AKLO×大月壮 対談「ヒップホップゲーム」で勝ち続けるために

AKLO×大月壮 対談「ヒップホップゲーム」で勝ち続けるために
AKLO×大月壮 対談「ヒップホップゲーム」で勝ち続けるために
東京生まれメキシコ育ち、日本人の母親とメキシコ人の父親を持つハーフのラッパー・AKLO

6月22日には2年ぶり、トイズファクトリー移籍後初となる3rdアルバム『Outside the Frame』をリリース。自らを褒め称える「セルフボースティング」なリリックのスタイルとアメリカの最先端ヒップホップを日本語に消化する卓越したスキルで再び脚光を浴びている。

そんな硬派なイメージの強いAKLOだが、『Outside the Frame』収録の楽曲「McLaren」では、「アホな走り集」に代表されるようなユーモラスでエッジの効いた作風で知られる映像作家・大月壮をMVの監督に自ら指名。

eスポーツ界のスタープレイヤーであるDustelBoxらとともに熾烈なレースを行うさまをコミカルに描き、洗練されながらも振り切ったストーリーで大きな反響を呼んだ。

一見しただけでは、相反するような作風で、交わるイメージが沸きづらい両名。しかし、同作にカメオ出演しているSALU、KLOOZらも含めてプライベートでも親交が深いのだという。

そこで、今回はそんなAKLOと大月壮、両者の出会いから、MVを制作していく過程。そして、AKLOの原点とも言えるアメリカのヒップホップ事情まで、ざっくばらんに語っていただいた。

アメリカみたいにやばい映像つくれるやつを探していた

──今回の発表された「McLaren」で、AKLOさんのMVを大月さんが監督したという点が意外でした。しかも2人はかなり仲が良いという話も大月さんからうかがっています。

AKLO まあ嘘じゃない(笑)。でも最初の出会いはけっこう微妙だったんですよ。

大月 そこから話そうか。僕は20年前の「さんピンCAMP」からずっと日本語ラップ好きなんだけど、昔のヒップホップの世界ってちょっとヤンキーっぽいというか怖い感じがあって、そんな中で最初に仲良くなったラッパーはLIBROくんだったり環ROYくんだった。ゴリゴリというよりも一般人の感覚も兼ね備えた人達だね。

それからもっと後の2010年頃なんだけど、そのころTwitterとかで曲をフリーでばんばん出していくミックステープムーブメントってのが日本語ラップの世界であったのよ。それをやりだしたのがAKLOくんなんだよね。

俺は後乗りでそれを知って、KLOOZが出した『No Gravity』っていうミックステープとAKLOくんが出した『2.0』をダウンロードした。KLOOZが歌ってる声と内容のチャラさがすっげーツボにハマってたら、環ROYくんが紹介してくれて。

そしたらKLOOZが「Twitterを使って映像を出していくムーブメントが日本にまだないからやりたい」って言って。そこからすごいスピードで一緒に映像つくろうよってなってくの。

たしか9月に出会ったんだけど、11月の終わりには「※1KLOOZ MOVIE DAY」シリーズの1発目を公開して。で、KLOOZの周りには仲間が沢山いて、その輪に突然入っていくことになった。

そこにAKLOくんがいたんだよね。今までは一般人的な感覚も持ったラッパーとしか付き合いがなかった僕が、ファッションからしても超HIPHOPな、アメリカナイズされてる集団に突然入っていったわけ。だから最初は仲良くなれるか心配だった。ハンドサインとか求められたらどうしようみたいな(笑)。
KMD #006 : KLOOZ. mikEmaTida. KenThe390. AKLO. SkyHi & DJMasterkey "Freestyle"
※1KLOOZ MOVIE DAY:2010年12月から始まったKLOOZと大月壮による映像シリーズ。2週間に1回ペースで計10本の映像が公開された。AKLOはもちろん、SKY-HIやKEN THE 390らも参加している。

AKLO 俺は2009年に最初のミックステープ『DJ.UWAY Presents A DAY ON THE WAY』を出したんだけど、それがちょうどTwitterのブームと重なった。

大月 その時Twitterがあることは知ってたの?

