キャプテン・アメリカとアイアンマンが敵味方に分かれて、同じ志のチームと共に戦うという禁断のチーム戦が描かれることで、すでに盛り上がりを見せている。
本作の見どころを、マーベル社のシニア・バイス・プレジデントであるC.B.セブルスキー氏に語っていただいた。 見どころもさることながら、セブルスキー氏の肩書であるシニア・バイス・プレジデントとはいかなる役職なのか? アメコミブランドの最高峰である「マーベル」に入社する以前は日本でアニメや漫画を研究してきたという氏が語る、日本の漫画とアメコミの違いとは? 気になる質問をぶつけてみた。
取材・文:加藤千高
マーベルの親善大使が語る、漫画とアメコミの決定的な違い
──C.B.さんはマーベル社の中で、現在はどのようなことをされているんですか?C.B. 今、マーベルで働き始めて17年目です。最初はライターとか編集、人材スカウトとか、いろいろな役職を担当しました。現在は簡単に言うと、マーベルの親善大使といったところですね。特にアジア地区を中心にマーベルのブランドを拡大していく仕事をしています。
北米と南米、ヨーロッパでは、もともとマーベルはコミックスの会社としての知名度が高い。日本は特殊なケースで、70年代に日本語版コミックスを発売したり、※1東映実写版『スパイダーマン』やアニメ版『X-メン』といった映像作品を展開したりと、マーベルとは付き合いはかなり長いんです。
※1 東映版スパイダーマン:1978年~79年に現在のテレビ東京系(当時は東京12チャンネル)で放送された、特撮ヒーロー作品。主人公の山城拓也は父の研究を悪用しようとする鉄十字団のモンスター教授によって殺されてしまう。洞窟に落下した拓也を蘇らせたのはスパイダー星の王様・ガリアだった。ガリアは母星を滅ぼしたモンスター教授への復讐を拓也に託して死んでいく。拓也はスパイダーエキスを注入されたことにより、スパイダーマンとなって父とガリアの復讐のために鉄十字団に戦いを挑んでいく。スーパー戦隊ヒーローのルーツ的作品。最近マーベルコミックスのスパイダーマンのクロスオーバーシリーズの「Spider-Verse」に超強力な助っ人として登場し、話題となった。
だけど、ほかのアジア諸国は映画シリーズからマーベルの作品に初めて触れることが多い。映画を好きになってくれた人たちをどうやってマーチャンダイズやゲーム、テレビシリーズ、コミックスといったほかの部門に浸透させていくか、逆の発想が必要になってくるんですよ。僕はそういったところで尽力しています。
──C.B.さんはマーベルに勤める以前、長く日本に滞在されていて、日本の漫画やアニメにも精通しているとお聞きしています。ご自身が体感された日本の漫画とアメリカンコミックスの違いというのはどんなところでしょうか?
C.B. 漫画は白黒が多くて、アメコミはカラフルだとか、作画のスタイルやタッチが違うという表面的な違いもあります。決定的に違うところは、ストーリーテリングの手法ですね。
中でもコマ割りが全く違うものになってますね。アメコミは1ページを平均、6から9コマで割っていて、漫画は2・3コマ。アメコミは吹き出しと文字が多くて、内容を凝縮させて見せていく。ストーリーの展開のテンポが違いますね。漫画の方がずっと早い。
また、漫画は一人の漫画家、クリエイターが作画からストーリーから何もかも手掛けているので、その人なりのスタイル、その人なりのリズムが生まれてくる。アメコミはチーム制でつくっていく。ストーリーを書くライター、作画するペンシラー、インカ―、色を塗るカラーリスト、編集者といった最低でも5人のチームでつくられていきます。
チーム制作において求められる素質とは?
