもらうことでもらえる「準会員」カードからスタートとなる。
「準会員」は会員同士か1人でしか来られないが、5回の来店と2度の長官面接をパスすることで、新規のお客さんを連れてこられる「会員」資格が得られる。ちなみに「会員」カードの上には「超VIP」カードも用意されている。
ゲームファンならこぞって訪れたいであろうにも関わらず、なぜ会員制なのか? 「僕、すごくシャイで人見知りなんですよ。もともと飲食店をする気はなかったんだけど、急に神のお告げが降ってきて、お店を始めようと思った(笑)。それで、毎日僕の家に友達が遊びに来てくれるような感じにしよう、と」(橋本さん)
その言葉通り、店内には橋本さんの私物だというゲームグッズが至るところに飾ってある。
錚々たる面々のサインに関しても、「僕が『この人のサインや絵がほしいな』と思って、頼める人に頼んだだけなんです。だから、任天堂関連のものが多い(笑)。お客さんから『こんなゲームのレアグッズがあるから、ここに飾ってください!』と言われることもありますが、全部断ってます。ここは博物館や美術館じゃなくて、ただの“僕の部屋”。これから知り合ってすごく仲良くなった人がいたら、その時は新しいものも飾るかもしれないけどね」(橋本さん)。 インタビュー中に会員のお客さんが入店してくると、橋本さんは「今日はゆっくりできるの?」と、気さくに声をかける。本当にアットホームな空間だ。
「普通にいらっしゃってますよ(笑)。任天堂社員の隣でSIEの方が飲んでいて、僕がお互いを紹介して、一緒にお話ししたり。『ICO』のソフトが額縁に入れて飾ってありますけど、(『ICO』をつくったゲームクリエイターの)上田文人くんは同郷で、昔からの付き合いなんです」(橋本さん) こうした橋本さんの人柄は、こんなエピソードからも知ることができる。
「『ゼルダの伝説』でカスタマーサービス的な仕事をしてた時期があるんですけど、当時は小学生から『どうやったら、あのボスを倒せるの?』って会社に電話がかかってくることがあった。それで、話をしていたらその子と仲良くなって、任天堂の代表電話に『橋本くん、いますか?』って電話がかかってくるようになっちゃった(笑)」と、楽しそうに話す橋本さん。とはいえ、ゲームメーカーさんに電話で攻略法を聞くのはいけません。
ミュージシャンや役者、お笑い芸人も多く訪れるそうで、「飲んでいて誰かと出会うのはしょっちゅうで、ここで何か面白いことが起こったら良いですよね」(橋本さん)。目玉焼きをイメージした番号札で個人会計ができるシステムも、テーブル間を移動してお客さん同士が話すことを意識している。
「公認されたのは、僕が大学の時から任天堂時代まで、36年間『第一旭』さんに通い続けていたから。“僕がラーメンを作る”という条件で、本家の三代目大将に懇願して許可をいただきました」(橋本さん)。取材班もこのラーメンをいただいたが、全員が舌鼓を打って、スープまですべて美味しくいただけた。 橋本さんへのインタビューが終わり、取材班もお酒や料理を楽しんでいると、隣に座っていた女性のお客さんと自然にお話をご一緒することに。
話を聞くと、なんとその女性は、『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』でイラストを描いた綾部奈保子さん! 店内にも綾部さんの描いたイラストが飾られている。こんな出会いがあるのも「84」の魅力だ。 「ぜひ訪れてみたい!」と思った読者は大変だとは思うが、ゲーム業界の知人などを尋ねるしかない。その難関をクリア出来た暁には、美味しい料理と魅力に溢れた橋本さんが待っている。
ある日、「KAI-YOU.net」の編集者がこんなことを言ってきた。なんでも、元任天堂の名物社員の方が始めた完全会員制の食堂らしく、場所は日本にあるということ以外は非公開。まさに知る人ぞ知るお店だという。今回、取材許可が下りたということで、早速そのお店「84」(はし)へと足を運んだ。
取材・文/須賀原みち
マリオ、ドラクエ…… クリエイターが集う聖地「84」とは?