AKLO 知らなかった。※2Amebreakがあることさえ知らなかったし、今でこそインターネットの人って言われることもあるけど、正直なにもわかってなかった。その時はむしろ「インターネットとかよくわかんないけど、ブログに曲をアップすんのかな。知らねーけど誰か見つけんのかな?」って。

そしたらある日、アルバムがめちゃめちゃダウンロードされてて。なんでこんなにダウンロードされるんだろうって疑問を辿って、Twitterを見つけた。 大月 最初からTwitterに曲を落としていたわけじゃなかったんだ。

AKLO そう。ダウンロードされてる元がTwitterからのトラフィックだったから。「なんだTwitterって?」くらいのスタート。気になると調べるタチだから、そこから一気に流れがわかった。

じゃあ、みんなのフィードバックをアップデートして、2010年に2作目をつくったら話題になって。もともと友達だったKLOOZもその流れでミックステープつくることになる。俺はzipファイルで曲をアップしてたんだけど、KLOOZはその頃からストリーミングできるサイトでアップしてた。

大月 Bandcampやってたんだっけ。

AKLO そう。それで、インターネットから出てきた新しい存在としてAKLO/KLOOZがメディアに紹介されるようになっていった。

俺の場合は、自分で自分のジャケットをつくってたんだけど、KLOOZは、いろんなコネクションを持っててフレッシュなジャケットをつくってくれる人を見つけたりとかしてたのがいいところ。その時たまたま出会ったのが大月さんだった。アメリカで話題になってるやつらもじゃんじゃんビデオを出してたから、やばい映像つくれるやつがいたらいいよねって。 大月 それがなぜか俺だったんだよね。アメリカナイズされた集団に突然俺みたいなサブカルおじさんがやってきたわけだから、「何だこいつは」ってなるわけじゃん。特にAKLOくんからは品定めするような目で見られてる気がしてた(笑)

だけどネットを使って、bandcampみたいなツールが出てきたらひょいっと乗っかってくる速さと時代感覚は、それまでのラッパーたちとは違う革新さを感じたから、もしかしたら気が合うんじゃないかなって期待もあった。

サブカルなところをハイライトにしたいわけじゃない

AKLO だけど実際に「KLOOZ MOVIE DAY」がはじまったら、俺が思い描いてたプランとちょっとズレてた。この人めっちゃサブカル感強いなみたいな(笑)。そしたらやっぱり、KLOOZとCherry Brownでやった「ツンツンミクチャン」で気付いたの。
KMD #007 : KLOOZ & Cherry Brown "ツンツンミクチャン" (Prod.by Lil'諭吉)
AKLO 画面を分割していくグリッチ系の手法がかっこいいのはわかってるんだけど「この感じでいくとKLOOZはサブカルな人間になってくな」と本気で思った。

サブカルなところをハイライトにしたいわけじゃなくて、もっと日本にメインストリームなヒップホップをつくってきたい。だから俺のなかでスタンスが違った。

大月 それがいまだに続いてるAKLOくんのミッションだね。「KLOOZ MOVIE DAY」をつくってた時、AKLOくんが出てる回もいっぱいあったけど、ちょいちょい邪魔なことを言ってくるの(笑)。俺が面白いと思うことについて「KLOOZよく考えたほうがいいんじゃないかな。もうちょっと俺たちはクールだよな?」みたいな(笑)。
KMD #003 : KLOOZ & AKLO "2011 (A Happy New Year)"
大月 それを無視する訳じゃないけど、2週間に1回ペースで映像を公開していくこと自体が冒険的で大変だったから、思いついたアイデアを素早く実現させるので精一杯だった。

当時KLOOZとよく話してたキーワードは「クイック」と「フレッシュ」。1本目は午前中に集合して昼過ぎから夕方くらいまで撮影して夜までに編集して、夜みんなが集まってる事務所に持っていって、「1日でできた!」ってテンポで。

AKLO そしたらそれが話題になっちゃったもんだから、もう1日じゃ済まなくなっちゃったんだよね。

大月 「フレッシュ」がテーマだから2回目、3回目と新しいアイデアと違う手法で作っていくうちに、だんだん手数が増えちゃうみたいな。

AKLO そんな中で大月さんと俺は一緒に接してるし、曲も一緒にやってるから「KLOOZ MOVIE DAY」で呼ばれて接する機会は多かったんだけど、俺はどこかで「サブカル方面に寄り過ぎないでくれ」って思ってた。

※2:株式会社サイバーエージェントが運営するヒップホップメディア

たとえギャグでもAKLOの映像はかっこよくなきゃいけない

AKLO だから最初は大月さんとは、ちょっとしたアンダーグラウンドVSオーバーグラウンドみたいなゆるい対立があったけど、近頃は音楽業界にそういう対立すらなくなってきちゃってて。

