漫画と音楽は相性が悪い──今回取材した漫画家/アーティストの感傷ベクトル・田口囁一氏はそう語った。彼はそんな乖離をみせる2つの芸術を同時に表現する唯一無二のアーティストである。
代表作『シアロア』は2011年から2012年にかけて展開されたプロジェクトで、漫画の公開と共にテーマとなる楽曲も同時に"1話+1曲"配信するという今までにないスタイル、それを1人のクリエイターが製作しているという衝撃が反響を呼んだ。感傷ベクトル / 1st album「シアロア」digest
その後も田口囁一氏は漫画家として別冊少年マガジンでの『フジキュー!!! 〜Fuji Cue's Music〜』や、少年ジャンプ+での『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』などの連載をしながら音楽活動も展開してきた。
そして2017年12月、その原点へ立ち返る。LINEマンガで『シアロア』の再展開を始めたのだ。 LINEマンガでは漫画を読み進めると、テーマとなる楽曲のPVが再生されるページがある。音楽をテーマにした漫画において、これ以上ない演出が作品の魅力を更なる次元へ引き上げた。
そんな異なる2つの芸術に取り組むクリエイター、田口囁一。今回はご自宅にお招きいただき、漫画と音楽すべてを制作する仕事場でおはなしをうかがった。
取材・文:オグマフミヤ 編集:ふじきりょうすけ
田口囁一(以下田口) 元々高校時代に授業中にバンド漫画を描いていて、それを同人誌にして「コミケ」に出そうとなったんです。
活動しているうちに漫画に出てくる曲を実際にCDにしたいというアイディアが出てきて。高校の同級生だったベースの春川(所属ユニット・感傷ベクトルのメンバーである春川三咲)を呼んで、一緒に音楽を始めました。 田口 漫画みたいなものを描き始めたのは小学5、6年生の頃だったと思います。
授業中にずっと描いていて、カバーとかまで自分でつくって……単行本みたいな形に仕上げていました。思い出すとめちゃくちゃ恥ずかしいんですが、その頃から凝り性だったんですよね。
──小学生の頃から漫画を描かれていたとなると、音楽よりも先に漫画を描きはじめていたんですか?
田口 4歳くらいでピアノを習い始めたので、音楽が先ですね。家にある電子ピアノが多重録音ができるものだったので、最初はゲーム音楽の真似事みたいなことをしていました。
その延長で打ち込みとかもやってみたりしていたんですが、漫画も描くようになって。「コミティア」といった同人イベントに出たりして、そこでジャンプSQの編集さんに声をかけていただいてデビューしました。
つまり……両方好きで始めちゃって、どっちも辞め時がわかんないままきちゃったっていう感じなんです。両方やるって本当に大変なので、なんでこうなっちゃったんだろうって(笑)。
──たしかに両方同時に取り組んでいる方は他に見当たりません。モデルケースがないというのは大変ではないでしょうか。
田口 今後どうすればいいかっていうのは常に考えていて、悩みが尽きない部分です。
音楽と別の活動を行ってるって人はいますけど、漫画と音楽をやっている人って本当にいない。だから、将来こうなっていくんだろうなっていう予想も立てられないですから。
そもそも音楽と漫画ってそこまで親和性が高くないんですよね。漫画からは音が出ないし、曲は目に見えない。【感傷ベクトル】『シアロア』case:0挿入歌「リユニオン」
田口 音楽を絡ませようとすると、動画の方が適しているんですよ。
自分の考えたキャラクターが、自分の考えたストーリーの中で、自分のつくった音楽と絡む。そういったものに憧れはあるのですが、僕自身は動画と絡む機会っていうのをずっと逸し続けてきたんです。
ニコニコ動画でボーカロイドが全盛の時にそっちで製作してたら人生違ったなとも思うし──なんでやらなかったかというと自分で歌いたかったからなんですが──それで何かチャンスを逃してるのかなと。
あとはアニメ化してもらうしかないんです。なのでまずは漫画家として、キチンと頑張っていくことで、アニメ化というところまで辿りつきたい。そこでようやく思ったとおりのことができるんじゃないでしょうか。