「まさかこんなところにお店があるとは…!」と思うようなところに、「会員制」と書かれたプレートのついた木目の扉が。中へ入ると、30人も入れば満席になるほどのテーブルやソファ席、カウンター席が設けられ、高めの天井や落ち着いたカラートーンの空間にゆったりとした時間が流れている。 入ってすぐ目を引くのは、壁にかけられている「スーパーマリオ」シリーズや「ゼルダの伝説」シリーズを生んだゲームクリエイター・宮本茂氏のサインや、同シリーズの作曲を手がけた近藤浩治氏による「『スーパーマリオブラザーズ』地上BGM」の楽譜といった、ゲームファン垂涎の品々だ。 ほかにも店内の壁には、『ポケットモンスター』(以下、ポケモン)のキャラクターデザインで知られる杉森建氏、作曲家・増田順一氏を始めたとしたゲームフリークの面々のサインや、任天堂作品に限らず、『ドラゴンクエスト』の生みの親・堀井雄二氏や「ロックマン」シリーズを手がけたゲームクリエイター・稲船敬二氏のサインが飾られており、その豪華さに思わず目がくらんでしまう。友達が遊びに来てくれる僕の部屋
取材班もソファ席に陣取ると、店長の橋本徹さんがお店のシステムを説明に来てくれたので、お話をうかがった。もともと任天堂に勤めていた橋本さんは、2015年2月に「84」をオープン。それまでは、開発中のゲームバランス調整などを引き受ける株式会社猿楽庁の代表取締役社長として、“長官(ちょーかん)”の愛称でも親しまれてきた。冒頭で紹介したとおり、「84」は完全会員制のお店。会員にはランクがあり、新規のお客さんは会員の方に紹介してもらうことでもらえる「準会員」カードからスタートとなる。
「準会員」は会員同士か1人でしか来られないが、5回の来店と2度の長官面接をパスすることで、新規のお客さんを連れてこられる「会員」資格が得られる。ちなみに「会員」カードの上には「超VIP」カードも用意されている。
ゲームファンならこぞって訪れたいであろうにも関わらず、なぜ会員制なのか? 「僕、すごくシャイで人見知りなんですよ。もともと飲食店をする気はなかったんだけど、急に神のお告げが降ってきて、お店を始めようと思った(笑)。それで、毎日僕の家に友達が遊びに来てくれるような感じにしよう、と」(橋本さん)
その言葉通り、店内には橋本さんの私物だというゲームグッズが至るところに飾ってある。
錚々たる面々のサインに関しても、「僕が『この人のサインや絵がほしいな』と思って、頼める人に頼んだだけなんです。だから、任天堂関連のものが多い(笑)。お客さんから『こんなゲームのレアグッズがあるから、ここに飾ってください!』と言われることもありますが、全部断ってます。ここは博物館や美術館じゃなくて、ただの“僕の部屋”。これから知り合ってすごく仲良くなった人がいたら、その時は新しいものも飾るかもしれないけどね」(橋本さん)。 インタビュー中に会員のお客さんが入店してくると、橋本さんは「今日はゆっくりできるの?」と、気さくに声をかける。本当にアットホームな空間だ。
ソニーの人も飲みに来る
一方、任天堂色が強いということだが、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の人たちも訪れたりするのだろうか……?「普通にいらっしゃってますよ(笑)。任天堂社員の隣でSIEの方が飲んでいて、僕がお互いを紹介して、一緒にお話ししたり。『ICO』のソフトが額縁に入れて飾ってありますけど、(『ICO』をつくったゲームクリエイターの)上田文人くんは同郷で、昔からの付き合いなんです」(橋本さん) こうした橋本さんの人柄は、こんなエピソードからも知ることができる。
「『ゼルダの伝説』でカスタマーサービス的な仕事をしてた時期があるんですけど、当時は小学生から『どうやったら、あのボスを倒せるの?』って会社に電話がかかってくることがあった。それで、話をしていたらその子と仲良くなって、任天堂の代表電話に『橋本くん、いますか?』って電話がかかってくるようになっちゃった(笑)」と、楽しそうに話す橋本さん。とはいえ、ゲームメーカーさんに電話で攻略法を聞くのはいけません。
一番レアなグッズは……?
