謎のアニソンシンガー 暁月凛 x 吉田尚記 対談「アニソンはお経だ!」

謎のアニソンシンガー 暁月凛 x 吉田尚記 対談「アニソンはお経だ!」
謎のアニソンシンガー 暁月凛 x 吉田尚記 対談「アニソンはお経だ!」

暁月凛さんと吉田尚記さん

3月2日(水)、謎の新人アニソンシンガー・暁月凛さんがデビューを飾った。

国民的アニメ『金田一少年の事件簿R(リターンズ)』のEDに大抜擢された彼女。その楽曲「決意の翼」のコンセプトは自身で考えたというが、大型アニソンオーディションでグランプリを獲得した女性という以外、そのパーソナリティーはすべて謎のヴェールに包まれている。

【暁月凛】『決意の翼』

そこで、聞き手のプロであり、自身もアニソンが大好きでDJとしても活動するニッポン放送のアナウンサー・吉田尚記さんを迎えての対談を行った。

名前の通り凛とした面影と歌声とは裏腹に、暁月凛さんの強烈な個性が炸裂。そして、アニソンシンガーの明暗をわけるという「アニソンが好きか、アニメが好きか」という核心をついた質問を吉田アナがぶつけ──。

取材・構成:須賀原みち 撮影:市村岬

引きこもってるうちに厨二病になってた

──暁月凛さんは“謎”のアニソンシンガーとしてデビューされました。この対談では、アニソンへの造詣の深さでも知られるニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんと共に、暁月さんの“謎”について迫っていければと思うんですが……。

暁月凛(以下「暁月」) 私、あまり自分のことを公開したくないんですよ。自分が人間として存在したくなくて、人間としての属性をなくしたいんです。性別や体重、年齢とか……。

吉田尚記(以下「よっぴー」) 人が語られる上でのプロフィール情報は、なるべくないほうがいい? ボーカロイドになりたい願望みたいな?

暁月 ボーカロイドというか、できれば吸血鬼みたいになりたい4000歳とか。

よっぴー デーモン小暮閣下みたいな(笑)。デビューのきっかけは、もともと大型アニソンオーディションということですよね。

暁月 オーディションに受かってから、東京にやってきました。私は、自分の地元がすごくダサいと思っていて、それまで家にひたすら引きこもってたんです。それで、オタクになって、アニメや声優さんの映像を見たり、妄想して自分でイタい小説を書いてみたりして。格好良いと思って、ラテン語を勉強したり……。「rosa」(ラテン語でバラ)の発音を10日くらい練習してましたよ(笑)。

よっぴー マジか! それはイタいねー(笑)!! アニメを好きになった影響で、厨二病になったの?

暁月 アニメというより、Sound Horizonとかが好きになると、まずドイツ語、ラテン語、神話とかが気になったりするじゃないですか。それで、厨二病になりました。

厨二病の人間にとっては、むしろ神話とか厨二病的な世界こそが現実なんです。だから、むしろ今私がアニソン歌手になるっていう現実こそが夢なんじゃないかなって、ずっと思ってます! 「ただのオタクだった私が、アニソン歌手になるわけない!」っていう常識があって、どっちが現実がなんだろう、っていう。ちょっと前まで、よっぴーさんの番組をよく見てた側だったのに。

よっぴー 確かに、引きこもってアニメを見てた頃の自分に、今の状況を説明しても、突飛すぎてウソだって思うよね。

暁月 今のすべての景色が夢かもしれないです(笑)。というか、ここは並行世界で、本当の私はどこかでバイトしているかもしれない。

よっぴー すごいね、確かに本格的に現実感が揺らいでるね。

オタクとしての人生を歩み出した中学生

──暁月さんがオタクになったきっかけは、なんだったんですか?

暁月 『名探偵コナン』を見て、アニメっていうものがあるんだって知って。その後、アニメの『コードギアス 反逆のルルーシュ』と『神無月の巫女』を見たら、ヤバくて……。

よっぴー そこから「私、もしかしてこういうの好きかも?」みたいな?

暁月 「まさか私、オタク!?」ってなりました。その当時、友達があんまりいなくて、自分は呪われた人間、世間に嫌われるオタクなんだ……だから私、友達がいないんだ……って思ってました。そういうこともあって、まさにルルーシュ(『コードギアス 反逆のルルーシュ』主人公。復讐を果たすダークヒーロー)に共感していました。

ただ、私の中学校にはアニメサークルがあって、そこのひとつ上の先輩がたまたまネットで知り合った友達だったんですよ! それでサークルに入部して、たくさんのオタクや腐女子の友達ができました。先輩のひとりがネットで有名な絵師(イラストレーター)だったり、レアなフィギュアとか設定画集とかを1年で100万円分くらい買う先輩がいて、その人からマンガを借りたり……。

よっぴー かなり濃いめの人たちがたくさんいるところにいたんだね。

暁月 それで私にも完全に「オタク」のタグ付けがされたので、「女の子のオタクは腐女子」っていうありがちな固定観念に従って、大量のBLを読み始めたんです。

よっぴー オタクとしての修行の一環としてBLに触れたということ?