── 1988年生まれという世代的にもそうですし、「カゲロウプロジェクト」に歌唱参加もされていたのでボーカロイドを使用してこなかったというのは意外です。
田口 ボーカロイドは二次創作の文化じゃないですか。たとえば初音ミクという基本となるキャラクターがいて、それぞれが自分の世界観に落とし込んでいく。メカクシティアクターズ「カゲロウデイズ」/ じん ft.田口囁一
田口 そうやって世界を広げていくのが楽しみ方だと思うんですが、自分の場合は世界観もキャラクターも100%自分のものじゃないと嫌だった。だから参加できなかったんです。
──漫画と音楽という異なる制作活動をするにあたって、意識が変わったりすることはありますか。
田口 大枠の創作の方針は変わらないです。というのも環境の違いが関係していることもあって。
前はメジャーとして音楽を出す以上、間口を広く大勢の人に聴いてもらえる様にしなきゃいけないと思っていました。それは漫画も同じだったんです。 田口 でも今はそんなに気を張っていないというか、音楽は自分の好きなタイミングで好きなものを出せますし、『シアロア』に合っていれば他の縛りは一切ない。
漫画も伝えたいことが伝わるようにっていうのは意識するんですが、前ほど大勢に届くようにみたいなのは考えなくなりました。それがモードとしては丁度よくて、好き勝手やれています。
──漫画と音楽の両方を手がけるという製作スタイルはそれぞれの作品に影響を及ぼしていますか。
田口 単純に気分転換になりますね。
漫画描いている時は漫画を描くのが嫌で嫌で(笑)、音楽がつくりたくて仕方ないモードになる。「漫画を終わらせて音楽をつくるぞ!」って。
逆もしかりで、音楽をやってると段々音楽が嫌になってくる……。そういうサイクルで走りきるみたいなやり方ですね。
田口 一時期は大きな液晶タブレットとか使っていたんですが邪魔に感じちゃって、物をどんどん減らそうとしていった結果こうなりました。それでもまだ一杯なんですが……。 田口 曲は完パケまでやることもあります。『シアロア』で出てくる曲は大体ここで済んでいますね。ミックスとかはできないんですが歌もここで録れますし。
──特にこだわっている部分はどこでしょうか。
田口 こだわってる……特には(笑)。しいていえば机くらいですかね。製品のクオリティよりも製作のしやすさを重視しています。 田口 漫画を描くのは必ずしもこの部屋というわけじゃなくて。タブレットだけ持ってリビングで執筆をすることもありますし、外ですることもあります。
代表作『シアロア』は2011年から2012年にかけて展開されたプロジェクトで、漫画の公開と共にテーマとなる楽曲も同時に"1話+1曲"配信するという今までにないスタイル、それを1人のクリエイターが製作しているという衝撃が反響を呼んだ。
そして2017年12月、その原点へ立ち返る。LINEマンガで『シアロア』の再展開を始めたのだ。 LINEマンガでは漫画を読み進めると、テーマとなる楽曲のPVが再生されるページがある。音楽をテーマにした漫画において、これ以上ない演出が作品の魅力を更なる次元へ引き上げた。
そんな異なる2つの芸術に取り組むクリエイター、田口囁一。今回はご自宅にお招きいただき、漫画と音楽すべてを制作する仕事場でおはなしをうかがった。
取材・文:オグマフミヤ 編集:ふじきりょうすけ
音楽を合わせるには動画のほうが適している
──田口さんはどうして現在のような形で漫画と音楽をやろうと思われたのでしょうか。田口囁一(以下田口) 元々高校時代に授業中にバンド漫画を描いていて、それを同人誌にして「コミケ」に出そうとなったんです。
活動しているうちに漫画に出てくる曲を実際にCDにしたいというアイディアが出てきて。高校の同級生だったベースの春川(所属ユニット・感傷ベクトルのメンバーである春川三咲)を呼んで、一緒に音楽を始めました。 田口 漫画みたいなものを描き始めたのは小学5、6年生の頃だったと思います。
授業中にずっと描いていて、カバーとかまで自分でつくって……単行本みたいな形に仕上げていました。思い出すとめちゃくちゃ恥ずかしいんですが、その頃から凝り性だったんですよね。
──小学生の頃から漫画を描かれていたとなると、音楽よりも先に漫画を描きはじめていたんですか?