──チームと個人、それぞれのメリットデメリットはどんなものだと思いますか?C.B. 一人の漫画家が全てを手掛けるというのは、ビジョンが明確になるから良いことなんだけど、健康を害するくらいの殺人的なペースで作業を進めなくてはいけない場合もあるので、そこはどうかなと思う。
マーベルコミックスのスタイルでは様々な意見が飛び交って、よりクリエイティブなものが生まれる機会に恵まれていると思う。
ただ、入れ代わり立ち代わりアーティストが変わっていくので、『キャプテン・アメリカ』のシリーズでも、アーティストが変わることで作画のタッチが変わって、ファンからクレームが出る、というマイナス部分はありますね。
──では、アメリカでは、チーム制という点で言うと、全体を観ることのできる才能やチーム制ならでは素質というものが求められるのでしょうか?
C.B. おっしゃる通り、チームワークが要になってきます。
スカウトの仕事をやっているとよく周りから「インターネットでポートフォリオを見せてもらえば早いし楽でいいじゃないか」と言われるんですよ。だけど、自分の場合は直接会って、きちんと目を見て話をしてからじゃないと決められないですね。なぜならチームワークには、その人個人の人柄が一番大事だから。
時によっては自分の彼女や奥さんよりも長時間チームで過ごすことになるわけだから、チームの中に一人でも不協和音をもたらすような人がいては、やはり良い作品はつくれない。そういう意味では、人柄とか性格はすごく大事ですね。
──C.B.さんは、『進撃の巨人』と『アべンジャーズ』のコラボや、村田雄介さんや寺田克也さんといった日本人アーティストを起用した「マンガヴァリアントカバー」(中身は一緒で、表紙イラストが別バージョンのもの)を担当されていますが、この方々にも実際お会いされたんですか? C.B. 半分以上は自分が直接会っています。書店でのサイン会とか、コミティアとかに会いに行きます。自分が動けないときは代理人にお願いして、その人に会った時の印象などを聞くようにしています。
──それほど人となりを重要視されているのですね。
コミック業界で働くための、冴えたやり方とは?
──C.B.さんは普段から、エンタメ業界で働きたい若者へのアドバイスをTwitterでされていますが、その中でも、マーベルといったアメリカのエンタメ業界に参加するための一番冴えたやり方はどんな方法だと思いますか?C.B. フー! 良い質問だから、答えも長くなっちゃうよ(笑)。
まずは自国で実績を積んで、名前を確立することが大切です。そこで自分をうまく売り込む能力が問われます。いくら素晴らしい才能があって、作品が素晴らしくても、その人自体に興味を持ってもらえないと、作品を観てみようということに繋がらない。
自分はプロの作家である、もしくはアーティストであると、ネットで名を売ること。その時は必ず実名を使うことが大事。AKIRAファンの28号とか、変なハンドル名だけで知られていてもにっちもさっちもいかないから(笑)。なるべく世界中に普及している大手のSNSで、自分のページをつくって、自身のSNSのリンクを張って、ぜひ見てほしいと直接マーベルの編集者宛てにコンタクトを取ればいい。
ネットが発達してSNSが普及したことで、マーベルに限らずアメリカのコミック業界で働きたいと思う人には、突破口を見出しやすい環境になっていると思いますね。
──日本のアニメや漫画から学んだ経験や気づきというのはおありですか?