暁月 最初はそうだったんですけど、結果的にハマってしまいました(笑)。ちょっと前のことですけど、声優の神谷浩史さんのファンミーティングに、制服のコスプレで参加したこともあります。怪我して骨折してたから松葉杖で。

アニソンはお経、ご本尊はアニメ

よっぴー これまでの経歴を聞くと、オタクではあったけれど、歌を歌ってきたわけじゃないですよね。歌の世界に入ったのはいつから?

暁月 私にとっては、『コードギアス 反逆のルルーシュ』でALI PROJECTが歌っている「勇侠青春謳」が特別な曲で、その時に「アニソンってすごいな」と思ったんです。だって、ジャズもあるし、ロックもあるし、ポップスもあるし、バラードもあるし……アニソンにはどんなジャンルも、どんな曲だってある。だから、「もし一生このジャンルの音楽しか聞けない」ってなったらアニソンを選ぶくらい、大好きになりました!

それで、高校生になったら暇すぎたので、「歌ってみた」動画をやってみたんです。将来歌手になるとか深く考えたことはなかったけど、アニソンオーディションにも参加してみて、受かることができました。

だから、私、アニソンしか歌いたくないというか。自分のやりたいこと、つまり、私だったらアニソンを歌うことで頑張れる。

よっぴー アニソンは、オールジャンルと同じだからね。一番飽きがこないよね。アニソンにはひとつだけ共通点があって、“必ず90秒バージョンが存在する”。OPやEDの尺が90秒と決まっているから。多分、音楽を時間のフォーマットで区切っているのは、世界で唯一、アニソンだけなんですよね。

ラジオの世界でずっと言われている格言として、“3分曲、2分トークが一番良い”というのがある。人間の生理に合わせてきた基本文法なんだけど、そこから考えると、90秒は3分のちょうど半分。2コーラスで3分になるアニソンのフォーマットは、人の心をつかむ黄金比の1パターンと言える。それを探り当てたから、今のアニソンの隆盛があるんだと思います。

本当は比べるものではないんだけれど、“アニメ”と“アニソン”だったら、どっちが好き?

暁月 アニメです(即答)

よっぴー いいね〜。実は今、アニソンアーティストの中には、「アニメよりもアニソンが好き」っていう人たちもいます。そういう人たちは本当にアニソンが大好きだし、すごくクオリティの高いアニソンを毎回つくるけど、どこか最後まで行ききってない感じがする。なぜかというと、アニメというものは、それ自体が宗教のように出来上がっているからなんです。

つまり、アニソンというのは、あくまでも“お経”。ご本尊としてのアニメの素晴らしさを表現するための音楽がアニソンなんです。それが、アニメじゃなくアニソンに意識が行ってしまうと、アニメファン全体には響かない。だから、「アニメが好きだから」という人じゃないと、最終的にアニソンシンガーとしてうまくいかないかな、と。

暁月さんは今「アニメが好きだ」と言ったので、アニメのためにアニソンがあるというのを、自然に理解できているんだと思います。

暁月 すごくわかります! アニソンの中のキーワードでも、そのアニメ作品からの裏付けがないと深みがないですもんね。 ──キーワードというと、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』だったり、昔のアニソンには歌詞にアニメの題名そのものが入っていましたよね

よっぴー 『海のトリトン』や「タイムボカン」シリーズとか、それはオールドアニソンの世界ですね。それがアニメ『キャッツ・アイ』の主題歌「CAT'S EYE」が、オールドアニソンと今のニューアニソンの両方の文脈で聴ける曲として出現します。

この「CAT'S EYE」が明確な区切りになっていて、アニソンとしても聞けるけど、同時に一般の音楽としても聞ける楽曲として出てくるわけです。ここから、ニューアニソンの世界がブワーッと広がっていく。『天体戦士サンレッド』の「溝ノ口太陽族」とか、今あえてオールドアニソンスタイルをやる人たちもいるけど、基本的にはニューアニソンが確立されている。暁月さんは完全にニューアニソンで育ってきた世代だよね。

暁月 私が聞いていた昔のアニソンっていうと、「残酷な天使のテーゼ」とかですかね。この曲を聞くと、やっぱり『エヴァ』が思い浮かぶ。私、3年くらいずっとエヴァのことを考えてますもん(笑)。哲学的に、世界を完璧に解釈できる作品だなって思って。

よっぴー 「残酷な天使のテーゼ」は、オールドアニソンの空気も残っているけど、『エヴァンゲリオン』って言葉が出てこないという意味では、やはりニューアニソン。でも、『エヴァ』の作品中にあれだけ“天使”というモチーフが出てこないと、そもそも「残酷な天使のテーゼ」という楽曲の意味もなくなってしまう。そういったアニメのモチーフと楽曲の関係を自然とわかっているのは、やっぱりアニソン新世代なんだなって感じですね。

暁月 私の好きな「勇侠青春謳」の歌詞もすごくルルーシュにはまっていて、聞くと私の厨二病が発症します(笑)。「私、今世界を壊しに行く!」って気持ちになりますもん。

だから、私は、普通の愛の歌みたいなのは歌いたくない。普通の少女漫画みたいな、可愛い、格好いい子と恋愛したい、っていう気持ちもわからなくはないですけど、もっと血まみれの現実がいいです。

よっぴー 血まみれの現実(笑)。耽美な世界が好きなんだね。

暁月 そうです! 性別の壁を超えて、美を追求する道を進む……みたいな。だから、私は、深みのある耽美なアニソンシンガーになりたいです!!