田口 4歳くらいでピアノを習い始めたので、音楽が先ですね。家にある電子ピアノが多重録音ができるものだったので、最初はゲーム音楽の真似事みたいなことをしていました。
その延長で打ち込みとかもやってみたりしていたんですが、漫画も描くようになって。「コミティア」といった同人イベントに出たりして、そこでジャンプSQの編集さんに声をかけていただいてデビューしました。
つまり……両方好きで始めちゃって、どっちも辞め時がわかんないままきちゃったっていう感じなんです。両方やるって本当に大変なので、なんでこうなっちゃったんだろうって(笑)。
──たしかに両方同時に取り組んでいる方は他に見当たりません。モデルケースがないというのは大変ではないでしょうか。
田口 今後どうすればいいかっていうのは常に考えていて、悩みが尽きない部分です。
音楽と別の活動を行ってるって人はいますけど、漫画と音楽をやっている人って本当にいない。だから、将来こうなっていくんだろうなっていう予想も立てられないですから。
そもそも音楽と漫画ってそこまで親和性が高くないんですよね。漫画からは音が出ないし、曲は目に見えない。
自分の考えたキャラクターが、自分の考えたストーリーの中で、自分のつくった音楽と絡む。そういったものに憧れはあるのですが、僕自身は動画と絡む機会っていうのをずっと逸し続けてきたんです。
ニコニコ動画でボーカロイドが全盛の時にそっちで製作してたら人生違ったなとも思うし──なんでやらなかったかというと自分で歌いたかったからなんですが──それで何かチャンスを逃してるのかなと。
あとはアニメ化してもらうしかないんです。なのでまずは漫画家として、キチンと頑張っていくことで、アニメ化というところまで辿りつきたい。そこでようやく思ったとおりのことができるんじゃないでしょうか。
── 1988年生まれという世代的にもそうですし、「カゲロウプロジェクト」に歌唱参加もされていたのでボーカロイドを使用してこなかったというのは意外です。
田口 ボーカロイドは二次創作の文化じゃないですか。たとえば初音ミクという基本となるキャラクターがいて、それぞれが自分の世界観に落とし込んでいく。
──漫画と音楽という異なる制作活動をするにあたって、意識が変わったりすることはありますか。
田口 大枠の創作の方針は変わらないです。というのも環境の違いが関係していることもあって。
前はメジャーとして音楽を出す以上、間口を広く大勢の人に聴いてもらえる様にしなきゃいけないと思っていました。それは漫画も同じだったんです。 田口 でも今はそんなに気を張っていないというか、音楽は自分の好きなタイミングで好きなものを出せますし、『シアロア』に合っていれば他の縛りは一切ない。
漫画も伝えたいことが伝わるようにっていうのは意識するんですが、前ほど大勢に届くようにみたいなのは考えなくなりました。それがモードとしては丁度よくて、好き勝手やれています。
──漫画と音楽の両方を手がけるという製作スタイルはそれぞれの作品に影響を及ぼしていますか。
田口 単純に気分転換になりますね。
漫画描いている時は漫画を描くのが嫌で嫌で(笑)、音楽がつくりたくて仕方ないモードになる。「漫画を終わらせて音楽をつくるぞ!」って。
逆もしかりで、音楽をやってると段々音楽が嫌になってくる……。そういうサイクルで走りきるみたいなやり方ですね。
仕事部屋はどうなってるの?
──今回は実際に漫画と音楽を製作されているお部屋でお話をうかがっていますが、この製作環境はどのようにつくられていったのでしょうか。田口 一時期は大きな液晶タブレットとか使っていたんですが邪魔に感じちゃって、物をどんどん減らそうとしていった結果こうなりました。それでもまだ一杯なんですが……。 田口 曲は完パケまでやることもあります。『シアロア』で出てくる曲は大体ここで済んでいますね。ミックスとかはできないんですが歌もここで録れますし。
──特にこだわっている部分はどこでしょうか。
田口 こだわってる……特には(笑)。しいていえば机くらいですかね。製品のクオリティよりも製作のしやすさを重視しています。 田口 漫画を描くのは必ずしもこの部屋というわけじゃなくて。タブレットだけ持ってリビングで執筆をすることもありますし、外ですることもあります。
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関連リンク
感傷ベクトル
漫画家・作曲家
田口囁一(漫画家・作曲家)を中心としたバンド、同人サークル。 2007年より活動開始。 2012年、ビクター・SPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビュー。 音楽と、漫画やイラストレーションを織り交ぜた作品発表や、演奏活動を行う。
1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:1998)
感傷ベクトルって漫画も描いてたんだ!