取材をしながら、ついつい店内にあるさまざまなゲームグッズにも目が奪われる。ショーケースの中には、『ファミリーコンピュータ ディスクシステム』のイメージキャラクター・ディスくんのフィギュアやゲームウォッチ、ニンテンドー64の「The Glove Controller」などが並ぶ。 「一番レアなグッズは何ですか?」と聞くと、「『スーパーマリオブラザーズ』のファミコンカセットに貼る前のタイトルシールかな。流通してないから。あと、『MOTHER2』のスカジャンはお気に入り。元々、『MOTHER2』は任天堂時代に携わっていたので、開発スタッフがこの店に集まって、当時の仕様書を見ながら懐かしんだりすることもあります。任天堂の人とはまだ付き合いがあって、京都で同期会がある時には近藤浩治くんや(『マリオ』シリーズのデザイナー)手塚卓志くんたちと一緒に飲みますよ」(橋本さん) 「84」のお客さんの大体半分はゲーム業界の人だそうで、ここで業界の知り合いと出会ったり、一緒に飲んで友達になる人たちも多いという。ミュージシャンや役者、お笑い芸人も多く訪れるそうで、「飲んでいて誰かと出会うのはしょっちゅうで、ここで何か面白いことが起こったら良いですよね」(橋本さん)。目玉焼きをイメージした番号札で個人会計ができるシステムも、テーブル間を移動してお客さん同士が話すことを意識している。
ガチャガチャに電話ボックス! 遊び心溢れるシステム
当然、「84」は遊び心にも溢れている。飲み物のコースターを8色から選んで、店内にあるガチャガチャを回すと、8色のうちランダム1色の缶バッヂとステッカーが出てくる。このバッヂの色とコースターの色が同じだったら、一杯無料になるドリンクチケットが1枚もらえるのだ。取材班も回したが、残念ながら全員色は合わず。さらに、ガチャの景品にはレアもあるらしく、とても中身が気になる……! 店内の一角には、ドーンと電話ボックスが。これはまさか…セーブポイント!?(任天堂の名作『MOTHER』『MOTHER2』では、セーブをするためにはパパへ電話をする) 「そこは喫煙室なんですよ。『84』は今年4月に移転リニューアルしたんですが、喫煙スペースがなかったので有志の方からのカンパで設置させていただくことにしました。これ、NTTに卸している電話ボックスの業者さんから購入した本物の電話ボックスです。中に置いてある電話機は貯金箱に改造してあって、お金を入れるとコインの効果音が鳴って、1000円貯まると1UP音が流れます(笑)」(橋本さん)36年間通い続けた名店の絶品ラーメン
飲食店なので料理も本格的だ。日替わりの惣菜のほか、名物の「ちょーかんのだし巻きたまご」や、木曜日限定で京都にあるラーメンの名店『本家 第一旭 たかばし本店』公認の「第1/2旭ラーメン」(本家の半分の量なので、1/2)が食べられる。「公認されたのは、僕が大学の時から任天堂時代まで、36年間『第一旭』さんに通い続けていたから。“僕がラーメンを作る”という条件で、本家の三代目大将に懇願して許可をいただきました」(橋本さん)。取材班もこのラーメンをいただいたが、全員が舌鼓を打って、スープまですべて美味しくいただけた。 橋本さんへのインタビューが終わり、取材班もお酒や料理を楽しんでいると、隣に座っていた女性のお客さんと自然にお話をご一緒することに。
話を聞くと、なんとその女性は、『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』でイラストを描いた綾部奈保子さん! 店内にも綾部さんの描いたイラストが飾られている。こんな出会いがあるのも「84」の魅力だ。 「ぜひ訪れてみたい!」と思った読者は大変だとは思うが、ゲーム業界の知人などを尋ねるしかない。その難関をクリア出来た暁には、美味しい料理と魅力に溢れた橋本さんが待っている。
この記事どう思う?
店舗情報
84
- 場所
- みんなにはないしょだよ
0件のコメント