厨二病で突っ走るのも才能!

──そんな暁月さんですが、3月2日に『金田一少年の事件簿R』のエンディングテーマ「決意の翼」で、アニソンシンガーとしてデビューしました。今回の「決意の翼」にはどのような思いを込めていらっしゃるのでしょうか?

暁月 私、この曲を聞いた瞬間、「この曲は天使だ!」って発想が降りてきたんです。具体的に言うと、人間の子供を助けるために、ある天使が人間界へ下りてくる。でも、人間と関わった天使は、天使でいられない。それでも助けたいと願った天使は、人間の子供を助けてしまう。その子供が大人になった時、自分のために人間界に下った天使を、今度は自分が助けてあげたいと考えて、その尊い精神が二人を天使にして(以下略)みたいな。

だから、「決意の翼」は、「天使」「翼」「決意」「救い」をキーワードにしています。

よっぴー 曲を聞いただけで、そこまで想像が広がったってこと?

暁月 本当はイントロを聞いただけで(笑)。

よっぴー いい感じに何かを起こしちゃってるね(笑)。

厨二病って、ひとつの才能なんですよ。厨二病といっても、普通はどこかで照れ隠しとか言い訳が入ってしまう。でも、「自分って厨二病なんだよね、てへっ」って思いながらも、それを表現する上で照れ隠しなしで走り切れるというのは、才能です。

例えばSound Horizonは、普通に話してる時は「グラサンでーす」とかサービスをいっぱいしてくれるけど、作品の中には一切エクスキューズを持ち込まないで、彼らの世界を構築してる。暁月さんも突っ走れば、Sound HorizonとかALI PROJECTのように、“暁月凛の世界”をつくれるんじゃないかな。

でも、自分の世界をつくるには高いスキルが必要になるから、一緒にやってくれる人が現れたら、暁月さんがすごい世界を見せてくれるんじゃないか、と期待してます。それこそ、Sound Horizonに曲を書いてもらったりしたら、最高だよね。

暁月 最高ですね! ほかの人がやったことのないことだったり、あまり歌ったことない曲だったり。「この世界は暁月凛のもの!」という世界観をつくり出したいです。

でも、私は歌姫みたいに、お客さんに対して「私の歌を聞いて!」という感じはやりたくなくて。私とあなたで補完しあう存在として、1対1でリスナーの人と向かい合いたいです。

よっぴー ひとり暗い部屋の中、ヘッドフォンをつけて聞いて泣いてもらうほうがいい、みたいな。

暁月 そうですね。だから、ファンの人と対談会をやりたい。ひとり30分くらいで人生の話とか、宇宙の話とかをしたいです(笑)。

よっぴー 暁月さんのイメージは“神秘的”“謎”という感じでしたけど、今回の対談で“神秘”とか“謎”だった理由がわかりました。むしろ、わかりすぎて怖い(笑)

暁月 (笑)。

収録日がバレンタインデーだったため、暁月さんからよっぴーさんへチョコの贈答式が行われました

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暁月凛

アニソンシンガー

3月29日生まれ。幼少の頃から、アニメを見て育ち、アニメが大好きで、「アニソンシンガー」になることが夢だった。
転機は2014年。応募者3000名を超える大型アニソンオーディションで、見事グランプリを獲得。そしてその実力が認められ、メジャーデビューが決定。
デビュー楽曲は、「金田一少年の事件簿R(リターンズ)」のエンディングテーマに大抜擢!
“謎”の新人アニソンシンガー、暁月凛2016年3月2日、鮮烈デビュー!

吉田尚記

ニッポン放送アナウンサー

1975年12月12日東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、1999年ニッポン放送入社。
入社以来、「オールナイトニッポン」などニッポン放送のヤングタイム番組を中心に担当。
2011年度「第49回ギャラクシー賞」 」において「DJパーソナリティ賞」を受賞。
現在は毎週月曜日から木曜日深夜24時から放送中のワイド番組『ミューコミ+プラス』を担当中。
Twitterの公式サイト「ツイナビ」が公認した「日本初のTwitter公認アナウンサー」であり、 Twitterアカウント : yoshidahisanori は、14万を超えるフォロワーを得ている。
放送業界で1、2を争うオタクとして有名であり、年間100本以上のイベント司会や、ニコ生やTV番組への出演、2008年から始まった「マンガ大賞」の発起人・実行委員を務めるなど、ラジオにとどまらない活動を行っている。
2010年には、初の著書「ツイッターってラジオだ!」(講談社)を発売し、話題に。
2015年には、著作第2弾「なぜ、この人と話をすると楽になるのか」(太田出版)を発売。
発売から3ヶ月あまりで、発行部数累計10万部を超える大ヒット作になった。

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