C.B. 具体的な話になると、アーティストが使う道具とか、締め切りに間に合わせるための技とか(笑)、そういったちょっとしたトリックを学ばせていただいたというのもあります。
日本の漫画が参考になっている大きな部分としては、人間味、人間らしさを掘り下げて描くという点ですね。
たとえばスパイダーマンであれば、スパイダーマンである以前にピーター・パーカーという一人の男であり、アイアンマンというよりもトニー・スタークという男である。キャプテン・アメリカもスティーブ・ロジャースという一人の男である。
コスチュームの下にある人間を身近な存在として、もっと共感を持ってもらいたい。しっかりと人間として描くということをマーベルは心掛けている。彼らの人間関係であるとか、日常生活をきちんと描いていくという部分は、日本の漫画をお手本にしている部分ですね。
『シビル・ウォー』は、キャプテンたちの人間性をより深く掘り下げていく
──まさに、※2マーベル・シネマティック・ユニバースの最新作『シビル・ウォー』も、キャプテン・アメリカがヒーローである前に人間であるという、シリーズを通して描いてきたものが最も顕著に表れている作品と思います。※2 マーベル・シネマティック・ユニバース:マーベル・スタジオが制作するアメコミヒーローの映画作品が、共有する架空の世界の総称。マーベルコミックスの世界は並行世界が連なった設定になっており、コミックスで中心となって描かれる世界がEarth-616と呼ばれる世界。マーベル・シネマティック・ユニバースはEarth-199999と設定されている。
C.B. 映画のもとになったコミックス『シビル・ウォー』では、スーパーヒーローを登録制にして、責任を問わせようとするスーパーヒューマン登録法というひとつの法案を巡って、2つのサイドに別れて戦うことになるんです。
一見すると反逆児なアイアンマン=トニー・スタークが反体制に回って、キャプテンことスティーブ・ロジャースは兵士として国のために戦ってきたからこそ体制側につくだろうと思いきや、全く逆の立場で戦うという部分が魅力の一つなんですよ。 原作のコミックスでもそうなんだけど、タイトルの通り、キャプテンが主要な役割を果たします。中でも見どころは、これまでみたことがないようなキャプテンの意外な側面が浮かび上がってくるところ。
今回は本当に人間ドラマが中心にあって、スーパーヒーローであることよりも、人間としての側面、人間としての深層心理がより深く掘り下げて描かれます。
みんなが今まで先入観を抱いていたかもしれないけど、それを覆す行動を思わぬキャラクターが取ったり、原作を知ってる人でも、知らない人でも、映画を今まで観ていなくても楽しめる内容になってます。
キャプテン・アメリカチームとアイアンマンチームと別れて対立することになるんですけど、それぞれの皆さんのお気に入りのキャラクターがどちらのチームを選択するのか? それも楽しみの一つだと思います。
時代とシンクロする『シビル・ウォー』
──前作『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』も、正義の組織S.H.I.E.L.D.の中に悪の組織ハイドラが隠れているというポリティックスリラーな大仕掛けと共に、バッキー(ウィンター・ソルジャー)とキャプテンの友情を軸に人間性を掘り下げていく作風だったと思うんです。そこで、最新作の題材がなぜ、ヒーローが2極化して争う「シビル・ウォー」なのか? そこにとても興味があります。
C.B. 映画についてはマーベルスタジオの社長であるケヴィン・ファイギが決定権を持っているので、彼が何を考えているのかまでは僕にもわからない。彼はフェイズ1、フェイズ2、フェイズ3と段階を設けていて、入念な計画のもとにこの映画をここで公開しようと決めたのだとは思います。 ただ、タイミング的に面白いなと思うのは、原作のシビル・ウォーが出版されたちょうど10年前、アメリカ国内では非常に政局が不安定な時期だったんです。ジョージ・ブッシュの支持率がガタ落ちになって、まだオバマが大統領になる前のことでした。
奇しくも、映画が公開される現在、アメリカ国内は大統領選挙の前哨戦の真っ盛りで、トランプ候補とヒラリー候補が争っている。日本も安倍政権のアベノミクスをめぐって紛糾している。中国との衝突や中東の問題もあり、ヨーロッパもシリアからの難民の問題で荒れていたりと、とても不安定な世界情勢を迎えている。
政府とか体制に対して、一般市民が非常に懐疑的になっている。『シビル・ウォー』はそういう状況とリンクしているのが興味深いですね。 ──映画の公開をこの時期に決めたというのは、すでに世界情勢を予見していたんでしょうかね?
C.B. おそらく前作からすぐに製作に入ったとしても、3年はかかっているわけだから、これを見据えていたとしたら、ケヴィンはスーパーパワーの持ち主だよ(笑)。
それぞれのヒーローがどう動くのか?