今はみんなでヒップホップをかっこいいところにステイさせようとなってるじゃん。だからこそ「McLaren」での協力体制なのかな。
AKLO / McLaren (Official Music Video)
AKLO 大月さんとはずっと仕事したかったんだよ。今までの大月さんの作品は観てるし、ホームページもチェックしてる。でも大月さん、実写はあんまり興味なかった気がして。

あんなにCGすごいのに、実写だとここで満足するんだ」って思ってた。だけど、最近は実写で満足するレベルの作品になってきて。

大月 おっ、気付いてた? メジャー感が出せる実写ってのをここ数年の自分の課題の1つにしてた。超遅いんだけど(笑)。

AKLO これまでは「かっこいい実写を撮る」っていう俺の絶対条件と合ってなかっただけ。「CGもできちゃうし、ゲームでも何でもつくれちゃうんじゃないの? 完璧じゃーん」って思って今回マッチした。

──AKLOさんから見てアンダーグラウンドだった大月さんの作風が変化していたんですね。

大月 アンダーグラウンド/オーバーグラウンドって分け方が正しいかはわかんないけど、メジャー的とかネット的とか他にも色々なニュアンスの映像領域がある。AKLOくんのことを考えると、映像としてメジャー感を感じるような、本人がかっこよく見えなきゃいけないって部分は大きいからそこに1番気を使った。

「McLaren」は架空のレースゲームで本物のプロゲーマーと戦うストーリーなんだけど、実は演出の随所に『ジョジョ』のアニメのオマージュが入ってる。実は僕が言い出したわけじゃなくてAKLOくんのマネージャーが『ジョジョ』好きで、「F1ゲームといえばダービー兄弟の*3F-MEGAだよね」みたいな案を出してきて。

そしたら曲つくってるBACHLOGICくんも「ええやーん」とか盛り上がりはじめて「最後にスタンド出したりしたい」とか「コスプレしよう」とか、アイデアがどんどんギャグの方に寄ってっちゃって。AKLOくんのクールなイメージを壊しちゃいけないっていうプレッシャーがある中で、みんながガンガンにギャグを提案してくるから逆にこっちが不安になったりしたよ(笑)

でも、昔のAKLOくんだったら「RGTO」もあり得ないし、あのMVを見たとき「殻破ったなー」って思ったんだよね。昔のAKLOくんだったら、あれは絶対やりたがらなかったはずだもん。だから今回ようやく一緒に作品を作れたっていうのは、お互いの変化だったり成長ってのがあると思う。

*3『ジョジョの奇妙な冒険』第3部に登場するTVゲーム。
AKLO "RGTO" feat.SALU, 鋼田テフロン & Kダブシャイン
AKLO うん。「RGTO」を撮ったときも「まじで俺短ラン着んの。大丈夫?」って思ったよ。学生服を着るっていうので百歩譲ってOKだった。でも、短ランとか細かいとこまではわかってないから、当日になって「マジか」って。何度も現場で「本当にこれ大丈夫?」って確認してた。

大月 しそう(笑)。

AKLO 撮ったときは「このMV、世に出しても大丈夫かな……」ってくらいすごい心配だった(笑)。でも出したら物凄い反響があって。

自分が起こすアクションに対して、社会がどう反応するかわかってる人を「センスがある人」って言うんだと思う。例えばファッションにしても、自分が選んだ服が人にどう印象与えんのかって考えてるんだよね。

そうなったときに俺は「こういう曲つくったら受けるよ」「こういうリミックスやったらバズるよ」ってわかってたし、それが思い通りにいったから自分はセンスがある人間だと思ってた。

だけど「RGTO」は、俺の予想を超す再生数で。「どうやら自分が持ってたセンス以外のところにもっと重要なものがあるくさい」ってことにはじめて気が付いた。自分の殻のなかだけで考えてるセンスじゃなくて、監督のセンスに委ねることをそこで覚えたんだよね。

大月 実は世に出すときに一番良いのは、突っ走り過ぎちゃって半分不安って状態だと思ってて。僕の経験上「これ出したら頭おかしいと思われちゃうかな」くらいの時が、実は爆発的に成功してる。でもそれはそれでリスキーだから責任ある仕事には不向きだったりして。そういう意味で「McLaren」は、AKLOくんのクールなイメージを壊し過ぎないように、突っ走り過ぎないようにギャグとクールさのバランスをとったつもり。

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1件のコメント

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editoreal

AOMORI SHOGO

ヒップホップって現代アートに通ずるものがあるのかもしれない

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