──今回、ファンはどういったキャラクターの登場を期待していればよいですか?C.B. スパイダーマンとブラックパンサーじゃないかな。ブラック・パンサーの正体は架空の超文明国家ワカンダ王国の王子・ティチャラなんだけど、マーベルで最初の黒人ヒーローなんです。予告編でも登場しているけど、ヴィブラニウム合金製のスーツで彼が、どのような活躍をするのか、自分も非常に楽しみにしている。 ──スパイダーマンは映画化権を持っているソニーピクチャーズとマーベルの提携で、マーベル作品に登場することが可能になったと2015年に発表があって以降、本作に登場するのかどうかずっと伏せられていましたね。
C.B. スパイダーマンは原作では重要な役割を持ったキャラクターなんだ。最初はアイアンマンチームだけど、途中でキャプテン側に移籍する。果たして映画ではスパイダーマンがどのように行動するのかも注目してほしいな。
──ありがとうございます。最後に、日本のマーベルファンに向けてメッセージをお願いします。
C.B. 日本の漫画と同様、絶対にどんな人でも楽しめる映画になっているので、期待してほしいです。スペクタクル、アクションという魅力もあるし、キャラクター同士の複雑な人間模様も見逃せないし、親密な部分を丁寧に描いている。
シリアスな中にもクスリと笑える部分もあるので、お笑い好きな日本人には、そういう悲劇は喜劇というシチュエーションにも期待してほしいですね。
(C)2016 Marvel.
C.B.セブルスキー //
幼少時代から漫画と映画をこよなく愛し、エンターテイメント業界こそが自分の進むべき道だと常々確信していたセブルスキーは、タフツ大学を卒業後、日本に暮らしながら4年間にわたり漫画ならびにアニメの研究と仕事に勤しむ。その間、日本人コミック・クリエーターらと親交を深めるに至った彼は帰国後、日本の漫画アーティストたちと組んで欧米の観客を特定のターゲットに据えた作品群を作り出すアメリカ人編集者のパイオニア的存在となる。日本のみならず世界中のアーティストに、米エンターテイメント業界でキャラクターやストーリーを生み出す仕事に就くチャンスを与える、という人生の目的に彼が目覚めたのもこの時期だった。
日本、ヨーロッパ、そしてアメリカのコミック市場で編集者として経験を積んだセブルスキーは、2002年、編集者兼タレント・コーディネーターとして、子供の頃からの夢だったマーベル・コミックに入社。世界各国から何百人というクリエイターを発掘し、『アベンジャーズ』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』、『スパイダーマン』や『アイアンマン』といったマーベルが世界に誇る有名キャラクターらを主人公にしたオリジナル・コミックに、ライターやイラストレーターとして起用するなど、グローバルな才能を主流コミック市場に引き入れるのに大きく貢献した。
先頃マーベル・ブランドおよび事業の世界展開を担う、国際開発&ブランド・マネージメント部門バイスプレジデントに昇進した彼は、マーベルの市場拡大に向けた機会を求めて世界各地を飛び回るかたわら、同社が展開する各種事業において様々な分野の芸術的才能を開花する可能性を秘めた優秀なアーティストを世界中から発掘するべく努力を続けている。
ソーシャルメディアにおいてもアクティブに活動する彼は自身のこれまでの経験を活かし、Twitterアカウント@cbcebulskiを通して、ライターやアーティストを目指す人々にエンターテイメント業界で仕事につくためのアドバイスを提供。また、仕事を離れたフリーの時間も海外旅行に費やすことの多い彼は、食べ物と料理への情熱を探求すべく世界中を旅しながら、訪問先で体験した興味深い“食のアドベンチャー”をウェブサイト『Eataku』に綴っている。旅先でエキゾチックな料理の数々にトライしたり、コミック制作に携わったりしていない時は、懐かしのゲーム「ディグダグ」で世界記録を打ち立てるのに全力を注いでいる。
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イベント情報
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』
- 公開
- 4月29日(金)全国ロードショー
- 配給
- ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
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